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沖縄の製糖工場における季節労働力確保

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最終更新日:2022年2月10日

沖縄の製糖工場における季節労働力確保

2022年2月

国立大学法人 東京農工大学 農学研究院 准教授 新井 祥穂
国立大学法人 東京大学 大学院総合文化研究科 教授 永田 淳嗣

【要約】

 「働き方改革」実施に伴い、沖縄の製糖工場の季節労働力(季節工)確保が不安視されている。季節工賃金は、島外からの季節工に大きく依存する与那国製糖工場においても、逆にこれを補完的とし島内から調達する沖縄製糖でも、高い水準に保たれてきた。将来の賃金引き下げと季節工の不足に、前者は一部業務の専従者確保とその熟練形成、後者は通年雇用の増加と業務の外部化で備えている。「働き方改革」実施後の季節工賃金を試算するに、彼らの他の就業機会に比べ劣位とはいえないが、当面一定数は必要とみられる季節工確保のため、賃金以外の就業条件の充実、人材派遣企業の介在による労働力の質・量確保、従来と異なる労働力給源への働きかけが考えられる。

はじめに

 沖縄の製糖工場では、サトウキビという農業生産サイクルに対応して、収穫期間に労働力需要のピークが生じる。各製糖工場では、この期間に、島外を含め臨時の季節労働力を調達して対応してきた。では「季節工」と呼ばれるこの労働力は、どのような人々が担っているのであろうか。実はこの疑問に答えてくれる論考はほとんどない(注1)

 近年、季節工の確保が改めて注目されている。いわゆる「働き方改革」の実現を目指した労働基本法の改正は、製糖期間中の製糖工場も例外とせず、時間外労働に関する上限規制を適用する予定である。各工場では従来の二交替制勤務から三交替制への切り替えを検討しているが、それは個々の季節工の収入減少、各製糖工場が確保すべき労働力の増加を意味する(中嶋ら 2020)。製糖工場の季節工確保への懸念が表明されるのはそのためである。

 前述の報告(中嶋ら 2020)は、季節工の募集方法や福利厚生など、製糖工場における季節工の実態、「働き方改革」への工場側の対応方向を伝えてくれる、貴重な成果である。季節工自身についても、製糖期間以外の就業(自家農業、観光業、漁業、県外での就業、あるいは趣味的な活動)や、製糖工場と他の就業機会との間での労働力獲得競争が言及されている。しかし、今後の季節工確保の可能性を「働き方改革」との関連で議論するには、個々の工場における季節工の位置付け、また逆に、季節工の就業における製糖工場の位置付け、彼らの応募の可能性などを具体的に問わなければならないであろう。

 以上を踏まえて本研究の目的は、沖縄の製糖工場の季節工労働力について、配置と確保の実態、彼らの存在形態を、具体的な工場を事例に明らかにすることにある。事例として与那国島(小規模離島)、宮古島(大型離島)を選定したのは、生産能力の異なる工場を対象に収める意図からである。また筆者は2010年代に両島の地域労働市場を調査しており、季節工の就業条件を地域内で位置付けることが可能である(新井・永田 2017、新井ほか 2021)。

 調査は2020年11〜12月に、沖縄県農協与那国支店製糖工場(以下「与那国製糖工場」という)の管理担当者、季節工を派遣する人材派遣会社Y社(注2)、季節工7人への聞き取り調査を対面にて行った。この7人は性別や年齢、製糖工場における就業歴に関して、多様な構成となるよう選出を依頼した。宮古島の沖縄製糖株式会社(以下「沖縄製糖」という)でも同様の調査を予定していたが、新型コロナウィルス感染症(COVID–19)の感染再拡大を受けて、2021年2月に同社への電話による聞き取り、季節工への質問票の配布と回収(19人)で代替した。なお、本調査は独立行政法人農畜産業振興機構の令和2年度砂糖関係研究委託調査により実施したものである。

