[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
alic 独立行政法人農畜産業振興機構
でん粉 でん粉分野の各種業務の情報、情報誌「でん粉情報」の記事、統計資料など

ホーム > でん粉 > 生産現場の優良事例など > かんしょでん粉工場合理化への取り組み状況

かんしょでん粉工場合理化への取り組み状況

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年6月]

【調査・報告】

鹿児島県農産物加工研究指導センター元所長 田之上隼雄


1. はじめに

 鹿児島県のかんしょは、戦後甘味資源作物として奨励され、最盛期の昭和38年には71千ヘクタールの畑で、168万トンのかんしょが生産されていた。当時はかんしょでん粉の糖化が最も容易で、かんしょは甘味資源として重宝されていた。しかし糖化技術が改良され、コーンスターチなども効率よく糖化できるようになり、甘味資源としてのかんしょでん粉は価格の安い輸入でん粉にその地位を譲ることになった。近年の作付け面積は1万5千ヘクタール、生産量が40万トン前後で推移している(図1)。このように生産量は減少したが、南九州地域は台風常襲地ということもあり、鹿児島県の畑作体系の中で、かんしょは夏期の作物としてなくてはならない存在であることは変わらない。
  でん粉産業が最盛期であった昭和38年におけるかんしょの用途は、でん粉原料が大半を占め、116万トンのかんしょが410のでん粉工場によってすり込まれ、約30万トンのでん粉が生産されていた。前述のように糖化事情の変化に伴い、かんしょ生産は急減し、でん粉工場もとう汰され、現在では23の工場が操業し、14.5万トンのかんしょを処理、4.5万トンのでん粉を生産している(平成19でん粉年度)。23のでん粉工場のすり込み能力19.1万トンに対し、でん粉原料用かんしょは14.5万トンで、でん粉工場は慢性的な原料用いも不足の状況にある。平成15年頃からの焼酎ブームの到来で、この状況はさらに悪化している(図2)。
  今後のかんしょでん粉工場の課題は、でん粉製造コストの削減による輸入でん粉との競争力の向上、安心安全な高品質でん粉の供給による用途の掘り起こしと拡大であろう。この観点から、かんしょでん粉工場の現状および試験研究成果の調査分析を行い、問題整理を行った上で、今後の方向性を探ってみたい。


図1 鹿児島県におけるかんしょ生産量の推移
資料:九州農政局鹿児島県農政事務所統計部
    鹿児島県農産園芸課調べ(市町村報告)

図2 鹿児島県におけるかんしょの用途別生産量
資料:鹿児島県農産園芸課調べ(市町村報告)
  注:H19年産は見込み数量のため加工食品用・青果用・その他の合計をで示した。

