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粘度特性に優れた高カルシウムばれいしょでん粉の製造と利用

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最終更新日:2017年3月10日

粘度特性に優れた高カルシウムばれいしょでん粉の製造と利用

2017年3月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 
北海道農業研究センター 野田 高弘

はじめに

 ばれいしょでん粉は、グルコースに結合したリン酸基を多く含んでいて、リン酸基には種々の陽イオンが結合している。北海道で生産されるばれいしょでん粉は、1価の陽イオンであるカリウムが多く、2価の陽イオンであるカルシウムが少ないため加熱糊化後におけるでん粉ゲルの粘度低下が大きいといった問題点がある。

 本稿では、カルシウムに置換されて粘度特性が改善されたばれいしょでん粉の製造法とその利用法1)について概説する。

1.ばれいしょでん粉のリン酸基と陽イオン

 工業的に製造されたでん粉には炭水化物以外に微量成分が含まれ、そのうちの代表的なものが無機成分である。でん粉に含まれる無機成分の中でもリンは特に重要であり、ばれいしょ、かんしょ、キャッサバなどの根茎由来のでん粉には、でん粉中のごく一部のグルコースにエステル結合したリン酸基として存在する。ばれいしょでん粉のリン酸基は、グルコース300個当たり1個程度含まれ、他の根茎でん粉と比較して多いことで知られている。ばれいしょでん粉のリン含量には、品種間に明らかな差異が見られ、「ホッカイコガネ」「とうや」「コナフブキ」は、「紅丸」「メークイン」に比べリン含量が高いことが報告されている2)。また、粒径で分画した粒子径の異なるばれいしょでん粉には、リン含量に差異があることが判明しており、粒子径が大きいほどリン含量は低く、粒子径が小さいほどリン含量は高い。でん粉中の結合型リン酸基には、種々の陽イオン、すなわち、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどがイオン結合している。ばれいしょでん粉の中でも、とりわけリン含量が特に高いものは陽イオン結合能が高いと考えられる。

 でん粉中のリン酸基は、でん粉の物性に関与することで知られ、リン酸基を多く含むものは加熱糊化後におけるでん粉ゲルの最高粘度が高い傾向にある。リン酸基に結合した陽イオンの種類もでん粉の物性に影響を与えることで知られている。すなわち、カリウム、ナトリウムといった1価の陽イオンが結合したでん粉は、でん粉ゲルの最高粘度が極めて高いが、最高粘度に達した後の粘度低下が大きいといったように粘度安定性に欠ける。一方、2価の陽イオンであるカルシウム、マグネシウムが結合したでん粉は、最高粘度は若干低めであるが、最高粘度に達した後の粘度がほぼ安定している。

 ばれいしょでん粉に含まれる陽イオンは、でん粉製造時に使用される用水に含まれる陽イオンで決定されると考えられる。北海道のばれいしょでん粉工場で使用される用水は、2価の陽イオン含量の低い軟水である。そのため北海道で生産されるばれいしょでん粉はカリウムが多く、カルシウム、マグネシウムが少ないため、粘度安定性に優れないことで知られている。そこで、カルシウムに置換することにより粘度安定性が改善されたばれいしょでん粉の製造方法について検討を行うとともに、本法で得られたでん粉を用いた食品用途に関する知見も得た。

2.高カルシウムばれいしょでん粉の製造

 ばれいしょでん粉にカルシウムイオンを多く含む水溶液を加えることによって、カリウムがイオン交換反応によりカルシウムに置換されたばれいしょでん粉を製造する方法を検討した。まずは高カルシウム型のミネラルウオーターに懸濁する方法で実施した。実験に用いたミネラルウオーターには、100ミリリットル当たりナトリウム0.94ミリグラム、カルシウム46.8ミリグラム、マグネシウム7.45ミリグラム、カリウム0.28ミリグラムが含まれている。高カルシウム型のミネラルウオーターで処理したばれいしょでん粉は、元のばれいしょでん粉と比べ、カルシウム含量は813ppmと8.2倍に飛躍的に増加したが、元のばれいしょでん粉に多く含まれていたカリウムは、処理後のばれいしょでん粉には認められなかった(図1)。

図1 高Caばれいしょでん粉の粘度特性

 次いで、食品添加物として用いられている塩化カルシウムを含む溶液を用いて実施した。ばれいしょでん粉を0.5%塩化カルシウム溶液に懸濁して得られたでん粉のカルシウム含量は元のでん粉の6.8倍になり、カリウムは認められなかった(図1)。

 得られた2種類の高カルシウムばれいしょでん粉(以下「高Caばれいしょでん粉」という)の粘度特性をラピッド・ビスコ・アナライザーにより測定した。加熱糊化後の粘度低下を意味するブレークダウン値は元のでん粉と比べて大幅に低下しており、カルシウムに置換されることによって粘度安定性が改善された(図1)。カルシウムがばれいしょでん粉の2個のリン酸基と架橋結合することにより、処理前のカリウムが主に結合したばれいしょでん粉と比べて、粘度安定性が改善されると考えられる(図2)。

図2 ばれいしょでん粉リン酸基とカルシウムとの架橋

3.高カルシウムばれいしょでん粉の食品への用途

 ばれいしょでん粉の食品への用途としては、水産練製品、麺類、調理用素材、菓子用(エビせんべい、卵ボーロなど)などといったものが挙げられる。前章で得られた2種類の高Caばれいしょでん粉は粘度特性が改善されているので、そのような特徴を生かした食品への用途拡大が期待できる。そこで、高Caばれいしょでん粉を用いた種々の食品への評価試験を実施し、結果を表に示した()。

 高Caばれいしょでん粉から製造したパウンドケーキおよびパンは、処理前のばれいしょでん粉のものと比べ、ボリューム感があり外観が良好であった。また、高Caばれいしょでん粉から製造した冷麺は、処理前のばれいしょでん粉のものと比べ、ぷりっとして歯ごたえがあり食感において優れていた。さらに、高Caばれいしょでん粉から製造した卵ボーロは、処理前のばれいしょでん粉のものと比べ、口溶け感がよく、食感において優れていた。このように高Caばれいしょでん粉を用いれば良品質の食品が製造可能であることが明確となった。今後、高Caばれいしょでん粉の販売戦略を構築できれば、北海道産ばれいしょでん粉の需要拡大を図ることが期待できる。

表 高Caばれいしょでん粉の食品評価

文献
1)野田高弘ら、特開、2014-76943.
2)野田高弘ら(2014)、『北農』、81, pp231-235.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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