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タイのエタノールをめぐる事情

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最終更新日:2010年4月30日

タイのエタノールをめぐる事情
〜注目されるキャッサバ由来のエタノール生産〜

2010年5月

調査情報部調査課 係長  前田 昌宏

シンガポール駐在員事務所  吉村  力

はじめに

 タイにおけるエネルギーの輸入依存率は、同国の経済発展に伴って増加傾向で推移し、2008年に60.8%となっている。タイ政府は、エネルギーの安定供給を確保するため、2008年に「15カ年再生可能エネルギー発展計画」(15Years-Renewable Energy Development Plan、(以下「REDP」という。))を定めた。タイは現在、この計画に基づきエタノール生産の奨励などエネルギー自給率の向上に取り組んでおり、キャッサバのエタノール生産への利用は、エタノール増産方策の一つとして注目されている。
 
 我が国の天然でん粉輸入はその8割以上がタイ産のタピオカでん粉であることから、タイのエタノールをめぐる情勢、特にキャッサバからのエタノール生産の動向を把握することは、我が国のでん粉需給を考える上で有益であると思料される。そこで、本稿では、本誌前月号でタイにおけるキャッサバおよびタピオカでん粉の生産状況などを紹介したのに続き、行政当局や関係業界への聞き取りなどを基に、タイのエタノール事情について報告する。

1 エタノール需給の動向

(1)エタノール生産の現状 〜糖みつからの生産が主流〜

 現在、タイにおけるエタノール生産の主な原料は、さとうきびから砂糖を生産する際に副産物として得られる糖みつである。2010年3月時点で稼働しているエタノール工場は19カ所で、1日当たり合計生産能力は292万5000リットルとなっている。このうち、糖みつおよび糖汁(ケーンジュース)を主要な原料とするのは14工場(214万5000リットル)、主にキャッサバ由来原料を利用するのは5工場(78万リットル)となっている。このほか、6工場が建設中で、そのすべてがキャッサバ由来のものを原料としており、その1日当たり合計生産能力は162万リットルである(表1、2参照)。
 なお、2009年9月時点でエネルギー省から設立を認可されているのは47工場で、これら1日当たり合計生産能力は1230万リットルに達するが、そのほとんどは原油価格高騰時にエタノール工場設立を計画したものの、その後原油価格が下落したため建設または操業を延期している。
 
 タイにおけるエタノール生産量は、増加傾向で推移し、2009年1〜11月の累計では、前年同期比12.6%増の3億4434万リットル(1日当たり103万リットル)となっている。なお、参考までに、バイオ燃料先進国と生産量を比較すると、2008年で米国の約1/100、ブラジルの約1/60、EUの約1/9となっている。
 
 タイ農業協同組合省によれば、キャッサバのエタノール仕向け量は、2008年度(10〜9月)は、生産量2516万トンのうち5万トンとわずかであり、ここからキャッサバからのエタノール生産量を推計すると、約800万リットルとなる。

(2)エタノール価格および消費の状況 〜現在のガソホール消費は停滞気味〜

 エタノール取引価格については、エネルギー省が参考価格(Reference Price)を定めている。当初は、国内のエタノール原料価格などを考慮した生産コスト積み上げ方式による算定であったが、2007年2月から、輸出も視野に入れた価格競争力強化のために、ブラジルのエタノール輸出価格に輸送費、保険料、関税などを加えるという計算方法が採用された。しかしながら、この算定方法では、低価格による需要増は見込めるものの、マージンが低く抑えられることになる国内製造事業者からの強い要請を受け、2009年4月から、以前の生産コスト積み上げ方式に回帰している。同時に、四半期に一度行われていた算定が、毎月行われるよう見直された。
 
 2009年4月以降のエタノール参考価格を見ると、さとうきび価格の上昇に伴う糖みつ価格高などを反映して、上昇傾向で推移している。
 タイでは、エタノール混合ガソリンを「ガソホール(Gasohol)」と呼んでいる。ガソホールには、エタノール混合割合に応じた、E10(エタノール混合割合10%)、E20(同20%)、E85(同85%)の3種類がある。現在流通の主流となっているのはE10で、E20、E85はわずかとなっている。
 
