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タイのキャッサバ生産事情

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最終更新日:2011年3月3日

タイのキャッサバ生産事情 〜新たな競合作物の台頭など依然厳しい情勢〜

2011年3月

調査情報部調査課 係長 前田 昌宏

 
 
【要約】
 
 タイにおける2009/10年度のキャッサバ生産量は、害虫被害により前年度比26.9%減の2201万トンと大きく落ち込むこととなった。2010/11年度についても、苗の不足や害虫被害を嫌った農家の転作などにより作付面積が減少することから、前年度を5.2%下回る2086万トンと厳しい見込みとなっている(1月現在)。
 
 供給減に加え、原油や肥料価格の上昇、人件費の増加などにより生産コストも上昇していることから、キャッサバ農家販売価格は高水準で推移しており、これがタピオカでん粉価格高騰の背景となっている。
 
 また最近では、キャッサバの主産地である東北部において、天然ゴムの作付面積が増加し、新たな競合作物として台頭している。
 
 このようにタイ国内での生産が伸び悩む中、一部ではカンボジア、ラオスといった近隣諸国からのキャッサバやチップの輸入が行われている。その輸入量は、現在のところわずかであるが、タピオカチップについては関係者の多くが今後増加するとの見方を示しており、その動向が注目される。
 
 

はじめに

 タイ産タピオカでん粉価格(バンコクにおけるFOB価格)は、2月22日現在でトン当たり575米ドル(約4万8000円)と依然高水準にある。この価格高騰の要因である需給ひっ迫の背景を整理すると、需要面では中国などの堅調な需要、供給面では害虫被害による原料のキャッサバ減産−となる。
 
 そこで本稿では、供給面に焦点を当て、最近のキャッサバをめぐる事情についてとりまとめたので報告する。
 
 注:本稿中の年度はタイでん粉年度(10〜翌9月)であり、単位換算は1ライ=0.16ヘクタール、1バーツ=2.72円(1月末日TTS相場)を使用。
 
 

1.キャッサバ生産をめぐる事情

(1)2010/11年度の生産見通し 〜前年度を下回る見込み〜

 2009/10年度のキャッサバ生産量は、害虫(コナカイガラムシ)により大きな被害を受け、前年度比26.9%減の2201万トンであった。前年度には過去最大となる3009万トンを記録していただけに、市場には大きなインパクトを与える結果となった。
 
 2010/11年度の生産量については、タイタピオカでん粉協会(Thai Tapioca Starch Association、以下「TTSA」)、タイタピオカ取引業者協会(Thai Tapioca Trade Association、以下「TTTA」)などが2010年8月2〜7日および8月30日〜9月3日に実施した作柄調査では、作付面積は前年度比5.5%減となる690万ライ(約110万ヘクタール)、単収は同1.3%増のライ当たり3.05トン(ヘクタール当たり19トン)、生産量は同4.3%減の2106万トンと見込まれた。単収については害虫被害のあった前年度からわずかに改善がみられるものの、苗の不足や害虫被害を嫌った農家の転作などによって作付面積が減少していることから、生産量としては前年度をやや下回るとの依然厳しい見通しであった。
 
 その後の10月、11月には、主要産地であるナコンラーチャーシーマー県で洪水被害が発生した。洪水により収穫できなくなることを恐れた一部の農家が、収穫適期を迎える前に出荷してしまったことや、害虫の再発などにより、1月現在の生産量見通しは、2086万トンと、9月の見通しから1%下方修正された。今回早めに収穫した農家は再度作付けを行うとみられるが、キャッサバは平均8〜10カ月生育期間が必要であるため、出荷されるのは来年7月以降になると予測される。
 
 
 
 

(2)生産コスト 〜09/10年度は前年度比2割増〜

 タイ農業協同組合省農業経済局(Office of Agriculture Economics、以下「OAE」)によれば、2009/10年度のキャッサバの生産コストは、キログラム当たり1.51バーツ(約4.1円)となった。これは前年度比で22.9%高、2004/05年度比では実に63.9%高となる。この生産コスト急増の要因は、原油や肥料価格、人件費の上昇などで単位面積当たりのコストが2007/08年度以降増加していたところへ、害虫被害により単収が減少したことである。
 
 
 
 

(3)農家販売価格の推移 〜記録的な高騰、当面は高止まりか〜

 前述したような生産コストの増加に加え、供給が需要に追い付いていないことから、キャッサバの農家販売価格は高水準となっている。2010年6月にはキログラム当たり2.28バーツ(約6.2円)と、2008年3月に記録した過去最高値(同2.23バーツ、約6.1円)を超えることとなった。その後も上昇を続け、同年8月には同2.95バーツ(約8.0円)と最高値を更新した。その後は収穫期を迎えたため、やや値を下げたが依然2.5〜2.7バーツ前後で高止まりしている。
 
