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加工デンプンの特性と食品への利用法

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最終更新日:2015年10月9日

加工デンプンの特性と食品への利用法

2015年10月

株式会社J-オイルミルズ 商品開発研究所第四研究室
小林 功

【要約】

 加工食品において最も一般的に使用される加工デンプンは、老化性を改善した耐老化性デンプンと粘度を安定化させた架橋デンプンである。耐老化性デンプンは、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル化デンプンなどが麺やチルド・冷凍食品に利用されている。一方、代表的な架橋デンプンであるリン酸架橋デンプンは、たれ、ソースの粘度安定化、畜肉・水産加工品の弾力性向上に寄与している。それ以外に、フライ用衣の食感改良として酸化デンプン、パンの食感改良として、アルファ化デンプンが利用されている。

はじめに

 加工デンプンは、広義としては未加工デンプンに物理的、化学的、酵素的、人為的な加工を施すことにより、デンプンの欠点である老化特性や粘度の不安定さを改善し、産業的に使いやすくしたデンプンを総称したものであるが、一般的には、化学薬品を用いてデンプンの水酸基を官能基で置換されたデンプン誘導体を指す。食品用途に限定すると、このようなデンプン誘導体としての加工デンプンは、日本では食品添加物として12種類が使用可能であり(図1)、それぞれに規格基準が設けられている。

 今回は、その中でも食品に広く利用されているデンプン誘導体としての加工デンプンについて、最近の利用法をご紹介したい。
 

1. 糊化と老化

 加工デンプンのお話をする前に、デンプンの特有現象である糊化と老化について触れたい。デンプンは水には溶解せず、白濁した懸濁液となるが、加熱すると粘りが出て、懸濁液が透明な状態に変化する。これを一般的に糊化という。

 糊化したデンプンは、ヒトの持つデンプン分解酵素の作用を受けて糖になることにより、おいしさも増すし消化性も向上する。このようにデンプンに火を加えて糊化した状態で摂取するのは、ヒトに特徴的な現象である1)。火を使えないサルは、手っ取り早く糖分を摂取するためには、既に分解された状態で糖質を多く含む果実を摂取する必要がある。そのために木の上で生活することを余儀なくされた。ヒトは進化の過程でサルから分かれる際に、樹上から地上での生活を余儀なくされた。果実を摂取する代わりに効率よく栄養価を取るためには、デンプンを使わない手はない。いつしか、ヒトは火を使うことを覚えることにより、デンプンを糊化させて、栄養価の高い状態でおいしく摂取することを会得したという。さらにデンプンを多量に蓄積する植物を見つけ、これらを作物として栽培することにより、確実に大量に効率的なエネルギー取得方法を得ることが可能になった。地球上でヒトがこれだけ繁栄できたのは、デンプンを糊化して摂取することを見いだしたことも重要なポイントなのでは、と筆者は考える。

 話がそれたが、それだけ、デンプンの糊化は重要なのである。デンプンの糊化は、ミクロな視点で見ると、デンプンを構成する高分子成分であるアミロースやアミロペクチンが水を吸うことにより、結晶状態から、ばらばらな状態に変化する一種の相転移現象と考えられる。

 一方、老化現象は、温度が低くなることにより、糊化したデンプンの鎖がよりエネルギー的に安定な状態に戻るためにお互い水素結合を作り、再び会合する現象と考えられている(図2)。日本語では、“老化”というが、英語では、“retrogradation” と呼ぶ。“retro-”とは“さかのぼって”、“gradation”は、“徐々なる変化”という意味で、デンプンが糊化した状態から、徐々に糊化する前の結晶構造に近い形に戻っていくという意味をとることができる。ただ、完全に糊化する前の結晶状態に戻ることができるわけもなく、一般に老化したデンプン食品は、食感が硬く、ぼそぼそとしたものとなり、見かけも透明感が失われ、離水が起きることもある。老化に影響を与える因子として大きく4つが挙げられる。