(注1)1960年代から日本復帰前後の、台湾・韓国からの労働力導入とその停止(呉 2011)など、一部の労働力に関する動きは断片的に知られているが、製糖工場季節工の全体像は分かっていない。
(注2)Y社の前身はIT企業であるが、他社が行っていた大東糖業株式会社(南大東島)への人材派遣事業を2012年に引き継ぎ、その後県内に派遣先製糖工場を増やしてきた。また県外の農業経営体や農産物流通主体への派遣を拡大し、製糖に従事した同社社員(正規、非正規)を、別の時期には全国各地の農村に派遣する仕組みを整えた。2020年に農業関連事業部門のみが独立し、現在の名称となった。

1.製糖工場における季節工:配置、労働力調達、就業条件、働き方改革への対応

 製糖工場の業務は大きく管理、農務、工務、その他に分けられ、季節工が配置されるのは農務と工務である。農務には原料の把握、搬入計画の立案・調整、製糖期間では工場に到着した原料の計量、品質取引のためのサンプル抽出、荷下ろし、再計量を終えるまでの工程と、品質取引用サンプルのトラッシュ除去、分析などの業務が含まれる。工務とは、原料を集中脱葉施設ないしは製造工程に投入してから製品を出荷するまでの業務で、ヤード、集中脱葉施設、圧搾、ボイラーなど動力関連、清浄・濃縮、結晶・分離、工程分析・品質管理などから構成される。分みつ糖工場では結晶・分離に分みつ操作が含まれ、含みつ糖工場の場合は最終製品となる黒糖を箱詰めする詰場と呼ばれる部署が加わる。製糖期間中の製糖工場は原則として24時間操業となり、工務は昼・夜の二交替制などシフト制をとっている。表1は与那国製糖工場の、表2は沖縄製糖(那覇本社および宮古工場)の、いずれも2020/21年製糖期の人員配置を示したものである。以下では製糖工場ごとに、製糖期間の人員配置、労働力調達(賃金などの就業条件を含む)、「働き方改革」への対応を見ていこう。
 

(1)与那国製糖工場

ア 人員配置
 与那国製糖工場では、季節工に大きく依存する人員配置をとる(表1)。全体の74ポストのうちJA職員(嘱託職員を含む)が担当するのはわずか11ポストに過ぎず、63ポストを季節工が占める。JA職員は管理3人、工務では圧搾2人、ボイラー、清浄、品質管理に各1人、農務では原料担当1人、計量2人と、要所に分散して配置されているが、ヤード、脱葉、エバポレータ、詰場(いずれも工務)のようにJA職員が配置されていない、あるいは二交替制の一方にしか配置されていない部署もあり、その場合は他の部署配置のJA職員が適宜巡視する。

 手作業中心でまとまった数の労働力を必要とする部署は、集中脱葉施設内での脱葉(トラッシュ除去)(12人)と詰場(15人)である。脱葉は農業とみなされ、就労が農業に限定されている特定技能1号の在留資格者女子7人(カンボジア出身)が担当する。季節工の男女別構成は、63人中男子40人、女子23人である。女子は工務の圧搾、清浄、品質管理にもいるが、脱葉(12人全員が女子)、詰場(15人中6人が女子)にはまとまって配置される。



イ 季節工の確保
 季節工の調達は、沖縄県農業協同組合(以下「JAおきなわ」という)与那国支店による直接募集と農業労働人材派遣業務を行うY社による派遣の、二つのルートを通じて行われ、どちらもホームページを通じて全国に呼びかけている。2020/21年期は季節工の39ポストがJA、24ポストがY社により充足されたが(表1)、操業開始後も4ポストで要員確保が間に合わなかった(2020年12月)。JA採用とY社派遣の配分に関しては、最初にJA側が季節工の必要要員の全体像を示し募集を開始、ある段階でY社に派遣を依頼する。工場では就業ルートに関係なく本人の希望を加味して配置される。7人の外国人女子季節工は全員がY社派遣である。