 今後の動向について関係者は、現時点で供給が需要を大きく下回っており、でん粉工場とチップ工場の原料調達の競合なども激しくなっていることから、短期的に価格が大きく下落する要因を探すのは難しい、と見ている。
 
 
 
 

(4)品種改良 〜単収増でコスト増加への対応を図る〜

 キャッサバの生産コストが増加する中、農業協同組合省では、品種の改良および栽培管理技術の向上によって単収の増加およびコスト低下に取り組んでいる。
 
 OAEによると、2010年に最も多く作付けされた品種は、カセサート50であり、全作付面積の52%を占めている。次いでラヨーン5が25%、ラヨーン90が9%と続いている。カセサート50が相対的に単収が低いにもかかわらず多く作付されている理由は、気候、土壌への順応性が高いことである(表1)。
 
 最近では、2010年5月、新品種ラヨーン11の利用が承認された。同品種は、単収(ライ当たり4.77トン、ヘクタール当たり29.8トン)、でん粉含有率(29〜32%)とも従来品種に比べて高い。しかし、収穫まで12カ月間ほど要する(従来品種は8〜10カ月)ため、普及が進むか注目されている。
 
 
 
 
 
 

2.新たな競合作物、天然ゴムの台頭

〜東北部でも作付面積が拡大〜
 
 これまでキャッサバの主な競合作物としては、さとうきびおよびとうもろこしが挙げられていたが、最近では新たな競合作物として、天然ゴムの存在感が増している。
 
 キャッサバの生育にはあまり水を必要としないため、かんがいの普及率が低い東北部がキャッサバの主産地となっている。地域別の生産量では東北部が約5割を占め、次いで中部、北部と続き、南部では生産されていない。一方、天然ゴムは南部での生産が大半で、これまでは東北部での生産はほとんどなかった。
 
 しかしながら、キャッサバやさとうきびの作付面積が増減を繰り返す一方、天然ゴムの作付面積は増加を続けており、特に東北部における天然ゴムの作付面積は、2002/03年度の9万4000ヘクタールから2008/09年度には47万7000ヘクタールと、5倍にまで拡大している。
 
 
 
 
 
 
〜天然ゴム生産を政府も奨励〜
 
 天然ゴムの作付面積の増加は、政府が2004年から5カ年計画で天然ゴムの生産を奨励し、東北部を中心に農家へ苗の無料配布などを行ったことなどによる。この背景には、世界的な需要の増加による天然ゴム輸出価格の上昇があった。
 
 天然ゴム輸出価格の推移を見ると、2000年にはキログラム当たり25.7バーツであったが、2004年にはその約2倍となる同49.3バーツとなっている。その後も右肩上がりで推移を続け、2009年はリーマンショックによる自動車需要の減少により下落したものの、2010年(1〜6月)では同103.8バーツまで上昇した。(図5)2011年2月現在では、天然ゴム価格は史上最高値を更新している状況である。
 
 また、タイは世界最大の天然ゴム生産・輸出国であり、タイ、インドネシア、マレーシアの主要3カ国で世界生産の2/3を占めることから、価格について主導権があることも生産を奨励する理由とされる。天然ゴムは作付けから収穫までに7年かかり供給の弾力性に乏しい。このため価格が長期トレンドになり易く、さらには、中国をはじめ新興国の自動車需要の拡大が天然ゴム需要をけん引すると見込まれることも生産者にとっては魅力的である。このことを反映して、タイの天然ゴム生産量、輸出量は右肩上がりで推移している。
 
 天然ゴムは最初の収穫を開始してから約20年間収穫が可能なため、一度植えられると他の作物への転作は行われにくい。このため、中期的には天然ゴムに転換された農地で再びキャッサバ生産が行われる可能性は低く、関係者の懸念材料となっている。
 
 
 
 
 
 

3.近隣国からのキャッサバ調達

 このように、現在のタイ国内のキャッサバ生産をめぐっては、生産量は減少し、価格も高騰するなど厳しいものとなっている。そのような中、一部では、新たな供給源の開拓として、ここ数年カンボジアおよびラオスといった近隣諸国からのキャッサバ、タピオカチップの輸入が行われている。
 
 その量はタイの国内生産量と比較すればわずかであるが、この動向について紹介したい。
 

(1)キャッサバ 〜今後は限定的となる見込み〜

 カンボジアからのキャッサバ輸入量を見ると、2007年には2万6000トンであったが、2008年に7万4000トン、2009年に15万7000トンと2年連続で急増したが、一転して2010年は6万1000トンと前年の半分以下の水準となった。この激減の理由は、カンボジアでの減産によるものとみられる。
 
