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でん粉の需要実態調査の概要

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年7月]

【調査・報告】

調査情報部 調査課

 わが国で消費されているでん粉は、コーンスターチ、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、タピオカでん粉、小麦でん粉などであるが、原料作物の違いによりその特性が異なるため、ユーザーはそれぞれの用途に応じたでん粉を使用している。そこで、食品分野でのでん粉の需要実態を把握するため、機構では株式会社富士経済に委託して平成19年度でん粉需要実態調査を行ったのでその概要を報告する。
  なお「異性化糖を含む甘味料の需要実態調査」については、砂糖類情報2008年7月号に掲載しているので併せてご覧いただきたい。


1.調査概要

 食品メーカーを対象に、コーンスターチ、国内産ばれいしょでん粉、国内産かんしょでん粉、輸入でん粉、化工でん粉について調査を行った。調査項目は、使用しているでん粉の種類、仕入動向、使用動機、品質への評価、他の種類のでん粉などへの切り替えの可能性、でん粉を使用している商品などであり、聞き取りにより調査した。
  調査対象企業は40社で、製品分野では菓子、乳製品、パン、調味料類、水産練り製品・珍味、麺類、佃煮、総菜、冷凍食品、ハム・ソーセージを対象とした。


2.調査結果


(1)コーンスターチ―仕入価格は大きく上昇―

①取扱量の動向―増加が3分の1―
  調査対象企業のうち24社がコーンスターチを使用しており、平成19年の総仕入量は3,320トンで、前年比120.8%と大幅に伸長した。企業別の内訳では平成19年の仕入量が前年より増加した企業が33.3%、横ばいが45.8%、減少が20.8%となった。多くの企業で仕入量の増減は使用している商品の売れ行きによるとしているが、中でも平成19年は調査対象の菓子メーカーが製造設備を増設したことなどにより、大幅に仕入量が増えている。また、横ばい、減少の傾向は水産練り製品、佃煮・煮豆、総菜の分野で見られた。


②使用状況―多様な製品への使用―
  コーンスターチは、スナック菓子、ガム、洋菓子、和菓子などの菓子類、つゆ、たれ、顆粒調味料などの調味料類、ちくわ、魚肉ソーセージなどの水産練り製品、ヨーグルトをはじめとする乳製品、レトルト食品、冷凍食品、ハム・ソーセージなど多岐にわたる分野で使用されている。
  使用理由としては、滑らかさや口溶け感などの食感改良、安定性、増粘性、グミの型成、もちやガムの取粉、水産練り製品やソーセージの結着剤などとしての機能性が主である。例として、プリンやヨーグルトの凝固材として(凝固力が高く安定している)、カスタードクリームの安定性の向上(冷えても粘性が損なわれない)、焼き菓子などにおける小麦粉との併用による製品粘性調節が挙げられる。
  また、物性が優れていることに加え、他のでん粉価格も上昇していることを背景に、一部ではばれいしょでん粉からコーンスターチへのシフトも見られた。


③仕入価格の動向―9割が仕入価格上昇―
  調査対象企業の9割が、前年に比べて仕入れ価格が大幅に上昇したとしている。価格上昇の主な原因は、バイオエタノール向けのとうもろこしの需要拡大が挙げられる。機能性を求めて使用している企業にとって他の原料へのシフトは難しいが、コストの削減を求める中で他のでん粉へのシフトを検討する動きが出ている。大手洋菓子メーカーでは、カスタードクリームの粘性を保持し食感を滑らかにするためコーンスターチを採用しているが、米でん粉の代替利用を検討しているとのことである。食品メーカーがでん粉を選択する動機としては、原料サプライヤーからの勧めがきっかけになることが多く、同洋菓子メーカーでも、原料サプライヤーからの売り込みがきっかけで検討が始まっている。


④今後の見通し―他への切り替えは少数―
  本調査ではコーンスターチを主原料として使用している企業がないこともあり、他の食品原料や包装資材の値上がりに比べると、コーンスターチの値上がりによる大きな影響はないとして、原料の切り替えを見送る考えが主であった。
  一方、コーンスターチおよび原料とうもろこしの原産国の大半が米国であり、消費者の食品表示などへの関心が高まっている中で、国内産でん粉へのシフトを検討している企業があった。特に国内産かんしょでん粉は値上がりを続けるコーンスターチよりも安価であるため有効な代替案とされている。しかし、粘度の出し方など物性に異なる点も多く、原材料の変更による風味などの変化を避けるため、切り替えは商品のリニューアル時か新製品発売時に行うとしている。


