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ラオスのキャッサバ生産

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最終更新日:2011年8月9日

ラオスのキャッサバ生産

2011年8月

調査情報部 審査役 河原 壽
 

要 約

 ラオス経済は順調な発展過程にあるが、農業部門では、農村社会が伝統的な自給的農業社会に商品経済の波が押し寄せ変容しつつあること、長期にわたる戦乱により一次加工産業や資材産業が脆弱で、生産資材の多くを輸入に頼ることによる高生産コスト体質、輸出食品加工企業に安定して原料農産物を提供する生産体制を担う農民組織の欠如など多くの問題を抱えている。

 その一方で、タイとの物流が容易で、土壌が肥沃なチャンパーサック県南部の平坦地において、契約栽培によりキャッサバを調達し、タピオカパウダーを生産する加工企業、タイ冷凍加工食品企業への原料供給基地としての産地開発、気象条件を生かした種子産業などの成長が見込まれ、ラオスはそのポテンシャルを生かした農産物供給国として着実に発展する可能性を持つ。

はじめに

 当機構では、2010年12月に農業開発・食品加工産業分野に焦点をあてた「メコン地域農業・食品加工可能性調査」に参加し、ラオス人民民主共和国の農業について現地調査する機会を得た。本稿では、この調査結果の概要を報告する。

1.ラオス人民民主共和国の概要

 ラオス人民民主共和国(以下、「ラオス」という。)は、東はベトナム、西はタイおよびミャンマー、南はカンボジア、北は中国に囲まれた内陸国である。国土面積は23万6800kuと日本の本州に匹敵するが、土地面積に占める耕作地の割合は5.4%と少なく、森林が68.9%を占めている。しかし本調査によれば、可耕地に対する耕作面積の割合は少なく、農業のポテンシャルは大きいとされている。

 一方、人口612.8万人、人口密度26人(2009年)と国土面積に対し人口が非常に少ない(2005年Census:人口562.2万人、人口密度23.7人)。半数以上をラオ族が占めるが、49の民族で構成される多民族国家である。

 歴史的には3つの王国からなっており、南部のカンボジア国境近くのコーンの滝が船運を拒み、メコン川を通じて外海へつながることが不可能であったことから、北部・中部・南部の各地方の独立色が強く、各地方が独自に近隣諸国との経済協力を進めている。
 
 

2.ラオスの農業

(1)気候条件

 降雨量を基準として5〜10月の雨季、11〜4月の乾季の2つの季節区分があり、さらに乾季では比較的気温が低くなる11〜2月の寒季、暑い毎日が続く3〜4月の暑季に区分される。地域別にみた年間降雨量では、北部が比較的少なく、南部に向かうにしたがって多くなる傾向がある。特に中部・南部のメコン河流域では、年によっては雨季の後半に洪水に見舞われることがある。ラオス農業の多くは天水に依存しており、雨季に稲作を行なうのが普通である。稲作の収穫は11〜12月に行なわれ、その後の乾季に裏作として野菜・豆類が栽培される。


(2)ラオス農業の概要

 2009年のGDPに占める農林水産部門の割合は30.5%と高く、人口に占める農業就業人口も64.3%(2005年Results from the Population and Housing Census)と農業が重要な産業となっている。また、2008年における耕作地に占める米作付面積の割合は2008年で69.7%(871千ha)と、稲作(水稲および陸稲)が農業の根幹をなしている。

 ラオスの農業は、水田と焼畑を基盤とする農業であるが、その中で役牛(水牛)は水田の耕起などの作業で、焼畑は役牛(水牛)の放牧に利用されている。しかし、近年では中央政府の土地森林分配事業(注)による農地の確定および共有地の消滅、焼畑農業の制限、商品作物の導入、耕運機の導入により役牛(水牛)は減少しつつあり、農家の肥育牛(4〜5頭)は家畜銀行としての役割が強くなっている模様である。

(注)土地森林分配事業:植生等の土地の状況やその利用目的に応じて国土を線引きし、その区画ごとに管理権限の所在を明確にし、さらに区画ごとの利用と管理方法を明確にする一連の政策。その目的は、潜在的な農地や荒廃地を世帯に分配し、商品作物栽培や植林、畜産を推進すること、村の領域内の森林を村に分配し、持続的な森林管理を推進することである。また、農林政策からみた事業の目的は、自然資源の効率的で持続的な利用と管理、環境保全、焼畑移動耕作の削減と定着型農林業の推進、食料生産の増加、商品作物栽培の促進と世帯収入の向上である。
−JICA専門家 名村隆行 氏、「土地林分配事業をめぐる問題」より−
 