 キャッサバ輸入のメリットとしては、安価でキャッサバを調達できることである。輸入価格(CIF)を見ると、2009年はキログラム当たり1.37バーツ、2010年は同1.66バーツと、タイの国内価格を下回っている。
 
 しかしながら今後キャッサバの輸入が増加していくかどうかには疑問符がつく。関係者によれば、カンボジア産キャッサバの品質はタイのものとほぼ同等であるが、輸送中に品質が劣化してしまうこと、輸送距離が遠ければその分コスト高となることから、カンボジアからの輸入キャッサバを利用できるのは、国境に近い工場に限られるとのことである。
 
 なお、2009年は930トン、2010年は580トンがラオスから輸入されている。
 
 
 
 

(2)タピオカチップ 〜国内の生産動向次第では増加の可能性も〜

 タピオカチップについてもキャッサバ同様、2009年にカンボジアからの輸入が急増し、前年の約9倍となる7万5000トンとなったが、2010年の輸入量は前年から半減となる4万トンであった。この激減の要因は、キャッサバ同様、同国における減産の影響と推測される。
 
 タピオカチップの輸入量は、輸出量(2009年で402万4000トン、輸出先はほぼ中国)と比較すればわずかである。しかしながら、今後タイ国内においてキャッサバの供給不足が続くようであれば、カンボジアなど近隣諸国の生産動向にもよるが、タピオカチップを輸入し、でん粉やエタノールの原料として利用する動きがさらに活発になるとの見方が強い。関係者によれば、一部のタピオカチップ製造業者は、カンボジアやラオスに工場を新設することも計画しているとのことである。
 
 
 
 

4.キャッサバ生産の今後の見通し

〜めぐる情勢は厳しい見込み〜
 
 キャッサバの農家販売価格が過去に例のないような高水準で推移している現状から考えると、農家の作付け意欲は維持されると見込まれる。しかしながら、生産量大幅減の要因となった害虫の存在は、現時点ではその被害を完全に抑えられるようになったわけではないため、依然不安材料としてある。
 
 また、キャッサバの生産コストが、タイの経済発展に伴う人件費の上昇などから、増加傾向で推移するとみられることや、競合作物として天然ゴムが無視できない存在になりつつあることなどを考えると、今後のキャッサバ生産の見通しについて楽観視することは難しい。
 
 こうした状況を踏まえ、タイの関係者の一部は、カンボジアやラオスといった近隣諸国からのキャッサバやタピオカチップの調達を行っている。現在のところまだその輸入量はわずかであり、需給を左右するほどではないが、タピオカチップについては、関係者の多くが今後増加傾向で推移するとみている。このような動きについても今後注視していきたい。
 
 

(参考)

キャッサバ農家保護制度の運用状況
 〜最近は価格高騰のため発動なし〜
 
(1)制度の概要
 
 タイでは、キャッサバ、とうもろこし、コメを対象とした最低価格保証制度が存在する。従前は担保融資制度(収穫物を担保として政府から融資を受ける)が実施されていたが、2009/10年度から最低価格保証制度に切り替えられた。
 
 価格保証制度の仕組みについては以下のとおりである。
 
ア 農家は、毎年度ごとに、制度の対象となるために登録を行う。登録業務は、農業協同組合省農業普及局の出先機関である各県の農業事務所が担当。
イ タイ政府は、毎年度のキャッサバの保証価格をあらかじめ設定する。保証価格は、農家が生産コストに加えて20〜25%の利益が得られるよう設定されている。
ウ 商務省、農業協同組合省など関係機関から成る指標価格設定委員会が、収穫開始後15日ごとに、市場における平均的な売買価格に基づき指標価格を算出する。
エ 農家は、キャッサバを収穫し、チップまたはでん粉工場に販売する。その際には工場が設定した価格に従って売買が行われる。
オ 指標価格が保証価格を下回った場合、当該期間内に販売実績のある農家は、証拠書類を提出し、保証価格と指標価格の差額の補てん金を受け取る。
 
 
(2)運用状況
 
 2009/10年度については、保証価格がでん粉含有率25%のものでキログラム当たり1.7バーツと設定された。2010年7月に2009/10年度の実績が公表されたが、これによると登録農家数は44万8,261戸であり、実際に差額の支払いの対象となった農家数は38万374戸、交付金額は24億3,249万バーツ(約66億2000万円)であった。
 
 2010/11年度については、保証価格はキログラム当たり1.9バーツと、生産コストの増加を反映して前年から0.2バーツ引上げられた。しかしながら、現在の価格水準下では発動することはほぼないと見込まれている。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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