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加工でん粉の製パンへの利用

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最終更新日:2011年4月8日

加工でん粉の製パンへの利用 〜パンの老化抑制効果〜

2011年4月

山崎製パン株式会社 中央研究所 宮崎 恵美

【要約】

 近年、機能性や保存性向上、冷凍耐性の付与などを目的に加工でん粉(化工でん粉、変性でん粉、modified starch、以下「加工でん粉」)が様々な加工食品に使用されています。ここでは新たな食品分野への活用として、パンの老化抑制効果が認められたヒドロキシプロピル化タピオカ加工でん粉について紹介します。

(1)はじめに

 近年、機能性や保存性向上、冷凍耐性の付与などを目的に加工でん粉が様々な加工食品に使用されています。パンは私たちの主食である米飯、うどんなどと同様、でん粉を多く含む食品です。パンと同様に小麦粉を原料に用いるうどんでは、食感改良や加工適性向上の目的で既に加工でん粉が使用されています。しかし、加工でん粉のパンへの利用は積極的に検討されてきませんでした。

 この理由としては、小麦粉に含まれるグルテンというタンパク質がパンのふっくらとした構造を作るのに欠かせない物質であるため、多くの研究者がグルテンに着目してきたこと、またでん粉を使用するとグルテンの量が減ってしまうためパンの品質を損ないかねないこと、などが挙げられます。

 ここでは、加工でん粉の新たな食品分野への活用として、製パンに使用した際の効果について紹介します。

(2)加工でん粉とは

 高分子ポリマーであるでん粉は、食物組織の形成、調理食品の素材として、ゲル、結着力、粘弾性などの高分子特性が利用されています。工業的にも製紙、繊維工業にみられるように、接着、フィルム形成、増粘などの機能がでん粉の大きな需要を作り出しています。でん粉のこのような機能を利用するには加熱が必要ですが、出来上がったゲルや溶液は老化といって時間とともにもとの状態が失われていきます。この短所を改質するため、あるいは新規特性を創出するため、でん粉の利用範囲を広げたものが加工でん粉です。

 加工でん粉は表1に示すように、加工方法により化学変性、物理変性、酵素変性に分けられます。今回は、化学変性のエステル化、エーテル化、架橋のタピオカ加工でん粉を用い比較しました。エステル化、エーテル化でん粉はでん粉を構成するグルコースのフリーな水酸基(図1)に官能基を導入、付加したもので、架橋でん粉はでん粉に二官能基あるいは多官能基をもつ試薬を反応させ、でん粉の分子内あるいは分子間のフリーな水酸基と架橋したものです。

 今回はエステル化でん粉としてヒドロキシプロピル化(hydrpxypropylated tapioca starch、以下「HTS」)、エーテル化でん粉としてアセチル化(acetylated tapioca starch、以下「ATS」)、架橋でん粉としてリン酸架橋(phosphorylated cross-linked tapioca starch、以下「PTS」)のものを用いました。また、対照として加工処理されていない未処理タピオカでん粉(native tapioca starch、以下「NTS」)を用いました。
 
 
 
 

(3)加工でん粉を用いた製パン性

 製パン性の評価項目には(ア)パンを作る際のパン生地の吸水率、(イ)生地状態、(ウ)パンの容積(比容積)、(エ)官能(食感など)があります。上記3種類の加工でん粉を使用した際の各評価項目について述べます。

(ア)生地吸水率

 パン生地を捏ねるときに小麦粉100に対して添加する水の量のことを吸水率といいます。吸水率はパンの種類や使用する小麦粉の種類によって適宜調整するものです。吸水率が多い方がパンの食感がしっとりし、パンの出来高が増えるなどの利点があります。しかし、むやみに吸水率を増やすとパン生地がべたつき、製造を困難にし、出来上がったパンの品質も良くないものになってしまうため、適量を見極める必要があります。

 表2に示した吸水率はファリノグラフという機械を用いて、ある一定のパン生地の硬さにするのに必要な加水量を測定したものです。でん粉を添加しない小麦粉のみの試験区では吸水率65.0%であるのに対し、各種でん粉を添加したものは吸水率が低下する傾向がみられました。しかし、HTSを添加したものは小麦粉のみのものと同等の吸水率を示しました。これはでん粉に付加されたヒドロキシプロピル基が親水性の高い官能基であるためと考えられています。

