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アジアのでん粉原料用作物の生産と病虫害の影響

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最終更新日:2023年7月10日

アジアのでん粉原料用作物の生産と病虫害の影響

2023年7月

調査情報部 針ヶ谷 敦子、山ア 博之

【要約】

 世界最大のでん粉生産・消費地域であるアジアでは、各国でキャッサバやかんしょなどでん粉原料作物の病気の感染拡大防止対策が取り組まれているものの、生産者の意識の違いなどにより効果発現に差が見られる。現地調査を行ったベトナムのザライ省では、対策実行の低迷が確認された一方で、対策が奏功する他産地もあり、対策の検討・実施に当たっては、各地域の実情や実態の把握と実行・有効性への留意が肝要である。また、同国をはじめとした近隣国は依然として病虫害の影響が懸念されており、タピオカでん粉の需給動向の把握に向け、当該地域のキャッサバ生産の状況について引き続き注視が必要である。
 

はじめに

 国連食糧農業機関(FAO)が公表する2021年の世界のキャッサバ生産量を国別に見ると、上位10カ国のうちの4カ国がアジア地域であり、アジアでのキャッサバ生産が盛んであることが分かる(図1)。しかし近年では、タピオカでん粉の主産地である東南アジアを中心にキャッサバモザイク病(注)が発生し、各国で感染防止対策が取り組まれている(写真1、2)。
 
(注)コナジラミによってウイルスが媒介される病気である。葉に黄緑色から黄色の斑点(黄斑)が生じることで光合成が十分に行われず、特に生育初期に感染すると成長不良により収量が大幅に減少し、作物自体の枯死を引き起こす場合もある。ベトナムのほか、タイやカンボジアの一部で流行が確認されている。 

   
 


 
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 日本の病虫害の状況を見ると、かんしょ株の立ち枯れや塊根(イモ)が腐敗するサツマイモ基腐(もと ぐされ)病の多発が深刻な問題となっている。特に国内最大のかんしょ生産地であり、でん粉原料用かんしょの主産地でもある鹿児島県では、同病の発生が初めて確認された18年以降、かんしょ生産量が減少し続けている(図2)。21年度に同県内で同病の発生が確認された農地面積は、作付面積の約75%に上るなど被害が拡大している(写真3)。

 このため本稿では、国内のでん粉関係者への参考に資するために、アジアのでん粉需給に影響を及ぼすでん粉原料用作物の病虫害について概観するとともに、主要5カ国(タピオカでん粉の生産量世界第1位のタイ、輸出量世界第2位のベトナムのほか、隣国のカンボジア、かんしょ主産国の中国とインドネシア)の対応状況について報告する。

 なお、本稿中の為替相場は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」23年5月末TTS相場の1タイバーツ=4.11円および1ベトナムドン=0.00596円(同日参考相場)を使用した。
  
 
 


 
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1.アジアにおけるでん粉原料用作物(キャッサバ・かんしょ)の病虫害の状況

(1)概況

ア キャッサバ

 アジア(注)では、2015年にカンボジアでキャッサバモザイク病の発生が確認されて以降、アジア圏に拡大するにつれてキャッサバの生産量は減少した。その後、各国での感染防止対策が奏功し、21年のアジアのキャッサバ生産量は対12年比で約5%の減少にまで回復した(図3)。
 
(注)今回取り上げるタイ、ベトナム、カンボジアなどを含む52カ国・地域(FAOSTATによる定義)。
 



 


イ かんしょ

 2021年のアジアのかんしょ生産量は、全世界の約6割に当たる5462万トンとなった(図4)。内訳を見ると、生産量世界第1位の中国が9割近くを占めた。また、同第7位のインドネシアが3.0%程度を占め、中国に次いでアジア第2位となった。