2.かんしょでん粉製造法の変革

 本稿中には専門的な用語も出てくるため、簡単にかんしょでん粉製造工程について触れたい(図3)。


図3 でん粉の加工工程

  集荷されたかんしょは水洗いされ、磨砕行程に入る。洗い水はシーブベンドで、薄皮、ひげ根など不純物を除いた後、沈砂池で砂を沈殿させ放流される。水の不足する工場ではこの放流水をかんしょ洗いに繰り返し使用する場合もあり、同工程への使用とともに洗浄水中に不純物が蓄積し、生物化学的酸素要求量(BOD)値が増加してくるので、基準値(BOD120ppm)を超えないよう管理しなければならない。
  磨砕はでん粉が乳状化しやすいように組織を細かく砕くもので、従来ロール磨砕機(後述)が使用されてきた。近年ロール磨砕機は高速磨砕機(以下ラスパー)に変わりつつある。ロール磨砕機が半世紀以上にわたって使用されてきたことを考えると、かんしょでん粉製造工程の大きな変革と言える。
  細かく砕かれたかんしょはふるいわけ工程で粕とでん粉乳に分離される。ふるいわけは初期の頃は平篩(網を張った木枠を往復運動させる)を使用したが、シーブベンド(湾曲したステンレス製網)に変わり、ラスパーの導入に伴って遠心篩に変わりつつある。ふるいわけ工程においても合理化が進行している。
  粕は脱水され、脱水粕として利用されるか、または廃棄物として処理される。業者に委託する処理経費は約500万円/工場/シーズンで、粕の有効利用はでん粉製造コストを削減する上でも重要な課題となっている。
  でん粉乳はタンパク質などの不純物とでん粉を分離する精製工程に入り、精製には通常2台のノズルルセパレーター(以下NS)(No1−NS、No2−NS)が使用される。NSは遠心力によって比重の重いでん粉と比重の軽い物質(水に溶けている糖、たんぱくなど)を連続的に分離する装置で、この工程で精製されたでん粉乳とBOD濃度の高い廃液(No1―NS廃液、No2―NS廃液)に分けられる。NSで処理したでん粉乳をさらに土肉(不溶性不純物)分離タンクで不純物を除く工場、さらし工程を加えて精製する工場、ハイドロサイクロンでデンプン粒の分級を行う工場、3台のNSを使って精製を行う工場もある。この精製工程の良し悪しがでん粉の品質を左右する。
  精製でん粉は直ちに脱水、乾燥されるもの(同時乾燥でん粉)と生粉溜で一旦貯留され、かんしょすり込みが終わってから、再度NSで洗浄され、脱水、乾燥される貯留でん粉とがある。かんしょでん粉特有の異臭は、貯留するでん粉の洗浄が不十分であると発生する。 
  廃液はBOD濃度が高いため浄化処理を行ってから川に放流しなければならない。以前はかんしょでん粉製造廃液はたれ流し状態であったようであるが、昭和56年から水質汚濁防止法に基づく一般基準が適用されるようになった。そのとき採用されたでん粉工場廃液処理法が長期曝気法であった。広大な容積のたんぱく沈殿池、貯留池と曝気池および沈殿池からなり、たんぱく沈殿池にはBOD濃度の高いNo1―NS廃液を入れ、酸性発酵によってタンパク質を沈殿させる機能を持たせ、貯留池にはNo2−NS廃液を一時貯留しておき、曝気池ではNo2−NS廃液および沈殿池の上澄み液を長期間曝気することによってBOD成分の消化を行う方法である。この方法では曝気池でのBOD消化率が極めて遅く、処理期間が長期にわたるなど問題が多く、代わりに採用されたのが曝気池に汚水処理場から出る余剰活性汚泥を投入し、簡易な活性汚泥池として微生物を育成する方法であった。この方法によって処理日数は大幅に短縮されたが、たんぱく沈殿池の沈殿たんぱくは処理されることなく貯留されたままであったため悪臭発生の温床となった。この問題を解決するため、たんぱく沈殿池または貯留池に汚水処理場の嫌気槽から出る余剰汚泥を投入し、嫌気池とする方法がとられた。
  嫌気池でのBOD消化率は80%以上にもおよび、悪臭発生防止だけでなく排水処理経費の節約効果もあり、でん粉製造コストの削減につながっている。
  このようにかんしょでん粉工場における変革、合理化は磨砕―ふるいわけ工程、排水処理工程においてなされてきたと言って良い。


3.かんしょでん粉製造コスト低減への取組状況

(1)高速磨砕機(ラスパー)の導入効果
  ロール磨砕機と高速磨砕機の機構の概略を図4に示した。


図4 磨砕機の機構概略

写真1 小型のロール磨砕
写真2 小型のラスパー

  ロール磨砕機の場合、回転ロールにじかに目立てを行い、目立ての状態によってでん粉歩留まりが変動すると言われており、従来は熟練工による目立て作業が行われてきた。しかし今日では多くのでん粉工場において熟練工の確保が困難になってきている。
  ラスパーでは回転ロールに取り付けられた切り歯を取り替えるのみで、熟練を必要としない。ロール磨砕機のロール交換は重労働で若い人に敬遠されてきたが、ラスパーの切り歯交換は軽作業で、若い工員の確保が容易になったという現場の声も聞かれた。
  ラスパー導入による最大の効果は歩留まりの向上である。調査したでん粉工場においてはでん粉歩留りが①29%→32%、②30%→31.5%、③30.5%→32.4%と向上し、平均的には1.5%前後の歩留り向上につながっているようである。
  ラスパーによる歩留り向上の理由として次の3点が上げられる。①高速回転のため組織が細かく砕かれ、でん粉が乳状化しやすくなる②磨砕物出口に網があり、網を通り抜けたものだけが排出されるのでコッパ(磨砕されない組織片)が出ない。ロール磨砕の場合押さえ板とロールとのクリアランス(隙間)を通り抜けたコッパが出やすい。歩留まりが29%にとどまっている工場ではコッパの大量発生が懸念されていた。③切り歯の交換による歩留まりの変動がほとんどない。
  高速磨砕機が導入された工場においてはシーブベンドから遠心ふるいへの移行が行われている。高速磨砕ではいも組織が微細となり、従来使用していたシーブベンドでは微細粕とでん粉との分離ができなくなったため、遠心ふるいをセットで用いている。シーブベンドに比べ、網の交換が簡単なため、ふるいわけ工程での人員削減が可能となっている。
  今回調査したS工場、U工場におけるける人員配置例を表1に示した。


