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種子島における耕畜連携事例

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最終更新日:2010年3月6日

種子島における耕畜連携事例
〜かんしょでん粉かすの飼料利用〜

[2010年02月]

【調査・報告】

調査情報部調査課 係長 前田 昌宏
鹿児島事務所 宗政 修平


1.はじめに

 九州南端の大隅半島沖に位置する種子島は、さとうきびの商業栽培地としては日本最北端であるほか、肉用牛の繁殖経営や酪農を中心とした畜産業、でん粉原料用などのかんしょの生産も盛んな島である。同島では、耕種部門と畜産部門の連携が確立しており、地域における循環型農業のモデルの一つとして考えられている。

 今回、その種子島を調査する機会を得たので、同島における耕畜連携事例として、かんしょでん粉かすの飼料利用について報告する。


2.なぜ耕畜連携が求められているのか

 本題に入る前に、耕畜連携の必要性について簡単に触れたい。

 我が国の平成20年度の食料自給率(概算値)は、カロリーベースで41%となっている。このうち、畜産物は17%となっているが、これは、輸入飼料による生産部分が51%を占めているためである。畜産飼料の自給率を見ると、TDN(可消化養分総量)換算で平成20年度には26%となっている。粗飼料の自給率79%に対して、濃厚飼料はわずか11%である。こうしたことから、畜産経営は、輸入飼料価格高騰の影響を受けやすい状況にあるが、近年のとうもろこしなどの穀物相場は、世界的なバイオ燃料の振興や、投機資金の流入などによって先行きの見通しが一層難しくなっていることも不安材料として顕在化している。また、現在は飼料に加えて農業資材や燃料価格の高騰、さらに畜産物の価格低下も相まって、畜産経営を取り巻く状況は非常に厳しいものとなっている。このため、飼料の自給率向上は急務となっており、地域の未利用資源の活用が、一つの解決策として注目されているところである。

 一方、耕種部門についても、地力の維持向上が重要であることから、畜産たい肥を利用した環境保全型農業に対して、近年注目が集まっている。例えば野菜の生産現場においても、高騰している化学肥料の代替として畜産たい肥を利用した土づくり、規格外品や供給過剰時の有効利用を図るための飼料化といった、耕畜連携に向けた取り組みが実際に行われている(耕畜連携に係る取り組み事例については、本稿の末尾に記載しているので参照されたい)。

 かんしょでん粉について言えば、従来より製造コストの低減が求められているが、その一つとして、でん粉かすの問題がある。原料用いもの約2割に相当する量(平成19年度で約2万7000トン)が副産物として発生する。でん粉かすについて、適正に処理しつつ飼料用などに有効利用することは、でん粉製造コスト低減に貢献すると考えられる。また、原料となるかんしょの生産において発生するかんしょの茎葉は、その約7%が飼料として利用されるのみで、大部分は畑地にすき込まれているが、このかんしょの茎葉についても、未利用資源の活用として飼料化の推進について取り組まれているところである。


表1 飼料需給表

(単位:TDN千トン,%)

資料: 農林水産省
注1: TDN(可消化養分総量)とは、エネルギー含量を示す単位であり、飼料の実量とは異なる。
注2: 濃厚飼料の「うち純国内産原料」とは、国内産に由来する濃厚飼料(国内産飼料用小麦・大麦等)であり、輸入食料原料から発生した副産物(輸入大豆から搾油した後発生する大豆油かす等)を除いたものである。
注3: 昭和59年度までの輸入は、すべて濃厚飼料とみなしている。

3.種子島の農業生産の概要

 まず種子島の農業の概要について紹介したい。種子島にとって農業は基幹産業であり、島全体の農業産出額は152億円(平成19年度)うち、さとうきび38億円,肉用牛31億円,かんしょ17億円となっている。また、総作付面積8,500ヘクタールのうち,さとうきび2,400ヘクタール,かんしょ2,000ヘクタール,飼料作物1,700ヘクタールとなっている。さとうきび,かんしょ,肉用牛の3作目で島全体の生産額ベースの約60%,面積ベースでは約75%と大部分を占めている。

 同島におけるかんしょの用途別生産割合は、平成20年度(市町村調べ)で、でん粉用が77.6%、焼酎用13.7%、青果用や加工用などが8.7%となっており、島内には4社のでん粉工場が操業している。種子島における平成21年度のでん粉原料用いもの集荷量は、37,766トンであり、でん粉製造量は、11,329トンとなる見込みである。