(2)国内産ばれいしょでん粉―品質については高評価―

①取扱量の動向―コーンスターチへの切り替えで減―
  調査対象企業のうち12社が国内産ばれいしょでん粉を使用しており、平成19年の総仕入量は2,670トンで前年比95.1%と減少した。企業別の増減では、平成19年の仕入量が前年より増加した企業が45.5%、横ばいが27.3%、減少が27.3%となった。仕入れ量は前年に比べて減少しているが、冷凍食品メーカーが国内産ばれいしょでん粉からコーンスターチへと原料を一部シフトしたことによる影響が大きい。仕入れ量の増減については、使用している商品の売れ行きによるとの理由が主ではあるが、輸入でん粉が高騰しているために国内産ばれいしょに切り替えた企業も複数あった。


②使用状況―機能性と国内産へのこだわり―
  国内産ばれいしょでん粉は、スナック菓子を中心に菓子類、つゆ、たれなどの調味料類、水産練り製品、麺類、佃煮・煮豆、総菜、冷凍食品、レトルト食品など幅広い分野で使用されている。
  使用理由は、ばれいしょでん粉の機能性と国内産へのこだわりに大きく二分される。
  機能性では、スナック菓子の食感、冷凍食品における耐冷性、チルド総菜の結着材、レトルト食品への粘性などを求めての使用が挙げられる。ばれいしょでん粉はコーンスターチと似た特性を持っているが、低温での粘性は低く、和菓子、和総菜、うどんなどには風味においてコーンスターチよりも適しているとのことである。
  国内産へのこだわりとしては、小売店の要望による場合と、食品メーカーとしてのこだわりによる場合がある。小売店向けのPB(プライベートブランド)商品の中には、安心・安全を掲げて、国内産原料のみを使用していることを売りにしているものがある。このようなPB製品の製造を受注しているため、国内産ばれいしょでん粉を使用している企業があった。食品メーカーとして使用している理由には、高級感やこだわり感を出すために使用している場合と、品質が輸入でん粉に比べて均一性や安定供給の点で優れていることを評価して使用している場合がある。また、製造工場の指定も可能であることから以前より国内産ばれいしょでん粉を使用しているとの企業もある。
  ある菓子メーカーでは、これまで輸入ばれいしょでん粉を多く使用してきたが、最近になって価格面よりも供給面を不安視し始めている。今後も安定して供給されるかが確実ではないため、一部を国内産ばれいしょでん粉に切り替えることで供給元を確保したとしている。


③仕入価格の動向―緩やかに上昇傾向―
  コーンスターチや輸入でん粉に比べると、価格面では大きな変動は無く、緩やかな上昇にとどまっている。国内産ばれいしょでん粉は高価であるとされてきたが、近年、コーンスターチおよび輸入でん粉が大きく値上がりしていることから、特に高価であるとの意識はなくなりつつある。
  調査対象企業においても、EU産の輸入ばれいしょでん粉から国内産ばれいしょでん粉に切り替えた企業がある。ほかにも、価格が同程度で品質が良いものが入手できるならば、同様にEU産の輸入ばれいしょでん粉からの切り替えを検討したいとの意見はあった。
 
④今後の見通し―国内産へシフト―
  消費者の食品に対する関心が高まっているため、加工食品について国内産原料を使用していることをアピールすることで差別化を図った販売が行われている。この動きは当面続くと見られ、国内産ばれいしょでん粉についても一定量の需要は継続すると考えられる。
  一方、食品原料の価格高騰が続く中、国内産ばれいしょでん粉は急激な値上がりを見せておらず、コスト重視で他のでん粉(主にコーンスターチや輸入ばれいしょでん粉)を使用していた企業での国内産ばれいしょでん粉にシフトするケースが増加すると見られる。


(3)国内産かんしょでん粉 ―取扱企業は少数―

①取扱量の動向―中国産からの切り替えが進む―
  調査対象企業のうち4社が国内産かんしょでん粉を使用しており、平成19年の総仕入量は1,329トンで、前年比118.7%と増加傾向にあった。企業別の増減では、平成19年の仕入量が前年より増加した企業が50.0%、横ばいおよび減少がそれぞれ25.0%となった。使用量の増減理由は、大半が使用している製品の売れ行き次第としているが、特に、中国産食品への不安が高まる中、消費者が中国産の緑豆春雨を敬遠したことの反動で国内産原料を使用した春雨の売上が伸びたことによる増加が大きい。