表1 磨砕ふるい別工程の改変に伴う人員配置
改造前:ロール磨砕とシーブベンド
改造後:ラスパーと遠心篩

  両工場ともラスパー―遠心ふるい導入によって人員を2人削減することが可能となり、S工場においては磨砕―ふるいわけ工程の合理化によるでん粉製造コストの削減を10円/キログラム程度と見ている。
  しかし、ラスパー―遠心ふるいを導入したでん粉工場においても、既存の装置撤去後にラスパー―遠心ふるいをセットしたため、効率の良い装置配列となっていないように見受けられる。磨砕工程から精製工程を整然と配列することで、作業環境をコンパクト化し作業効率が向上すれば、さらなる人員削減は可能と思われる。目標は集中管理方式による大幅な人員削減であろう。
  副次的な効果として、軽作業化により職場環境が明るくなったとの評価がなされている。


(2)排水処理法の変換がもたらしたコスト削減
  長期曝気法から嫌気―好気処理法への排水処理法の改変に伴うコスト削減について、N工場の事例を示した(表2)。


表2 排水処理経費の削減事例
試算要件
原料いも処理量:4,000 〜 5,000 トン/シーズン
処理日数(排水処理施設の稼働日数):100 日/シーズン
電気料金:16.5 円/ KWH

  高濃度(BODで約5,000ppm)の廃液は嫌気池に導入されるが、約10日間の滞留期間中にBOD値が100ppmまで低下した時もあるようで、活性汚泥槽のBOD負荷を著しく減少させることができるのが嫌気池の最大の利点である。
  また曝気方法も表面エアレーターから酸素溶存能力の高い散気管方式に改良され、処理経費の削減は嫌気池によるBOD成分の自然消化と曝気方式の改良によってもたらされたと言える。最新の散気装置として超微細気泡を発生させる「エアロウイング」方式がある。酸素溶存能力は散気管の2倍強といわれ、この装置を組み入れたU工場での電気代は長期法の時に比べ2分の1以下となっている。
  良好な嫌気池はpH7以上のアルカリ側に保たれるため、悪臭成分である酪酸など揮発性酸の揮散が抑えられることで、悪臭軽減が可能である。
  現在、ほとんどの工場が嫌気―好気処理法を取り入れているが、すべての処理施設で事例のような効果が出ているとは限らない。その原因の一つが嫌気池の容積不足である。
  かんしょ10,000トンをすり込む工場の場合、嫌気池の必要容積は15,000立方メートル以上と広大になるが、不足すると嫌気池では酸性発酵が優勢となり、池のpHは酸性に傾き、揮発性酸による悪臭が発生している事例を良く見かける。また動力費を節約するためには嫌気池、調整池、活性汚泥槽、沈澱池の適正配分が不可欠である。長期曝気法の施設をそのまま嫌気―好気処理施設に転用した場合、曝気池の容積が大きすぎるため表面エアレーターによる曝気を余儀なくされ、電気代の節約は小幅となる。さらに長期曝気法の沈澱池は狭小のため、活性汚泥の沈澱時間が十分とれず、汚泥の流亡が起こるだけでなく汚泥返送が不十分となり、活性汚泥槽を適正に管理できない事態に至る。
  原料いもの慢性的な不足から工場再編の動きもあるが、実施段階においては、すり込み量に見合った廃水処理施設を確保できているかについても充分吟味する必要があろう。