 前述の通り日本では、21年度にも鹿児島県でサツマイモ基腐病の症状が確認され、同年度はかんしょの作付面積の約75%で被害が発生した。翌年度も各種対策を講じたものの、引き続き作付面積の約35%で被害が発生している状況である。同病は水を媒介して拡大する傾向にあるため、特に台風の後に被害の広がりが見られており、今後も継続した対策が求められている。
 
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(2)各国の状況

ア 中国(かんしょ)

 中国のかんしょ作付面積、生産量は増加傾向にある中で、2010年にサツマイモ基腐病が浙江(せっ こう)省で確認されて以降、同省で集中して発生している(図5、図6)。

 浙江省では例年、作付面積の約1割で同病の発生が確認されている。特に近年は同省内陸部に位置する金華市での被害が大きく、20年は7割以上の圃場で感染が確認され、3〜4割の減産となった地域もあったと言われている。こうした感染拡大防止のため同省では、感染したかんしょの処分や圃場管理など各種対策が講じられている(表1)。浙江省農業科学院などでは耐病性品種の研究・開発も進められており、耐病性の強い品種として浙薯38や広台薯1号などが推奨されている(写真4)。

 表1の対策のうち、輪作については主に水稲やアブラナで行われており、水が豊富な地域では水稲との輪作が推奨されている(表2)。中国農業科学院かんしょ研究所などによると、輪作の効果に関する数値データは得られていないとした上で、輪作によって土壌中の栄養成分が維持され、雑草の発生を抑える効果や同病発生の原因である糸状菌を減少させる効果があるとしている。また、輪作が実施できない場合は、圃場を14日間以上浸水させることで原因菌の減少効果が得られるとしている。
 















 
 このように、中国では発生地域も限られており、主産地では発生が確認されていないことから、政府による支援策は講じられていない。ただし、政府や行政機関のホームページでは、防除に関する指導情報の発信や耐病性品種の開発などの研究プロジェクトの設置が公表されている。毒性の低い薬剤による効果的な防除方法の確立や、耐病性が高く品質の優れたかんしょ品種の育成に関する研究などが進行中とされており、今後も感染拡大防止に向けた研究が重視されるとみられる。
 
イ インドネシア(かんしょ)

 インドネシアのかんしょ生産量は、作付面積の減少などから減少傾向にある(図7)。同国では西ジャワ州が最大のかんしょ生産地であり、2021年には40万トンと同国全体の生産量の3割近くを占めている(図8)。

 同国農業省は、かんしょ生産に被害を及ぼす七つの害虫を公表し、生産者に注意を呼びかけている(表3)。同国では、目視できない菌類などの原因による病害よりも、目視可能な昆虫類などによる食害などへの対策の方が、生産者の理解が得やすいとの判断から、病気を媒介する害虫対策について優先して情報提供しているものとみられる。これらの防除対策として、種いもの管理や豆・野菜などとの輪作、天地返しや農薬の散布などが推奨されているが、同国での農薬散布は手動噴霧器の利用が一般的であり、ドローンの利用などの新技術の導入は遅れている状況にある。 

 多数の島から構成される同国では、これまで全国的な情報伝達が難しい状況にあった。しかし、インターネットの発達により物理的なハードルは下がりつつあり、例えば同国農業省傘下の農業研究開発局による研究結果の発信など新たな取り組みも行われており、今後は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などの活用による啓発が進むとみられる。他方で、最新の農薬やドローン式の農薬散布機などは高価であり、生産者が購入することは難しく行政による各種支援を必要とするなど、さらなる対応も求められている。







 
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ウ タイ(キャッサバ)

 タイは、6割以上の地域でキャッサバが生産されるなど、アジア有数のキャッサバ生産国である(図9)。同国では2018年に初めてキャッサバモザイク病が確認された。主産地である東北部で感染が拡大した2019/20年度(10月〜翌9月)には、作付面積が前年度比で7.0%増加したにも関わらず、単収は同9.3%減少、生産量も同6.7%減少となった(図10)。感染拡大の要因は、感染が短期間で国内全域に広がったことから、主に感染苗の流通にあると考えられている。

