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ブラジルのサトウキビ・砂糖の生産見通し

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最終更新日:2018年10月10日

ブラジルのサトウキビ・砂糖の生産見通し

2018年10月

調査情報部 坂上 大樹、小林 誠

【要約】

 砂糖の国際価格の低迷を背景に、ブラジルの製糖業者はバイオエタノールへ仕向けられるサトウキビの量を引き上げる動きを加速させている。その結果、2018/19年度の砂糖生産量は減少する見込みであるため、砂糖生産について世界トップの座をインドに明け渡す可能性がある。
 しかしながら、新たなエネルギー政策を起爆剤としてサトウキビの生産量は拡大すると予想されることから、砂糖の潜在的な生産能力という面では依然としてブラジルが世界最大を維持するものと思われる。

はじめに

 粗糖を国際的に取引する際の指標価格である米国ニューヨークの先物相場は、この10年で最低に近い水準での推移が続き、2018年8月には終値ベースで1ポンド当たり10セントを割り込む目前まで下落した。これは、主要生産国を中心に原料となるサトウキビやてん菜が増産基調にあることや、世界の需要をけん引してきた中国が国内産業保護のため輸入制限を発動したことにより、供給過剰感が強まったことが主な要因である。こうした状況に主要な砂糖輸出国の製糖業者は、採算割れというリスクにさらされ、すでに一部で事業の再編・統合の動きが進む。世界最大の生産国であるブラジルも例外ではなく、製糖業者は業績悪化を回避するためバイオエタノールへ仕向けられるサトウキビの量を引き上げる動きを加速させている。一方、インドは、サトウキビの生産性向上に向けて積極的な姿勢を示し、生産も、輸出も拡大を目指す見通しを立てていることから、2018/19年度中にはブラジルを抜いて世界最大の砂糖生産国になる見込みである。

 このように、砂糖の世界的な需給は大きな変化の時期を迎えており、この影響により将来的に砂糖産業の構造にも変化をもたらすことが予想される。このため、本稿では、2018年7月に行った現地調査に基づき、ブラジルの砂糖産業は今後どのように優位性を確保し、また、それが国際需給にどのような影響を与えるのか考察する。なお、為替相場は、1レアル=29円(8月末日TTS相場:28.7円)を使用した。

1.ブラジルの砂糖産業の現状

(1)サトウキビの生産動向

 近年のサトウキビの生産量は、6億トン台で推移している(図1)。そのうち、4割強が砂糖に仕向けられ、残りがバイオエタノールに仕向けられる。ブラジル国家食料供給公社(CONAB)によると、2018/19年度は6億3551万トンと横ばいで推移すると見込まれるが、砂糖の国際価格の低迷を反映してバイオエタノールへ仕向ける動きが強まると予想される。この結果、砂糖の生産量は前年度に比べ9.6%減(約362万トン減)の3425万トンとなる見込みである。

図1  サトウキビの用途別生産量と砂糖生産量の推移

(2)生産分布

 表1のとおり、南米最大の都市サンパウロ市を抱えるサンパウロ州は、ブラジルの砂糖生産量の約6割を占める最大の生産地で、年によって多少の幅はあるが、日本の国内産糖生産量の約30倍に相当する、おおよそ2300万トンの生産量を誇る。原料となるサトウキビの生産は、同州の北半分の地域に集中しており(図2)、製糖業者が自社で栽培から収穫、運搬まで行う生産体系が確立している。製糖業者以外の法人や個人でのサトウキビの生産は、製糖業者からの委託により行われているが、その生産量は全体の2割程度にとどまる。

表1 州別の砂糖生産量(2017/18年度)

図2 サンパウロ州の区域別サトウキビ生産分布

(3)生産コスト

 サンパウロ州農業経済研究所(IEA)の調べによると、肥料、燃料などの農業資材価格、人件費に影響を与える最低賃金ともに上昇基調で推移している(図3)。農業資材価格の上昇は、原油高を背景とした価格高騰や、レアル安による輸入品の値上がりを通じたインフレなどが影響しているとみられる。一方、最低賃金は、実質GDP成長率とインフレ率を勘案して改定されるため制度的要因によって上昇したものである。なお、収入に関する統計が公表されていないため、収益性の判断はできない。しかし ながら、昨今の生産コストの上昇と砂糖の国際価格の低迷は、製糖業者および生産者の収益が圧迫される懸念がある。