(イ)生地状態

 パンを作る工程は、(a)生地の混捏、(b)発酵、(c)成形、(d)ホイロ(最終発酵)、(e)焼成があり、パン生地の状態はこれら工程の中ではっきりと変化していきます。ここでは、(a)の混捏における生地状態について触れます。

 小麦粉と副原料と水を混捏していくと、初めはべたべたした状態ですが、しだいにまとまってきて弾力性の高い生地が形成されます。パン製造ではおよそこの状態で生地の混捏を終了します。仮に混捏し続けると生地は粘性を帯びるようになり、再びべたべたした状態になってしまいます。これを生地のブレークダウンといいます。生地が強い方がブレークダウンの発現が遅くなり、製パン適性が高いと判断できます。

 表2に示した「生地」の「ブレークダウンの数値」は、ファリノグラフ装置で生地がブレークダウンするのに要した時間を示しています。小麦粉のみの試験区が35.2分と最も長く、でん粉を加えたものはブレークダウンまでの時間が短く、生地が弱い傾向にあることがわかります。この試験では小麦粉100%のうちの18%を各種でん粉に置き換え、更に生地の弱化を補う目的で2%のグルテンを添加しています。仮にグルテンを添加していなければ、ブレークダウンは更に短くなり、製パン適性は落ちてしまいます。このようにパン製造ででん粉を添加する際は、グルテンなどの生地を強くする素材を適宜添加する必要があります。
 
 

(ウ)パンの容積(比容積)

 パンといえば、誰しもふっくらしたボリュームのあるものを好むでしょう。ここではでん粉を添加したパンの容積について触れます。表2に示した比容積は、パン1gあたりの容積を示したもので、この値が大きいほどボリュームがあるパンとなります。

 小麦粉のみの試験区で比容積は5.3mL/gであるのに対し、でん粉を添加したパンの比容積はそれよりも小さく、パンのボリュームが小さくなることを示しています。この試験ではグルテンを添加していますが、それでもボリュームの低下は免れないようです。

(エ)官能(食感)

 小麦粉のみのパンの食感に比べ、でん粉(この試験ではタピオカ加工でん粉)を添加したパンではタピオカでん粉に特有のもっちり感が付与されていました。特にHTSではその傾向がNTSより顕著でした。エーテル化、エステル化でん粉は官能基を導入、付加することにより、でん粉の糊化温度が低下することが知られており、パンの焼成過程でも糊化が進みやすくなります。でん粉の糊化により、個々のでん粉に特有の食感が表れやすくなり、特にタピオカでん粉は、本来もっちりした食感をもっていますから、官能基を導入、付加された加工でん粉の使用により一層その傾向が顕著に表れたものと思われます。

 一方、PTSのものは、乾いてパサパサしたものでした。架橋でん粉であるPTSは、先にも述べましたが、でん粉の分子内あるいは分子間のフリーな水酸基と官能基をもった化学物質が架橋したものであるため、粒構造が頑強で壊れにくい構造となっています。パンの焼成過程でも粒構造がしっかりと残るため、それがあたかも未糊化のでん粉のようであり、好ましくない食感となってしまうものと考えられます。

(4)保存中のパンの硬さ変化

 消費者にとって喜ばれるパンには色々な要素があると思いますが、その中に、「出来立ての柔らかさが保持され、おいしいこと」があるでしょう。焼きたてのパンは香り豊かで柔らかく、食欲をそそられるものです。しかし、時間がたつと次第にパンは硬くなっていきます。これをパンの老化といいます。パンの老化の原因には諸説ありますが、α化したでん粉が再びβ化することが主要因であると考えられています。このため、従来よりパンの老化を遅延させる方法の一つとしてでん粉のβ化を抑制する添加物を加える方法が取られています。

