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かんしょでん粉の用途拡大に向けて

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最終更新日:2014年3月10日

かんしょでん粉の用途拡大に向けて

2014年3月

鹿児島事務所 丸吉 裕子

【要約】

 鹿児島県では、生産者団体や研究機関などが連携し、食品向けに適する「こなみずきでん粉」の特性を生かし、多くの商品が開発され、販売されている。また、関係機関が一体となり、こなみずきでん粉の特性を普及するための取り組みが行われている。

はじめに

 かんしょでん粉の用途は、異性化糖や水あめなどの糖化製品向けが全体の69パーセントを占め、菓子類・麺類などの食品向けは、同25パーセントとなっている(23でん粉年度)。これは、糖化製品向けが同19パーセント、食品向けが同44パーセントであるばれいしょでん粉と比べると、食品向け用途の割合が低い。かんしょでん粉の主な用途である糖化製品は、安価な輸入トウモロコシを原料とするコーンスターチと競合しており、かんしょでん粉の需要拡大のためには、より付加価値の高い食品向けの需要を掘り起こすことが課題となっている。

 このような中、鹿児島県では生産者団体、研究機関などが連携し、食品向けに適した「こなみずきでん粉」を開発し、こなみずきでん粉の特性を生かした食品開発や普及活動が展開されている。本稿では、これまでの各関係機関におけるこなみずきでん粉を使用した食品開発と、普及活動の取り組みを紹介する。

1.こなみずきでん粉を使用した食品開発の経緯

(1)新品種「こなみずき」の開発・栽培

 こなみずきでん粉は、「こなみずき」というでん粉原料用品種のみから製造されている。こなみずきは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター(以下「九沖センター」という)が、低温糊化性でん粉を含む「99L04-3」を母、高でん粉・多収の「九系236」を父とする交配組み合わせにより開発した、低糊化性でん粉を有することが特徴の品種である。こなみずきのでん粉収量や病虫害抵抗性は、従来のでん粉原料用品種である「シロユタカ」と同程度である(表1)。

 こなみずきの栽培が開始されたのは、平成22年である。平成24年産の生産量は、991トン(当機構のでん粉原料用いも交付金交付決定ベース)である。
 

(2)こなみずきでん粉製造技術の開発研究

 日本澱粉工業株式会社は、こなみずきに先行して平成15年に青果用として育種された「クイックスイート」の低温糊化性でん粉に着目し、平成16年からクイックスイートを利用し、新規かんしょでん粉の実用化に向けた研究開発を開始した。その後は、でん粉収量やでん粉白度の面で改良されたこなみずきでん粉を中心に、表2のとおり補助事業などを活用しながら、九沖センター、鹿児島大学、鹿児島県工業技術センター、鹿児島県農産物加工研究指導センター(以下「県加工研究指導センター」という)と連携し、産学官連携による製造技術の開発研究を行った。
 

(3)こなみずきでん粉の特性

 県加工研究指導センターでは、「でん粉粒子の特性」「でん粉糊の特性」「加熱糊化特性」「でん粉の老化特性」について、こなみずきでん粉と従来のかんしょでん粉、ばれいしょでん粉、タピオカでん粉、コーンスターチなど他のでん粉との比較を行い、こなみずきでん粉の特性の評価を行った。同センターではこなみずきでん粉の特性として、「ゲル保形性が良い」「耐老化性が高い」「レトルト耐性が高い」などを挙げている。

 同センターでは、これらの特性を生かし、「ゲル性菓子(わらび餅など)」「冷麺」「さつま揚げ」「その他の食品」への利用を検討した。それぞれの食品において、 1)ゲル性菓子では、コシがあり、歯切れが良い 2)麺類は弾力感があり、べたつかず喉越しが良い 3)水産練り製品は、モチモチ感と弾力感があり、硬くなりにくい 4)ベーカリー製品は、歯切れ・口どけが良く、ソフト感としっとり感に優れる−などの効果があった。同センターによると、「こなみずきでん粉は、食品への高い利用適性、安全性に優れており、今後、食品加工分野での幅広い利用が期待できる」という。
 

(4)こなみずきでん粉を使用した新商品開発

 鹿児島県経済農業協同組合連合会(以下「JA鹿児島県経済連」という)は、平成24年5月、「鹿児島県さつまいもでん粉プロジェクト『こなみずき』―消費者に支援される商品開発委員会―」を立ち上げ、こなみずきでん粉を使用した商品開発をスタートした。

 同委員会は、麺、水産練り製品、日配品、パン、菓子、スイーツ、ミックス粉など鹿児島県内の食品メーカー、量販店、消費者、生産者の代表者により構成されており、こなみずきでん粉を使用した試作品について、関係者間で意見交換を行い、商品化に向けて取り組んでいった。商品化に当たっては、「クロスブランド戦略」と称し、こなみずきでん粉の“モチモチ・プルプル”食感を生かした「菓子」「パン」「麺」「水産練り製品」「スイーツ」などの複数の商品を、各メーカーが意見交換を行いながら同時期に開発することにより、相乗効果を高めることを狙った。