 2008年のガソホールの販売量を見ると、オクタン価(ガソリンのアンチノック性を示す数値)95のハイオクガソホールE10およびオクタン価91のレギュラーガソホールE10が大幅に増加した。これは、同時期に原油価格が高騰したことおよび、2008年8月から09年1月までの6カ月間、政府がガソホールの消費拡大のため、ガソホールに係る物品税をリットル当たり0.0165バーツ(1バーツ=2.95円、3月末日TTS相場)まで引き下げたため、ガソホール価格がガソリンよりも大幅に安くなったことによるものである(ガソリンおよびガソホール価格構成については後述)。その後は原油価格が落ち着きを取り戻し、価格差が小さくなったため、ガソホールE10の普及は停滞している。

2 エタノール関連政策

(1)15カ年再生可能エネルギー発展計画(REDP)の概要
〜2022年には総エネルギー消費の2割を再生可能エネルギーへ〜

 タイ政府のエネルギー政策における指針は以下の5点である。
 
 1.持続可能なエネルギー安全保障
 2.代替エネルギーに関する研究および開発
 3.エネルギー価格の適正な水準の維持、投資環境の整備 
 4.エネルギーの効率的な利用および節約の推進
 5.上記4点と並行した、温室効果ガス削減など環境保護への取り組み
 
 これら指針に基づき、タイ政府は、国家レベルで再生可能エネルギーの生産と利用の奨励に取り組んでおり、2008年にはREDPを定めた。REDPは、2022年までの15年間で達成すべき再生可能エネルギーの使用目標を設定し総エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を2008年の6.4%(総エネルギー消費量66,248ktoeのうち4,237ktoe(toeは石油換算トン))から、2011年15.6%(同70,300ktoeのうち10,961ktoe)、2016年19.1%(同81,500ktoeのうち15,579ktoe)、2022年20.3%(同97,300ktoeのうち19,800ktoe)と段階的に引き上げるとしている。その方法としては、バイオ燃料、天然ガスの利用および小規模水力、風力、太陽光発電のほか、バイオガス、バイオマスや廃棄物などの発電利用やこれらによる熱エネルギー生産―となっている。
 
 バイオ燃料については、2022年の総エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合20.3%のうち、4.1%寄与することとなっている。その内訳として、エタノールについては、2009年2月時点での1日当たり使用量の124万リットルから2022年には同900万リットルへ、バイオディーゼルについては、同156万リットルから450万リットルへ引き上げ、加えて、新たに水素燃料を10万リットル使用することを目標としている(図2参照)。
 
 
 REDPにおけるエタノールの消費関連目標については、図3のとおりである。
 
 
 特にガソホールE85については、国際的に原油価格が上昇しているなかで、将来的に重要な選択肢の一つであると考えている。
 
 このようにREDPは、米国やEUのバイオ燃料推進目標と同様に、非常に野心的なものとなっている。タイ政府は、バイオ燃料の推進に伴い、石油輸入量を減少させ、外貨を節約し、ひいては国内の燃料作物などの価格安定に結びつけたいとしている。
 
 政府は、REDPの目標達成には、民間の協力が必要不可欠であり、重要な役割を担っているとしている。表5にREDPにおける投資計画を示すが、これを見ると民間による投資割合が高いことが分かる。
 
 

(2)エタノールの消費拡大政策 〜税制面でガソホールに価格優位性を付与〜

 タイのエタノール振興政策は、需要の促進に重点を置いていると言える。通常のガソリンに対してガソホールに価格優位性を付与することでまずは需要を喚起し、それを契機にエタノールの増産、ひいては産業の活性化を図ることを狙いとしている。ガソリン、ガソホールの価格は、原価+物品税+地方税(物品税の10%)+石油基金(Oil Fund、輸入ガソリンを含む燃料の価格変動に対するセーフティネットのために設置されている基金)積立金+エネルギー保護基金(Conservation Fund)積立金+付加価値税(VAT)+マージンから構成されている。これまで、エタノール消費拡大のため、(1)ハイオクガソリン販売の段階的な縮小(2)石油基金積立金の減免(3)ガソホールに係る物品税の減免―などが実施され、ガソホールへ価格優位性を付与している。また、エタノール製造事業者に対しては、法人税の免除(8年間)や、エタノール生産に必要な機材に対する輸入関税の減免といった優遇措置が実施されている。
 