 
(3)土地利用権

 土地の所有権は、憲法において国家にあると規定されており、土地利用は利用権の設定に基づく。ラオス国民は、利用権において売買可能な永代使用権が保証され、譲渡、相続も可能である。一方、外国人や外国法人は土地利用権の取得は基本的に認められず、土地の賃貸契約を利用することとなる。

 ・政府からの賃借・利用承認:最長30年
 ・投資目的による政府からの賃借・利用承認:最長50年

 土地利用権は、国への申請により土地証書が交付され、利用権が確定する。開墾地は、開墾者に利用権が付与される。一方、90日以内に事業活動が開始されない場合は文書による警告、その後60日以内に事業活動が開始されなければ国に収用されることとなる(日本アセアンセンター資料より)。現在、多くの土地において土地利用権が確定しておらず、その確定作業が進められている。


(4)民間投資事業に係る農業生産政策

  ラオスの農業政策の最大の課題は貧困撲滅であるが、このほか
(ア)ラオスの農村は、自給的農業を基盤としており、周辺諸国の労働者と比べて労働意欲が低く、また、技術水準が低いまま単純労働を行っている状況で、より進んだ技術への改善が見られないこと
(イ)人口が少ないことから国内マーケットの規模が小さく、輸出市場以外にマーケットがないこと
(ウ)食品加工企業に安定して原料農産物を提供できる農民組織がないこと
−なども大きな問題となっている。

 現在、中央および地方政府は、農民が土地や労働力を提供し、企業が資金や技術とともに、海外を主とするマーケットを提供することにより、国内農業の振興を図るという下記の2+3政策と1+4政策を推進している。経済発展が遅れた地域は1+4政策、進んだ地域は2+3政策が導入されることが多い。なお2+3政策は、現段階では成果が得られていないこと、農産物が収穫されるまでの期間において、農家の収入が無くなることが問題とされている。

 A:2+3政策
   2:農民は土地と労働力を提供
   3:企業などは、資金、技術、マーケットを調達

  B:1+4政策
   1:農民は土地を提供
   4:企業などは、労働力、資金、技術、マーケットを調達

 このほかには、政府機関を後ろ盾とする、タイ企業などとのContract Farming(契約農場)も推進されている。


(5)ラオス農業の問題点

 ラオスは、1986年11月のチンタナカーン・マイ(新思考)以降、社会主義経済から経済自由化により市場経済が拡大し、2009年のGDP実質成長率は7.5%(2008年7.8%)と経済発展が著しい。また、農林水産業部門のGDP実質成長率も2009年2.8%(2008年3.7%)の成長となっている。しかし、林業部門においては2009年▲23.5%と大幅な減少となっている。

 ラオスの農業は、伝統的な自給的農業から商品経済の拡大に直面しており、林業部門においては、土地森林分配事業、森林保護政策などにより厳しい経済環境となっている。また、長期にわたる戦乱により国内産業は脆弱であり、一次加工産業や資材産業の欠如などによる高生産コスト体質や国内流通網の未整備、生産組織の欠如など多くの問題を抱えている。

1)ラオスの農村

 自給的農業社会を基盤としていることから他の周辺諸国の労働者と比べて労働意欲が低く、また、いわゆる「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)に慣れていないことから作業におけるトラブルの発生が多いといわれている。このような中、南部のチャンパーサック県では、コーヒー生産の拡大などから労働力需給がタイトとなって賃金水準が上昇傾向にあり、ラオス人労働者賃金が1日当たり4$に対し、ベトナム人労働者賃金は、移住者が多いこともあり同1.5$であった(2010年12月現在)。このような状況の中、タイおよびベトナム企業はベトナム人を雇うことになり、さらに、技術職は専らタイおよびベトナム人が担当し、ラオス人労働者は単純労働だけを行っていることから、技術がラオスに普及・定着しない状況である。

2)高生産コスト体質

 多くの企業では、種子や生産資材の相当部分をタイから輸入しているため、ラオス農産物の生産コストは、タイ生産資材価格に輸送等の輸入経費を加えたものがベースとなる。したがって、ラオス農産物価格もタイ生産資材価格の上昇の影響を直接受け、ラオス農産物の国内および海外における価格競争力の低下の要因となっている。
 また、国内流通が未整備であり、各地域で通行料が発生し、輸出や輸入の場合は、各国境ポイントでの通関の諸経費が発生することも高コストを招く要因となっている。このため、農産物生産・輸出が盛んなチャンパーサック県の場合では、輸送経費を加えるとタイからの輸入の方が、国内調達よりも安価となっている。