図3 サンパウロ州における農業資材価格、最低賃金の変化

(4)ストライキの影響とその後

 2018年5月21日に始まったトラック運転手らによる大規模なストライキは、すべての高速道路と主要な幹線道路が約10日間にわたり閉鎖される事態へと発展し、物流網がマヒ状態に陥った。これに伴い、燃料不足などから多くの製糖工場が操業停止に追い込まれ、主要な貿易港では輸出業務が停滞するなどの被害を受けた。これに市場は敏感な反応を示し、世界的な砂糖の供給過剰感が拭えない中、ニューヨークの先物相場はストライキ発生からわずか10日で1セント以上値を上げる展開となった(図4)。

 ストライキ収束後は、物流面でしばらく混乱が見られたものの、サトウキビ・砂糖の生産活動、先物相場ともにストライキ発生以前の状況に戻った。

図4 ニューヨークの先物相場の動き(2018年5月)

2.生産に影響を与える政策および外的要因の考察

(1)成長要因

ア.エネルギー政策
 ブラジルは2017年12月、エネルギーに関する安全保障の確保と、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」で約束した温室効果ガスの削減目標を確実に達成するため、化石燃料に依存した社会から脱却し、バイオ燃料への本格的な転換を目指す新たなエネルギー政策「国家バイオ燃料法」を成立させた。ブラジルのバイオエタノール生産やバイオマス発電は、サトウキビ由来の原料を主として利用し、かつ、製糖業者を中心に発展したことから、この法律による砂糖産業への経済波及効果は大きいと考えられる。

 サンパウロ大学らの試算によると、ガソリンとバイオエタノールのいずれの燃料でも走行可能な自動車の普及に伴い、バイオエタノール販売量が増加する▽セルロースを主要構成成分とするバイオマス(バガスや(きょう)雑物(ざつぶつ)など)から効率的にバイオエタノールを精製する技術が確立する−などの効果から、2030年までにバイオエタノール生産量は540億リットルに達すると見込まれている(図5)。また、これにより原料となるサトウキビへの生産意欲が高まることから、同じ原料から生産される砂糖は4637万トン、バイオマス発電は76テラワット時に拡大すると見込む。この結果、業界全体への直接的な経済効果は1190億レアル(3兆4510億円)に及ぶと見積もられている。

 さらに、今後はトウモロコシを原料とするバイオエタノール生産も拡大すると予測されている。これまでブラジルでは、コスト面や技術的な課題などからトウモロコシ由来のバイオエタノール生産に対する関心度はそれほど高いものではなかったが、ここ数年、製糖業者は、いずれの原料でも対応できる柔軟な生産体制の確立に向けて技術開発を急いでいる。実現できれば、サトウキビの収穫期以外でも工場を操業させることができ、稼働率向上によってバイオエタノールのみならず、砂糖のさらなる価格競争力強化に大きく貢献すると考えているからである。ただし、糖類摂取低減をめぐる動きが世界的に広がりを見せ、砂糖需要は全体として従来のような大幅な伸びが期待できないと見込まれる中、今後増えると予想される砂糖生産量に見合った需要を獲得しなければ、その競争優位性を発揮することは難しいと言える。

図5 サトウキビの用途と将来の生産予測

コラム1 本格化する第2世代バイオエタノールの生産

 Raízen(ハイゼン)社は、2010年に石油元売会社シェルグループとブラジルの製糖大手Cosan(コサン)社が共同出資して設立した合弁企業で、売上高が2兆円を超える製糖業者である。同社は、年間約7300万トンのサトウキビを生産・収穫し、26の製糖工場で約430万トンの砂糖を生産する。
 


 同社は、サトウキビの搾り汁を原料とする従来のバイオエタノール生産と並行して、セルロースを主要構成成分とするバイオマスを利用した「第2世代」と呼ばれるバイオエタノール生産に力を注いでいる。その一環として、サトウキビの品種改良にも取り組み、繊維含有量が従来品種より10%多いバイオエタノール生産専用のサトウキビを開発した(コラム1-図)。この品種は、従来品種より直径が1センチメートル程度細いものの、1ヘクタール当たりの収量が従来品種と比べ最大3倍多く、サトウキビの生産に不向きな土壌でも栽培可能であるという。同社は、このサトウキビを3200ヘクタールの()(じょう)に作付け、バガスを大量かつ安定的に確保できる体制を整えたことなどから、2017/18年度には1200万リットルの第2世代バイオエタノールを生産した。