 その後の推移を見ると、20/21年度は作付面積、生産量ともに増加し、現状では同国のタピオカでん粉の需給に重大な影響を及ぼしていないと考えられる。特に、作付面積がキャッサバ農家価格の上昇などを受けて増加したことに加え、同国政府が実施する防除策(注1)にも一定の効果があったとみられる。
 
(注1)隣国からのキャッサバ苗の輸入禁止や健全苗の使用促進、感染株の廃棄に対する現金補償、収入損失への補助金交付など。

 







 
 しかし、産地では栽培初期の感染でなければ影響は比較的軽微とされることもあり、収穫までそのまま栽培を続け、被害を行政機関に報告しない生産者も存在するとしている。これは、土地が借地の場合には補償の対象外であるほか、収入損失への補助金を受けるよりも、そのまま生産・収穫を行い、所得補償制度(注2)で補償を受けた方が手取りで優位となることなどが背景にある。また、キャッサバモザイク病被害への補償が十分ではなく、手続きも煩雑であるなどの問題が存在することも一因とされている。

 一方で、感染したキャッサバが放置されると、次期作の苗木への感染などが懸念され、生産量に大きな影響を及ぼすことになる。このため、補償範囲や方法、耐病性のみならず収量にも考慮した品種開発や普及を進めるなど、キャッサバ農家の経営面にも配慮した対策の実施が、今後のキャッサバ生産を左右することになる。
 
(注2)所得補償制度はキャッサバの市場価格が保証価格を下回った場合に、同国政府が差額分を補償する制度。
 
エ ベトナム(キャッサバ)

 ベトナムでは、6割以上の地域でキャッサバが生産されている(図11)。生産量の推移を見ると、2016年は1090万トンであったものが、17年にキャッサバモザイク病の発生が確認されたことで、翌18年には1000万トンを下回る水準にまで減少した(図12)。19年以降は1000万トンに回復したものの、同病発生前の水準には至っていない。

 同国では、キャッサバモザイク病感染拡大の防止策として、18年にベトナム農業農村開発省(MARD)の副大臣を委員長に、植物保護局長を副委員長とする緊急対策委員会を立ち上げ、予防対策の技術ガイドラインを策定し、植物を所管する全国各地の指導委員会に対して農家周知などの指導が行われた(表4)。

 こうした対策について、同病の感染拡大防止に一定の効果があったと評価されているものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大により、カンボジアからのキャッサバ輸入が減少したことも感染を防いだ一因であるとされている。また、重量のあるキャッサバを根こそぎ撤去することに対する負荷や、作付面積の大きな農家では感染状況の把握が困難なことなどを理由に、キャッサバの廃棄といった対策の実施率が低い状況にあることなどが課題となっている。
 









 一方、耐病性品種の利用については、MARD所管の農業遺伝研究所で6種の苗が開発され、実証試験が進められている。現在、(かん)水などの機械化が進み、栽培技術が高いタイニン省など東南部地域で最初の栽培実験が行われ、同地域で2種類の利用が承認されている(注)。また、同研究所は各地でも栽培実験を実施しており、近い将来、国内各地で耐病性品種の栽培が可能になると期待されている。
 
(注)新品種は、3回の栽培実験を経て、耐病性の高さに加え、安定生産可能なことなどの所定の基準を満たした品種のみが承認される。MARDの作物生産局で承認され、その審査期間は1〜2週間程度とされる。
 
オ カンボジア(キャッサバ)

 カンボジアでは、コメに次ぐ主要農産物としてほぼすべての州でキャッサバが生産され、生産量は1300万トン前後で推移している(図13、14)。2015年に、ベトナムに面する北東部の地域でキャッサバモザイク病が初めて確認された。感染拡大の様相や、一般的にキャッサバの苗木が農家間で売買されている状況を踏まえると、タイと同様に感染苗の流通が要因と考えられている。地域によってはキャッサバモザイク病の影響で単収が4〜5割程度減少したとする生産者もあり、被害の大きさがうかがえる(写真5)。
 