図5 排水処理施設の改造事例

写真3 嫌気−好気処理法での嫌気池及び曝気池

(3)でん粉粕の処理
  19年産でん粉粕の発生量は約26万トンである。処理状況を見てみると、クエン酸原料が40%、畜産飼料28%、畑地還元24%、たい肥原料5%、その他2%となっている。クエン酸原料としてのでん粉粕には、処理経費としてでん粉工場が輸送経費持ちでトン当たり2,000円を支払っているところもあった。すべての工場ではないが、1シーズンで500万円前後の出費となるようである。飼料の場合、畜産農家が引き取りにくるため有価物と見なされ、でん粉工場の出費はない。畑地還元の場合、工場側が運搬費を負担し、農家に無償提供すると産業廃棄物処理の法律に抵触することになる。でん粉粕の畑地への直接還元については施用基準的なものが示されており、工場としてはこの範囲内において有償での提供を選択せざるを得ない。今後畑地還元割合は減少し、減少分をたい肥化での利用促進で賄うことになると思われる。
 このように、でん粉粕の有効利用はでん粉産業界の長年の夢であるが、決め手がないのが実情である。
 でん粉粕のその他の有効利用については試験研究段階でも検討がなされている。注目されるのは、食物繊維としての利用である。かんしょでん粉粕はセルロースのみでなく、ペクチン、ヘミセルロース、リグニンなどの高分子成分を含み、複合的機能を持つ食物繊維として評価されている。抗酸化能、静菌作用、整腸作用、コレステロール低下作用などの機能性が化学的に、また動物実験においても確かめられている。
 しかし、現在のでん粉粕については、脱水効率を高めるため生石灰の添加が行われ、開放的な施設での取扱いのため、土砂などの異物混入が多く、食物繊維源として利用するのは難しいというのが健康食品関連業者の判断である。粕脱水工程での石灰の投入をやめ、かつ異物混入のないでん粉粕(サツマイモファイバー)の製造システムになれば、食物繊維業界の興味を引くことになろう。
 飼料化については、でん粉粕単独の飼料価値は低いので、他の未利用資源(焼酎粕、竹)と組み合わせ、飼料価値を高めようとする試験も始まるようである。
 1円でも2円でも有償で販売して経営を楽にしたいという切実な願いをかなえるためにも、この問題に対する産学官共同の取組みが求められる。


4.原料確保における現状と今後

(1)すり込量確保に向けての動き
  今でん粉工場が最も懸念していることは原料いもが確保できないことである。図6に示すように、でん粉原料用いもの供給量(南九州)は、18でん粉年度までの数年間、17万トン前後で推移し、工場の稼働率は66%(18でん粉年度)にとどまっている。いも供給量とでん粉製造コストは図7に示すように反比例関係にある。25万トンの供給量があった平成14年度の製造コストは40円/キログラムを切っているが、16,17でん粉年度は16万トンの供給で、45円/キログラムに上昇している。製造工程の合理化によって10円/キログラム程度のコスト低減が可能となっているが、供給量の不足はその効果を打ち消すほどの影響をもたらすと言って良い。 


図6 でん粉原料いもの供給量と工場の稼働率
資料:農林水産省 特産振興課

図7 原料いも供給量と加工経費
資料:農林水産省 特産振興課

  でん粉製造費コストを削減する方策としては製造ラインの合理化だけでは限界があり、すり込み量を確保し稼働率を高めることが最重要課題である。
  契約しても契約通りにいもが集まらないという状況で、原料いも確保に対してでん粉工場も前向きに対応しようとする動きはある。その基本的な考えは生産農家と親密な連携関係の構築である。具体例として、Sでん粉工場では自らが農業法人化し、原料いも生産を手がけるとともに、農家に苗の無償配布を行っている。でん粉製造期間が終了後、工員は農業法人で働くため、雇用問題は生じていない。またいもの生産、集荷は12戸の農家代表に任せており、農家代表は自らいもの生産を行うだけでなく、栽培契約、集荷、および収穫作業の請負等によって個人農家と親密に結びついている。
  農業法人化の構想はS工場以外のでん粉工場においても聞かれ、でん粉工場自らがいも生産に乗りだし、生産の場を通して農家との連携を深め、原料いも確保につなげるといった経営展開が芽生える兆しがある。


(2)新品種「ダイチノユメ」にかける期待
  でん粉原料に使われる品種の割合は図8のとおりである。平成7年頃からシロユタカの割合が増加し、コガネセンガンは激減した。でん粉含量の高いコナホマレはでん粉歩留まりを高める品種として期待されたが、栽培が難しいこともあり敬遠されつつある。ダイチノユメはでん粉工場から最も期待されている。