表2:種子島農業の概要(平成19年度)
資料:平成19年度鹿児島県熊毛支庁「熊毛地域農業の概要」
注:肉用牛の項の作付面積は、飼料作物である。


 同島では耕畜連携が確立していると述べたが、本調査とは別の調査で聞き取りされた、畜産と稲作の複合経営におけるさとうきび農家およびでん粉工場との連携の概要を図1に例として示した。今回調査したいくつかの畜産農家においても、さとうきび農家からはトップ(梢頭部)を、かんしょ農家からは茎葉や規格外となったかんしょを無償またはたい肥との交換で譲り受け、飼料として利用していた。種子島におけるこうした耕畜連携の取り組みは、以前から農家間同士の結びつきで、なかば当然のように行われているということが印象的であった。

資料:「わが国の和牛繁殖経営における自給飼料生産の変遷と自給飼料利用への方策」畜産の情報 2009年10月号
図1 種子島のある畜産農家の耕畜連携の例

4.でん粉かすの飼料としての適合性

 かんしょでん粉かすの飼料としての適合性については、既に鹿児島県畜産試験場(現:鹿児島県農業開発センター畜産試験場)が行った試験により明らかとなっている。当該試験では、黒毛和種去勢肥育牛に対する尿素処理を行った稲わらの給与効果を明らかにするとともに、乾燥でん粉かすの飼料としての利用性についても同時に検討している。

 同試験の内容は、試験区を3区(1区5頭)設けて、それぞれに対して表3のとおり給与試験を行うものとなっている。でん粉かすは、配合飼料の一部として全試験区に対して給与されており、肥育ステージごとの給餌内容は次のとおりである。肥育前期(84日間)には、乾燥でん粉かす16.7%、とうもろこし圧片58.3%、大麦圧片25.0%の配合飼料を、肥育中期(210日間)には、乾燥でん粉かす11.1%、とうもろこし圧片55.6%、大麦圧片33.3%、肥育後期(209日間)の配合飼料にはでん粉かすを使用していない。なお、当該試験における給与飼料の成分は、表4に示すとおりとなっている。

 でん粉かすに関する試験結果を見ると、肥育前期、中期のDG(増体重)は良好であり、配合飼料としてのでん粉かすの利用について問題はなかったとされている。かす類の飼料利用は概してTDNの3割程度とされている。でん粉かすの特徴として、たんぱく質やビタミンをほとんど含まないが、それを他の飼料で補うのであれば、同実験よりも配合率を高率にすることは可能であるとの見解であった。


表3 試験区分
資料:「地域未利用飼料資源の有効活用による低コスト肥育技術の確立、尿素処理稲わらとでん粉かすを用いた肥育試験」鹿児島県畜産試験場研究報告第25号(1993)

表4 給与飼料成分
資料:表3に同じ
注:NFEは可溶無窒素物、DMは乾物、DCPは可消化粗たんぱく質

5.でん粉かすの飼料利用事例

 それでは、でん粉かすを飼料として有効に利用している事例を紹介しよう。本稿で取り上げるでん粉かすの供給者である永松産業は、南種子町に所在するでん粉製造事業者である。でん粉工場の処理能力は、1日当たり450トン、平成21年の原料用いもの集荷量は9,400トンで、でん粉製造量の見込みは3,000トンとなっている。でん粉かすについても、おおむね1,450トンが生じる計算である。

 でん粉製造事業者にとって、でん粉かすの処理上で問題となるのは、原料用いもの集荷が集中する時期に、でん粉かすも同時に生産されるため、十分な保管場所が必要となる点である。永松産業も例外ではなかったが、平成18年7月、使われなくなった倉庫を譲り受け、工場の近隣の空き地にでん粉かす保管倉庫を設置した(図2)。設置に当たっては、基礎工事以外の組み立て作業などは同社の職員が行ったため、低コストで上記の問題を解消することができた。倉庫の設置によって、このほかにもメリットが生じることとなった。風雨を防ぐことで、腐敗するでん粉かすの減少にも寄与している。また、でん粉かすを希望する農家が、必要なときに必要なだけ取りに来ることが可能となったこともある。このことは、永松産業のでん粉かす処理に対する手間を軽減することとなっている。


図2 永松産業のでん粉かす保管倉庫
 以前設置されていた場所からの運搬や組み立てなどが、非操業時を利用して、職員によって行われた。

図3 保管倉庫のでん粉かす
 多少の腐敗は発生してしまうものの、その量は減少。

 今回、でん粉かすを利用する際に農家サイドとして問題となる点は、多くの場合、でん粉製造事業者と同様、保管場所であることが明らかになった。でん粉の製造期間である10〜11月の2カ月間に、一年分の使用量を確保しておかねばならない。今回聞き取りを行った畜産農家は、1年間に60〜80トン程度のでん粉かすを使用していた。そのため、保管場所について一定の広さが必要となる上、臭気の問題もあって人家が近くにあるところは避ける必要がある。こういった点で永松産業のでん粉かす倉庫は、工場側、農家側双方にとっての懸案を解決するものとなった。