②使用状況―熱に強いが限られた用途―
  ユーザーはスナック菓子、珍味、麺類、総菜であり、コーンスターチや国内産ばれいしょでん粉と比較すると、使用されている分野は少ない。
  使用理由としては、食感や風味の向上、形成保持材としての役割など機能性が主であるが、一部では国内産原料へのこだわりもある。
  機能性を重視した事例としては、春雨メーカーが、かんしょでん粉の耐熱性がばれいしょでん粉よりも高いことを利用した新製品を発売している。同社の従来の製品では、ばれいしょでん粉とかんしょでん粉の両方を使用していたが、新製品ではかんしょでん粉のみを使用しており、熱に強いことから鍋物需要の増加に伴い需要が伸びている。白色度はばれいしょでん粉に比べると劣っており、商品が濃いグレー系の色合いに仕上がるが、味や品質には問題はなく、国内産原料100%使用とパッケージにも表示できる点で有利であるとしている。
  また、相当以前より食感や風味を求めて国内産かんしょでん粉を使用しているケースでは、使用している商品がロングセラー商品であるため、製品の品質および風味を維持することが重要であり、他の原料への切り替えはできないとの意見であった。


③仕入価格の動向―他のでん粉より安価―
  仕入価格は上昇傾向にはあるが、輸入でん粉などと比較するとその幅は小さい。他のでん粉に比べて安価ではあるが、今回の調査対象企業では使用している企業が限られており、価格面での有利さを使用理由にする企業はなかった。


④今後の見通し―価格競争力に期待―
  かんしょでん粉は安価ではあるものの、ばれいしょでん粉に比べて白色度が劣り、粘性が出にくいなど品質面の理由から、限られた分野、企業での使用にとどまってきた。かんしょでん粉のコストメリットは、同じく安価であったコーンスターチや輸入タピオカでん粉などとの競争の中であまり有利に働かなかった。しかし、コーンスターチや輸入タピオカでん粉の価格が高騰を続ける中で、今後、比較的安価である点が注目されていくと見られる。また、食品の原産国表示に対する消費者の関心が高まる中でコーンスターチからの切り替えを検討している企業も見られるなど、国内産原料であることを理由に導入されるケースも十分にあり得るだろう。
  ただし、現在のところ他のでん粉に比べ採用企業数は少なく、食品メーカーでは、かんしょでん粉は安価であるが品質が悪いとのイメージが強い。需要の増加には、ユーザーの求めるでん粉の品質を維持するとともに、イメージの改善および営業努力が必要であると考えられる。


(4)輸入でん粉―価格が高騰しており、供給を不安視―

①取扱量の動向―タピオカでん粉が多い―
  輸入でん粉は調査対象企業のうち17社が使用しており、平成19年の総仕入量は前年比96.9%減少した。企業別の増減を見ると、平成19年度の総仕入れ量が前年より増加した企業が29.4%、横ばいが47.1%、減少は23.5%となった。種類別にはタピオカでん粉が最も多く、次いでばれいしょでん粉、小麦でん粉が使用されていた。タピオカでん粉では、タイ産が主流であり、マレーシア産やベトナム産の使用も一部で見られた。また、ばれいしょでん粉では大半でEU産が、小麦でん粉では米国産、カナダ産、豪州産が使用されている。
 
②使用状況―主に低コスト化のために使用―
  輸入でん粉は、スナック菓子、和菓子、パン、調味料類(つゆ、たれ、顆粒調味料)、水産練り製品、麺類、総菜、冷凍食品、ハム・ソーセージなど幅広い分野で使用されている。
  タピオカでん粉は、粘度が高く透明なため、わらびもちや蒸しパン、はんぺん、即席麺、胡麻豆腐、冷凍卵焼き、ソーセージなどに使われている。ばれいしょでん粉は、パン、調味料類、即席麺、冷凍食品などに、小麦でん粉はスナック菓子、ウィンナーなどに使用されている。
  輸入でん粉は主に低コスト化のため使用されることが多く、わらびもちとして使用される場合であれば価格が非常に高い国内産わらび粉の代替として、また他の用途においても国内産ばれいしょでん粉より安価であるとの理由から採用されているケースが多い。
  一部のユーザーからは輸入ばれいしょでん粉よりも国内産ばれいしょでん粉の品質の方が優れているとの声もある。価格メリットのために輸入ばれいしょでん粉を使用しているが、品質を国内産ばれいしょでん粉に近づけるために、輸入ばれいしょでん粉に輸入タピオカでん粉をブレンドして使用している事例も複数で見られた。


