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小清水町産のばれいしょでん粉を利用したせんべい製造

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最終更新日:2014年2月10日

小清水町産のばれいしょでん粉を利用したせんべい製造

2014年2月

札幌事務所 所長 寺西 徹能
所長補佐 坂上 大樹

【要約】

 平成25年7月、福岡県の且R口油屋福太郎は、ばれいしょでん粉を安定的に確保するため、北海道小清水町に進出した。その裏側では、企業の撤退や若者の都市部への流出などにより過疎化が進んだ小清水町が、町の活性化につなげる糸口を見つけようと関係者一丸となった企業誘致の取り組みがあった。

 誘致の取り組みや工場の操業開始を契機として、住民同士の連携が生まれつつあり、町ぐるみで観光PRの強化に乗り出すなど、町の活性化に向けた明るい兆しも見えてきている。また、地域の農業に目を移しても、でん粉原料用ばれいしょの生産に対する意欲の高まりを見せており、生産者と実需者の双方に利益になる関係が構築されている。

はじめに

 近年、国内産ばれいしょでん粉は、天候不順などによるばれいしょの不作によって減産が続いている。こうした状況に、一部タピオカでん粉などに移行する動きが見られるものの、でん粉の特性により、ばれいしょでん粉以外のものに切り替えることが難しいと考える実需者もいる。加えて、消費者の国内産に対するニーズの高さも背景にあり、ばれいしょでん粉を必要とする多くの実需者は、国内の新たな調達ルートの開拓に頭を悩ませている。福岡県福岡市に本社を置く且R口油屋福太郎(以下「福太郎」という)もそのうちの1社だった。

 福太郎は、明治42年に創業した老舗の製油業者である。現在は、食用油販売業のほか、業務用食材の卸や辛子明太子の製造を手掛けるなど、時代のニーズを取り入れながら多角的な業務を展開、そして、ばれいしょでん粉を主原料とする大ヒット商品「めんべい」の製造、販売を行っている。

 独自の製法で、辛子明太子の風味と魚介のうまみを生かして仕上げたせんべい「めんべい」は、テレビで紹介されたことをきっかけに人気に火がつき、帰省シーズンとなるお盆と年末年始は、商品が売り切れや品薄状態となることもあった。その後は、安定的な供給体制を整備し、今では福岡県内の直営店をはじめ、百貨店、主要な駅、空港などのほとんどのお土産売り場で「めんべい」が販売されており、博多の新しいお土産として定着しつつある。

 福太郎は、この2〜3年続く国内産ばれいしょでん粉の供給量の減少により、「めんべい」製造の危機に直面したことから、ばれいしょでん粉を安定的に確保するため、平成25年7月、ばれいしょでん粉の産地である北海道の小清水町に進出した。

 本稿では、福太郎が小清水町に進出したことにより、町やその地域の農業がどのように変化しつつあるのか紹介する。

1.小清水町と福太郎の取り組み

(1)小清水町の農業の特徴

 小清水町は、オホーツク海に面した北海道の東部に位置する。町の中部から南側にかけては山岳地帯が広がり、また、「花のまち」として国定公園小清水原生花園を有する豊かな自然に囲まれた町である。人口は5,358人(平成22年国勢調査)、販売農家戸数は344戸、就業人口の約4割が農業に従事している(小清水町「町勢要覧」(平成22年))。
 
 小清水町農業協同組合(以下「JA」という)の調査によると、町内の作付面積は85平方キロメートル(8,500ヘクタール)であるが、主要品目である麦類、ばれいしょ、てん菜の3品目を合わせた作付面積は全作付面積の約8割を占める。なお、ばれいしょは約2,200ヘクタールの作付面積のうち約1,950ヘクタールがでん粉原料用ばれいしょの作付面積となっており、その作付品種は「コナフブキ」が約7割を占めている。

 販売高(国からの交付金などを含む)を品目別に見ると、「麦類」が24.6パーセントと最も多く、次いで「てん菜」が23.9パーセント、「畜産」が22.0パーセント、「ばれいしょ(種子の販売高は除く)」が19.7パーセントとなっている(図2)。
 
