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タイのタピオカ加工製品の需給動向

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年2月]

海外

調査情報部


 タイのタピオカでん粉は2006年には11万トンが我が国に輸入されており、でん粉輸入量の60%以上を占めるなど、その動向が需給に及ぼす影響は大きい。さらに、化工でん粉としても50%以上の23万トンがタイから輸入されている。世界でも有数のタピオカでん粉の生産国であり、我が国への影響も大きいタイのタピオカ加工製品の需給動向について、タイのJEC Agri-Report社からの報告をもとに取りまとめたので紹介する。


1.タピオカでん粉原料であるキャッサバ生産について

(1) キャッサバについて

 タピオカでん粉をはじめとするタピオカ加工製品は、トウダイグサ科イモノキ属イモノキのキャッサバから作られる。キャッサバは塊根にでん粉を蓄える草丈2〜3メートルの植物で、乾燥に強く、土壌条件の厳しい土地でも、比較的容易に栽培することが可能である。
 17〜18世紀にかけて、ポルトガル、オランダ、スペインなどが、アジアにキャッサバを持ち込んだといわれているが、タイにおいてキャッサバの栽培が開始された時期は明らかではない。しかし、タイに持ち込まれたルートに関しては、タイ語ではキャッサバのことを、西部バリー語で「大きな根を持つ植物」を意味する言葉と近似した発音(サンパラン芋)をしているため、マレーシア経由で持ち込まれたという説が有力である。
 商業ベースでのキャッサバ栽培が開始されたのは、第二次世界大戦後の1948年に、日本が食糧不足を補うためにタイからタピオカフラワーを輸入したのが初めといわれている。その後、米国など他国も、タイからタピオカフラワーの輸入を開始し、タイにおけるタピオカフラワー生産技術も近代的なものへと進化を遂げた。このように需要が伸びるに従い、タイ国内でのキャッサバ生産も急速に広がった。前述のようにキャッサバは土壌条件の厳しい土地でも栽培が可能であり、当時、かんがい用水の整備が進んでいなかったタイにとって魅力的な作物であったと推測される。


(2) キャッサバ生産

 2006年の世界のキャッサバ収穫量は2億1,857万トンであり、2001年の1億8,430万トンから18.59%増加している。2006年における最大の生産国は、全体の19.02%に当る4,157万トンを生産しているナイジェリアである。以下、ブラジルが2,671万トン、タイが2,258万トンと続いている。タイは他の主要生産国と比較して単収が高いのが特徴である。
 タイのキャッサバ作付面積は、1988年の987万9,000ライ(1ライ=約1,600m2)から2006年には669万3,000ライへと32.25%減少している。しかし、ライ当り単収は、2,258キロから、3,375キロに49.47%の増加となっているため、生産量は、2,230万7,000トンから2,258万4,000トンに1.24%増加している。



(3) エタノール生産によるキャッサバ需要の増加

 2007年7月に、民間企業、政府、農家の代表が集まり、キャッサバ開発委員会が開催された。会議ではキャッサバの長期生産開発計画(2007〜2010年)が検討され、キャッサバの需要は、2007年中旬から急激に増加したE10代替燃料(ガソリンとエタノールを9:1で混ぜた燃料、タイではガソホールと呼ばれている)の利用が、2007年中旬から急激に増加したことに伴い、2010年には現在の2,600万トンから3,400〜3,700万トンに増加するとの見通しが立てられた。また、この需要を満たすために、単収をライ当り5トンにまで増加させることが目標として決議された。農業協同組合省は、現在でも、雑草駆除、施肥などを適切に行っている一部の農家では、ライ当り10トン以上の単収を得ていることを根拠に、一般の農家に対して適切な栽培方法を指導することにより、ライあたり単収の全国平均を5トンに引き上げることは可能であるとしている。
 2007年現在、タイではガソリンを1日当り2,000万リットル消費している。それに対してE10代替燃料を供給するためには、200万リットルのエタノールが必要となる。糖蜜からは80万リットル、キャッサバからは70万リットルのエタノールが生産可能であると推測されているため、現在のエタノール供給能力を150万リットルとすると、50万リットルが不足している。これを補うためには、2006年現在1ライ当り3.38トンとなっているキャッサバのライ当り単収を5トンにまで増加させる必要がある。