1) 温度
 水が凍結しない程度の低温が最も老化しやすいと考えられるため、食品を冷凍する場合は、この温度域を素早く通過させてあげることが必要である。

2) 水分
 50〜60%の時が最も老化しやすいと言われている。水分を極力減らした食品である即席麺やせんべいなどは老化が起きない。

3) アミロース含量
 デンプンの成分としては、アミロペクチンよりアミロースのほうが老化しやすい。デンプンの種類としては、コーンスターチや小麦などの穀物系のデンプンのほうが、タピオカなどの芋系のデンプンに比べ、老化しやすい性質がある。

4) 共存物質
 糖質や一部の乳化剤は老化を抑える効果がある。また製パンなどでは、β-アミラーゼなどのデンプン分解酵素とデンプンを併用することにより、老化を遅延させる工夫が取られる。
 しかし、老化を完全に抑制することは難しく、多くは次に述べる加工デンプンを使うこととなる。
 

2. チルドうどんがもちもちに
〜耐老化性デンプン〜

 今年の夏は、例年になく暑かったが、そんなときに、コンビニエンスストアで売られている冷やしうどんは、つるつるとした心地よいのど越しともっちりした食感で、食欲が落ちがちな夏でもおいしく食べることができる。また、キーンと冷やしたわらび餅や水まんじゅうは、夏の風物詩としてわれわれを楽しませてくれる。実は、これらの食品には加工デンプンが大きな役割を果たしている。

 うどんは小麦粉に水、塩を加え、こねた生地を麺状に裁断し、ゆでたものであるが、うどんのもちもち感は、小麦粉に含まれるデンプン質が重要である。しかし、ゆでたうどんを冷蔵庫で一晩保存してしまうと、ゆでたてのもちもちとした食感は失われ、ぼそぼそとした食感に変化する。とてもそのままではおいしく食べることはできない。これはうどんに含まれる小麦由来のデンプンが冷蔵保存によって“老化”したと言える。

 わらび餅は、本来はわらびの根茎から抽出したデンプンを加熱して作る和菓子であるが、わらびのデンプン(本わらび粉)は高価であるため、一般に販売されているわらび餅は、かんしょやタピオカのデンプンを原料に作られている。これらも、加工デンプンを使用していないと、冷蔵庫で冷やしている間にデンプンが老化して表面が硬くなって味が落ちてしまう。このように、保存に伴う経時的な食感劣化の大部分はデンプンの老化が関与しており、デンプンの老化の抑制は加工食品にとって大きな課題である。

 耐老化性デンプンは、デンプンの水酸基の一部を置換することにより、老化に伴うデンプン高分子の会合を抑え、デンプンの老化速度を遅らせる。代表的な耐老化性デンプンとして、アセチル基(酢酸基)を付与した酢酸デンプンと、ヒドロキシプロピル基を付与したヒドロキシプロピル化デンプン(エーテル化デンプン)がある。酢酸デンプンやヒドロキシプロピル化デンプンはその置換基が多くなるほど、糊化開始温度が早くなり、発生粘度も高くなる。また、糊液の透明性が増して老化しにくくなる。用途としては、前述のチルドうどんや、わらび餅などの冷蔵食品に加え、冷凍食品のたれ、ソースやチルド保存で流通される麺、菓子、団子、総菜など幅広く利用されている。前述のようなチルドうどんには、タピオカデンプンを原料とした酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル化デンプンが、麺に必要なもちもちとした食感、のど越しの良いツルミ(滑らかさ)、高い白度など、うどんに必要とされる要件を満たしているため、多く利用されている(図3)。うどん以外にも、そばやラーメン、パスタなど多くのチルド麺に、このような耐老化性デンプンが利用されている。
 