 ばれいしょでん粉の生産状況を見ると、小清水町を含む北海道オホーツク総合振興局管内には6つのでん粉工場があり、これらの工場のでん粉生産量は道内のでん粉生産量の約6割を占める(図3)。小清水町にあるでん粉工場は、道内4位の1日当たり1,510トンの処理能力を有し、平成24年産のでん粉生産量は約1万9000トンである。

 なお、25年産のでん粉生産量は平年より1割程度少ないものの、3年ぶりに2万トンを超える見通しとなっている。
 
 小清水町をはじめとするオホーツク地方は、ばれいしょでん粉の供給を古くから支え、発展してきた産地ゆえに、ばれいしょでん粉を使った独自の食文化が育まれてきた。その代表例が郷土料理「でんぷんだんご」である。作り方は、ばれいしょでん粉、煮豆、煮汁、塩を混ぜて作った生地をフライパンで、両面をしっかりと焼く。名前の由来は、生地を丸めた形や食感が団子に似ていることにちなむ。「でんぷんだんご」は、かつては農作業の合間に食されていた料理であったが、今では世代や男女を問わず定番のおやつとして愛されている。

 平成23年2月には、より多くの人に「でんぷんだんご」を知ってもらおうと、町内の有志によって縦2.55メートル、横1.25メートル、厚さ3センチメートル、重さ115.5キログラムの巨大な「でんぷんだんご」が作られた。

 このことは多くのメディアにも取り上げられ、話題となった。それだけでなく、ギネス世界記録にも認定され、結果、日本中に小清水町がでん粉原料用ばれいしょの産地であることが知れわたり、大きな宣伝効果が得られた。そして、後にこのことが、福太郎の同町進出のきっかけにもなった。
 

(2)福太郎の小清水町への進出の経緯

 福太郎の「めんべい」は発売以来、順調に売り上げを伸ばし、平成20年には「めんべい」だけで約5億円を売り上げ、福太郎が製造する商品の中で売上高トップの看板商品となった。同年には、更なる売上の拡大を目指し、2億円余りを投資して福岡県内に新工場を建設し、同商品の製造能力をアップさせた。

 その矢先、北海道では、でん粉原料用ばれいしょの作付面積の減少や天候不順による不作などの影響により、平成21年産および平成22年産のばれいしょでん粉は、2期連続での大幅な減産となった(図4)。福太郎の工場は稼働率低下の危機に直面し、ばれいしょでん粉の確保に奔走することとなった。
 
 ばれいしょでん粉が調達困難な状況下で、当面の窮地を脱するため、福太郎がまず行ったのは、工場が九州にあることを踏まえ、原材料を九州産のかんしょでん粉に変更することだった。しかし、ばれいしょでん粉とかんしょでん粉では繊維の質、粒子の大きさなど性質が異なることなどから、商品本来の味を再現することができなかったという。そこで、輸入ばれいしょでん粉でも商品化を模索したが、食感と風味のバランスが崩れるなどの理由から、これも断念せざるを得なかった。

 結果としてこれらの試みは失敗に終わったが、「でん粉は北海道産ばれいしょでん粉でなければならない」という認識に至り、これをきっかけに、北海道産ばれいしょでん粉に対する強いこだわりが生まれたのだという。

 そんなある日、福太郎の山口社長は、小清水町が世界一の「でんぷんだんご」のギネス世界記録に挑戦し、成功したことを伝えるニュースを耳にした。このニュースで、小清水町が道内有数のばれいしょでん粉の産地であることを知った社長は、すぐさまJAに電話をかけ、「余っているばれいしょでん粉があれば分けてほしい」との申し入れを行った。その電話での交渉では、JAから期待した回答が得られなかったことから、数日後には小清水町に飛び、JAの組合長と面会、原料不足によってせんべい製造を維持していくことが困難となっている窮状を訴えるとともに、でん粉の供給について、改めて申し入れを行った。