 代表的な素材に乳化剤、アミラーゼがあり、簡単にこれらの作用機構について述べます。乳化剤は焼成によってでん粉粒から溶出したアミロースと不溶ゲル体との複合体を作り、そのゲル化を抑えるとともに、でん粉粒内のアミロース、アミロペクチンとも複合体を形成し、アミロースの溶出を防ぐとともに両分子の結晶化を阻害する役割を果たします。一方、アミラーゼはパン生地の状態から焼成段階にかけて小麦でん粉のアミロース、アミロペクチン分子の特異的な結合部分に作用し、でん粉の構造変化を起こすとともにデキストリン(でん粉の分解により生成した低分子物質)を生成します。構造変化したでん粉と生成したデキストリンがでん粉の再結晶化を抑制すると考えられています。 ここでは、各種加工でん粉を添加したパンを保存した時の硬さの変化を日を追って計測したときのデータを示しました(図2)。

 いずれの試験区のパンでも、日ごとに硬さが大きくなり、パンが硬くなっていることを示しています(老化)。硬化の速度を比べると、HTSを添加した試験区では小麦粉のみの試験区より硬化が遅く、老化が抑制されることがわかりました。未処理でん粉のNTSの添加では小麦粉より硬くなり、PTSでも老化抑制効果はありませんでした。ATSは小麦粉と同等の硬さ変化を示し、NTSに比べると老化抑制効果があるようです。
 
 
 それでは、なぜHTSを添加したパンは老化が抑制されたのでしょうか。先にも述べたように、パンの老化の原因の一つにα化したでん粉が再びβ化することがあります。そこで、保存したパン中のでん粉がどの程度β化したかを測定してみました。

 図3はでん粉中のアミロペクチンという分子が3日間の保存中にどの程度再結晶化したかをアミロペクチンの結晶化融解に伴う吸熱量として測定したものです。この値が大きいほどでん粉のβ化が進んでいることを意味します。HTSを添加したパンは他の加工でん粉を添加したものよりも値が小さく、でん粉のβ化が抑制されていました。また小麦粉のみのパンよりもこの値が小さい結果となりました。

 この結果から、HTSを添加したパンはHTSのβ化が遅く、パンの老化を抑制する素材であることがわかりました。従来の乳化剤やアミラーゼは小麦粉中の小麦でん粉を改質することでパンの老化を抑制するものでしたが、老化しにくい加工でん粉を使用することでもパンの老化を抑制できることが明らかとなりました。また、先に製パン性の項でも述べましたが、HTSを添加したパン生地は他のでん粉よりも吸水率が高く、小麦粉のみの試験区と同等の吸水率であったため、結果としてパン中の水分が多く、しっとり感の持続に影響したこともパンの柔らかさの要因となっていると考えられます。
 
 

(5)どんな種類のでん粉が向くのか

 でん粉をパンに利用するにあたって、どのようなでん粉を選択すれば期待する効果が発揮されるのでしょうか。ここでは、食感と老化抑制の点から考えてみたいと思います。

 加工でん粉は様々なでん粉原料から製造することができますが、加工されたといっても原料でん粉の性質から大きく外れることはありません。でん粉には大きく分けて穀類(小麦、コーン、米など)といも類・根(ばれいしょ、タピオカなど)のものがあります。前者はでん粉ゲルにしたときに曳糸性(糸引き性)が低く、後者は曳糸性が高いことが知られています。パンにこれらのでん粉を混ぜた場合、前者はさくっと、乾いた食感に、後者はもちもち、しっとりした食感になる傾向があります。

 同じ穀類でもモチ系の穀物(もち米、ワキシーコーンなど)でん粉ゲルは曳糸性が高く、これらのでん粉を混ぜるともっちりした食感になります。原料でん粉の特性がパンの食感に与える影響は大きいと考えられます。本報ではタピオカ由来のヒドロキシプロピル化で老化抑制効果が認められていますが、ヒドロキシプロピルリン酸架橋ばれいしょでん粉やワキシーでん粉のリン酸架橋(コーン、大麦)でもパンの老化抑制効果があることが報告されています。

(6)おわりに

 今回の研究によりパンの老化抑制効果を有する加工でん粉の存在が認められました。ご紹介したHTSのように化学変性を施した加工でん粉とともに、今後は物理変性や酸素変性による加工でん粉についても、パンの機能性向上に寄与できる素材を探索していくことが必要であると思います。

<参考文献>

Megumi Miyazaki, Pham Van Hung, Tomoko Maeda and Naofumi Morita, Recent advances in application of modified starches for breadmaking , Trends in Food Science & Technology, 17(11), 2006, 591-599 .
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