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ばれいしょでん粉副産物有効利用の取組み

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最終更新日:2013年4月10日

ばれいしょでん粉副産物有効利用の取組み

2013年4月

調査情報部 中司 憲佳
植田  彩  

【要約】

 北海道のでん粉工場は原料の供給不足による操業率の低下、最近の原油高に起因したでん粉の加工経費の上昇、でん粉製造の際に生じる大量の水処理などの課題を抱えており、これらの課題が工場の経営を圧迫している。美幌地方農産加工農業協同組合連合会では、でん粉製造時に排出され未利用のまま残渣として処理されていたポテトジュースからタンパク質を取り出して飼料として利用するだけでなく、そのタンパク質を食品素材として製品化し、副産物の販路拡大を遂げるなど、他のでん粉工場にはない取組みを行っている。

1.はじめに

 十勝、網走地区の畑作農業は、小麦、豆類、ばれいしょ、てん菜を中心に輪作体系を構成している。ばれいしょは、これらの地域では輪作体系を維持するためにも必要な作物として位置付けられている。

 また、これらの地域で生産されるばれいしょの半分は、でん粉原料用に仕向けられる。しかし、最近、生産者の高齢化、一戸あたりの作付面積増による省力作物へのシフト、ばれいしょ農家の収益性の悪化などから、ばれいしょの作付面積は減少している。これらに加え、近年の高温による作柄不良の影響も重なり、でん粉工場の原料数量が減少し、操業率が低下し収益が悪化している。さらに、最近の原油高に起因したでん粉の加工経費の上昇も、でん粉工場の経営を圧迫している。

 そこで、本稿では、でん粉製造の際に排出される副産物を飼料原料や食品の素材として活用することにより、でん粉工場の経営安定に向けた取組みを行っている事例を紹介する。

2.北海道のでん粉産業

(1)現状
 平成23年度における北海道産ばれいしょの作付面積が5万3000ヘクタール、収穫量が185万トンと国内産ばれいしょの約8割を占めている。しかしながら、北海道のでん粉産業は、近年、原料ばれいしょの作柄が悪く減産が続き、需要に応えられない年が続いている。また、作付面積の減少、ジャガイモシストセンチュウの発生も減少要因となっている。ジャガイモシストセンチュウは、ばれいしょ生産量を大きく低下させるばかりではなく、発生した圃場については植物防疫上、種ばれいしょ生産ができない決まりとなっている。今後、発生が拡大すれば北海道産ばれいしょの安定供給に支障を及ぼすと懸念されている。なお、北海道ではジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の普及拡大など対策を進めている。

 北海道内のばれいしょでん粉工場は、ウルグアイ・ラウンド農業合意に基づき平成7年度の38工場から現在では17工場にまで再編し、工場の経営体力強化を目指してきたものの、最近、工場の操業率は低下傾向で推移している。また、国内産ばれいしょでん粉とコーンスターチ(輸入とうもろこし原料)の内外価格差が2倍(平成22でん粉年度)となっていることから、原料ばれいしょ生産及びでばれいしょでん粉生産段階におけるコスト低減が課題となっている。なお、現在の工場分布は図1のとおりである。
図1
図2
(2)ばれいしょ生産者とでん粉製造事業者(農協系でん粉工場)の契約形態
 ばれいしょ生産者とでん粉製造事業者の主な契約形態は図3のとおりである。大半のばれいしょ生産者は、ばれいしょを原料としたでん粉の加工を農協系でん粉工場に委託(原料のばれいしょ及び製品のでん粉の所有権がばれいしょ生産者に帰属)していることから、でん粉製造事業者の収益の悪化=加工経費の増加となり、ばれいしょ生産者の収益の悪化にも直結する。
図3

3.新たなでん粉副産物の活用

 このように、でん粉工場の収益悪化は、ばれいしょ生産者としても、重要な問題である。作付面積減少、近年の高温傾向およびジャガイモシストセンチュウによる減産、原油高などでん粉工場の取り巻く情勢が厳しい中、でん粉工場の経営安定を図り、北海道のばれいしょ生産者の手取を確保し生産意欲を増大させることが、もっとも重要な課題である。

 こうした状況の中、でん粉製造過程で生じる副産物を利用することで、工場の経営安定に役立てる取組みがある。

(1)ポテトジュースの有効活用
 ばれいしょでん粉工場は、でん粉製造の際に生じる大量の水の処理が課題であった。でん粉製造過程で、(1)原料の洗浄、(2)デカンター処理、(3)セパレータ処理の際に、大量の水を利用する。特に、デカンターの際に生じるポテトジュース(ばれいしょを磨砕しでん粉を分離した後の廃液)は、タンパク質を多く含むため、環境規制の適用を受け、浄化装置で処理しなければ排水することができない。浄化装置の設置などは工場の大きな負担となっていた。また、ポテトジュースは貯蔵の際の腐敗も課題で、用途も液肥などに限定されていた。ただ、ポテトジュースは、豊富なタンパク質や繊維が含まれていることから、飼料や食品の素材として利用価値は高い。

 このように、従来の工場においては負担であったポテトジュースを有効活用して、収益改善につながるような工場の経営安定に取り組んでいるでん粉工場「美幌地方農産加工農業協同組合連合会(以下、ビホロ農工連)」の取組みを紹介する。