3)農民組織の欠如

 食品産業にとっては、契約栽培などによる農民の組織化により、安定した加工原料の調達が重要だが、現在その役割を担う農民組織はない。アジア開発銀行などにより、有機野菜などの国内供給において小規模な農民のグループ化が進められている段階である。
 Greater Mekong Sub region Business Forum(東西経済回廊利用促進会議、以下「GMS-BF」)は、Contract Farmingにおいて、
 ア 農民は作柄不良の場合、価格が良ければ契約相手ではない商人に売ってしまう
 イ たい肥を他へ売ってしまう。
 ウ 購入者が契約を守らず、買いに来ない場合がある
 エ ラオスが弱い立場の契約が多い などの問題点を指摘している。

4)国内流通の整備の遅れ

 GMF-BFは、食品産業が必要とする農産物を供給できる大規模サプライヤーの欠如を指摘している。主要農産物である米であっても、広い地域で多種の米を生産しているため、一つの地域で輸出用の米を集荷するのは難しい状況である。一次集荷業者が広範囲に点在する農家から非効率に集荷するのではなく、産地集出荷場等による効率的な集荷・出荷体制の必要性を指摘している。
 このような中、一部の地域ではクム・カンカー(商業セクション)と呼ばれる農産物、畜産物、非木材林産物などの販売を取り仕切るNGO組織の構築が進められている。農家の狭小な農地・混作では作物一種類の集荷は少なく、近隣に市場がない場合は個別の販売はできないが、クム・カンカーが一定数の農家の農産物を取りまとめることで取引量を増やし、仲買人の買付を呼び込むシステムとなっている。

5)原料農産物の一次加工工場の欠如

 GMF-BFは、タイ企業とサイヤブリ県内農家とのトウモロコシのContract Farmingの事例ではサイロがすべてタイ国内に建設されていることから、ラオスでは保存ができず出荷調整ができない。結果としてタイ側が価格を操作してしまっている問題を指摘し、ラオス国内の加工工場の欠如により、輸出交渉は常にラオスに不利な内容になってしまうとしている。

6)外国資本によるコンセッション

 外国直接投資(コンセッション)を伴う事業とは、ある開発や商業のために、法律に基づき政府の所有権やその他の権利の利用権の供与が許可された投資事業のことであり、土地利用権を伴う投資事業も含まれる(日本アセアンセンター資料より)。
 ドイツFederal Ministry for Economic Cooperation and Developmentの「Foreign Direct Investment in Land in the Lao PDR」2009年12月によれば、外国企業の100ha以上のコンセッションでは、タイ、中国、韓国、ベトナム、米国、豪州などの諸国と、ジャトロファ、ゴム、木材などの農産物を主体に実施されている。
 コンセッションでは、土地利用権を外国企業が獲得した結果、ラオス農民が農地から追い出される事例もあり、雇用される労働力についても、ラオスの労働人口の少なさ、技術水準の低さから、ベトナムなどからの移住労働者が多く、ラオスの労働者の多くは単純労働に甘んじている事例が多いもようである。なお、バイオディーゼルの原料として栽培されているジャトロファにおいては、当初の開発計画のとん挫による事業活動の停止が問題となっている。

 このような中、調査では、タイ砂糖企業が砂糖国際価格高騰を背景に、メコン川流域にコンセッションによりさとうきび栽培用の農地を確保し、製糖工場を2012年に稼働する予定であることが確認された。この企業の取組は、(ア)タイ国内では個人、企業による大規模農地の取得が禁止されており農地の大規模開発が出来ないこと(イ)砂糖工場は1工場当たり120万トンの規模でないと生産コストの削減が見込めないことから大規模開発が必要なこと(ウ)砂糖国際価格が高騰しているもののタイでは労賃や資材の上昇から生産コストが上昇しており、利益率は以前と同水準にとどまっていること−などを背景としている。

 当該企業では、ラオスでは労働力が少ないことから機械化を進める一方、コンセッション内への農家の移住・代替地の提供により自給自足を図ることでラオス人労働力を確保し、農業労働者(社員)として栽培技術の指導を行い、独立志向の強い農民とは契約栽培を推進する計画とのことであった。ラオス農民が農地から追い出される通常のコンセッションとは異なり、ベトナムなどからの移住労働者に頼ることもなく、ラオス農民を育てるものとなっている。