 この熱意に押されたJAの組合長は、この対応について町長に相談し、協議を進めた。小清水町としても、企業の撤退や若者の都市部への流出などによって過疎化が進み、町の活性化が喫緊の課題であったことから、福太郎の申し入れに対して、町とJAは、でん粉の優先的な供給を行う代わりとして、町へ工場進出することを提案し、これに福太郎が合意した。なお、この合意の過程において福太郎は、「めんべい」の好調な売り上げを踏まえ、3年後(平成26年)には年間約2,500トンのでん粉を供給するよう町とJAに要請している。これに対しJAは、関係者と協議を重ね、それを上回る供給量を確保する用意があることを表明し、福太郎の工場進出を後押しした。

 小清水町が福太郎の誘致を決定した当初は、地域活性化を期待する声がある一方で、「採算が合わなくなるとすぐに撤退するのでは」などという、住民からの不安の声も寄せられたという。

 これらの声に対し、福太郎の山口社長は、町主催のイベントにおいて、300人を超える町民を前に、「町と共栄して会社を発展させていきたい」という意気込みを語った。

 町は平成24年3月限りで閉校予定の小学校を福太郎に売却することを決定、そして平成25年7月、福太郎は旧小学校跡地に「小清水北陽工場」を開設した。

(3)「ほがじゃ」の誕生

 福太郎は、北海道への進出を機に「北海道で採れた(獲れた)もの」にこだわった新商品「ほがじゃ」を開発し、小清水北陽工場で製造を開始した。ほがじゃは、パリッとした歯ごたえと、かみしめるとホタテやイカなどの魚介の味と風味がそれぞれしっかりと味わえる食べやすいせんべいとなっている。

 中央に大きく「ほ」の文字がデザインされたパッケージは、北海道の「ほ」、原材料の1つであるホタテの「ほ」、北海道に広がる広大なほ場の「ほ」など、さまざまな意味が込められているという。一方で、購入する側に、この一文字から北海道にまつわる言葉を自由に連想してもらいたい、という狙いもあるという。

 「ほがじゃ」と「めんべい」の原材料となるでん粉は、小清水町産のばれいしょから作られたものを100パーセント使用し、小清水北陽工場では、全国農業協同組合連合会を通じて1カ月当たり25トンを調達している。

 でん粉工場では、福太郎へ納める製品は他社と区分するために包装資材を変えているといい、福太郎がこの1年に使用する予定のでん粉は、この専用資材に詰められ、必要量が確保されている。

 なお、その他の食材であるホタテはオホーツク海産、玉ネギは北見市産、砂糖は北海道のビート糖を使用している。
 

2.福太郎の進出による小清水町の変化

(1)小清水町の変化

 町は商工会、JAと連携して、福太郎の工場進出を歓迎するのぼりを町の主要な施設に掲げるなど、町をあげて歓迎する雰囲気づくりに努めている。さまざまな取り組み事例を多く積み上げることで、さらなる企業誘致に弾みをつけたい考えだ。

 また、住民の間には、福太郎の工場進出により町が脚光を浴び、さらには町の特産品であるばれいしょでん粉から全国に誇るお菓子が誕生したことで、地域への愛着と住民同士の一体感が生まれてきているという。これが追い風となり、行政、企業、住民が一体となって地域おこしに取り組もうとする気運が高まっている。

 他方、福太郎も、町などが出展するイベントなどに積極的に参加し、小清水町の観光や食の魅力を協働で発信したり、小清水北陽工場の一部を見学コースとして無料で開放し、憩いの場を提供することで住民との触れ合いを大切にしたりしている。また工場は、旧小学校が受けていた避難所の指定をそのまま引き継いだため、防災拠点としての機能も果たしているという。
 

(2)JAと生産者の変化

 小清水北陽工場でのでん粉使用量は、小清水町のでん粉工場で製造される生産量のわずか2パーセント程度であり、需要のけん引役となってでん粉生産を大きく押し上げる効果はあまり見込めない。それでも、生産者にとって、でん粉がどのような用途で販売され、どのような製品、商品に加工されているかを身近に見て、知る機会が得られたことは大変意義深いものとなっており、生産意欲が大きく刺激されたという。

 また、工場見学を実施している小清水北陽工場に触発され、これまで作業の安全性などの観点から見学者の受け入れを積極的に行ってこなかったJAのでん粉工場も、平成25年から見学者の安全を確保したうえで、事前の申し出があれば施設を見学できるように環境を整備した。