 

 同国農林水産省は感染確認から2年後の17年9月、キャッサバ苗木の感染地域からの移動禁止や、輸入されたキャッサバの苗木の登録と品質管理などの感染拡大防止策を発表した。また、同省農業総局(GDA)は、地方行政官に対してキャッサバモザイク病対策に関する研修などを行い、生産者への浸透を図った。近年は農村地域でもスマートフォンが普及し、生産者間の情報共有ツールとして活用されており、リーフレットの作成などに加え、FacebookやYouTubeといったソーシャルメディアを通した啓発活動にも力を入れている。

 一方で、耐病性苗や健全苗の流通は不安定とされ、特にこれらの苗は一般的な品種に比べて高価であるため、生産者の経済的負担が大きい状況にある。そのほか、感染株の廃棄費用なども生産者にとって負担が大きく、対策が進まない理由として挙げられるなど、今後の課題となっている。そうした中で、同国北部にあるプレアビヒア州では、19年にキャッサバモザイク病の感染拡大の際に、同州の農業協同組合(農協)と契約先であるタイのでん粉加工工場との協力により、農協がキャッサバ生産者への代金支払時に苗代を精算する形で、健全苗が提供されるなど、民間企業による支援も実施されている。 

2.ベトナムのキャッサバおよびタピオカでん粉の生産概況

 前述の通り、ベトナムはキャッサバ生産量で世界上位10位に入る主産国であるものの、近年の生産量はキャッサバモザイク病発生以前までの水準に回復していない。一方で、大手民間調査会社(LMC International)によると、中国ではコーンスターチの代替利用などを背景にタピオカでん粉の需要が高まっている。一大消費国である中国のタピオカでん粉の最大の輸入先はタイであるが、ベトナムのタピオカでん粉輸出量の9割以上が中国向けである。また、タイとの価格差などに起因して、ベトナムからの中国向け輸出量は増加傾向にあり、2022年は162万トンと前年から2倍以上に増加した(図15)。

 今回、中国向け輸出量が拡大するベトナムで作付面積が国内1位であるザライ省の関係者や、首都ハノイ市のタピオカでん粉輸出企業などを23年2月に訪問した。その現地調査を通じて把握した、キャッサバおよびタピオカでん粉の状況について報告する。
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(1)キャッサバ栽培(Dak po市Tan An村:ザライ省東部)

 中部高原地域に位置するザライ省は、5〜10月の雨季と11月〜翌4月の乾季に季節が明確に分かれ、平均気温は22〜25度で湿度が高く、雨の多い地域である(図11)。同省では労働者全体の約25%がキャッサバ生産に従事しているとされ、近年ではコーヒーやコショウの生産も盛んである。この10年以上、作付面積全国第1位となるキャッサバの主産地である一方で、単収は1ヘクタール当たり20トン程度(2021年)と、年によっては全国平均を下回ることもある(図16)。この結果、同省の生産量は、機械化の進展など先進的な生産が進む南部のタイニン省に次ぐ全国第2位となっている。ザライ省で単収が伸び悩む理由として、キャッサバの高い生命力を背景に、品質や収量の追及よりも生産管理の簡便性が重視され、山沿いの傾斜地や土壌の状態が悪く他の作物の生産に向かない土地を中心に生産されていることなどから、これらの地域では十分な肥培管理が行われていないことなどが挙げられる。