3.キャッサバの生産状況

(1)主要産地

 政府統計(Agricultural Statistics 2009)によれば、キャッサバの最大の産地は中部地域のメコン川流域である。次いで世界遺産としても登録された古都ルアンパバーン市を中心とした北部のルアンパバーン県となっており、南部の作付面積は少ない。しかし南部に位置するチャンパーサック県農業省の調査では、同県の2010年キャッサバ作付面積は1万275haと政府統計の2009年410haから大幅に増加している。また、最大の産地である中部地域や北部地域においてもコンセッションによるキャッサバ開発が進んでおり、2010年のキャッサバ作付面積は2009年統計よりも大幅に増加しているもようである。
 
 
(2)貿易

 キャッサバの輸出統計は未整備であることから、ラオスの主要貿易相手国であるタイの輸入統計によりラオスなどの諸国からの輸入動向を見ることとする。

 生鮮キャッサバおよびキャッサバチップの輸入量は、増加傾向から2010年は減少しているが、東南アジア圏における干ばつによる不作を考慮すると増加傾向にあるといえよう。ラオスからの輸入は、生鮮キャッサバでは2009年、キャッサバチップでは2010年より始まっている。また、タピオカパウダーでは2010年よりカンボジアからの輸入が始まっている。品質などの問題があるため、今後の動向を見なければならないが、近年の傾向としては、タイのタピオカ産業においては国内の害虫被害によるキャッサバの減産から製品の生産量が減少しており、この結果、近隣諸国からのキャッサバチップの輸入が増加しているといえる。

 ラオスにおいては、現地報道によれば中部カムアン県、北部ボケオ県などにおける海外企業のコンセッションによる開発が進行しており、タイなどの近隣諸国への輸出は増加すると予測される。
 
 
 
 
 
 

4.タピオカパウダー生産企業

 既に述べたように、ラオスは、生産資材などの産業が脆弱であること、国内流通の整備が遅れていること、発展途上国によくある違法な通行料徴収などにより生産資材の価格が高いことなどから国内調達は難しく、多くの生産資材は近隣諸国からの輸入により調達されている。しかし、資材の輸入においても、輸入に係る輸送経費に加え各国境ポイントで通関のための諸経費が発生することが多く、ラオス農産物の国内および海外における価格競争力の低下の要因となっている。

 このような中、タイとの物流が容易で、土壌が肥沃なチャンパーサック県南部の平坦地において、契約栽培によりキャッサバを調達し、タピオカパウダーを生産する加工企業の事例を紹介する。

 現在のラオスの農村では、食品産業が必要とするまとまった農地での栽培による農産物の数量確保が難しい状況であるが、民族資本企業KPN Tapioca Factoryは村を通じた契約栽培で農民グループを形成し、タピオカパウダーの加工原料であるキャッサバの確保に成功している。当該事例は、農業開発において農民組織の構築が望まれる中、食品加工企業が契約栽培を通じて農民を組織化して土地集積を行い、原料の安定確保および農民の経営を安定させている。

 同社は、南部のチャンパーサック県パクセ近郊の平坦地に位置し、農薬工場により資本を蓄積し、原油、キャッサバ由来のエタノールの値上げによるキャッサバ価格の上昇から2008年にキャッサバ生産への参入を決定した。

 下記の独自の1+4方式により、村との契約栽培で1日に300〜400トンの原料を確保し、タピオカでん粉(パウダー)を生産している。現在のところ、工場の処理能力に原料確保が対応出来ておらず、2011年は6000トン〜1万トンのタピオカでん粉の生産にとどまっている。

 現在は国内販売(食用ヌードル、団子、ラーメン)だけだが、調査時点(2010年12月)ではタイ、ベトナム、マレーシアのバイヤーからの引き合いがあるとのことであった。輸出のためにISOの取得に向けて事務手続き中であった。輸出はこれからだが、主要生産国であるタイにおける害虫による大幅なキャッサバの生産減少によりタピオカ国際価格は高騰しており、輸出に向けての経済環境は良好である。また、国内マーケットを持っていることは、経営の安定にとっては最大の強みでもある。


