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パキスタンにおける最近の砂糖需給動向

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最終更新日:2011年8月9日

パキスタンにおける最近の砂糖需給動向
〜2010/11年度は洪水被害から回復し生産量は大幅増加の見込み〜

2011年8月

調査情報部

はじめに

 パキスタンは世界の主要な砂糖消費国であり、人口増加と経済発展を背景に消費量が増加を続ける一方、生産量の変動が年によって大きく、その不足を補うため白糖を中心に輸入を行っている。2010年(暦年)は雨季に発生した洪水の影響により砂糖の供給に支障を来したため、前年に比べ3倍以上輸入を行った。最大の輸入先はブラジルであり、次いでアラブ首長国連邦である。このほか南米、アフリカ、EUを中心に世界中から幅広く調達している。

 パキスタンをはじめとする中東、アジアのイスラム諸国は、砂糖消費量が増加するラマダン(イスラム教の断食月)前に在庫を確保するために輸入を増やす傾向があり、6月中旬以降の砂糖相場上昇の一因とされ、その動向が注目される。

 本レポートでは、USDA(米国農務省)のレポートなどをもとに、パキスタンにおける最近の砂糖需給動向について報告する。
 
 
 
 

パキスタンの砂糖需給動向

 さとうきびはパキスタン農業において重要な換金作物であり、約100万ヘクタール作付けされ、国内84カ所の製糖工場へ供給されている。また、製糖業は繊維産業に次いで国内2番目の産出額を誇る基幹産業である。さとうきび生産量は世界で5位、砂糖生産量は15位に位置している。さとうきびは砂糖生産に加えて、医療用アルコール、燃料用エタノール、パーティクルボード(木材や植物繊維質の小片を板状に成形したもの)などの製造と多用途に利用される。

 過去10年間の砂糖生産量は、増減を繰り返している。2007/08パキスタン砂糖年度(10月〜翌9月)には過去最高の520万トンに達したが、翌年度には390万トン(前年度比25.3%減)に落ち込んでいる。このため、輸入量も年によって1万〜170万トンと相当程度の幅がみられる。

 このように生産量が大きく変動する要因としては、綿花やひまわりなどの競合作物の最低価格引き上げによる作付転換、天候不順による水資源の不足などが挙げられる。また、さとうきびの価格は生産者団体と製糖工場間の協議により取り決められるが、しばしば州政府が決定した最低価格を下回ったり、代金支払いの遅延が生じたりすることも作付面積減少の一因とされる。

 一方、消費量は、人口増加と経済発展を背景に増加基調で推移し、2003/04年度以降は400万トンを上回っている。砂糖の需要は製パン、製菓、飲料などの食品加工部門が6割を占める。特にイスラム教徒が断食を行うラマダンは日没後に盛大な宴が行われ、砂糖を含む食料品の需要が他の月に比べて増すため、パキスタンは他のイスラム諸国と同様、ラマダン前に砂糖を輸入する傾向がある。ちなみに、輸入は政府が管理しており、国家貿易機関のTCP(Trading Corporation of Pakistan)に対して買い付けを指示し備蓄を行う。

2010/11年度の生産量は大幅増加の見込み

 パキスタンでは、2010年にモンスーン期の集中豪雨によりインダス川およびその支流がはんらんし、国土の3分の2が歴史的な洪水に見舞われた。さとうきびほ場も17万ヘクタールが例外なく冠水したため、2010/11年度のさとうきび生産量は当初、その回復の遅れから前年度を下回ると予想された。しかし、洪水により水分が十分に供給されるとともに、その後の天候にも恵まれたことから、主産地であるパンジャブ州とシンド州を中心に単収が増大した。その結果、現時点では2010/11年度の砂糖生産量は前年度から大幅に増加し、440万トン(前年度比30.8%増)と見込まれている。ちなみに、製糖工場の総生産能力は年間600万トンとされているため、稼働率は73%である。一方、消費量は450万トン(同2.4%減)と見込まれることから、タイトであった同国の需給は好調な生産により若干緩和された。

 国内砂糖小売価格は2008年5月以降、上昇基調にある。特に、2009年11月以降は上昇が加速し、その間に輸入が適切に行われなかったことから供給がひっ迫し2010年11月の平均価格は、記録的な水準となる1キログラム当たり87.98パキスタン・ルピー(81.82円:1パキスタン・ルピー=0.93円)まで高騰した。2010年通年でも同70.80パキスタン・ルピー(65.84円)と前年に比べ51.7%上昇し、過去最高となった。このため、消費者の買い控えなどが起こり消費の減退につながった。

 2009/10年度の輸入量は80万トンであったが、2010/11年度は前述の増産により70万トンに減少するとみられる。
 
 

2011/12年度は砂糖自給達成し純輸出国へ

 2010年の砂糖価格高騰を受け、2011/12年度のさとうきび作付面積はさらに増加し砂糖生産量は510万トン(前年度比14.6%増)と大幅な増加が見込まれる。一方、消費量は470万トン(同4.4%増)と予測され、生産量が消費量を上回ると見込まれる。また、前年度からの増産と輸入により期首在庫も180万トン(同55.2%増)とラマダン前に十分に確保できることから、同年度は自給が達成でき、純輸出国へ転じるものとみられる。  生産量の増加に伴い国内価格も安定し、2011年は1キログラム当たり68パキスタン・ルピー(63.24円)前後を推移すると予想される。

 このように、パキスタンの砂糖生産量は不安定であり、年によって輸入量が大きく変動するため、隣国インド同様、世界の砂糖市場のかく乱要因とされている。パキスタンが今後生産量を拡大させ、純輸出国へ転じることは、世界の需給バランスに与える影響も大きいと考えられることから、引き続き同国の需給動向を注視していきたい。

資料: USDA GAIN Report “Pakistan Sugar Annual 2011” 2011/4/15 LMC “Quarterly Statistical Update” July 2011
注:本レポートの数量は粗糖換算である。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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