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米国のバイオエタノールの需要拡大とメキシコとのNAFTA(北米自由貿易協定)の実施がHFCS(異性化糖)に及ぼす影響

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年1月]

【調査・報告】

調査情報部 部長 加藤 信夫
調査情報第三課 課長代理 天野 寿朗
調査情報第三課 係長 菊池美智子


 米国ではとうもろこしを利用したバイオエタノールの生産量が急増しており、とうもろこしのHFCSをはじめとする糖化製品向けへの割合は2007/08年度には5.7%までに落ち込んでいる。HFCSの価格も2006年には対前年比25%増と大幅に上昇し、HFCSの消費の減退も見られる。
 他方、メキシコとの関係においては、1992年に合意したNAFTAに関して93年に締結したサイドレター(砂糖、異性化糖に関するもの)の解釈を巡って長年論争状態にあったが、2008年1月から砂糖、異性化糖が両国間で完全自由化されることになった。
 このような中、米国カリフォルニア州にて開催された米国砂糖連盟(ASA:American Sugar Alliance)が主催する第24回国際甘味料シンポジウム(2007年8月4〜8日)に参加する機会を得たので、同州でのでん粉・糖化製品工場などの調査も行った。
 今回は、これらの調査結果と文献などにより、バイオエタノール生産の拡大やメキシコとのNAFTAの実施がHFCSに及ぼす影響、およびカリフォルニア州でのでん粉・糖化製品工場の概要を整理し、報告する。

1. 米国のでん粉・糖化製品業界の概要(訪問先のでん粉・糖化製品工場での聞取り結果より)

 米国でのとうもろこしを原料とするでん粉・糖化製品業界の規模は、表1のように2006年のでん粉(コーンスターチ)の生産量が290万トン、HFCSの生産量が1,060万トン、その他の糖化製品420万トンである。日本のコーンスターチ生産量250万トン(糖化製品生産に使用する分を含む)、HFCS生産量 120万トン、その他の糖化製品120万トンと比べると、HFCSの規模が大きいことが目立つ[1]。
 米国のウエットミル工場は8社26工場で、アイオワ州、イリノイ州など中西部を中心に12の州に位置している[2][3]。
 でん粉業界は主にとうもろこしを原料としているが、Penford co. ではとうもろこし以外にばれいしょも原料としており、ばれいしょでん粉では国内で95%以上のシェアを占めている。また、Archer Daniels Midland Company(ADM)、Cargill, Incorporated、Tate & Lyte Ingredients Americas, Inc.、Grain Processing corpora-tionではバイオエタノールの生産も行っている。



2. バイオエタノールの需要拡大ととうもろこしおよびHFCS価格に及ぼす影響

 米国でのバイオエタノールの製造は、原料を主にとうもろこしとすることから、でん粉・異性化糖業界に与える影響も大きい。
 2006年のバイオエタノール生産量は49億ガロンであり、2007年10月9日現在では131工場が稼働中でその生産能力は年間70億ガロンであるが、さらに73工場の新設、工場での増設が計画されており、これらが予定通りに稼働すると生産能力は135億ガロンの生産体制となる[4]。
 政策面では、(1)RFS(再生可能燃料基準:燃料販売業者へのエタノール使用量の義務付け。順次拡大し2012年には75億ガロン。)、(2)ブレンダー(エタノールとガソリンを混合する者)、工場建設、エタノール混合ガソリンへの税制上の優遇措置、(3)安価な輸入エタノールが急増しないための輸入関税(54セント/ガロン)などによる手厚い保護を受けている。このため、バイオエタノールの生産量は図1のように着実に増加しており、この傾向は今後も続くと見られている[5]。
 バイオエタノールの生産増加に伴い、とうもろこしの作付面積は拡大しており、2007/08年度の作付面積は前年比20%増の3,789万haで、生産量は25%増の3億3,448万トンと過去最高の規模になると予測されている[6]。このようにとうもろこしの供給量は史上最高となっているが、それを上回る勢いでエタノール向けが急増している[7]。飼料向け消費量はエタノール向け需要の影響を受けて減少しているのに対し、HFCSを含む糖化製品向けは7億5,000万ブッシェル程度で安定しているが、とうもろこし全体の供給量の増加に伴って、全体に占める割合は2007/08年度には5.7%と前年度の7.1%から減少している(図3)[8][9]。
 このようなとうもろこし需要の急速な拡大により、とうもろこし価格は高値で推移しており、2007年9月のシカゴ相場期近では3.5ドル/ブッシェルとなっている。HFCS価格は年々上昇する傾向にあったが、2005年のエネルギー政策法によりRFSが設定され自動車燃料に含まれるバイオ燃料の使用量の拡大が義務付けられたため、エタノール向け需要が急増し、2006年にはHFCSの価格もこれまでのペースを上回って大幅に上昇した(図2)[10]。
 USDAの長期予測によると、とうもろこし価格は、エタノール向け需要が2009/年までに急激に増加するために3.75ドル/ブッシェルにまで上昇すると見られている。その後は、エタノール向け需要は継続して増加するが伸びが鈍化し、とうもろこし生産量が追いつくことで需給バランスが図られ、価格は下落すると予測されている[ ]。
 (なお、米国のバイオエタノールの最新情勢については、「砂糖類情報」2008年1月号に掲載しているので参考にされたい。)