 

イ.品種改良
 ブラジル国家バイオ安全技術委員会は2017年6月、世界で初めて遺伝子組み換え(GM)サトウキビの商業的な栽培を承認した。このGMサトウキビは、カナヴィエイラ技術センター(Centro de Tecnologia Canavieira、以下「CTC」)(注1)が開発したもので、茎を加害するメイチュウ類の一種シュガーケーンボーラー(sugarcane borer、学名:Diatraea saccharalis)(注2)に対し殺虫作用を持つタンパク質を生成する遺伝子(Bt遺伝子)が組み込まれている。

 こうした動きの背景には、サトウキビの主要生産地のサンパウロ州などで梢頭部や葉を燃やした後に収穫する焼き畑による収穫が禁止されたことで、害虫による被害を受けやすくなっていることがある。サトウキビを加害する害虫は、ゾウムシ類、カミキリムシ類、カメムシ類なども挙げられるが、メイチュウ類による被害が最も多く、その被害額は年間40億〜50億レアル(1160億〜1450億円)に達するとされている。また、昨今の砂糖の国際価格の低迷を受け、世界の砂糖輸出量の4割を占めるブラジルでは、さらなる生産性の向上をもたらす技術を積極的に導入し、今後も世界市場で競争優位性を維持したいとの狙いもある。こうしたことから、栽培が承認されてからわずか1年余りで約400ヘクタールの圃場で作付けされた。ただし、これらは種苗増殖を行うために作付けされたものであり、GMサトウキビ由来の砂糖が市場に流通するには、少なくとも3年を要するとみられる。また、GMサトウキビをバイオエタノール原料として仕向ける可能性もあるので、その流通量は短期的にそれほど大きく増加しないと考えられる。

 CTCは、新たに除草剤耐性遺伝子やゾウムシ類に対するBt遺伝子を組み込んだGMサトウキビの開発を進めており、早ければ2019年中の承認申請を目指している。また、GMサトウキビ由来の砂糖を輸出するため、生物多様性への悪影響を防止するための国際的な枠組み「カルタヘナ議定書」に基づき、主要な輸出先国の政府にも承認を求めていく方針である。

 今のところブラジル国内で、GMサトウキビの生産をめぐって消費者団体などから規制を求める動きはほとんど見られず、むしろ今後の展開を静観する構えであることなどから、広範な普及によって生産性の底上げが期待される。

(注1)CTCは、サトウキビに関わる研究に特化した研究機関。2011年に民営化しブラジル国内の主要な製糖業者が株主となっている。
(注2)直訳すると「サトウキビの芯に穴を開ける虫」。ふ化した幼虫が生長点を加害して芯枯れを起こさせたり、茎の食入痕から二次的に赤腐病などの病害を発生させたりするため、収量と糖度低下の大きな原因となる。

写真1 害虫のゾウムシ類(サトウキビを食害するのは

ウ.農業部門の就業構造と労働法改正
 労組間社会経済調査・統計所(DIEESE)(注1)が2013年に農業に従事する約400万人の労働者を対象に行った調査によると、平均月給が最低賃金(注2)を下回る労働者は全体の約50%にも及び、期間労働者の約3人に1人が最低賃金の半分にも満たないほど著しく低い給与水準にある(表2)。要因として、▽サトウキビや野菜などの畑作物の生産に従事する労働者の多くが作業量や収穫量に応じて給与が支給される歩合制で働いており、収入が作物の生産期間や天候に左右されやすいこと▽何の雇用契約も、社会保障もない劣悪な条件の下で労働を強いられている者が一定数いることーなどが指摘されている。

 ブラジルが砂糖の低コスト生産を維持できる背景には、サトウキビの生産に適した土地が比較的平坦かつ広大に広がっていること▽収穫可能な期間が比較的長く、工場の稼働率の向上に寄与していること▽生産地の至近に消費地、貿易港が位置し、輸送面で有利であること―なども挙げられるが、こうした低賃金の労働力によって下支えされてきた面が多分にあると言える。