(1)契約栽培の概要

 a)契約面積:1900ha(2010年12月現在) 

 b)契約方法:独自の1+4方式
   1:農民が土地を提供
   4:企業が土地整地、苗、雇用機会、買取・販売を提供
  農民は土地利用権を剥奪されず、栽培指導により技術を習得でき、栽培リスクは企業が負っていることが特徴である。

 c)契約期間:5年(5年経過後の土地利用は農民の意向で決まる)

 d)利益配分:農民20%、工場80%(契約の5年間、6年目以降は全て農民の利益)

 e)買取価格:平均55万キープ/トン f)最低保証価格:30万キープ/トン

 g)管理方法:各村長傘下の生産者グループ
  栽培管理者は、農業大学卒業生を採用し、タイでの研修により専門家として育成している。栽培管理者はほ場の状況を把握し、雇用された農民(原則として契約している村の農民)がその指示のもと、同社の資材を用いて栽培している。ラオス農民は「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)に慣れていないことから作業におけるトラブルの発生が多いといわれる中で、同社は農民と共に栽培を行うことで農民に対する管理の目が行き届き、生産の安定、技術の普及を実現している。

 h)農地の集積
  郡を通じて農民に説明を行い、契約栽培に参加する農家には企業がGPS(全地球測位システム)で各農民の農地を計測・確認し、農家に代わって土地証書の作成・申請を行う。この結果、農民は土地証書(土地利用権の登記)が取得でき土地利用権を確定できる。

 i)雇用労働者
  地元の村の農民を優先して雇用している。これにより、農民は収穫までの期間にも現金収入を得ることができ、技術も習得できる。なお、雇用農民は、企業が村長へ派遣を依頼し確保している(村長へは特別手当を支給)。


(2)会社保有農地(利用権購入)

 自社農地の確保(200ha)は、農家との栽培契約期間満了後に農民がキャッサバ栽培を中止した場合の原料確保、加工工場増設およびエタノール工場新設に備えるためである。また、農薬・たい肥の試験場としても活用されている。なお、農民からの利用権の譲渡は、村民全員の同意を得て行われる。企業は学校などを作り、電気、道路などを整備し、その対価として共有地の提供を受けている。


(3)経営の概要

 
生育ステージ:3月定植、10月〜11月収穫
 キャッサバ単位収量:25トン〜40トン/ha(タピオカ歩留り約30%)苗は2007年にタイから輸入
 タピオカ工場:206日稼働、8月〜10月の雨季は停止
 加工能力:原料1日400トン(24時間稼働、でん粉90トン) 2011年は6000トン〜1万トンのタピオカでん粉を生産予定
 販売: 250$/トンが630$/トン(2010年12月20日調査時)と高騰

 同社は、自己資金のほか、Nayoby Bank預金を受け入れない政策銀行で47の貧困地域への融資を行う)からの低利政策融資(ツーステップローン、調査では年利8%(通常15%))により資金を調達しているが、8%の金利水準は同社にとって「低利」とはいえず、より低い金利の金融支援を求めている。海外パートナーが海外銀行から調達する方がはるかに低コストとなる場合が多いことから、この事例のようにラオスの企業が自ら新規設備投資についてラオス商業銀行から借り入れることは多くない(資料:平成16年度財務省委託調査 ラオスの債券市場育成のための調査報告書)。日本企業がパートナーとして、投資および調達コストの低い資金を準備することをラオス企業は求めている。
 
 

6.ラオス農業の展望

 ラオスは、人口が少なく国内マーケットが小規模で輸出マーケットに依存せざるを得ないこと、輸出食品加工企業に安定して原料農産物を提供する生産体制を組織する農民組織がないこと、さらに、近年では、社会主義経済から市場経済への急速な移行、タイ、ベトナム経済の影響の拡大などにより、従来の伝統的な自給的農業の変容を余儀なくされており、農村の人口扶養力が低下し、農村における貧困層が増加傾向にあるとされる。

 このような問題を抱えつつも、村を通じた契約栽培で農民グループの形成に成功しキャッサバ生産を行う企業、本稿では紹介していないがタイ冷凍加工食品企業への原料供給基地としての産地開発、気象条件を生かした種子産業開発、輸出の拡大により生産が増加しているコーヒー生産・加工・輸出企業、コンセッションではあるがゴム、ユーカリの生産・輸出の拡大見込みなど、ラオスはそのポテンシャルを生かした農産物供給国として着実に発展する可能性を持つ国といえよう。

 食料の国際需給のひっ迫が予想される中、ラオスがアジアの重要な食料供給国として発展することは、日本、アジアの食料安全保障にとって重要である。

最後に

 当該調査結果は、メコン地域の農業開発・食品加工産業分野に焦点をあて、特に投資環境課題解決の余地が大きく残されているカンボジア、ラオス、ミャンマーの3カ国における今後の可能性を探る独立行政法人日本貿易振興機構の「平成22年度メコン地域農業・食品加工可能性調査」に係るラオス人民民主共和国の現地調査に基づくものである。このような機会を与えていただいた独立行政法人日本貿易振興機構に感謝申し上げる。
 
 

(参考文献)

「ラオス農山村地域研究」 横山 智、落合 雪野 編
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713