3. メキシコとのNAFTAの実施による影響




 NAFTAは、1992年に合意されたが、米国とメキシコ間で1993年に締結している「サイドレター」の内容の解釈をめぐって論争が行われてきた。このような中、メキシコ側がHFCSを使用した清涼飲料水に20%の飲料税と流通税を課税したことに対して、米国がWTOに提訴するなどの問題が生じていた[12]。この清涼飲料水への課税は、2006年3月にWTOのルールに違反するとの判決を受け、両国間の協議により2006年7月に清涼飲料水への課税の撤廃が約束され、砂糖およびHFCSの市場アクセス権についても合意した[13][14]。この合意によって、両国間での砂糖およびHFCSの貿易は、2008年1月から無税無枠の完全自由化となる。
 これにより、米国産HFCSのメキシコへのアクセス、メキシコ産砂糖の米国へのアクセスが大きく改善され、まさに「甘味料全体の二国間統合」が実現することになる。すなわち、メキシコでは米国産HFCSの輸入量が増加するのに伴い、国内でのHFCS消費量が増加する可能性がある。
 先に述べたように米国のHFCSの価格は上昇しているため、砂糖との価格差が縮まっており、競争力が低下するなど、業界としては厳しい状況に置かれてきた。米国のHFCS製造者によると、2008年からの完全自由化は糖化製品業界にとっては市場が拡大するため、実現することを希望しているが、実際にどれだけ機能するかは施行されるまでは不明であると考えているとのことであった。


4. カリフォルニア州のでん粉・糖化製品工場の概況、差別化商品の開発とコスト削減努力


(1) 調査先の会社の概要

 調査先の会社は、1906年にシカゴで最初の工場の操業を開始して以来、でん粉・糖化製品の製造、販売を行っている。以前は業務用と小売向けの両方を扱っていたが、1998年に小売向けは別会社に分離し、現在では業務用のみを取り扱っている。
 米国のみならず世界規模で事業を展開しており、業務提携を含むと15カ国、33工場で製造し、70カ国で甘味料、食品材料、工業材料、薬品、ファインケミカルなど60産業へ販売している。製造部門は、北米では3カ国9工場、南米では6カ国工場、アジアでは4カ国6工場、アフリカでは2カ国5工場を展開しており、南米、アジアではとうもろこしに加えてタピオカも原料として使用している。
 米国ではとうもろこしを原料に3工場で製造しており、国内第4位のシェアである。主な製品は、表2に示すようにHFCSをはじめとする甘味料やでん粉があり、その他に副産物として、コーングルテンフィードやコーングルテンミール、コーンオイルなどがある。米国にカナダ、メキシコを加えた北米での売り上げでは甘味料が75%を占めており、特にHFCSが50%と高い割合になっている。



(2) でん粉の用途

 北米ではベーシック(非加工)のコーンスターチを製造しており、最大の用途は段ボール向けで全体の40%程度を占め、次いで醸造向け、紙製品向けが続いている。醸造向けは特にメキシコでの需要が高い。段ボール向けでの需要は安定しているがこれ以上の伸びは見込まれず、今後は、食用、非食用ともに化工でん粉の需要が大きく伸びると見ている。


(3) 今後の展開

 今後は、以下の5つのステップを踏んで事業展開を図りたいとのことであった。まず、(1)とうもろこしを原料とする既存の基本ビジネスを着実に実施し、(2)さらにオーガニック作物などを導入し、基本ビジネスでの展開を行う、(3)既存の商品・地域以外への多角化・多様化を図る、(4)成長力の高い地域(中国、インドなど)に進出し、(5)最終的にはとうもろこしを原料とする製品に限らない商品展開を実現したい、としている。
 特に、でん粉や糖化製品はバルク商品であるため差別化が難しいとした上で、化工でん粉については、海外の工場において、コレステロールを低下させるもの、パーソナルケア用やグルテンアレルギーに対応したものなど機能性を追求した商品の開発に力を入れている。