 今回訪問したザライ省Dak po市Tan An村では、圃場の所有者は時折、様子を確認しに圃場に出向く程度で基本的には作付け以降は手間をかけない管理手法を主流としており、他の仕事や野菜生産との兼業も多いとのことであった。手間をかけない管理手法として、植え付けの際に圃場をバイクで走ってタイヤでつけた溝に苗を並べ、土を被せる方式があり、全体の6割程度がこのバイク方式とされている(写真6)。このほか、石れきが多いなど土壌の状態が悪い場合には、収穫しやすい(うね)方式(土を盛った畝に苗を植えるもの)が採用されるということであった。また同地域では、キャッサバとサトウキビを約3年おきに輪作することが多く、栽培品種はKM94を自家栽培しているのが大半ということであった。作付けは12月〜翌3月頃で、約9カ月後の翌9月〜翌々1月に収穫するケースが一般的であり、仲買人を通じて販売する場合は、あらかじめ仲買人が集めた作業員が作付けや収穫作業を行うことも多いとされている(表5)。収穫したキャッサバは工場に直接販売するほか、仲買人を通じて販売される。 











 
 訪問した圃場ではキャッサバモザイク病の発生を確認したが、発生以前の約3分の2の収穫量を確保できており、許容範囲内との回答であった。前述の通り、生産者が圃場に訪問する回数も少なく、感染したキャッサバの廃棄などの感染拡大防止対策が実施されることは少ない(写真7)。省内の他の地域でも、近年はキャッサバモザイク病の発生が確認されているが、耐病性品種の購入など対策にかける資金がないことや兼業農家も多いことなどから、多少減産しても問題ないという生産者が多いとのことであった。技術や資金不足により肥培管理がされない場合もあるが、キャッサバ生産者はコーヒーやコショウなどの生産も行っている場合もあり、手間をかけずに一定の収入を得られることがキャッサバ生産の利点と考えている生産者が多いとされている。同省はタイニン省のように耐病性の新品種を用いて先進的な生産を推進する地域ではなく、同病が生産量に大きな影響を与えていないと捉えていることから、現状を受け入れる、地域に合った生産方法と言えるのかもしれない。
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(2)仲買人による収穫キャッサバの取りまとめ(ザライ省)

 前述の通り、同国ではキャッサバを仲買人に販売する生産者も多い。訪問したTan An村では、収穫作業を仲買人が行っており、生産者から連絡を受けた仲買人は1人につき1日当たり約30万ベトナムドン(1788円)で10人ほどの作業員を雇って対応している。収穫したキャッサバは工場に運ばれ、トラックごとに重量を測定する。納入重量は、荷下ろし後に空の車両の重量を差し引いた計測量の99%程度(土砂などの異物混入分として1%程度の減)になるとのことであった。調査当時(2023年2月)の工場買取価格は、1キログラム当たり約2500ベトナムドン(15円)であり、仲買人によると、世界情勢などの影響を受けた需要の高揚を背景に、前年より上昇傾向にあるとされた(表6)。生産者には、仲買人の手数料として1キログラム当たり約700ベトナムドン(4円)を除いた1800ベトナムドン(11円)程度が支払われ、その3分の2ほどの1200ベトナムドン(7円)が生産者の利益になるとのことであった。

 収穫集中期には、加工工場の1日の処理能力を超えるほどのキャッサバが持ち込まれることがあるため、日持ちしないキャッサバの受入拒否を回避すべく、工場との間で事前に納品調整を行うことが仲買人の重要な業務の一つであるとしていた。また、ザライ省内にはキャッサバ工場が3カ所あり、前日に受け入れ量が多かった場合、翌日の工場買取価格が下落するため、仲買人は情報収集を密に行い、搬入先を検討することも重要であるとしていた。このような調整も行う仲買人は、手数料(1キログラム当たり約700ベトナムドン)から収穫作業者の雇用経費などを除いた1キログラム当たり400ベトナムドン(2円)程度の利益があるとのことだった。
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 また、ザライ省西部のLa Grai市 La Chia村には、1〜3月頃のみ取引が行われるキャッサバの集積所があり、生産者が収穫したキャッサバは集積所に集められ、工場に運ばれる。生産者は収穫後、キャッサバを10センチメートルほどに切断し、1週間ほど乾燥させた後、1袋当たり約50キログラムの布袋に入った状態で集積所に運ぶ(写真8)。集められたキャッサバは、仲買人がまとめて約230キロメートル離れた同省に隣接するコントゥム省などの工場に持って行く。集積所の担当者によると、50キロメートルほど離れた地域にも別の工場があるものの、日持ちのしない生のキャッサバしか取り扱っていないため、乾燥したものを取り扱うこの工場に遠地から持ち込む生産者が多いとのことであった。調査時(同上)、生産者が持ち込んだキャッサバは1キログラム当たり4200ベトナムドン(25円)で集積所が買い取り、5400〜5500ベトナムドン(32円)で工場に買い取られていた。