 製糖工場での就業条件は就業ルートが異なっても同一である。勤務時間は工務が原則二交替制で、昼勤が8:00〜20:00、夜勤が20:00〜8:00、交替は1週間ごとに行われ、交替日にはそれぞれが6時間延長する。日勤のみの場合8:00〜17:00が基本である。製糖期間中は年末年始を除き基本的に休日はなく、工場の操業が停まった日が「休日」として意識されている。宿舎・食事は製糖工場が用意した宿舎・賄いを利用できるが、1泊1500円の宿泊費・食事代(3食)が賃金から引かれる。宿舎は男女別の相部屋で、シャワー・トイレ共同の集団生活となる。島内居住者は自宅から通勤するが、島外出身者でも、個別に借家し集団生活を避ける者が少なくない。

 賃金・手当に関しては、基本給が時給900円からで、残業手当、深夜手当が基本給の25%、休日手当が基本給の35%支給される。与那国製糖工場での過去の就労経験を勘案して若干の上乗せがなされている。同工場での就業経験がある者(リピーター)には、3年間を限度に、毎年時給にプラス15〜20円が増額される。Y社派遣の場合は、同社の派遣で県内の他製糖工場に就業した場合も同様に上乗せされる。この基本給は与那国支店独自の設定で、JAおきなわ全体の非正規職員の最低賃金(時給900円を若干下回る)が参照された。なお賃金・手当の水準に関して、JAおきなわが経営する他の製糖工場との調整や、島内の他の就業機会や(季節工が意識する可能性のある)他地域・他産業の賃金水準を参照するといったことはない。また、赴任旅費として片道運賃の80%が往復分支給される。
 
 ウ 「働き方改革」への対応
 与那国製糖工場では、現行の二交替制を三交替制へ移行する予定である。現行の賃金水準体系を基準にすれば、季節工の賃金は7割程度に減少し所得面での魅力が減少する上、工場としてはさらなる要員の確保が必要となる。製糖期間中の要員の大半を季節工に依存する同工場は極めて厳しい状況となる。この対処として一つには、一部の季節工に明確な責務や役職を持たせ、同工場にて継続的に就業するようにしている。集中脱葉施設の運転に配置された1人は、長年同業務に携わってきた前任季節工の後任として、同業務の技能を習熟し翌製糖期間以降もこれを担当することが期待されている。1人の女子はY社より「作業リーダー」の肩書きと手当を与えられ、Y社派遣の季節工だけでなく製糖期間の労働力全般の状況を把握している。この2人はY社の正社員であり、同社からの指示で翌製糖期間以降も派遣が実現する可能性が高い。
 

(2)沖縄製糖宮古工場

ア 人員配置
 沖縄製糖の人員配置は、与那国製糖工場とは極めて対照的に、業務の大部分が同社社員によって担われ、季節工は特定の部署に集中して配置されている(表2)。全体の72ポストのうち社員47ポスト、季節工25ポストである。社員は、正社員40人、契約社員3人、再雇用社員2人、派遣社員1人、出向1人である。

 工務は分析を除き二交替制で、人員はすべて男子で(社員34人、季節工10人)、季節工男子の大半がここに就く。なかでも圧搾の集中脱葉装置運転とミル運転に集中し(8人)、ミル運転の社員6人、定期的に巡視する圧搾担当の社員と共にあたっている。他に清浄に1人、結晶・分離1人の季節工が配置されているが、それぞれ各部署8人の要員のうちの1を占めるに過ぎない。動力、分析には季節工は配置されていない。

 残る季節工男子2人は農務に属し、原料から品質取引用サンプルを抜き取るコアサンプラーと呼ばれる装置の運転を担当する。農務では社員が搬入管理、計量(表2中では工場内の呼称により「秤量」と表記)・品質取引全般を担当し、季節工女子は計量と品質取引に重点的に配置されている。品質取引のトラッシュ除去(季節工7人)、サンプルを細かく刻むカッターグラインダーなどの分析業務(同5人)は、まとまった数の労働力を必要とする。以上、季節工全体では男子12人、女子13人だが、極めて明瞭な性別分業である。