(4) キャッサバの地方および県別生産実績

 地方別にキャッサバの生産量を見ると、2006年においては東北部が最も多く、全体の68.86%に当る1,215万トンを生産している。キャッサバは土壌条件が厳しくかんがい用水がなくても、栽培が可能であることから、タイの中でも特に農業に不利な地域である東北部での生産が多い。この地域ではさとうきびがキャッサバの競合作物となっている。
 県別に見ると東北部のナコーンラーチャシーマー県が全国の32.33%に当る570万トンを生産している。そのためタピオカ加工工場の多くはナコーンラーチャシィーマー県に集中しており、同県のキャッサバ農家販売価格がタイ農業協同組合省の発表する指標価格の一つになっている。



(5) キャッサバの品種別生産

 タイで最も多く生産されているキャッサバの品種はガセサート50であり、全体の58%に当る1,294万トンが生産されている。次いでラヨーン5が23%に当る519万トン、ラヨーン90が11%に当る248万トンとなっている。
 タイ農業協同組合省は、2005年7月に従来の品種よりエタノール生産性の高い新品種「ラヨーン9」を認証しており、現在、苗の増殖および農家への普及活動を行っている。ラヨーン9は従来種に比べてでん粉含有率が高く、栽培8ヶ月で生芋1トンから191リットルのエタノールが生産可能であり、1年栽培した場合には生芋1トンから208リットルのエタノールが生産可能となる。
 今後、エタノールの需要増加が予測されるため、ラヨーン9など、でん粉含有率がより高い品種の生産が増加すると予測される。


(6) キャッサバ価格(生産費および農家価格)の動向

 生産費は、1997年の1ライ当り1,575.54バーツから、2006年には2,846.04バーツに80.64%増加している。主な増加項目は人件費全般および種子代、肥料代である。肥料代は、1997年の51.10バーツから2006年には371.54バーツに6.74倍増加していることから、単収を増加させるために肥料の使用量を増やしていることが分かる。なお、耕起、植付け、管理、収穫などの人件費が原価の半分を超えており、人件費合計は1997年の966.99バーツから2006年には1,529.29バーツにまで58.15%増加している。
 農家価格は天候によるキャッサバの収穫量、前年のキャッサバ価格(高ければ農家はより多く作付する)、競合作物の価格(さとうきび、とうもろこしと競合しており、競合産物の価格が高ければキャッサバの作付面積は減少する)などの要因に従い大きく変動している。
 キャッサバ価格は、5年ほど前までは収穫時期にはキロ当たり1バーツを割り、農家が政府に援助を求めるデモを頻繁に行うなど、将来性のない農作物と考えられていた。しかし、2005年には干ばつの被害により収穫量が少なかったため、1.5バーツにまで値上りし、また、2007年には世界的な飼料穀物価格の高騰により年始から値上りを続け、9月にはキロ当たり1.79バーツというこれまでにない高値を記録している。11月にはキャッサバの収穫時期に入ったこともあり、キロ当たり1.62バーツとわずかに値下がりしたが、依然として高い水準を維持している。
 キャッサバの収穫は10月から翌年4月までに集中して行われるため、農家はキャッサバを買い取るチップおよびでん粉製造工場に買いたたかれることが多い。そのため、タイ政府は「担保融資」と呼ばれるキャッサバの農家価格保証制度を設けている。




