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さつまいも茎葉回収機の開発と現状

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年12月]

【生産地から】

鹿児島県農業開発総合センター・大隅支場


1.はじめに

 鹿児島県のさつまいもは約1万4千ヘクタール栽培され、産出される茎葉は約32万トン(以下、t)と豊富な資源であるが、大部分はほ場にすきこまれており、畜産飼料としての利用は8%と低い状況にある。これは収穫時期が一定期間に集中していることや収穫後の調製に係る作業性や貯蔵性、耕種・畜産それぞれの部門の規模拡大による耕畜分離経営の進行などが課題となっているためである。
  飼料価格の高騰などへの対応も含め飼料自給率の向上が求められている中で、さつまいも茎葉を持続的な地場産飼料として将来にわたって活用していくことは重要であり、そのためには茎葉収穫機の開発・実用化が必要不可欠である。
  鹿児島県農業開発総合センター大隅支場では、平成16〜18年度に農林水産バイオリサイクル研究の一環として、九州沖縄農業研究センターや民間企業と共同で「さつまいも茎葉回収機」の開発を行った。現在は、生産現場での適応性や耐久力試験を実施しながら構造上の問題点把握や改善策の検討のほか、畜産研究部門や関係機関と連携しながら大量収穫後の飼料化(サイレージ)試験などを実施している。今回は、これまでの取り組みの中から、研究・開発の一端について紹介する。


2.茎葉回収機の概要

 開発機は全長4.3メートル(以下、m)、全幅1.6m、全高2.9m、機械重量1,740キログラム(以下、kg)、エンジン出力18.4キロワット(25馬力)で、ゴムクローラ走行部、渡りつる切断カッタ部、つる引抜兼搬送ベルト、細断カッタ部、収納部、マルチすそ浮かし部などから構成され、渡りつる切断→つる起こし→引抜・搬送→細断→収納・マルチすそ浮かしを行う。収容量は約400kgで、おおむね100m長の畦(うね)であれば、往復でタンクが満杯となる(図1)。本機は、主にでん粉ならびに加工用(焼酎用)マルチ栽培に適応でき、対応可能な畦形状は図2の通りである。





図1 茎葉回収機の写真と概要

図2 対応可能な畦形状

3.茎葉回収機作業性能

 作業能率は10アール当たり1.1〜1.6時間(手作業の15〜20倍)で、茎葉の収量や品種、ほ場条件によって変動する(図3)。茎葉の回収率はおおむね90%以上が見込め、細断長は3センチメートル(以下、cm)程度で、細断型ロールベーラによる圧縮梱包にも適する。いもの損傷は0.5%以下で、茎葉収穫時にしょ梗と同時に引き抜かれるいも損失が0.5〜0.9%発生し、これは小いもの割合が多い時や、茎葉収穫時期が早い場合に多く発生する(図4)。また茎葉収穫の際に、しょ梗部位を引き抜いて回収する割合は、品種によって差があり、特にしょ梗部位の引抜き抵抗が大きいシロサツマについては、機械抜取成功率が著しく低下する。焼酎用主力品種であるコガネセンガン、でん粉原料用のシロユタカについては、おおむね9割程度は抜き取り回収が可能である(図5)。


図3 作業能率

図4 茎葉回収後のほ場状況

図5 品種ごとのしょ梗引抜き抵抗

4.茎葉利用体系

 回収した茎葉の飼料利用体系としては、青刈給与体系、バンカー(スタック)サイロ体系、ラッピング体系が想定される。各々の作業体系の所要時間(給餌作業を除く)の目安は、10アール当たり茎葉収量3tレベルの時、青刈給与体系1.3時間、バンカーサイロ体系3.6時間、ラッピング体系2.3時間程度である(図6、図7)。なお、回収した茎葉の水分は生育旺盛期(8〜9月)では90%を超え、収穫最盛期(10〜11月)でも80%以上と高いので、サイレージ調製を行う際には添加資材を混合することが望ましい。なお、水分調整を行う添加資材については、ビートパルプ、ふすま、稲わら、乾草などがあるが、これらの添加資材については、コストを勘案しつつ各地の有用資源との併用利用も想定しながら、地域での実用レベルでの検討・検証が重要と思われる。





