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USDAによる米国、メキシコ砂糖需給の見通し

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最終更新日:2011年5月9日

USDAによる米国、メキシコ砂糖需給の見通し

2011年5月

調査情報部

 米国は、年間砂糖生産量が700万トン、消費量が1000万トンに達する世界有数の砂糖生産・消費国であり、関税割当(TRQ:Tariff Rate Quota)による輸入制限と、国内製糖業者への販売割当(Marketing allotments)を通じた供給管理によって国内需給の均衡を図り、国内価格を適正水準に保っている(なお、米国砂糖制度の詳細については、砂糖類情報2010年11月号「米国の砂糖をめぐる状況について〜第27回国際甘味料シンポジウムから〜」を参照されたい)。

 2008年1月、米国は北米自由貿易協定(NAFTA)の下、メキシコとの間で甘味料貿易の完全自由化を実施した。これを受け、メキシコからの砂糖輸入量が急増するなど需給状況に変化が生じている。世界有数の砂糖生産、消費国である米国の動向は、国際砂糖需給への影響が大きく、また、同国の砂糖需給にとって重要なメキシコの動向も注目される。本レポートでは、米国農務省(USDA)が毎月公表する“Sugar and Sweeteners Outlook”をもとに、米国、メキシコの2010/11年度の砂糖需給および2020/21年度までの長期見通しについて報告する。

注1:本レポートの数量は粗糖換算、年度は砂糖年度(10月〜翌9月)である。
注2:本レポートは、面積および重量について、単位を原文に標記されたエーカーおよびショートトンからヘクタール(1エーカー=0.40469ヘクタール)およびトン(1ショートトン=0.907185トン)へそれぞれ換算した数値を記載している。

◆最近の米国、メキシコ砂糖需給動向◆

NAFTAの下、甘味料貿易完全自由化

 米国では、1994年以降、NAFTAの下でメキシコからの砂糖輸入関税率が段階的に引き下げられ、2008年1月に完全自由化された。これに加え、国産砂糖価格が国内需給のひっ迫により上昇し、メキシコ産を上回ったため、2008/09年度の同国からの砂糖輸入量は前年度比約2倍の127万2000トンに急増した。国内生産量および消費量がいずれも500万トン程度のメキシコは、国内供給用の砂糖を第三国からの輸入により手当てすることで100万トンを上回る輸出を可能にした。

 しかしながら、2009/10年度においては、前年度の減産と輸出増加による在庫の減少および国際砂糖価格の高騰による輸入の伸び悩みでメキシコの輸出余力が低下し、同国の米国向け輸出量は70万トン(前年度比42.5%減)に減少した。この結果、米国は深刻な砂糖不足に見舞われ、輸入関税割当枠を追加する事態となった。このように、米国とメキシコの砂糖需給は相互に影響し合う関係にある。
 
 
 また、異性化糖の需給動向も両国の砂糖需給に影響を与えている。これは、米国からメキシコへ異性化糖が輸出され、メキシコの砂糖需要の一部が置き換えられることにより、同国の砂糖輸出余力が拡大するためである。メキシコでは近年、飲料メーカーを中心に甘味料需要が砂糖から異性化糖へシフトしており、2010/11年度の異性化糖消費量は180万トン(前年度比23.4%増、乾燥重量ベース)に達すると見込まれる。同国は、もともと異性化糖の生産能力が消費量に比べて小さく、最近の需要拡大による供給不足の大半を米国からの輸入で賄う状況となっている。
 
 

◆2010/11年度の見通し◆

メキシコの米国向け輸出量は前年度から大幅増加

 米国における砂糖生産の約6割は、ミネソタ州など中西部やアイダホ州など西部で生産されるてん菜を原料とし、残りはフロリダ州、ルイジアナ州など南部のさとうきびに由来する。2010/11年度におけるてん菜の収穫はほぼ終了した。てん菜糖生産量は、天候に恵まれ、てん菜の生産量が増加したことから430万トン(前年度比4.9%増)に増加すると見込まれる。

 一方、甘しゃ糖生産量は、フロリダ州で昨年12月に記録的な寒波が発生した影響で前年度からかなり減少し、290万トン(同7.3%減)とみられている。これらのことから、米国全体の砂糖生産量は前年度並みの720万トンと見込まれている。米国では近年、飲料メーカーを中心とした砂糖需要の拡大により消費量が増加傾向にあるが、2010/11年度については、砂糖価格高騰などの影響により前年度並みの1010万トンとみられている。

 USDAは、4月11日、2010/11年度の輸入関税割当を29万4835トン(32万5000ショートトン)引き上げ、141万2030トン(155万6497ショートトン)に拡大すると発表した。これは、国内甘しゃ糖の減産により、在庫率(期末在庫/消費量×100)が政府が適正とする水準(13.5%)を下回るとの予測を受けたものである。なお、表1の輸入量は、関税割当拡大発表前のUSDA世界農業観測ボード(WAOB)による世界農産物需給推計(WASDE)に基づいており、輸入関税割当引き上げ分を考慮していない数字(280万トン)となっている点に注意されたい。メキシコからの輸入量は90万トン(同27.0%増)とされるが、関税割当を拡大したことからもうかがえるように、米国の砂糖需給はひっ迫した状況にあることから、今後上方修正される可能性もある。