 永松産業のでん粉かすを利用している畜産農家A氏は、肉用牛の繁殖経営農家である。経営規模は繁殖牛約90頭程度であり、併せて飼料作物を16ヘクタール作付けしている。A氏は、飼料価格の高騰を受けて自給化を図るため、1年ほど前からでん粉かすの飼料利用を開始した。A氏は、自らの軽トラックで2〜3日間に使用する分をその都度永松産業まで取りに行っており、運搬費はA氏が負担している。

 A氏のでん粉かすの使用方法は、ふすまと混ぜて発酵させて使うという特徴的なものである。この方法は、町役場の普及員からのアドバイスによるものであった。永松産業から運んだその日の夕方、おおよそでん粉かす9とふすま1の割合で混合した後、ビニールシートで覆って発酵させ、翌朝から使用している。この調製は、軽トラックの上で直接行っており、そのまま運搬できるよう工夫している(図4)。調製したでん粉かすは、配合飼料の一部代替として繁殖牛に給与している(出産前後1カ月間を除く)。1日の給与量は、1頭当たりスコップ1杯(2〜3キログラム程度)である。また、スタンチョン(牛の頚部を挟んで安定させるつなぎ止め具)につなぐ際に牛を呼び寄せるためにも使用している。少量の濃厚飼料であれば風散してしまうこともあったが、でん粉かすであれば、比重があるため風散しないこともメリットの一つである。でん粉かすの利用を始めてから、毎月1.2〜1.5トンほどの濃厚飼料の節約になっているという。

 さらに、調製されたでん粉かすに対する牛の嗜好性も、良好であり、また、この1年間の繁殖成績、繁殖牛の毛づやや増体重は良化している感触であり、受胎率も好調で、特に問題は生じていないとのことであった。


図4 でん粉かすとふすまの調製を行う軽トラック
 トラック上で調製することで運搬の手間を軽減量は減少。

図5 でん粉かすとふすまを混合して発酵させた飼料
 しっとりとした手触りで、香りも良好

6.おわりに

 今回、畜産農家の調査のなかで印象的だったのが、「牛の飼養に必要な飼料畑は、種子島であれば他の地域と比べて少なくて済む」という意見であった。さとうきびのトップ、かんしょの茎葉、青果用などの規格外となったかんしょが飼料として得られるためである。このことは、言い換えれば、飼料畑に必要な土地が少なくてすむ分、ほかの収益性のある園芸作物などを生産できるということでもあるのではないだろうか。種子島で耕畜連携が確立している背景には、耕地面積の限られる離島ならではの工夫、知恵があると実感した。

 ただし、耕畜連携には低コストが求められる。畜産農家にとって、例えば耕種部門の副産物が購入飼料よりも高価であれば、現実的には利用することは難しい。種子島においては、こうした課題は、従来から農家間でクリアされているが、他地域での推進に当たっては、この価格の折り合いが重要となってくるであろう。また、連携の関係性の構築に当たっては、耕種部門と畜産部門との間で横断的に行う必要があることから、困難を伴うことも想定されるが、関係者の方々の努力で、多様な農業が共存し発展することを望みたい。本稿がその一助になれば幸いである。


参考文献

鹿児島県畜産試験場研究報告第25号(1993)
「地域未利用飼料資源の有効利用による低コスト肥育技術の確立 尿素処理稲わらとでんぷん粕を用いた肥育試験」
 堤知子ら

畜産の情報2009年10月号
「わが国の和牛繁殖経営における自給飼料生産の変遷と自給飼料利用への方策」
 京都大学大学院 農学研究科 教授 広岡博之ら


(参考)
耕畜連携などの事例

畜産の情報 2009年7月号
「鹿児島県奄美諸島におけるサトウキビ収穫残さの発生状況と肉用牛生産への利用の可能性」
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2009/jul/spe-02.htm

畜産の情報 2009年3月号
「エコフィードのさらなる利用促進に向けた取り組み
〜熊本県で始まった需要者と供給者をつなぐネットワーク作り〜」
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2009/mar/spe-02.htm

野菜情報 2009年8月号
「耕畜連携事例調査 〜輪作体系確立と自給飼料確保に向けたJAふらのの取り組み〜」
http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/0908/chosa1.html

野菜情報2009年4月号
「過剰野菜などの畜産飼料化に向けた取り組み状況について」
http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/joho/0904/joho01.html

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