図6 細断型ロールベーラ利用による調製

図7 バンカー、スタックサイロ調製

表 さつまいも茎葉サイレージ飼料成分組成
※鹿児島県畜産試験場調べ
A: 細断茎葉をラップサイレージ化
B: 細断茎葉をスタックサイロでサイレージ化
BP: ビートパルプ
CP: 粗たんぱく質
CF: 粗繊維
CA: 粗灰分
TDN: 可消化養分総量

5.今後の課題

(1) 茎葉回収機   現在、鹿児島県内2カ所の地域において、実用レベルでの稼働試験(耐久力試験、現地適応性試験)を実施している。この中で、実用化に向け次のような課題が明らかになりつつある。


(1) 地域特有の畦の形状への対応能力向上
  現段階で本機が対応出来得る畦の形状は図2に示した通りである。しかしながら、鹿児島県大隅・肝属地域では、収量(反収)向上と既存の畦立機の有効利用を目的としてタバコ用の大畦(すそ幅55cm以上)を活用する事例も多く見られる。また、鹿児島県南薩地域の礫土壌地帯においては、植付け時の土壌乾燥防止や風による苗の折損を防ぐ工夫として、畦の高さを通常より低く抑える(15cm程度)栽培方法などがとられている。このような地域特有の栽培方法については、回収機に合致する栽培方法をとるよう改善を促す事も必要であるが、これはいも生産者が保有する既存機械の変更や、長年の経験から得られた栽培技術の変更が必要となる事から、短期間での対応は容易でないと思われる。このような事から、実用化までの対策として、多様な畦の形状に対応できるよう回収機の対応能力を向上させていく必要がある。


(2) 品種、収穫時期への対応能力向上
  近年のでん粉用奨励品種は、塊根多収性に加えて、茎葉の収量も多収型のものが多く、10アール当たり5tを超える品種も珍しくない。これまでの現地適応性試験の結果から、現在の茎葉回収機がトラブルなく稼働できるのは、茎葉収量同2〜4tレベルである。また茎葉収穫期が8〜9月の早い時期の場合、葉柄部や茎が柔らかいうえにボリュームが多く、回収機の各回転構造部への絡まりやベルト滑りなどのトラブルが多発し易い。そのほか、つるの立性品種とほ伏性品種でも作業性に差が出てくる。このような、多様な品種や収穫時期に対応する機械構造の見直しも必要である。


(3) 作業能率向上
  作業能率については、茎葉回収後の運搬作業、サイレージ調製作業、いも収穫作業との連携、生産現場でのオペレータ要望などを考慮し、10アール当たりの最大所用時間は1時間程度と思われる。現在、標準的な作業能率は、同1〜1.6時間であることから、作業速度向上や荷下ろし作業のスピードアップなどの対策をとる必要がある。


(4) 機械調整・操作性の向上
  現在の回収機は、生産現場のオペレータから各作用部の調整個所数が多いとの指摘があり、作業中の操作個所も比較的多く、実用化に際しては調整個所と操作個所の簡素化が必要である。


(2) 茎葉調製・利用体系構築
  茎葉収穫機が実用化されれば、大量収穫が可能となり、これらを大量に飼料化するサイレージ技術の導入・普及が前提となる。前述したように、さつまいも茎葉は南九州においては、豊富な地場産資源であるが、水分が多く、サイレージ化に際しては調整資材添加が必要となる。添加資材の選定や実用規模での利用法(成分分析、給与設計など)の検討が重要な課題となってくる。
  また、さつまいも茎葉の飼料化を持続的なものとして地域に定着させるには、いも生産を行う耕種農家(茎葉産出農家)と茎葉を利用する畜産農家との連携を図るための耕畜連携システムの構築も重要な課題である。


6.おわりに

 茎葉回収機については、おおむね実用化の目途は立ったものの、多様な生産現場実態への適応力向上対策、作業性能向上対策、価格低減など解決すべき課題が残されている。今後は、生産現場での実用レベルでの稼働試験を引き続き行いながら、関係機関、JAグループ、民間企業などと連携を図り2010年度の実用化を目指すこととしたい。