2.タピオカ加工製品

(1) タピオカ加工製品の輸出動向

 タピオカでん粉の価格は2001年から2007年にかけてキロ当たり6〜11バーツの間を上下しているが、世界のでん粉相場の影響を強く受けるため、キャッサバ農家価格の動向とは連動していない。一方、チップはキャッサバ価格の上下にほぼ連動している。でん粉、チップともに、2007年11月時点では、世界の飼料穀物価格高騰に従い値上り傾向にある。
 2006年の主要タピオカ加工品の輸出量は、チップが全体の58.21%に当る382万357トンで最も多くなっており、以下、でん粉が24.60%に当る161万4,437トン、デキストリンおよび化工でん粉が9.77%に当る64万1,034トン、ペレットが5.99%に当る39万3,315トンと続いている。その他の品目としては、フラワーが0.85%に当る5万6,099トン、タイの伝統的なお菓子であるサゴが0.37%に当る2万4,733トン、日本へも多く輸出されている仕上げ剤が0.09%に当る5,714万トン、膠着剤が0.07%に当る4,860トンとなっている。
 キャッサバ加工品の輸出額は、1997年の226億2,450万バーツから2006年には427億3,502万バーツと88.89%増加している。顕著なトレンドとしては、EUへ大量に輸出されていたペレットがEUの政策により競争力を失い、替わって中国への飼料用およびエタノール生産用のチップとして輸出されるようになったことが挙げられる。2003年以降、中国でエタノール需要が高まっていることに加えて、タイ中国FTAによりチップの関税が引き下げられたことにより、中国へのタピオカチップ輸出増加に拍車がかかった。





(2) チップの輸出動向

 チップとは、生芋をチョッパーで輪切りにして天火乾燥したものである。輸出量および金額は1997年の6万8,208トン、1億8,098万バーツから、2006年には382万357トン、157億7,727万バーツにと、それぞれ56倍、87倍に増加している。輸出先は、ほぼ全量が中国となっている。
 EUへのペレットの輸出が不調になると、タイは中国へのチップでの輸出にシフトした。さらに、2003年10月1日には、タイ中国FTAにより従来13%であった輸入関税が撤廃されたため、中国への輸出が急激に増加することになった。中国におけるチップの用途は、飲料用(アルコール度数95%)および代替燃料用(アルコール度数99.6%)エタノールの生産が主である。
 中国でのエタノール生産は今後も増加すると推測されていることから、中国へのタピオカチップの輸出需要も増加すると推測される。



(3) ペレット

 ペレットとは、チップをさらに細かく粉砕したものを圧縮し固めたものである。2001年頃までは飼料用としてEUに大量に輸出されていたが、近年EU内における品質の厳格化と価格競争力の低下により、タイ産ペレットのEUへの輸出は急激に減少した。輸出量および金額では、1997年の421万6,039トン、118億1,607万バーツから、2006年には39万3,315トン、 13億8,674万バーツと、数量、金額ともに約10分の1にまで減少していた。
 2007年には世界的な飼料不足により、EUへのペレットの輸出が再開し、1月〜11月の間に153万380トン、65億1,916万バーツが輸出されており、前年同時期と比較すると、それぞれ5.28倍、6.36倍に増加している。




(4) でん粉
 でん粉とはキャッサバから製造された非化工の天然でん粉を指している。輸出量および金額は、1997年の67万5,466トン、49億9,218万バーツから、2006年には161万4,437トン、 131億7,738万バーツにと、ともに139%、164%増加している。最大の輸出先国はインドネシアであり、全体の26.61%に当る42万9,538トンを輸出している。以下、台湾が20.07%、中国が16.54 %、マレーシアが8.32 %、日本が7.03%と続いている。


(5) デキストリンおよびその他の化工でん粉

 デキストリンおよびその他の化工でん粉とは、でん粉を酸などの薬品、あるいは熱などによって変性させたもので、そのでん粉が持っている機能を強化したもの、または新たな特性を加えたものである。主なものには、でん粉に少量の薬品を添加し過熱して製造するデキストリン、酵素によってでん粉を分解して製造するデキストリン、でん粉の一部グルコース基を化学的変化で置換したでん粉誘導体、でん粉に酸化剤を反応させた酸化でん粉やでん粉を糊液の状態から急激に乾燥させて製造するアルファーでん粉などがある。
 輸出量および金額は、1997年の26万4,062トン、40億8,642万バーツから、2006年には64万1,034トン、110億9,013万バーツにと、ともに142.76%、171.39%増加している。最大の輸出先国は日本であり、全体の36.38%に当る23万3,213トンを輸出している。以下、中国が13.12%、インドネシアが7.10%、韓国が6.49%、オランダが6.03%と続いている。