(注1)ブラジルの労働組合連合に属する調査・研究機関。
(注2)2013年の最低賃金の月額は678レアル(1万9662円)。

表2 平均月給の雇用形態別賃金階層(農業に従事する労働者)

 また、2017年11月に改正された労働法は、今後人件費の押し下げ要因として作用する可能性がある。これまでの労働法は、国際的に見て極めて労働者優位の内容であることが特徴で、同法で認められた権利であれば、たとえ労働者との間で合意があったとしても、その合意内容は原則無効とされてきた(注3)。あまりに労働者保護の色彩が強い法律であるが故、ストライキや労働訴訟が絶えず、企業に過度な労務負担を与えているばかりでなく、起業や外国企業の参入の障壁となっていた。

 今回の改正では、憲法が保証する権利(最低賃金、時間外手当、有給休暇、育児休暇など)を除き、労使間の合意が法律に優先されることとなり、契約解除(解雇)の要件も緩和された。加えて、主たる業務の外部委託の解禁に関する事項が盛り込まれた。一般に業務を委託された労働者は、企業に直接雇用された労働者と比べ給与が低く、労働時間が長いとされている。短期的には、物価上昇を反映して最低賃金が毎年引き上げられていることから、人件費は上昇傾向で推移するとみられるが、より長い目で見れば、より安い労働力を求める経営者によって農作業の外部化が進み、人件費が抑制される方向に作用していくと予想される。すなわち、こうした動きは、結果として生産性を高め、競争力強化につながる可能性がある。

(注3)労働者が労働法の保護を受けられるには、国が定める帳簿に登録されている必要がある。前述の最低賃金を下回る労働者は、この帳簿に登録されていない可能性が高い。

コラム2 付加価値のある砂糖

 南米はオーガニックシュガー(注)の生産が盛んで、世界の生産量の過半を占め、中でもブラジルは世界最大の生産地である(コラム2-図1)。同国の生産量はおおむね増加傾向で推移しており、2017/18年度はおよそ22万トンと推定される(コラム2-図2)。国際価格の低迷や健康志向の高まりなどの影響で輸出・国内需要ともに苦戦が続くコモディティとしての砂糖と対照的に好調な伸びを示していると言える。

(注)「オーガニック」または「有機」と表示できる砂糖は、各国の認証基準に多少の違いがあるものの、共通するのは、原料となるサトウキビが有機栽培であることはもちろんのこと、化学的に合成された添加物や薬剤を使用せず加工・精製したものを指す。
 


 

 背景には、世界的なオーガニック食品に対するニーズの高まりがある。独立行政法人日本貿易振興機構の調べによると、食の安全性や環境問題などへの意識・関心の高まりを受け、農産物だけでなく調味料や菓子類、飲料などの加工食品にもオーガニックを求める消費者が増え、世界のオーガニック市場は数兆円規模に達した。こうした状況を反映し、オーガニックシュガーは、海外の食品メーカーからの引き合いが強く、ブラジルでの生産量の約9割が輸出に仕向けられている(コラム2-図3)。




 

 ブラジルは、300を超える製糖工場がある中、オーガニックシュガーを生産する工場は手工業的なものを含めても数カ所に限られる。PLANETA VERDE(プラネタ・ヴェルデ)社はその数少ない製糖業者の一つで、サンパウロ州内陸部の多様な野生生物が生息する自然豊かな地帯に工場を構え、30年以上にわたり操業を続けている。

 同社のオーガニックシュガーは、含みつ糖に分類されるもので風味も、色合いも日本の黒糖に近い。年間の生産量は約1300トンで、そのうち200トン程度が日本へ輸出されている。原料となるサトウキビは、自己所有の200ヘクタールの圃場で栽培し、植え付けから収穫までの各工程をほぼ手作業で行う(コラム2-写真1)。このため、収穫期および操業期に当たる6月から11月の間は、160人程度を雇用し、24時間体制で作業を行うという。また、農薬を使わず、天敵となる昆虫(益虫)を用いて害虫を駆除する「生物的防除」の積極的な利用などを通じて労働負担の軽減を図るとともに、生態系の保全にも取り組む。