3. 粘度の安定および畜肉弾力性補強
〜架橋デンプン〜

 カスタードクリームやフルーツジャム、中華料理のとろみ餡やみたらし団子のたれなどの増粘剤としてデンプンは多く使われている。このようなたれやソースを工場で大量に製造する場合、大量のソースを均一に加熱するために、高温の蒸気を熱源とした特殊な調理機器や、高粘性のたれを均一に混合するために高い撹拌能力を備えたミキサーなどが使われる。また、食品の保存性を高めるために、高温での殺菌工程を施したり、pHをできる限り下げたりすることも多い。デンプンはこのような物理的な撹拌や高温での加熱、低いpHに弱く、糊の粘性が急激に低下してしまう。これは、糊を構成しているデンプンの高分子鎖が撹拌や熱、pHで分解してしまうからである。このような過酷な環境で安定した粘度を得るために、架橋デンプンが広く使われている。

 架橋デンプンは、文字通り、デンプンの鎖を架橋することによりデンプンの構造を強化した加工デンプンである。代表的な架橋デンプンとしては、リン酸で架橋をしたリン酸架橋デンプン、ジカルボン酸である無水アジピン酸を用いたアジピン酸架橋デンプンなどが国内で使用されている。食品添加物規格により、リン酸架橋デンプンではリン含量として0.5%以下、アジピン酸架橋デンプンはアジピン酸基が0.135%以下と、架橋程度に上限が定められている。しかし、リン酸架橋デンプンは、非常に少量のリン含量でデンプンの特性を変化させることができるので、通常使用されるリン酸架橋デンプンのリン含量は0.1%以下のものが多い。前述のようなたれ、ソース、クリーム用の加工デンプンは、一般に冷蔵・冷凍保存を伴うため、前述した耐老化性加工デンプンと併用する場合が多い。このような複合型デンプンは、高い粘度安定性に加え、耐老化性も兼ね備えており、冷凍食品やチルド食品向けの増粘剤として、幅広く利用されている。図4はみたらし団子への架橋デンプンの利用例である。

 畜肉製品、水産練製品の弾力性向上目的にも架橋デンプンは多く利用されている。架橋程度を強くするにつれて、デンプンは硬いゲル構造を取ることが知られている。この特性を利用して、かまぼこや魚肉ソーセージなどの水産練製品やソーセージ、ハンバーグなど畜肉製品の食感補強に架橋デンプンが利用されることがある。かまぼこのプリッとした食感は、グチやエソのような魚肉に塩を添加して擂潰(らいかい)する(すり潰す)ことにより、塩溶性タンパク質を溶出させ、蒸し上げることによりタンパク質のネットワークを形成させることにより生まれる。一方、デンプンは、このタンパク質のネットワークを補強する形で、タンパク質からの離水をしっかり吸水し、硬さを補強する働きがある。古来よりかまぼこの食感補強として、ばれいしょデンプンや小麦デンプンが使用されてきた。ただ、ばれいしょデンプンや小麦デンプンの高騰に伴い、現在では、代替としてタピオカの架橋デンプンを使うケースが見られる。架橋デンプンにはこの他にも、フライ食品の衣と種物の結着性向上効果や、麺のゆで伸び抑制効果など多くの用途に使用されている2)
 

4. サクサク感向上
〜酸化デンプン〜

 フライもののおいしさは、サクっとした衣の食感とジューシーな中具のおいしさを同時に楽しめる点である。時間がたってしんなりした衣や油を吸ってギトギトな衣のフライは食べたくない。衣を構成しているのは主に小麦粉由来のデンプン質であり、サクサクとした衣になるかならないかは、揚げた時に、いかに中具からの水抜けを良くして、さらに保存中に具から出る水分を吸収しにくいかがポイントとなってくる。よく天ぷらをカラッと揚げるためには、氷水で小麦粉を溶き、あまりかき混ぜるな、と言われるが、これは、小麦粉に含まれるグルテンのネットワークをできる限り作らないようにするためである。パンや麺のようにグルテンのネットワークをしっかり作ってしまうと、フライした時に衣の水抜けが悪くなってしまい、天ぷら特有のサクサク感が失われてしまう。衣をサクっとさせるには、“水抜け”がキーワードであり、水抜けが良いデンプンを使うことが重要なのである。このような衣の食感改良には酸化デンプンが適している。酸化デンプンは、デンプンと次亜塩素酸ナトリウムを反応させて、デンプンの水酸基の一部をカルボキシル基(カルボニル基)に酸化させるが、一方、デンプンの鎖の一部が切断されて低分子化する。このデンプンの一部を低分子化させることが、フライの衣のサクサク感を向上させるためには重要なポイントである。