図8 でん粉原料用品種の変遷
資料:鹿児島県流通園芸課調べ

表3 でん粉原料品種の収量およびでん粉歩留り
資料:*鹿児島県農業開発センター大隅支場成果
     **九州沖縄農業研究成果情報
  注:上いもは、1個 50g 以上のもの

  鹿児島県農業開発センター大隅支場の研究によれば、ダイチノユメのでん粉歩留りは、シロユタカに対し、無マルチ栽培で2%ほど高く、マルチ栽培では同等となっている。この品種から製造されるでん粉は、製造現場においては沈澱しやすいでん粉と評価されている。この現象からダイチノユメのでん粉は粒径が大きいと思われるが、粒径の大きいでん粉ほど製造工程中での流亡が少なくなることから、製造現場においてもでん粉歩留りの向上に期待が持てる。その他、①湿田でも高収量、高でん粉含量となり、水田転換畑に導入できる②多肥でも蔓ぼけせず栽培しやすい―といった声が聞かれる一方で、長形になりすぎるため収穫時のいもの切断が問題との指摘もなされた。この欠点は、通常より高畦で栽培することで克服できることが分かっているようで、今後の栽培技術の開発にでん粉関係業界も注目している。
  でん粉歩留まりが1%向上するとどの程度の売上増になるか。19年産の平均すり込量6,300トン/工場を当てはめて試算すると9,923千円となった。ダイチノユメにかける期待の大きさが理解できる。
  でん粉工場サイドから品種改良関係機関に求めることは、栽培の容易さや高でん粉含量であることに加えて、①でん粉粒子が大きい(歩留まり向上)②ポリフェノールが少ない(白度向上)③形状が丸形(流水輸送など取扱が容易)④細胞組織が柔らかい(磨砕効率とでん粉歩留まりの向上)―といった性質を備える品種の育成である。


5.でん粉品質向上に対する取組み

(1)でん粉の品質を落とす要因
  かんしょでん粉に対するユーザーからのクレームとして、異物混入、異臭、規格外(水分含量、pH)、糊化でん粉の混入などが寄せられている。
  特に異臭はかんしょでん粉の食品向けとしての用途拡大を拒む要因となっている。異臭の根源は精製した生でん粉を一度、生粉溜に貯留しておき、原料いもすり込み終了後に再度水洗い、乾燥するかんしょでん粉特有の製造にある。生粉溜では酸性発酵が起こり、酪酸など異臭のある揮発性酸が蓄積されるが、乾燥前の水洗いが不十分であると、乾燥でん粉に残留してしまう。
  生でん粉の貯留は異臭のみでなくでん粉の性質をも劣化させる。でん粉粒は製造工程で与えられる機械的衝撃で損傷する。表4に示すように、急激なブレークダウンの上昇は精製工程で使用するノズルセパレータ処理後に起きており、この過程での損傷度が高いことがうかがえる。同時乾燥でん粉はNS処理を2回受けるが、貯留でん粉は水洗いの段階でさらに2回、合計4回受けることになり、でん粉の損傷が大きくなることは容易に推測される。


表4 製造工程別のでん粉粘度特性
資料: 鹿児島県農産物加工研究指導センター平成11年度成果
注: ラピッドビスコアナライザー(RVA)による糊化特性値を測定

 表5は14のでん粉工場の同時乾燥でん粉と貯留でん粉の品質調査結果である。


表5 同時乾燥でん粉と貯留でん粉の品質比較
資料: 全国澱粉協同組合連合会調べ
注1: 15工場の製品分析値より平均値を表記した。
2: アミログラフ粘度はでん粉濃度6%で測定。
3: 温水溶出でん粉:45℃ 温水に溶出するでん粉量のヨウ素反応比色値

 差が明確に現れているのは溶出でん粉量である。でん粉粒が損傷を受け、でん粉が溶出し易くなっていると解釈できる。アミログラフ(でん粉の粘度変化を測定するための装置)による粘度で貯留でん粉のブレークダウンが大きいこともでん粉粒の損傷を示唆している。
 製造現場において貯留でん粉は比重が軽くなり、土肉分離がしにくいとの指摘もあった。その指摘通り貯留でん粉では「土肉有り」の製品が73%も存在している。生粉溜における貯留は異臭だけでなく、でん粉粒の損傷も引き起こすなど問題が多いことを認識し、かんしょでん粉の品質向上を確実にする上でもなるべく早い時期に同時乾燥に移行すべきである。