(4) 訪問先工場の概況

 カリフォルニア州にある訪問した工場は、1981年に建設され、年間2,000万ブッシェル(51万トン)の原料とうもろこしを処理し、5,900トンのコーンスターチと11〜14万トンの55%HFCS、20万トンの45%HFCSを生産している(表3)。カリフォルニア州に建設した理由は、後述のとおり原料の輸送コストがかかるが、水分が17%の原料とうもろこしと比べると、最終製品であるHFCSは水分を30%含む液体であり、製品の輸送コストを考えて消費地に近い場所の方が有利であると考えられるからである。



(5) 原料とうもろこしの調達

 でん粉・糖化製品工場の多くはとうもろこしの主産地である中西部にあるが、この工場は中西部から遠く、原料の輸送コストがかかることが特異である。原料には、イエローデントコーンを使用しており、主にシカゴ市場で購入し、週に5日の頻度で鉄道を使って輸送している。中西部産を使用する理由としては、(1)価格が安く、(2)先物取引価格を基準にするため価格が安定しており、(3)葉や芯などの不純物が除去されていることを挙げており、価格面でも作業効率の面からもメリットがあるためである。輸送などに係るコストとしては、1ブッシェルのとうもろこしに対して、鉄道リース代(15セント)や精選コスト(15〜20セント)を含めた65〜70セントが原料とうもろこしに上乗せされる。
 輸送コスト削減のために、カリフォルニア州産のとうもろこしにも注目はしているが、(1)価格が不安定であること、(2)精選が不十分であり工場での作業の増加になることから、秋に一部利用するに留まっている。


(6) 製造工程

 コーンスターチ、糖化製品とも製造工程は、図4、5のとおりで、日本の工場での工程と大きく変わらない。この工場では、コーンスターチ製造工程で得られるでん粉のうち85%が糖化工程に送られ、残り15%がコーンスターチとして主に段ボール向けに出荷されている。糖化製品としては42%HFCSと55%HFCSを製造しているが、42%ものは主にベーカリー向けなどで、一方55%ものは清涼飲料メーカーなどに出荷している。90%HFCSについては、砂糖と同程度の甘さの55%ものに比べて甘さは強いが、同社ではメキシコで一部販売しているのみである。使用量が少なくても甘さを確保できる特徴があるため、今後、要望があれば一般に販売する可能性もあるとのことであった。HFCSでのフルクトース含量には、我が国のJAS法で定められているような基準はなく、使用した製品への表示についてもフルクトース含量による違いはない。
 水の利用については、糖化工程では多くの水を利用し、廃水するが、コーンスターチ製造工程では脱水工程で回収された水は全て浸漬工程で利用し、新しい水はでん粉の最終洗浄工程でのみ使うことで廃水を最小限に抑えている。工場燃料については、電力は天然ガス燃焼時に発生する熱を利用したコジェネレーションによる自家発電を3メガワットの規模で行うと同時に、隣接する電力会社からも購入している。また、電力会社で発電時に出る蒸気も工程中で利用している。
 工場としては、いかにコスト削減を行うかが課題である。そのために、(1)副産物に混入するでん粉を1%でも多く回収して生産性を向上させること、(2)酵素や薬品などを適正に使用し原料コストの増加を防ぐこと、(3)工程への影響がない場合には乾燥工程などで使用するエネルギーを節約すること、に努めているとのことであった。




(参考文献)
[1] 農林水産省生産局、でん粉の需給見通しについて、平成19年7月、2007年
[2] Corn Refiners Association, Corn Part of a Sustainable Environment, Annual Report 2006, 2007, pp20
[3] Grain Processing Corporation, Corporate Information, homepage
[4] RFA , Industry Statistics, Home Page
[5] FAPRI, Searchable Outlook Database, Home Page
[6] USDA(NASS), Crop Production, November, 2007
[7] USDA(ERS), Feed Outlook, September 14, 2007
[8] USDA(ERS), Feed Grains Database, Home page
[9] USDA(ERS), Sugar and Sweeteners Outlook, September 27, 2007, pp52
[10] USDA(ERS), Sugar and Sweeteners Yearbook, October 18, 2007, table9
[11] USDA, USDA Long-term Projections, February 2007,2007, pp38-39
[12] 加藤信夫ほか、「第22回国際甘味料シンポジウムの概要について」『砂糖類情報』2005年月号、2005年、pp17-32
[13] USDA(ERS), Sugar and Sweeteners Outlook, May30, 2006, pp23
[14] USDA(ERS), Sugar and Sweeteners Outlook, September 21, 2006, pp15