 一方、JAは、今後のでん粉原料用ばれいしょの生産については慎重な姿勢を示している。JA担当者は「高品質な農産物を生産し、病害虫の防除を図るため、今後も連作、過作とならないよう、ばれいしょ、てん菜、麦を基本とした輪作体系の励行により、それぞれの作付品目の適正規模は堅持する」と語る。JAがこうした姿勢をとる背景には、ばれいしょの品質の著しい低下や生産量の減少を引き起こすジャガイモシストセンチュウの被害が、道内で拡大していることと関係している。

 小清水町では、昭和50年代後半にジャガイモシストセンチュウの被害が確認された。その後、被害の克服に向け、JAをあげての土づくりや細密な土壌検査に基づいた営農指導を行うなどした結果、現在では被害が減少し、高品質で生産性の高い生産体制が確立されている。

 JA担当者は、「福太郎の進出により、でん粉原料用ばれいしょ生産に対して生産者の意識に変化の兆しが見られるなど良い循環が生まれた」と、福太郎の進出による効果があることを実感している一方、「目先の利益を求めることなく、ばれいしょを含めた主要品目の作付計画を着実に進めていくことが極めて重要」とも語り、これまでのJAの基本姿勢は崩さない。

 また、でん粉の「顔が見える関係」は全国でもあまり例を見ないことから、JAは、産地としての喜びや誇りを感じていると同時に、責任の重大さを深く認識し、今後の営農指導などに対して気を引き締めている様子だった。

(3)今後の展開

 平成25年7月に製造を開始した「ほがじゃ」は、九州で売り上げが好調の「めんべい」の勢いそのままに、小清水北陽工場でも生産が追い付かないほどの人気の商品となっている。販売わずか半年で、2年目の売上目標として掲げた5億円に迫る売り上げとなる見込みで、取り扱い店舗数も道内で170店舗以上に達し、北海道のお土産市場を着実に開拓している。この好調な売れ行きを受け、同年11月には、工場製造ラインを増強することを決定し、翌月には福岡県内の「めんべい」工場の製造能力を上回る製造工場となった。また、従業員32人中30人は地元から採用し、地域の雇用にも大いに貢献している。今後も増産体制を支えるため地元から従業員を積極的に採用する方針としている。

 今後について小清水北陽工場の浦田工場長は、「取り扱い店舗数を300店舗以上に増やし、道内のどこのお店でも買えるようにしたい。また、周辺の市町村から、新たな商品開発の引き合いもあることから、それらの市町村と連携した商品も開発したい」としている。
 

おわりに

 生産者は、でん粉原料用よりも収益性の向上が見込まれる青果用、加工用ばれいしょの生産にシフトさせており、でん粉原料用ばれいしょの作付面積は右肩下がりで推移する傾向にある。また、今後、でん粉原料用ばれいしょの生産の減少が続けば、製造費用にかかる生産者負担額が増え、手取り収入が減少するのではという懸念が広まってきていることも、この傾向に拍車をかけているとみられる。

 さらに、この2〜3年の北海道産のばれいしょの不作に起因するでん粉の不安定な供給によって、ばれいしょでん粉の実需者が安定的な原料の調達を求めて化工でん粉などに切り替える例も多く、需給バランスが崩れかけている。

 今回紹介した「ほがじゃ」のヒットは、小清水町をはじめとする道内のでん粉原料用ばれいしょの関係者にとって明るい話題となった。これをきっかけに、でん粉原料用ばれいしょの生産拡大に向けた意識、行動へとつながってくれることを期待したい。

 他方、2016年3月の北海道新幹線の開業を控え、北海道の食と農業に関心が集まっていることから、これを契機として関係者が一丸となってばれいしょでん粉のPRや販売促進を図り、ばれいしょでん粉の新たな需要を喚起していくことも重要である。

 最後に、今回の取材にご協力いただいた且R口油屋福太郎の皆さま、小清水町役場の皆さま、小清水町農業協同組合の皆さまには、この場を借りてお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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