 なお、この地域では、ゴムやカシューナッツの木々の隙間でキャッサバを生産することが多い。これは、ゴムやナッツは収穫まで時間を要す(ゴム:8年程度、ナッツ:3年程度)ため、収入確保の観点から、早期に収穫が可能な(約1年)キャッサバが栽培されている。このような状況のため、キャッサバ生産に必要な機械を圃場に持ち込めない場合が多く、植え付けや収穫はすべて手作業で実施されるとのことであった。訪問した圃場では、キャッサバモザイク病は見当たらず、木々の隙間での植え付けが結果として植栽密度の低下につながり、感染しにくい状況となっていると考えられる(写真9)。
 



 
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(3)タピオカでん粉の輸出

 今回訪問したタピオカでん粉輸出企業(ハノイ市)では、年間約10万トンのタピオカでん粉を取り扱っている(写真10)。タピオカでん粉の用途は、製紙、衣服やインスタントラーメンなど多岐にわたり、同社の取り扱い量の7割が海外向けである。主な輸出先は中国で、近年ではインドにも輸出実績があるとしていた。中国向けは海路での輸出手続きが煩雑なため、陸路(列車またはトラック)での輸出が大部分を占めている。しかし、COVID-19の拡大に伴う中国の都市封鎖の影響により取引が停止した実績を踏まえ、現在、輸出先の多様化を図っているとのことであった。日本向けも関心が高く、1カ月当たり1万トン程度であれば新たな要望にも即応できると話していた。

 ベトナムキャッサバ協会によると、2022年のベトナムのタピオカでん粉を含むキャッサバ関連製品は約325万トン輸出されたとし、輸出先の多様化は、業界がより発展するためにも必要な取り組みと認識している。最終的には各企業が輸出先を選定するものの、同協会では、輸出先の多様化に向けてでん粉加工技術の向上が必要であるとしており、輸出先の開拓は企業へ一任するだけではなく、行政によるさまざまな支援が必要だとしている。
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おわりに

 作物の種類を問わず、病虫害対策に適切に取り組む地域がある一方で、対策が生産者にとって経済的な負担となることなどから積極的に実施していない地域もあり、産地や生産者ごとに病虫害の拡大防止に対する意識に大きな差異があることが確認された。また、病虫害対策には、産地の実態に合わせ、技術的にも資金的にも容易で、実行的かつ効果的な対策の検討が必要である。さらに、現場での理解と産地での実行を支援する体制や環境づくりといったソフト面での対策も、感染拡大を防ぐ上で重要となることを改めて認識することができた。

 ベトナムのタピオカでん粉については、輸出量の9割が中国向けと言われる中で、業界もリスクヘッジの観点から、輸出先の多様化が今後の課題として共有されていることが確認された。しかし、上述の通り病虫害対策は産地レベルで温度差があるため、タピオカでん粉の需給動向の把握に向け、今後も引き続きキャッサバモザイク病をはじめとした病虫害の状況とともに、隣国のタイやカンボジアなどの状況も併せた、複眼的・総体的な把握が必要であると考えられる。
【参考文献】
山北淳一(2023)「鹿児島県におけるサツマイモ基腐病の『持ち込まない』対策〜三和ベルディ株式会社のバイオ苗の生産と導入生産者の事例〜」『砂糖類・でん粉情報』(2023年2月号)pp.29-39.独立行政法人農畜産業振興機構
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272