 

 コラム2-図4は、製造工程を大まかに示したものである。製造ラインは、異物混入を防ぐ対策として、圧搾から充てん・包装までの各工程を無人で連続的に行うシステムが構築されている。加えて、日本向け輸出に特別な対応を図っている。二次濃縮工程と結晶化工程の間に、加熱によって褐色に着色するメイラード反応を促進させるための設備(再加熱工程)が設置されており、これを通過したオーガニックシュガーは暗褐色を呈する(コラム2-写真2)。日本の黒糖により近い色合いを出すことが目的で、同社従来品と比べ風味や味に違いはない。





  


 同社のオーガニックシュガーの販売価格は、引き合いの強さを背景に、国際価格の影響を受けることなく適正水準を維持しているという。また、品質・安全管理の教育訓練、企業収益の適切な還元、従業員家族の教育支援などを通じて従業員のモチベーションと生産性の向上につなげている。
 

(2)リスク要因

ア.焼き畑の禁止
 サンパウロ州政府の農業環境規制は、焼き畑の禁止を義務付けた州法と、関係者間の合意を前提とした主体的かつ意欲的な目標を設定していく「農業環境議定書」の2本柱により進められている。州法の内容は、すでにいくつか報告されているので1)2)、ここでは農業環境議定書について述べる。

 2007年に導入された農業環境議定書は、州法で「2031年まで」と定めた焼き畑の猶予期限を短縮し、前倒しで全面禁止する法的拘束力のある枠組みで、ブラジル中南部地域サトウキビ生産団体(ORPLANA)、ブラジルサトウキビ産業協会(UNICA)(注)が合意したことにより、サンパウロ州のサトウキビ生産者と製糖業者の9割以上がその順守義務を負う。加えて、当事者の自主的な取り組みを促す観点から、生産者や製糖業者が自ら行動計画を策定し、生産活動によって環境や社会に与える負の影響を最小限にとどめるよう努力すべきであることも規定されている。合意内容のポイントは次のとおり。

(注)ORPLANAは、ブラジル中南部地域のサトウキビ生産者約1万1000人が加盟する生産者団体。UNICAは、ブラジル全体の砂糖生産量の9割を占める中南部地域を区域としている団体。

 
▼ ハーベスタで収穫可能な区画について2014年までに、それ以外の区画は2017年までに焼き畑による収穫を禁止する。
▼ 生産者および製糖業者は、上記の期限前に焼き畑を実施する場合、州政府の許可を得なければならない。
▼ 生産者および製糖業者は、水源の確保、生物多様性の確保、土壌浸食の防止、CO2の排出を削減するための具体的な行動計画を策定し、これを実施するよう努めなければならない。
▼ 州政府は、生産者および製糖業者の行動計画に基づく取り組みに関し、特に優れていると認められる者に対し、認定書を交付する。


 そして、焼き畑の全面禁止の期限となる2017年、農業環境議定書によって達成された主な成果は以下の通り。

 (1)2016/17年度の焼き畑による収穫を許可した面積は、サンパウロ州全体の収穫面積のわずか2.5%まで抑制(2017/18年度は2.0%以下。図6)。
 (2)焼き畑が禁止されたことにより、圃場から排出される大気汚染物質を5600万トン以上削減。
 (3)ハーベスタによる収穫率を90%に引き上げ、農業生産の省力化に貢献(図7)。

図6 サンパウロ州における収穫面積と焼き畑許可面積の推移

図7 サンパウロ州の区域別へーベスタ収穫率

 他方、焼き畑規制に端を発した急激な機械化の進展により弊害も生まれつつある。一つは、労働者を取り巻く状況の変化である。ブラジルのサトウキビ生産は、広大な土地を背景に経営の大規模化を積極的に進められてきた部門であり、伝統的に多くの労働者を必要とし、雇用の受け皿として地域経済の中で重要な役割を果たしてきた。しかしながら、焼き畑規制が導入されたことにより、これまで人が行っていた労働がハーベスタに代替され、この10年間で10万人以上の労働者が職を失ったと推定されている。機械化率が1%上昇するごとに約2400人の労働者が失業すると言われており、ハーベスタ導入率を悲観的に捉えれば、まだ上昇の余地が残されていることから、失業者数はさらに拡大するおそれがある。