③仕入価格の動向―急激な価格上昇―
  これまでコストメリットを理由に使用されてきた輸入でん粉であるが、急激な値上がり傾向を見せている。
  輸入ばれいしょでん粉ではEU産が多く使用されているが、平成19年はEU域内での異常気象により原料ばれいしょが不作であったことから、生産量が減少したことに加え、経済成長が目覚しい中国向けの輸出が急増したことなどにより価格が上昇している。数年前までは国内産ばれいしょでん粉よりも低価格であったが、最近では国内産ばれいしょでん粉に追いついてきていることから、使用している企業では国内産ばれいしょでん粉に切り替える可能性がある。
  輸入タピオカでん粉は、原料であるキャッサバのバイオエタノールへの転用やタピオカチップの輸出増などにより価格が高騰している。しかし、本調査対象企業ではタピオカでん粉を他のでん粉にシフトさせたいとした企業はなかった。タピオカでん粉に固有の特性を利用しているケースが多いことと、価格は高騰しているが他の輸入でん粉の価格も上昇しているため、移行するメリットがないためである。
  そのほか、輸入小麦でん粉の価格も上昇しているが、他の輸入でん粉と比較して使用企業数、使用量ともに少ないため、価格の変動を懸念する意見はなかった。
 
④今後の動向―安定供給が課題―
  今後も原料のバイオエタノール向け需要、気象の変動、中国の経済成長などを要因として、輸入でん粉の価格は上昇を続け、供給が不安定になる可能性が考えられるなか、これらに対して食品メーカーがどのような動きをとるのかが注目される。使用している企業において、輸入でん粉の供給に対する不安はコストメリットよりも大きく、複数の原料サプライヤーから購入したり他のでん粉も購入するなど、供給不足が起こった場合の対策を講じる動きが見られた。


(5)化工でん粉―食品添加物指定による影響に注視―

①取扱量の動向―仕入量は10%増―
  調査対象企業のうち20社が化工でん粉を使用しており、平成19年の総仕入量は2,040トンで、前年比109.8%と増加した。企業別にみると、平成19年の仕入量が前年より増加した企業が63.2%、横ばいが26.3%、減少が10.5%となった。他のでん粉と同様に、仕入れ量の増減は使用している商品の売れ行きによるとする企業もあるが、新製品での利用や乳糖、デキストリンを含む調製品からの切り替えを理由にする企業のあることが特徴的であった。種類別ではデキストリンを使用している企業が多く、また、複数の化工でん粉(多い場合には18種類)を併用している企業も半数に上った。


②使用状況―高い機能性が評価―
  化工でん粉は、スナック菓子、洋菓子などの菓子類、つゆ、たれ、顆粒調味料の調味料類、ヨーグルト、アイスクリームの乳製品、珍味、総菜など幅広い分野で使用されている。
  使用理由としては、口溶け感など食感や質感の改良、安定性、増粘性、結着材としてなどが挙げられており、機能面が重視されている。
  化工でん粉は様々な種類があり、種類によって有する特徴も多様である上に、商品開発も積極的に行われている。化工でん粉のサプライヤーは、ユーザーの使用目的に応じて各種化工でん粉の使用を提案しており、ユーザーにとっては採用しやすい体制になっている。使用している企業では物性に関してはおおむね満足しているが、一部では輸入化工でん粉に独特の臭いがするものがあり、改善を求めているところだとしている。


③今後の動向―食品添加物への指定が課題―
  化工でん粉の今後の動向は、現在、検討が進められている食品添加物への指定による影響が最も大きい。
  食品添加物指定を受ける化工でん粉については、商品への表示方法を変更する必要があるため、パッケージの刷り直しによるコストの増加を多くの企業が懸念している。また、原料メーカーへの規格書の提出要請や消費者からの問い合わせへの対応が必要になり、一時的ではあるが負担が増加すると見られる。これまで食品扱いであった化工でん粉が食品添加物として扱われることにより、商品イメージの悪化や小売店の反発を懸念している企業もある。
  対応としてはまちまちであるが、使用している化工でん粉に代替できる食品素材が見当たらないため、表示などは定められたとおりに行った上で継続して使用するとの考えが多かった。他のでん粉への切り替えも含めて検討するとした企業では、商品が子供向けであることから商品イメージ低下の回避、食品添加物不使用を特徴とした商品であることなどを理由としている。


表 製品分類におけるでん粉の種類別利用状況

3.まとめ

 コーンスターチ、輸入でん粉は軒並み価格が上昇しており、安定した供給が続くのかとの不安も出てきている。食品メーカーでは、価格が安くて供給、物性がともに安定したでん粉を求めており、国内産でん粉に注目が集まりつつある。これを機会に、国内産でん粉の利点が認められ、需要が維持されることを期待したい。
  現在、輸入に依存している化工でん粉は、食品添加物に指定されることにより、国内での製造が可能になると、国内産化工でん粉の種類が増加するとともに、国内産でん粉を原料とする化工でん粉の可能性も広がる。このことは、化工でん粉の需給に少なからず影響すると思われるため、今後の動向にも注目する必要があるだろう。