(2)ビホロ農工連の取組み
 ビホロ農工連(所在地:北海道網走郡美幌町)は美幌町、女満別町、津別町、オホーツク網走、きたみらい、常呂町の6農協の会員で構成されている。でん粉を抽出した後に残る副産物を飼料用として利用できるようにした日本初の工場であり、原料であるばれいしょを水分以外余すことなく利用できるように加工している。工場面積は9ヘクタール、原料処理能力は最大1920トン/日、製造能力は最大372トン/日(でん粉製品ベース)、タンパク回収施設は80トン/日である。当該工場は、昭和40年の操業以来、でん粉製造工程で排出されるポテトジュースを網走川の支流の美幌川へ排水することができず、その処理に苦慮しており、当時は付加価値の低い飼料として使用したり、近隣農家に液肥として配布していた。ただ、ポテトジュースはタンパク質を多く含むため、臭いの問題があることから、一般の住民から苦情を寄せられることもしばしばあった。昭和50年、当該工場にポテトジュースに含まれているタンパク質を回収し、飼料製造を実施するための施設(ビホロ農工連では「タンパク工場」と呼ぶ)が建設された。この結果、ポテトジュースからポテトプロテインを取り出すことで、臭いの発生がなくなり、環境問題が解消されるとともに、排水の処理コストも低減させることができた。
図4
 ここで、ポテトジュースの処理工程を概説する。まず、ポテトジュースは真空式の蒸発缶で濃縮後、専用のタンクでタンパク質を凝固させ、液体を分離したものを3段階において乾燥機を使い粉末にしたものが高タンパク製品である。一方、でん粉製造の篩工程で排出される残渣であるポテトパルプ(でん粉かす)やファインファイバーは脱水と乾燥工程を経て低タンパク製品となる。年間の出荷量は、高タンパク製品で約1300〜1400トン、低タンパク製品で5000トンとのことであった。
図5
図6
図7
(3)食品素材としての可能性
 ばれいしょでん粉製造時に排出されるポテトジュースから回収されたポテトプロテインは、栄養価が高いものの風味に優れないこと、難消化性であること、外観が灰褐色で見栄えが悪いことなどから、単独で食品として活用されることはほとんどなかったが、ばれいしょ由来で大豆タンパクに劣らない良質な植物性タンパク質として、補助食品やポテト以外の食材の旨み成分等との混合調味料としての利用が期待されている。また、100%北海道産ばれいしょが原料であることを消費者にアピールできるだけでなく、NONGMO、トレーサビリティの確保、安心安全の面からも新規タンパク素材として有用である。

(4)高タンパク製品(ハイプロテイン)の品質向上
 コスモ食品株式会社(本社所在地:東京都)にポテトプロテインを供給していたホクレン芽室でん粉工場が平成13年に廃止されたことで、ビホロ農工連がそのポテトプロテインを供給することとなった。ビホロ農工連では昭和50年から、タンパク工場で薬品を使用せず自然なタンパク質を製造していた。しかしながら、高タンパク製品(タンパク含有量65%以上)はコスモ食品株式会社に求められている70%以上の品質を満たしていなかった。そこでビホロ農工連では運転管理方法によって自然なタンパク含有量70%以上の製品化を実現した。ビホロ農工連の松下忠雄工場長によると、熱エネルギーを利用した製造方法ではタンパク含有量を5%高めることは難しいということであった。タンパク含有量70%以上の品質向上が実現し、ホクレン農業協同組合連合会を通してコスモ食品株式会社との取引が開始されたことで、でん粉副産物を飼料利用だけでなく食品原料素材としての利用が見出され、ビホロ農工連は販路拡大を遂げた。
図8
(5)ハイプロテイン生産の課題とその取組み
 ハイプロテイン1袋(25キログラム)を生産するのに使用する重油量は約25リットルである。ビホロ農工連では、この工程の熱源は重油を燃料としたボイラであるため、近年の重油価格高騰によるコスト高が課題であるという。
 

 水処理における膜分離技術を利用し、ポテトジュースを乾燥せず濃縮して高タンパクを抽出する電気のみで稼働する濃縮装置があるが、でん粉工場では、処理能力の限界やさらなる設備投資が必要となるため、現状では、この濃縮装置の導入には至っていない。しかし、この装置の導入によりでん粉工場が抱える高タンパク製品生産におけるコスト高の課題は解決できる可能性がある。

(6)北海道バイオ産業の産物
 でん粉製造時に排出される未利用残渣から抽出した副産物を活用し商品化した事業は、生物学などの研究を基盤とした産業(以下、バイオ産業)の機能性食品分野の産物とされる。豊富な農水産物を有する北海道では、近年、このようなバイオ産業の成長が著しい。経済産業省北海道経済産業局の北海道バイオレポート2012の報告によると、平成23年度の売上高は508億円とこの10年間で3倍に増加し、従業員数も同様に3倍に増加し新たな雇用創出に貢献している。さらに、北海道のイメージを生かしたブランド構築に向け、新たな商品開発や素材提案を進める動きも加速している。

4.おわりに

 本稿では、ばれいしょでん粉副産物の有効利用として、でん粉副産物を飼料利用だけでなく食品原料素材としての利用が見出され、でん粉工場は販路拡大を遂げている事例を紹介した。ビホロ農工連の関係者によれば、同工場のでん粉副産物利用の取組みは、販路拡大という点では他のでん粉工場にはない成果を挙げているものの、でん粉工場の収益改善といった点では、まだ課題の方が多いとのことであった。タンパク質の抽出技術の向上により環境負荷の軽減と有効成分の再利用が可能となったことから、今後さらなる機能性を解明することで、その改善に役立つものもあるのではないかと期待する。

 最後に、今回の取材に対し、お忙しい中ご協力していただいたホクレン農業協同組合連合会、美幌地方農産加工農業協同組合連合会、コスモ食品株式会社ほか関係者の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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