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でん粉原料用かんしょ栽培におけるバイオ苗の民間企業などの取り組み

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最終更新日:2013年8月9日

でん粉原料用かんしょ栽培におけるバイオ苗の民間企業などの取り組み

2013年8月

鹿児島事務所 谷 貴規

【要約】

 鹿児島県におけるかんしょ生産は、3年連続の不作となっている。このため、鹿児島県さつまいも・でん粉対策協議会では、でん粉原料用かんしょの原料確保のため、基本的栽培技術の励行、大規模経営体の育成などを進め、生産性の向上などを推進していくこととしている。基本的栽培技術のうち「健苗育成」にあたるバイオ苗の利用は、民間企業などを中心に普及への取り組みが広がっている。バイオ苗の利用により単収の向上の効果が得られている。

1.はじめに

 鹿児島県における平成24年産のかんしょの作付面積は、前年産より200ヘクタール減少し1万3800ヘクタールとなっている。また、同年産のかんしょの生産量は約32万トン(うち、でん粉原料用かんしょは全体の40%を占める12万7900トン)で、全国生産量(87万5900トン)の37%を占めており、全国1位のかんしょの生産県であるものの、3年連続の不作に見舞われている。不作の要因は、植え付け後の低温や梅雨時期の長雨および梅雨明け後の日照不足によるものと考えられ、平成24年産の10アール当たりの収量は2,320キログラムと、近年で最も低くなっている。

 これを受けて、鹿児島県さつまいも・でん粉対策協議会(会長:伊藤祐一郎鹿児島県知事)では、生産回復に向けた取り組みの一環として、基本的栽培技術の励行を掲げている。具体的には、以下の3点により単収向上を図り、でん粉原料用かんしょの安定生産と農家所得の確保を目指している。

 (1)健苗育成
 (2)土づくり
 (3)本ぽ植え付け
    1)水平に近い浅植え
    2)早期植え付け・マルチ栽培

 今回は、基本的栽培技術のうち、「健苗育成」にあたるバイオ苗の利用に焦点を当て、その効果や鹿児島県内の流通状況などについて、バイオ苗の培養・増殖管理などを行っている関係各者の取り組みを報告する。

 本稿では、メリクロン技術(茎頂培養)により培養し、育苗および増殖された苗を「バイオ苗」とし、バイオ苗から生産された種いもを利用して増殖した苗は含めない。

2.バイオ苗の生産・特性について

 バイオ苗は、メリクロン技術などでかんしょ苗などの生産、研究を行う三和ベルディ株式会社(以下「三和ベルディ」という。)により生産されている。三和ベルディは、株式会社三和グリーン(以下「三和グリーン」という。)が独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターなどから購入し、生育させた選抜系統(写真1)の茎頂を採取し、寒天状の培地で培養した後、外気に触れないように密閉した状態(写真2)で、三和グリーンに販売している。バイオ苗は、三和グリーンにおいて育苗後、セルトレイなどにより有限会社三和ファーム(以下「三和ファーム」という。)などに販売される。
 
 
 三和ベルディによると、メリクロン技術のメリットは .1)有望な品種を短い期間に大量に生産できること .2)植物を健全な姿に戻し、本来の力を引き出すことができること−であり、一方、デメリットは .1)慣行苗と比べ高価であること .2)ウイルスフリーの持続性を確保することが難しいこと .3)今までの育種と比べ変異が発生する確率が若干高いこと−などであるという。

 また、バイオ苗の特性は、慣行苗と比べ2割程度増収するとともに、バイオ苗から生産された種いもについても2年目までは慣行苗よりも増収が見込めるとのことであり、天候不順による単収の減少では、慣行苗よりも減収幅が少ないとされている。

3.バイオ苗の流通について

 バイオ苗の流通は、三和グリーン、三和ファーム、鹿児島県経済連野菜花き優良種苗増殖センター(以下「JA鹿児島県経済連種苗センター」という。)、JA南さつま川辺育苗センター、でん粉製造事業者(以下「工組系」という。)、種子屋久農業協同組合本所からの聞き取りによると、図のとおりであった。

 平成24年度のバイオ苗の流通(取り扱い)本数は、三和グリーンの販売本数が1万4350本で、うち7,200本がJA鹿児島県経済連種苗センターに販売されている。JA鹿児島県経済連種苗センターで育苗後、各JAに販売され、このうち、今回取材したJA南さつま川辺育苗センターに1,000本、種子屋久農業協同組合本所に1,500本が販売され、それぞれビニールハウスで増殖後、生産者に販売している。
 

4.取材先におけるバイオ苗の管理方法について

 取材先において、バイオ苗の一般的な管理方法を聞き取ったところ、室温20〜30℃で、散水頻度は各者で多少異なるが2〜5日に1回程度である。室温管理は、基本的に慣行苗と管理方法は変わらないものの、バイオ苗は慣行苗より高価なので細心の注意を払っているとのことである。定植により増殖する場合は、10アール当たり2トンの完熟堆肥とチッ素系肥料などをすき込んだ土壌で栽培し、植え付け間隔は、15センチメートル×15センチメートルである。

 なお、増殖する場合、定植してから約1カ月半で採苗(写真3)することができ、その後、1〜3月は3週、4月は2週、5月は10日に1回程度採苗し増殖(写真4)する。
 
 
 バイオ苗の採苗は、慣行苗と同様で、長さ25〜30センチメートル、節数7〜8節で切断している。重さ20グラム以上のものを100本1束(写真5)で生産者に販売しているとのことである。
 