ブレークダウンとは

でん粉懸濁液を95℃までかく拌加熱する過程において、でん粉粒は膨潤し、最高に膨潤したとき最高粘度を示す(かんしょでん粉の場合83℃前後で最高粘度に達する)。最高に膨潤したでん粉粒は、その後のかく拌加熱によって破壊され、粘度は低下する。最高粘度から95℃10分保持後の粘度を差し引いた値をブレークダウン(膨潤したでん粉粒が壊れることによって起こる粘度低下)と称し、この値が大きいほどもろいでん粉(損傷の大きいでん粉)と評価される。


(2)同時乾燥への取組状況
  今回調査したかんしょでん粉工場での同時乾燥割合は低い工場では20%であった。特異的であるが1工場が全量同時乾燥を行っていた。同時乾燥に踏みきれない理由としては、かんしょでん粉市場動向の先が読めない中での多額の投資(2トン/h能力の脱水機と乾燥機の増設で約2億円)への不安があった。
  100%同時乾燥しているH工場は糖化用以外向けのかんしょでん粉の割合が約70%で、特異的な存在である。この工場ではNSで精製したでん粉をさらに「さらし」で土肉を除去している。さらしは微酸性としたでん粉乳をかく拌、泡立てて、土肉を泡状にして除去する作業で、この手間のかかる操作を何回も繰り返し、白度94以上のでん粉を製造している。脱水はベルト式真空脱水、乾燥は冷風乾燥で、でん粉粒に損傷を与えない工夫がなされていた。また食品向けであるため、生菌数には細心の注意を払い、生菌数を103/グラム以下にコントロールするため、さらし工程以降の設備は、エアーシャワー室を備えた清潔な施設内に置かれていた。徹底した品質管理に投資できるのもH工場がかんしょでん粉を和菓子原料として供給してきた長い歴史があるからで、新規に食品用かんしょでん粉に進出する場合製造方法の改善が問題となるのは避けられない。


6.かんしょでん粉の用途と特性

(1)かんしょでん粉の用途別需要
  表6によると、かんしょでん粉の用途別需要量のうち食用その他の用途は約1万トンで、かんしょでん粉総需要量の約15%となっている。かんしょでん粉のほとんどが糖化用で、その他の用途が約半分を占めるばれいしょでん粉とは消費の形態が異なる。食用その他の内訳については不明であるが、今回の調査で確認できたものをあげると、和菓子原料など食品用約3,000トン、建材の接着剤3,000トン、魚の飼料用(つなぎとして)250トン、冷麺用4トンである。


表6 かんしょでん粉の用途別需要
(千トン、%)
資料:農林水産省特産振興課

  これら糖化用以外の用途になぜかんしょでん粉が使われるのか、かんしょでん粉の特性を活かした用途事例を以下に挙げてみる。


(2)かんしょでん粉の特性を活かした用途事例
  くず餅、ワラビ餅、落花生豆腐、ゴマ豆腐など高濃度のでん粉を糊化したゲル状食品にとって最も重要なことは、製品が硬くなりにくい(老化しない)ことである。かんしょでん粉は比較的老化の遅いでん粉で、和菓子などに使用されてきた。
  しかし、老化のほとんど起こらないタピオカでん粉がゲル状食品分野に侵出し、かんしょでん粉の食品向けの用途拡大が進まない状況を作り出している
  各種でん粉ゲルを5℃で貯蔵した時の瞬間弾性率(弾性率が低いほどゲルは柔らかいことを示す)の変化を図9で見ると、コーンスターチの変化が最も早く、タピオカでん粉は老化がほとんど進まないことが分かる。かんしょでん粉は品種によって大きな差があり、「クイックスウィート」のでん粉はタピオカでん粉に匹敵する性質を示し、シロユタカのでん粉はかんしょでん粉の中で最も老化しやすい。


図9 各種でん粉ゲルの老化速度
資料:鹿児島県農産物加工研究指導センター

(ゲルの調整)

ワラビ餅の製法に準じて、かんしょでん粉(サツマスターチ、コガネセンガン、シロユタカ、クイックスイート)については濃度13%でゲルを調整した。 タピオカでん粉、ばれいしょでん粉については、製造直後においてかんしょでん粉のゲルの硬さとなるように濃度を調整した(タピオカでん粉20%、ばれいしょでん粉10%)。