 JA鹿児島県経済連は、平成25年4月、「でん粉原料用さつまいもの新品種「こなみずき」のでん粉を使用した商品発表会」を鹿児島市内で開催した。発表会では、各社が工夫を凝らし開発した「冷麺」「漁師揚げ」「鹿児島の黒豚餃子」「もっちりやわらかフランスパン」「薩摩きんつば」などの新商品を参加者に提供しながら、開発各社がプレゼンテーションを行った。参加者からは、こなみずきでん粉という同一の材料から開発された商品が多岐にわたることや、実際に試食した各商品が特徴的な食感を有していることに対し、感嘆の声が上がった。

 こなみずきでん粉を使用した商品には統一ロゴマーク(図3)が貼付され、鹿児島県内の量販店で同日から順次発売された。
 
 
 平成25年7月、JA鹿児島県経済連は、新たに県、生産者代表、食品メーカー、流通業者、消費者代表、管理栄養士などで構成する「鹿児島県さつまいもでん粉食品用途拡大推進協議会」を設立した。同協議会は、農林水産省の「日本の食を広げるプロジェクト事業」のうち「食のモデル地域育成事業」を活用し、こなみずきでん粉のみならず、広くかんしょでん粉の食品用途への利用拡大を図るため、 1)かんしょでん粉を使った商品開発・研究 2)一般家庭での消費拡大を目的とした食品コンテスト 3)かんしょでん粉のマーケット調査 4)かんしょでん粉利用研修会−などを活動内容とする。同協議会において、高齢者も安心して食べられる餅として、県産のもち米とこなみずきでん粉を使用した「こなみずき餅」が開発され、3月中旬から県外の大手量販店での販売も計画されている。
 

2.普及に向けた取り組み

(1)さつまいも新品種「こなみずき」でん粉利用推進研修会

 平成25年9月、さつまいも産業振興協同組合主催により、「さつまいも新品種「こなみずき」でん粉利用推進研修会」が鹿児島市内で開催された。同研修会では、鹿児島県下の食品メーカーの開発担当者などを対象に、こなみずきでん粉の特性などの講演と、こなみずきでん粉を使用した食品の試食会が行われた。

 県加工研究指導センターの時村研究専門員から「こなみずきでん粉の特性と食品への利用法について」、JA鹿児島県経済連の中畠次長から「こなみずきでん粉を利用した新商品開発への取り組みについて」、日本澱粉工業株式会社の片野次長から「こなみずきでん粉開発の取り組みについて」の各講演が行われ、関係機関が一体となってこなみずきでん粉のPRを行った。

 試食会では、こなみずきでん粉を使用した食品の試食のほか、「こなみずきでん粉」「従来のかんしょでん粉」「ばれいしょでん粉」を使用した、かるかんやさつま揚げなどの食べ比べが行われた。参加者からは、「こなみずきでん粉を使用しているものは弾力感があり、モチモチして美味しい」「使用するでん粉によって、こんなにも食感が違うのか」などの声があった。
 

(2)かんしょでん粉に関する出前講座

 当機構鹿児島事務所は、平成25年11月、鹿児島女子短期大学において「かんしょでん粉に関する出前講座」を開催した。同講座において、同短期大学の福司山名誉教授と県加工研究指導センターの時村研究専門員の指導の下、学生を対象にこなみずきでん粉を使用した調理実習を行った。実習では、「さつまいものニョッキ」「だご汁(鹿児島の郷土料理)」「にんじんのポタージュ」「ブランマンジェ(フランスの冷菓)」を調理した。調理後は全員で試食し、こなみずきでん粉の特徴的な食感に驚きの声が上がった。学生からは、「団子がモチモチプルプルとした食感で、ブランマンジェは舌触りが良くて魅力的」「同じでん粉なのに、さまざまな料理に入れることで食感や滑らかさが変わって面白い」「和風の料理にも洋風の料理にも合う」「自宅でも作って家族に食べさせたい」といった声があった。
 

おわりに

 これまで各種でん粉に比べて中間的な特性を持つかんしょでん粉は、コーンスターチと競合する糖化製品向けの割合が高く、食品用途向けの需要拡大が急務となっていた。

 鹿児島県下では、食品への高い利用適性をもつ「こなみずき」でん粉の製造技術や用途開発が進められ、優れた食感改良・品質保持効果を生む地域の魅力的な食材として注目を集めている。地産地消の取り組みや高付加価値商品の開発に寄与するとして、県内ほか全国の実需者に向け、関係機関が一丸となって精力的なPRがなされている。

 今後も、かんしょでん粉を食文化として培ってきた鹿児島県から、かんしょでん粉の需要拡大に向けた積極的な取り組みが行われることにより、でん粉原料用かんしょ生産者およびかんしょでん粉製造事業者の経営安定が図られ、生産振興につながることが望まれる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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