 イ 季節工の確保
 季節工の調達は沖縄製糖による直接採用のみである。彼らの多くは継続的に雇用されており、欠員には社員や季節工による周囲への声かけで補充されてきた。勤務時間は、工務が分析を除き二交替制で、昼勤が8:00〜20:00、夜勤が20:00〜8:00、1週間ごとの交替日に6時間延長する点は、与那国製糖工場と変わらない。計量、品質取引を含む農務は日勤である。製糖期間中の休日は基本的にないが、原料搬入が少なく工場が操業停止することはある。季節工全員が宮古島に居住するため、製糖工場による宿舎や食事の提供、赴任に対する補助はないが、季節工も社員と同様に工場内の食堂(1食400円)を利用することができる。

 賃金は、基本給が県の製糖業の最低賃金である時給792円を上回るよう設定され、勤務年数や技能により毎年10〜15円上がり、実態としては工務が時給820〜870円、農務で800〜820円である。地域の労働市場の賃金水準が参照された年期もあり、たとえば2018/19年期には島内の建設業の賃金上昇を勘案して10〜15円が上乗せされた。残業や深夜・休日の勤務には基本給に法定の率で割り増しされる。作業の指示は基本的に社員が行い、季節工の中にリーダー職を設けてそれに手当を支給することはしていない。

 ウ 「働き方改革」への対応
 「働き方改革」の導入後は工務の勤務体制を三交替制に移行するが、現時点ですでに季節工への依存度が低い同社では、季節工を徐々に減らし、基本的に社員のみで対応することも予定している。沖縄製糖では長期にわたり社員数を削減してきたが、「働き方改革」に沿う形でここ2年社員を若干増加させており、現在契約社員である3人の正社員化も視野に入れている。同時に、ヤードクレーン運転など一定の技能と要員を要する業務に関しては、業務の外注を検討している。

 もっとも、品質取引業務などまとまった量の労働力を要する部署での人員削減は難しく、また社員の配置も高コストであろう。現在これに従事する女子季節工13人のうち10人が60歳代以上と高齢化が進んでおり(後述)、彼女らの退職後の要員をどう確保するかが課題である。

2.季節工の存在形態

 では、季節工とはどのような人々なのであろうか。表3に両工場の季節工の年齢、性別、製糖期以外の常住地をみた。与那国製糖工場では、男女ともに40歳代までの労働力が主力となる。これだけ多くの青壮年労働力の給源は島外に見出さざるを得ず、実際、常住地=島外に集中している。沖縄製糖の場合は、男子では各年代へのばらつきや、10〜20歳代の雇用がみられるものの、60歳代3人、70歳以上1人もいる。女子に関しては先述の通り60歳代以上の者が計10人に達するなど、高齢の労働力に依存した構成となっている。男女ともすべて島内から採用されている。

 以下、彼らの季節工応募の動機と年間の就業実態をみよう。
 

表3

(1)与那国製糖工場

 製糖工場での就業動機には大きく3種類が観察される。第一には、所得の確保である。まず図1に、筆者が与那国島で行った農外就業における賃金調査と、季節工賃金を比較した。期間全体で90〜100万円という季節工賃金は、単純労働者の「年間」賃金=屋外労働者職種別賃金調査(最終調査年である2004年の沖縄県軽作業員〈男〉)の賃金=227.5万円には及ばないが、島内の男子・女子の非正規職および女子自営業での「年間」賃金・報酬程度である。3〜4カ月という勤務期間を考えるとこれは相対的に高い賃金とみることができる。