 2010/11年度におけるメキシコの砂糖生産量は、砂糖価格高騰による作付け増加と好天でさとうきび生産量が増加したことから、560万トン(前年度比8.5%増)に増加すると予測され、2007/08年度ぶりの豊作になるとみられる。砂糖消費量は、前述の通り、飲料メーカーを中心に異性化糖需要が増加している影響を受け、460万トン(同5.3%減)に減少すると予測される。一方、異性化糖消費量は、前年度から大幅増加の180万トン(同23.4%増、乾燥重量ベース)と見込まれている。砂糖生産の増加と消費量の減少により、輸出量は前年度から大幅増加の120万トン(同67.2%増)と予測され、その大半は米国向けとみられている。
 
 
 
 

◆2020/21年度までの長期見通し◆

 USDAは、メキシコの砂糖需給動向が今後も米国の砂糖需給に大きな影響を与えるとみている。以下では、2011年2月の“Sugar and Sweeteners Outlook”で公表された米国の2020/21年度までの砂糖需給について2つのシナリオを紹介する。

注:(1)はUSDA公式の農産物長期予測、(2)はUSDA経済調査局(ERS)の砂糖・甘味料チーム独自の予測である。

(1)2020/21年度までに、メキシコ飲料業界の甘味料需要に占める異性化糖割合が75%に高まる場合

 メキシコでは、今後も飲料メーカーを中心に異性化糖需要が増加すると見込まれている。表3は、2020/21年度までにメキシコの飲料業界の甘味料需要に占める異性化糖の割合が75%に高まった場合の同国の砂糖需給予測を示している。砂糖生産量については、2017/18年度に620万トンに達した後、緩やかに減少し、2020/21年度には590万トン(2011/12年度比4.1%増)になると予測されている。

 砂糖消費量は、異性化糖需要が増加するものの、人口増加や所得向上により年々増加し、530万トン(同15.7%増)と生産を上回るペースで増加すると見込まれている。USDAは、メキシコが2008/09年度のように、国内供給用の砂糖を第三国からの輸入により手当てすることで、輸出量を確保するとみている。このため、同国の輸出量は2020/21年度までに大幅に増加し、190万トン(同44.2%増)に達すると予測されている。
 
 
 表4は、上記の見通しに基づく米国の砂糖需給予測を示している。2020/21年度までに砂糖消費量は1100万トン(2011/12年度比9.5%増)に増加すると予測される一方、生産量は770万トン(同1.6%増)とわずかな増加にとどまるとみられている。これは、メキシコからの輸入が年々増加し、2020/21年度までに全体の輸入量が350万トン(同21.1%増)に達すると予測されるためである。
 
 

(2)2014/15年度までにメキシコ飲料業界の甘味料需要に占める異性化糖割合が95%に高まり、かつ、2015/16年度までにさとうきび作付面積が77万5000ヘクタールに増加する場合

 表5は、メキシコの飲料業界の甘味料需要に占める異性化糖の割合が2014/15年度までに95%に高まり、さらに、同国の砂糖産業に対する投資が増加し、2015/16年度のさとうきび作付面積が(1)の予測を7万4000ヘクタール上回る77万5000ヘクタールに増加した場合の砂糖需給予測を示している。砂糖生産量については、2017/18年度に700万トンに達した後、減産に転じ、2020/21年度には670万トン(2011/12年度比17.7%増)になると見込まれている。

 砂糖消費量は、甘味料需要の異性化糖へのシフトにより、2014/15年度まで減少傾向で推移するとみられているが、2015/16年度以降は、人口増加や所得向上で増加に転じ、2020/21年度までに490万トン(同8.9%増)に増加すると見込まれている。輸出量は、増産と国内消費の減少による輸出余力の拡大で2017/18年度に230万トンに達するとみられるが、その後は、減産と国内消費の増加で減少し、2020/21年度には180万トン(同31.6%増)になると予測されている。
 
 
 表6は、上記のメキシコの砂糖需給に基づく米国の砂糖需給予測を示している。2020/21年度までに砂糖生産量は760万トン(2011/12年度比0.6%増)、消費量は1110万トン(同10.3%増)に増加すると見込まれている。輸入量は、前述の通り、メキシコの砂糖輸出量がピークを迎える2017/18年度に390万トンに達すると予測されるが、その後、同国の輸出余力の減少により、2020/21年度には340万トン(同15.4%増)になるとみられている。

資料:USDA “Sugar and Sweeteners Outlook” 2011年2、4月
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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