 もう一つは、生産性の低下である。機械化が進展したにもかかわらず、サンパウロ州の1ヘクタール当たりの収量(単収)は10年前と比べ10トン程度も低下している(表3)。単収の低下は、ブラジル全体でも同様の傾向が見られるものの、サンパウロ州の減少幅が大きいことが分かる。ハーベスタによって圃場が踏圧され土壌が硬化したことで、土壌の保水性が失われ、気象変動の影響を受けやすくなったと指摘されている。また、ハーベスタ収穫は夾雑物の混入が避けられず、結果として製糖工場での歩留まりの低下を招いているとの声もある。

表3 1ヘクタール当たりの収量(t/ha)

写真2 野焼きされた圃場の収穫直後の様子

写真3 ハーベスタで収穫する様子(提供: Sosicana、?Neomarc)

イ.気候変動
 リスク要因として最も懸念されるのは、多発する異常気象が引き起こすサトウキビ生産への悪影響である。今年、サンパウロ州の一部地域では、2000年以来初となる1ミリメートルも雨が降らない日が連続で約4カ月間続いた。

 ブラジル国立気象研究所(INMET)が2018年6月に発表した冬の3カ月予報(7〜9月)で「ブラジル南東部地域は、乾燥状態が続くおそれがある」と注意を促していたものの、その想定をはるかに超えた深刻な干ばつと水不足に見舞われた。前年の春(北半球は秋)に発生した「ラニーニャ現象」との関係が指摘されているが、結局のところ、原因がはっきりと特定できたわけではない。INMETは、「気象予測の精度は以前よりも向上しているものの、今回のような局所的な異常気象は不確実性が大きく予測が非常に難しい」と話す。サトウキビの収穫期が終盤を迎える今年の11月ごろからは、エルニーニョ現象が発生する可能性が高いとされる。エルニーニョ現象が発生した場合、同国南部地域は大雨になる傾向があるため、収穫の大幅な遅れにより次年度の作付けに影響を与え、結果として収量の低下を招く。このため、引き続き異常気象に備えた十分な警戒が必要である。

おわりに

 今回調査した関係者の多くが、「国家バイオ燃料法」を起爆剤とした産業や市場の活性化に大きな期待を寄せている。このため、全般にバイオエタノールを中心としたバイオ燃料への関心が高く、次世代のバイオ燃料生産技術や新規用途の開発、市場開拓などに余念がない。しかし、これを機に砂糖生産はなおざりになるかというと、そういうわけでもない。製糖業者は、「サトウキビの砂糖生産への仕向け割合は、40%以上を維持する」と語る。莫大(ばくだい)なコストをかけて拡張してきた製糖設備を遊休資産化することを避けたいという事情もあるが、「世界最大の砂糖生産国」という自負心が強い。

 短期的に見ると、ブラジルは砂糖生産への仕向け割合を減らすことから、砂糖生産について世界トップの座をインドに明け渡すとみられる。しかしながら、原油価格は変動が大きくリスクが高いことから、引き続きバイオエタノールへの需要は堅調に推移するとみられ、これがブラジルでのサトウキビの生産意欲を刺激し続け、サトウキビの生産量そのものは現行水準を維持すると考えられる。

 以上のことから、潜在的な砂糖の生産能力という面では依然としてブラジルが世界最大であり、世界的な供給過剰状態が解消に向かえば、砂糖生産への揺り戻しが起きる可能性は十分ある。よって、ブラジルは、今後も世界の砂糖需給および国際価格に大きな影響力を持ち続けるとみられる。

参考資料
1)井上裕之、菊池美智子(2008)「ブラジルの砂糖およびエタノール生産状況について(2)〜砂糖事情とサンパウロ州での生産状況〜」『砂糖類情報2008年10月号』独立行政法人農畜産業振興機構
2)小泉達治(2012)「ブラジルにおけるサトウキビ農業生態学的ゾーニング制度:背景、内容、評価」『農林水産政策研究』第19号pp.27-51.農林水産政策研究所
3)Departamento Intersindical de Estatística e Estudos Socioeconômicos(2014)「O mercado de trabalho assalariado rural brasileiro」『estudos e pesquisas』
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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