図1

 しかし就業場所を移動する彼らは、与那国島の賃金水準と比較して評価するとは限らない。そこで視点を変えて、彼らの年間就業の中での季節工賃金の位置付けをみてみよう。図2によれば各地の第一次産業の繁忙期をつなぐように移動する者が多いが、都市部で人材派遣会社に登録する者(ID3)、商店での販売員(ID4)もみられ、その収入は、年金受給を意識し就労時間を調整したID5を除けば、約110〜200万円であった。彼らの就業選択のうち季節工は、その賃金水準においても、そして確実に稼得が見込めるという点でも、他の選択肢に勝るものとして意識されている。「製糖(工場での収入)を1年の生活の核にするつもり。月に確実に27〜28万円という収入は自分の他の年間就業先の中にはない魅力」「(都市での派遣では)誰を派遣するかは派遣会社の采配次第、長年登録している人にばかり回されることもある」(ID3)、「製糖工場は寝泊まりする場所があるし、食事付きだし、賃金精算の仕組みがしっかりしている。他の就業先は、現物でいただいたり食事の差し入れがあったりしたが、思ったより収入が低かったし賃金の計算が不透明。製糖工場で(年間収入の)帳尻を合わせる感じ」(ID6)。製糖工場以外の就業で、手取り月20万円の賃金を超えた例は、農村部では宮古島のタバコ共同乾燥施設の作業(約27万円、男性)、関西での製茶工場夜勤(約24万円、男性)であり、ID3の都市部での派遣での仕事も週5日勤務で手取り月20万円未満であった。都市部の単純労働機会と比較しても、季節工の賃金水準が勝ると認識されているのは注目される。

図2

 第二に、農業や農村といった就業地の環境を重視した応募もみられる。ID1は旅を続ける生活スタイルを重視し、各地の農繁期を移動できるY社での就職に行き着いた。ID6、7は、農作業や農村環境への関心が元である。ただしこうした指向を持つ者にとって、製糖工場は「農村」ではあるが、「工業」である。農業の有する、屋外での作業、生物の再生産過程とのつながりは、製糖工場では感じられないと彼らに映る可能性もある。

 第三に、リピーターの中には、製糖工場関係者や与那国島への定期的な訪問も、応募動機に入ってくる。「賃金目的かというとそれだけでもなく、1年に一度、与那国の人や工場で出会ったみんなの安否というか、元気でいたかの確認という感じ」(ID5)。

 以上のような動機から、年間就業移動の中に与那国製糖工場が位置付くのであるが、ここで一つ強調しておくべきことがある。それは彼らが基本的には就業地選択を、自身の事情で決断可能ということである。いずれも配偶者や同居扶養すべき学齢期の子供はおらず、家財は実家、あるいは知人宅に預けて移動・就業している。そうした彼らにとって現在の年間就業を変える潜在的なきっかけは、親の介護である。「周囲の同世代リピーターが次々やめていく。原因は親の介護」とは、本人も介護のため数年間にわたり季節工参加を断念した、ID5の言葉である。

(2)沖縄製糖

 沖縄製糖への応募動機を質問票で尋ねた結果を表4にまとめた(対象25人、回答19人)。まず賃金水準に関連して、季節工への応募は「時間あたり賃金がよい」ことによるかと尋ねると、非常に・やや「あてはまる」は合計4にとどまり、あまり・全く「あてはまらない」の合計9が目立つ。しかし「期間全体としての賃金がよい」に、非常に・やや「あてはまる」には合計8と、期間全体の賃金に対しては季節工からの評価が高い。「目標があり、その資金を貯めたい」を「あてはまる」を7人が挙げることも、これと整合的に捉えられる。

表4

 図3で、宮古島にみられる就業機会(賃金)に季節工のそれを位置付けると、男子季節工が製糖期間全体で稼得する約80万円という賃金は、前述の「年間」単純労働者賃金(図中の軽作業員賃金(注3))には到達しないが、男子の非正規職の「年間」賃金程度に匹敵する。また女子季節工の70〜75万円という水準も、島内の女子非正規職の「年間」賃金程度に相当する。製糖期間外の賃金稼得と併せて、季節工の仕事は女子にとって島内では有望な選択肢なのであろう。