  かんしょでん粉は特徴のないでん粉と位置づけられ、これまで試験研究の対象になってこなかった。老化速度一つを見てもかんしょには様々な性質のでん粉が存在することが明らかで、今後の品種開発によっては多様な用途に向くでん粉の出現も期待できる。
かんしょでん粉はゲル状食品分野でタピオカでん粉に押されている現状があるが、同じ強度のゲルを作るでん粉濃度はかんしょでん粉がタピオカでん粉の約2分の1の量であることにも注目したい。
  輸入タピオカでん粉の価格は高騰しつつあり、またタピオカでん粉を原料とした化工でん粉について、添加物としての表示義務が検討されていることを考えると、ゲル状食品分野でかんしょでん粉とタピオカでん粉の立場が逆転することも夢ではない。


―さつまいも冷麺としての用途―

さつまいも冷麺
資料提供:日本有機(株)

 我が国において製造される冷麺の大部分はばれいしょでん粉を原料とし、非常にこしの強い麺と評価できるが、強じんすぎて呑み込みにくいのが欠点とも言える。かんしょでん粉を使った冷麺(さつまいも冷麺)は鹿児島県農産物加工研究指導センターで研究され、平成10年頃に基本的な製造法が開発された。こしは強いがソフト感のある麺で、ばれいしょでん粉を使用した冷麺とは異なる特徴を備えている。
この研究によって、市販のかんしょでん粉の中には冷麺適性のないものがあるということも明らかにされている。ブレークダウンの大きい市販のかんしょでん粉または薬品で処理された漂白でん粉はでん粉粒の損傷が大きく冷麺原料には適さない。同時乾燥でん粉と貯留でん粉との比較では、貯留でん粉のブレークダウンが大きいことは前述の通りで、さつまいも冷麺原料としても高品質の同時乾燥でん粉が求められる。
さつまいも冷麺は日本有機(株)によって商品化された。さつまいも冷麺が2005年にさつまいも食品コンクール、鹿児島県特産品コンクールで鹿児島県知事賞、2006年に優良ふるさと食品中央コンクールで農林水産省総合食料局長賞を受賞したことを受け、同社では、全国展開、海外輸出を視野に入れた展示販売活動を行っている。さつまいも冷麺の評判は良く、国内にとどまらず台湾からの商談もあるようで、手応えを感じているという状況であった。
現在のかんしょでん粉使用量は年間4トン程度と少ないが、2008年に経済産業省・農林水産省の地域産業資源活用事業にも採択され、5年後には現在の100倍程度の売上を目指している。同社は原料かんしょでん粉については、損傷、品質むらが無く、高白度のでん粉の供給を要望しているが、一時原料のでん粉に、においの強いものがあったことから、現在ではメーカーを指定して仕入れているとのことであった。日本におけるさつまいも冷麺の歴史は浅く、認知度も極めて低いが、麺類そのものの市場は大きく、その一部に食い込むことができればかんしょでん粉の用途拡大に大きく貢献できるものと確信している。そのためにもでん粉製造メーカーにあっては、品質の高いでん粉供給体制を確立しておく必要がある。


7.おわりに

 本稿の最後に私見を述べたい。設備投資をして高品質でん粉を作ったとしても、糖化用でん粉では採算性に問題があるため、糖化用以外の用途で高値取引を狙うのはどの工場も同じである。問題はそれらの用途においてかんしょでん粉が食品用の受け皿があるのかどうかということである。かんしょでん粉の全く新しい用途を開発することは簡単にできることではないため、性質がよく似たタピオカでん粉の領域に用途を見いだしていかざるを得ない。現在タピオカでん粉は天然でん粉で約12万トン、化工でん粉で23万トンが輸入されている。この大量のタピオカでん粉がどのような食品に使用されているのかを把握し、タピオカでん粉の代わりにかんしょでん粉を使用したとき、その食品または製品の品質がどう変わるのか検証する作業が必要ではないかと考える。かんしょでん粉の物性に多様性のあることは前述の通りで、かんしょでん粉がタピオカでん粉以上に食品、製品の品質を向上させるものであれば、その情報をユーザーに提供していくということによって、用途拡大の道も開けるのではなかろうか。




このページのトップへ

Copyright 2016 Agriculture & Livestock Industries Corporation All rights Reserved.