3.タイのキャッサバに対する政策の概要

 タイにおけるキャッサバの取引は、法律で売買方法や価格が規定されているさとうきびとは異なり、自由市場となっているが、収穫時期のキャッサバ農家販売価格の値下がりを防ぐため、タイ政府は適正な価格を定め農家からキャッサバを受取ることと引き換えに融資を行うという方法で市場介入を行っている。農家は融資を受けてから3ヶ月以内ならばキャッサバを買い戻すことができるため、この制度は「担保融資制度」と呼ばれている。この制度は米、メイズなど他の農産物でも適用されているが、実際には大部分の農家が買戻さないため、政府による買い上げ制度と見ることもできる。
 この制度では、農家から預かったキャッサバはチップまたはフラワーに加工するため、農家が買戻す場合には、チップ1kg=キャッサバ2.38kg、フラワー1kg=キャッサバ4.4kgで換算して買い戻される。なお、買戻す際に、買戻し価格が担保価格より安かった場合には、農家はその差額を負担する必要はない。
 2006/07年度に実施された担保融資制度では、表3に示すように担保融資価格が定められた。この価格は、キャッサバのでん粉含有率が25%のものを標準としており、でん粉の含有率が標準値を下回るまたは上回る場合には1%につき0.02バーツの調整が加えられる。でん粉含有率は、担保融資を実施する工場でのキャッサバの受取り時に検査される。結果として、2006/07年度には6万4,876戸の農家が114万1,043トンのキャッサバに対して担保融資制度を利用した。





4.タイのタピオカでん粉産業の現状

 タイのタピオカ産業は大きく、チップおよびペレットへの加工(約50%)、でん粉および化工でん粉への加工(約30%)、その他の製品への加工(約20%)、そして2008年から増加が予想されるエタノールへの加工の4つに分けることができる。
 主要な業界団体は2つ存在しており、タピオカ製品取引業者協会には123社、タピオカフラワー業者協会には69社が加盟している(2007年12月時点)。
 タピオカフラワー協会に加盟している工場のうち、56社で天然でん粉を、19社で化工でん粉を生産している。キャッサバの主要生産地であるナコーンラーチャシィーマー県に16社が集中しており、次いでラヨーン県に9社、ガーラシィン県に8社となっている。
 大型トラック(約10トンを積載可能)を満たすことが可能なほどの収穫がある大規模農家では、自家でトラックを所有しており、自らでん粉工場まで運搬しキャッサバを販売している。その際、農家はでん粉工場に掲示されている買取価格を参考に、値段の高い工場を選ぶこともできる。一方、収穫量が少ない、または自らトラックを所有していない農家は、集荷業者に販売している。一部の集荷業者は収穫機を所有しており、収穫作業も請け負う場合がある。
 なお、化工でん粉を生産している工場の中には、天然でん粉を原料として他社から購入しており、農家からキャッサバを買い取らない工場も存在する。



5.最後に

 タイにおけるキャッサバの加工は、これまで、輸出向けとしてフラワーから始まりチップ、ペレット、でん粉へと変化してきた。また、国内においてもアミノ酸および甘味料の原料として大量に消費されてきた。2007年から本格的に代替燃料向けエタノール生産が開始し、現在、タイのタピオカ産業は新たな局面を迎えている。
 タイでは主に糖蜜を代替燃料用原料として使用しているが、国内における代替燃料の利用が進むにつれ、キャッサバからのエタノール生産が増加し、これまでの輸出用および国内消費向けタピオカ加工品へのキャッサバの供給が圧迫されることになる。今後のエタノール生産の動向次第では、現在、日本に輸出されているタピオカでん粉および化工でん粉も影響を受けることになると予想される。