(注3)この最終調査年から15年が経過しているため、本調査前後の宮古島市の単純労働者賃金を、ハローワーク求人票から確認した。単純労働者を現す就業を、「建設・土木作業員」のうち、学歴や経験、特定の技術や資格を採用要件としないものとし、該当した8件(2021年2月28日時点の求人)の賃金をみると、最低額は年間222.4万円であった。軽作業員賃金227.5万円はこれに近似するため、単純労働者賃金の指標として問題ないと判断された。
 

図3

 彼らの2020/21年製糖期間の前1年間の就業実態をみよう(図4(注4)、回答があったのは男3人、女6人)。20歳代の男子ID1は、食品資材を販売する店舗のパート店員として、ID2は民間の自動車板金、アルミサッシ加工の企業に正社員として勤務しており、両人はこれらを離職後、初めて季節工として就業した。女子の場合は製糖期間以外は自家農業への従事か、島内での農業の繁忙期作業が多く、後者はタバコ収穫期の作業が目立つ。これらと季節工賃金との組み合わせにより年間で単純労働者賃金を稼得できるかも注目されるが、男子は回答数の少なさ・前年からの就業転換2例から判別できず、女子の場合は、到達はやや厳しそうである。とはいえ生計を共にする者がいる例がほとんどであった(それが賃金・年金稼得者であるか否かは判然としない)。

 応募動機としての農村的環境(「農村に来ることができる」「沖縄の環境が好きで、そこに住むことができる」)は、常住地と就業地が一致するためか、重視されているとはいえなかった。また「普段の住まいに近い」については、重視する者がいる一方で、就業時に頓着しなかった者も一定いる。ただし女子8人は全員が、非常に・やや「あてはまる」を選んでいる。彼女らにとっては近場での就業選択が前提なのであろう。「普段の住まいの近くには、この時期仕事がない」からかという質問には、全体では「どちらともいえない」8、あまり・全く「あてはまらない」7と、彼らに製糖工場以外の選択肢がないとまでは認識されていない、あるいは、認識されても季節工応募の理由とはいえない。彼らが、島内の他の機会も視野に就業した姿を想像させる。

 関係者による声かけでの就業が多いと聞いた割には「知人に頼まれた」への反応は分かれた。他の労働者や関係者との再会(「ここに来れば毎年、懐かしい人に会える」)に、あまり・全く「あてはまらない」の回答は7だが、すべて季節工に初めて参加する者からであった。経験のある者からは非常に・やや「あてはまる」が合計6寄せられた。季節工が単なる賃金稼得の場を超えて一定の連帯意識をもたらしていることがうかがえる。

 季節工への参加は、7人が2020/21年期を初めてと答え、12人は過去に経験し、このうち9人が「ほぼ毎年」参加であった。現在70歳代の女子2人はともに1980年代からほぼ毎年参加である。来年の応募については、「応募しない」は1人(女性)に限られ、その他は「応募する予定である」「わからない」と、次期以降の応募への前向きな姿勢を、一定数捉えることができた。

(注4)質問票への年齢に関する回答の一部は、表3の沖縄製糖の季節工の年齢構成と一部齟齬そごがみられるが、図4は寄せられた回答に基づき作成した。

図4

3.結論 「働き方改革」下の対応と、季節工労働力調達

 以上を踏まえて、「働き方改革」下における製糖工場の対応と、季節工の確保を展望しよう。与那国製糖工場では、これまで製糖期間中の季節工への依存が高く、三交替制への移行に伴う要員増加の重圧を現在感じている。熟練を要する部署に同一人格を継続的に配置するのは、一つの対抗措置であるが、そこではY社のような人材派遣会社正社員が関与することが鍵となっている。正社員であればY社の指揮系統下で移動する、つまり一人格の就業がより確実に見込まれ、その熟練形成の実現可能性もまた高まるからである。労働力の確実な充足とともにその質が決定的となる部署においては、こうした主体の介在が重要になっていくのではないか。他方では、外国人季節工などの労働力給源からの量的調達も一層重要になってくると考えられる。現在はその導入業務が限定されているが、これを他部署に拡張していく方向を検討する局面にきているであろう。  