 加えて、E20とE85については、その普及を図るため、政府は税制面でより優遇しており、その結果として、2010年4月7日現在の小売価格は、E10よりリットル当たりそれぞれ約2バーツ、14バーツ安価となっている。(表6参照)
 
 
 また、自動車に係る物品税を、通常は25%のところ、フレックス車は22%、天然ガス自動車(Natural Gas Vehicle、NGV、天然ガスを燃料とする自動車)は20%と、税制面で優遇している。さらに、フレックス車については、天然ガス自動車と同様、20%まで引き下げることを検討中である。これによって、フレックス車の需要を喚起し、国内自動車メーカーが当該車種の開発、増産に注力することを期待している。
 
 

3.キャッサバを利用したエタノール生産の動向
〜原料としてキャッサバチップに注目〜

 ここまで述べたように、タイはREDPに基づき、エタノールの大幅な増産を計画している。しかしながら、現在のエタノール原料の主流となっている糖みつの供給量については、新規の農地開発が難しく、さとうきびの急激な増産は望めないことから、現在の水準がほぼ限界である。
 
 こうしたことから、エタノールの増産に向け、糖みつに続く原料として注目されているのが、キャッサバチップである。現在、タイで生産されるキャッサバの約45%が、破砕後に天日乾燥させたチップ向け(チップをさらに粉砕して圧縮加工したペレットを含む)に利用されている。チップの約8割は輸出され、そのほぼ全量が中国向けである(図4参照)。中国では、チップを工業用および飲料用のアルコール原料として利用している。このように中国に依存しているチップの需要を内需型に移行させることは、国内関連産業の育成、活性化にも寄与することにもなるため、注目されているところである。
 
 
 商業ベースでのキャッサバ由来のエタノール生産は、2006年から実施されているが、2009年後半の糖みつの供給不足を契機に、キャッサバを原料としたエタノール工場新設の計画が目立ち始めた。糖みつは砂糖生産の副産物であるため、その供給は圧搾期となる年末から翌年4月頃までに集中しており、通年での安定供給が難しいことも、キャッサバチップが注目される理由の一つであろう。
 
 しかしながら、現在、深刻化する害虫被害や干ばつなどにより、キャッサバの供給は減少する見込みである。以前の政府の青写真では、キャッサバの単収の向上によって、エタノール仕向け分は賄えるとしていたが、単収が落ち込み、キャッサバ価格が高騰している現状ではキャッサバからのエタノール生産は、コスト的に魅力はない。また、現在のところ、キャッサバからのエタノール生産に対する特別な政府の支援は考えられていない。これらのことから、エタノール製造事業者によれば、短期的にキャッサバからのエタノール生産が急増することは考えにくく、原油価格が高騰しない限りは、2011年の消費目標(1日当たり211万リットル)の達成は難しいのではないか、との見方が多くを占めているとのことであった。
 
 また、エネルギー省の関係者によれば、セルロースや海藻などの非従来型のバイオマスを原料とした第2世代バイオ燃料については、中長期的には取り組む予定であるとしているものの、高コストであることから、短期的には奨励策の実施は予定していないという。
 

4 まとめ

 タイ政府は、エネルギー自給率の向上、温室効果ガスの削減などを目的として、エタノールを含む再生可能エネルギー産業振興に取り組んでいる。その目標達成のためには、投資計画(表5)に示されたように、民間企業のさらなる取り組みが求められている。しかしながら、キャッサバからのエタノール生産については、企業にとってその収益性に大きな魅力があるとは言えず、計画通りに生産の拡大が進んでいない現状にある。
 
 今後もキャッサバからのエタノール生産の動向は、その収益性に左右されると考えられる。タイのでん粉需給を見通す上では、キャッサバおよびタピオカでん粉の生産、需要動向だけでなく、エタノールの生産および関連政策、さらには、エタノール生産に影響する原油価格の動向など、幅広く情報を収集していくことが必要であろう。

参考資料

タイエネルギー省「Thailand’s Renewable Energy and its Energy Future」
米国農務省「Thailand Biofuels Annual 2009」
加藤信夫、竹中憲一、岡田美乃里「タイにおける砂糖およびバイオエタノール産業の発展と政策動向について」『砂糖類情報』2007年5月号
斎藤孝宏、脇谷和彦「タイのタピオカでん粉の生産と流通について」『でん粉情報』2009年3月号
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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