 このように、一部が低分子化したデンプンは、フライした時に衣や中具に含まれる水分をいち早く放出するため、衣が多孔質となり、サクサク感が増すものと考えられる。よく天ぷらの衣が細かくふんわりと揚がっているさまを“花咲きの良い”と表現するが、まさに酸化デンプンを用いると、花咲きの良いフライものを簡単に作ることができる。酸化デンプン単独では水抜けが良い分、吸油も多くなるので、ハイアミロースコーンスターチや架橋デンプンのような糊化しにくいデンプンなどと併用すると、よりよい衣となる(図5)。その他、酸化デンプンは、粉体流動性に優れ、白度も高く、低粘性であることから、麺の打ち粉にも利用される。
 

5. パンをふっくら
〜アルファ化デンプン〜

 最近のパンはさまざまな食感をうたい文句にしている。その中で、もっちり、ふっくらをうたっているパンの中に、湯種製法と呼ばれるものがある。これは、あらかじめ小麦粉をお湯で練った湯種と呼ばれるものをパン生地の一部に使用することにより、パンのもちもち感を強くした製法である。このように、パンやお菓子は、デンプンの一部を糊化させるともちもち感やふっくら感が増す特徴がある。たれやソースなどと違い、パンやお菓子では、小麦粉(デンプン)に対する水の量が圧倒的に少ないため、焼成した際にデンプンが糊化するのに必要な水が足りない。そのため、あらかじめ糊化させておいたデンプンを生地に混ぜることにより、十分な糊化を実現しようというのが湯種製法の特徴である。デンプンは十分な水と熱がないと糊化しない。しかし、あらかじめ糊化したデンプンから水を取り除いたアルファ化デンプンと呼ばれるデンプンは、水を加えるだけで粘性が出るため、ホットケーキなどのプレミックス、フライ用のバッター液用の増粘剤用途で広がっている(図6)。

 また、アセチル化架橋デンプンやヒドロキシプロピル化架橋デンプンなどの加工デンプンをアルファ化加工した加工デンプンを、パンやケーキに配合することにより、生地全体の糊化度を上げ、耐老化性も付与されることにより、長期間ふっくらとした食感を維持することができる3)
 

おわりに

 化学的な加工を施した加工デンプンの大部分は海外のデンプン原料を海外で加工し、輸入したものが使用されている。加工デンプンの製造技術はほぼ確立されており、コスト競争に勝つためには、より安価なデンプン原料を大量に加工する必要があるためである。化学的な加工デンプンは古くから食品に使用されており、その安全性は十分担保されている。その反面、全く新しい化学的修飾を施した加工デンプンはよほどの需要がない限り、今後生産される可能性は少ない。

 その一方で、かんしょなどでは化学加工に頼ることなく、品種改良により、デンプンの特性を改良した例も報告されている4)。また、デンプンが植物体の中でどのように作られるかといった生合成関連の研究も、イネを中心に非常に進んでいる5)。そのような英知が集結すれば、将来には植物の特性を改良することにより、デンプンの特性を自在に改良した新しいタイプの加工デンプンが登場する日も遠くないのではと期待している。

【参考文献】
1)リチャードランガム「火の賜物:ヒトは料理で進化した」(NTT出版)
2)小林 功「リン酸架橋デンプンの特性と応用」『月刊フードケミカル』2010年2月号
3)長畑雄也「アルファー澱粉の付着性低減技術とベーカリー製品への応用」『食品工業』2013,Vol.50,No.6
4)北原兼文「サツマイモでん粉の特性育種の展開」『砂糖類・でん粉情報』2015年3月号
5)中村保典「デンプンメタボリックエンジニアリング」『化学と生物』2006,Vol.44,No.3
このページに掲載されている情報の発信元
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