 これまで同工場が季節工を全国から調達できたのは、全国の単純労働市場と比較しても見劣りしない賃金水準の高さにあった。「働き方改革」の実現が、賃金水準に優先度をおく労働力の確保を危うくすることは避けられない。これに対してはまず、農村という就業先、農業との関連に反応する労働力層の、さらなる掘り起こしがありえよう。とはいえ本研究の聞き取りから同時にみえてきたのは、季節工の製糖期間外の就業先で、手取り月20万円程度の賃金稼得が3カ月以上確実に見込めるのは、都市部も含め全国でも稀少だということである。三交替制の下での製糖工場の賃金水準も、彼らの他の就業機会と比べて格段に見劣りするものではない。この実態を前に労働者が、年間就業に季節工勤務を組み込むか、あるいは季節工は見劣りしないまでも他の就業機会との差がわずかとみて、移動の意義が低いと判断するか、いずれかである。  

 沖縄製糖の季節工雇用は従来から補完的な規模にあり、「働き方改革」下では、季節工要員の漸減ぜんげん、通年雇用の増加と業務の外部化を模索している。とはいえ当面、季節工を必要とする業務があり、その募集にあたり、賃金が現在の7割の49(女子)〜56万円(男子)ならば、島内非正規職の「年間」賃金(図3)の27.2〜81.6%(女子)、46.7〜112.0%(男子)の稼得にあたり、年間の3カ月分=1/4年=25%を上回っている。つまり三交替制後の賃金も島内の非正規職より上位にある。ただ、高齢季節工の大量引退後の調達を見越せば、島内により広い訴求力をもつ水準でありたい。それには単純労働者賃金以上、具体的には、年間賃金227.5万円(前掲)を製糖期間分に換算した56.9万円を超えることである。

おわりに

 沖縄製糖の季節工は、労働強度が高いにもかかわらず、継続して長年応募する者がいる。本調査では居住地への近接性、職場の人間関係など、賃金水準以外への肯定的評価を季節工から捉えることができた。こうした評価が「働き方改革」下の季節工確保にあっても追い風となると考えられる。それでも充足が難しい場合は、与那国製糖のケースのように、島外からの労働力確保─農業人材派遣会社の利用や外国人労働力の導入─を検討するのも一方策であろう。

 以上、沖縄の二つの製糖工場の、季節工の位置付けや工場内の配置、調達方法、就業条件を整理した。本稿が今後の季節工確保を検討する製糖工場各社に何らかの示唆を与えることができれば、筆者として喜びに堪えない。

[付記]
 製糖期間、そしてコロナウィルス感染拡大にもかかわらず、本調査にご協力いただいた両製糖工場の皆さま、Y社の皆さま、季節工の皆さま、ご仲介いただいた日本分蜜糖工業会 池間智政さま、沖縄県農林水産部糖業農産課 伊禮信さま(現所属 沖縄県農業研究センター)に深く感謝申し上げます。


【参考文献】
・新井祥穂・大呂興平・奥間瑞巴(2021)「沖縄県の小規模離島における地域労働市場と農業構造動態
 ―多良間島の比較検討」『人文地理』第75巻 pp.159–180.
・新井祥穂・永田淳嗣(2017)「沖縄県宮古島における農家就業構造と農業構造の動態」『農業経済研
 究』第89巻 pp.1–17.
・呉俐君(2011)「戦後沖縄における台湾人労働者」『移民研究』7 pp.43–64.
・中嶋康博・竹田麻里・村上智明(2020)「甘しゃ糖工場における働き方改革の現状と課題」『砂糖類・で
 ん粉情報』2020年7月号 pp.44–50.
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当: 企画情報グループ)
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