 バイオ苗を工組系などが購入する場合、毎年4月頃に三和グリーンからバイオ苗の予約注文書が届き、発注することとなる。発注を受けて三和ベルディがバイオ苗を生産することから、平成25年産の苗は平成24年4月に発注したものである。

 取材先でのバイオ苗の各者の特徴的な取り組みについて紹介する。

(1) 三和グリーン(流通図(1))
 三和ベルディからバイオ苗(写真2)を購入後、独自に配合した肥料が含まれているセルトレイ(写真6)に1本ずつ移植し、育苗をしている。育苗期間は、販売先のニーズによって異なるが、20〜40日程度となっている。
(2) 三和ファーム(流通図(2))
 三和グリーンからバイオ苗をセルトレイで購入し、ビニールハウスで定植する。このバイオ苗は、ホームセンターなどに販売するとともに、自社圃場で生産し三和物産グループのでん粉工場に出荷をしている。また、バイオ苗から生産された種いもを、自社のビニールハウスで伏せ込み、増殖後、三和物産グループのでん粉工場に出荷することを条件に、安価で生産者に販売している。

(3) JA鹿児島県経済連種苗センター(流通図(3))
 三和グリーンからバイオ苗(写真2)を購入後、セルトレイまたは鉢に移植する。ここで使用する肥料は、果菜類にも使用する養土である。移植後、温度、湿度、日照量を自動で調整できる汎用性養生室(写真7)およびトンネル型の遮光カーテン(写真8)を用いてそれぞれ1日管理し、その後、ビニールハウス内でセルトレイのまま育苗している。
(4) JA南さつま川辺育苗センター(流通図(4))
 JA鹿児島県経済連種苗センターからセルトレイでバイオ苗を購入し、30℃で管理している電熱線の上で育苗(写真9)する方法と、ビニールハウスで定植し増殖(写真10)する方法により育苗・増殖している。バイオ苗をJA支部を通して購入している生産者は、でん粉原料用かんしょとして生産または次年産の種いも用として利用している。
(5) 工組系(流通図(5))
 三和グリーンからバイオ苗をセルトレイで購入し、ビニールハウスで増殖(写真11)後、自社圃場に植え付け、次年産の種いも用(写真12)として栽培する。この種いもは、種いものまま販売、または自社で伏せ込み、増殖した苗を生産者に販売している。種いもは、かつて防空壕として使用されていたトンネル(温度や湿度を一定に保つことに適している)および製品保管用コンテナに貯蔵している。
(6) 種子屋久農業協同組合本所(流通図(6))
 JA鹿児島県経済連種苗センターからバイオ苗をセルトレイで購入し、ポットに移植し育苗している(写真13)。ポットから採苗した苗は、定植して増殖(写真14)するが、生産者には、次年産の種いも用として栽培することを条件として6〜7月頃に販売している(バイオ苗から生産された種いもは、生産者自ら貯蔵、伏せ込み増殖する)。バイオ苗の育苗・増殖については、単収向上のための健苗供給、生産者の育苗・増殖労働の軽減を目的としている。また、同組合西之表支所では、生産者と契約を結び、本所同様に次年産の種いも用として苗を提供し、生産した種いもを引き取り、増殖している。種子島内のでん粉工場(JA・工組4工場)では、生産者のバイオ苗購入に際し、平成24〜26年度までの間、バイオ苗の普及を目的に、1苗当たり10円の購入費用のうち4円の助成を行っている。
 
 

5.今後のバイオ苗の展開について

 種子島地区さつまいもでん粉対策協議会では、種子島内の10アール当たりの収量が2,250キログラム程度(農林水産省「作物統計」:でん粉原料用かんしょ県平均2,460キログラム)と低いことを踏まえ、平成23年度にバイオ苗と慣行苗を品種別および地域別に増収効果を検証した結果、品種別および地域別ともに増収する好成績となった(マルチ栽培および5月の早植えの場合)。

  一方、鹿児島県南薩地域振興局農政普及課では、でん粉原料用かんしょ生産者に対する栽培講習会でバイオ苗の効果について紹介するなど、普及に向けた活動を官民が連携し、行っているところであるが、でん粉原料用かんしょ生産者は、他の農産物同様、高齢化が進んでおり、従前から取り組んでいる栽培方法が身についていることから、一朝一夕には普及が進まない一面があるのも事実である。このため、でん粉原料用かんしょ生産者に対し、数値などのデータを用いて、バイオ苗の有利性について、栽培講習会などを通じて地道に訴えていく取り組みが、今後、益々重要だと思われる。

 なお、今回取材に伺った種子屋久農業協同組合本所および工組系では、供給が需要に間に合わない状況となっている。よって、今後ビニールハウスを増設する計画などを検討しているとのことであった。

6.おわりに

 かんしょは、鹿児島県をはじめとする南九州地域(鹿児島県、宮崎県)の経済を支える重要な作物であり、このかんしょを原料とし、鹿児島県内の工場で製造されるかんしょでん粉については、糖化製品をはじめとし、多様な製品の原料として利用されているところである。今後は、さらに、かんしょでん粉の特性、特質や可能性を広く実需者にご理解いただき、新たな加工食品用途への拡大、ひいては需要の拡大につなげることにより、でん粉原料用かんしょ生産者の皆様の生産意欲をより高め、バイオ苗を活用した生産など、基本的栽培技術の励行により、同地域における生産数量が増加することを大いに期待したい。

 最後に業務ご多忙の中、本取材に当たりご協力いただいた関係者の皆様に心から厚く御礼申し上げる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713