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米国のでん粉製品の需給について

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最終更新日:2010年3月6日

でん粉情報

[2008年3月]

国内外の需給動向
(海外)

調査情報部


 米国からの輸入量は、とうもろこしでん粉では全体の10%に当たる3万6,000トンであるが、コーンスターチ用とうもろこしは全体の95%にあたる345万トンにも及んでいる。また、同国では特に異性化糖をはじめとする糖化製品の生産量が1,890万トンと多く、同時に1,430万トンが国内で消費されている。
 このような米国のでん粉製品の需給について、英国の調査会社LMC International社からの報告(2007年11月時点)を基に取りまとめたので紹介する。


1.でん粉製品の需給バランス

(1) 天然(非化工)でん粉

 米国では、甘味料などの原料として使われるでん粉を含めると、世界で第1位のコーンスターチの生産国である。天然でん粉の生産量は表1のとおりであるが、コーンスターチ(乾燥されて食品・工業向けに販売されるもの)の生産量は約260万トンである。また、非常に少量ながら小麦でん粉とばれいしょでん粉も生産されている。ばれいしょでん粉の生産量は、約4万トンであるが比較的安定して推移しており、扱いもPenford Products社をはじめとする一部の企業に限られている。
 輸入量では、ばれいしょでん粉が最も多く、大半をEUから輸入している。また、タイなどからはタピオカでん粉も輸入されている。これらの、ばれいしょでん粉やタピオカでん粉は主として食品産業で使用される。近年、EUで原料ばれいしょが高騰しており、その影響が製品価格に反映された場合には、タイ産のタピオカでん粉の価格に競争力があればばれいしょでん粉に代わって輸入される可能性がある。
 米国では製紙産業、特に段ボール産業がコーンスターチを多く利用している。製紙産業での利益が縮小傾向にあるため、化工でん粉で比較的価格の高いものは、値段の安い天然でん粉に市場を奪われている。


(2) 化工でん粉および膠着剤

 化工でん粉は、化学的または物理的に化工されたでん粉で、製紙、食品およびその関連産業において、糊、膠着剤および増粘剤などの原料として使われる。米国で生産される化工でん粉の95%以上がコーンスターチを原料としており、生産量は毎年4%以上と著しく増加し、2006年には230万トンに達している。化工でん粉の最大の最終用途先は製紙産業である。
 米国の製紙産業は、その規模を考えると、化工でん粉のコストが比較的低い。EUでは繊維資源に比較的乏しく、また、製紙工場で最新の高速抄紙機への投資が増加しているため、価格の高い化工でん粉が、繊維の代わりに製紙業で充填剤として使われたり、最新の機械に対応した非常に高レベルの性能を発揮することを求められたりすることが多い。一方、米国では、EUに比べて安価な種類の化工でん粉が使用されており、エチルスターチ(EUでは、製造に必要な塩素の規制が厳しいため使用されていない。)が主流となっている。
 エチルスターチに限らず、米国では世界各国で用いられる、あらゆる種類の化工でん粉を生産することが可能であり、実際に生産している。また、用途先としても製紙産業に限らず、食品産業での化工でん粉の利用が順調に広がっている。世界で原料価格が高騰を続けるなか、とうもろこしを原料とするでん粉において価格優位性がある米国は、世界市場においてEUのばれいしょでん粉を原料とした化工でん粉からシェアを奪い、存在感を示し始めている。米国は、今後も化工でん粉の輸出競争力を維持し強めるために、国際市場においてさらにシェアを獲得していくとみている。



(3) 糖化製品

 米国では糖化製品産業が盛んであり、これらの生産量は1,000万トンを超え、世界でも突出して多い。炭酸飲料の需要が堅調であることを背景に、異性化糖の需要は長年伸びを示してきたが、アトキンス・ダイエットブームにより、消費者の炭水化物摂取に対する懸念が高まったことも一因となり、甘味料の入っていない飲料(ミネラルウォーターなど)に市場シェアを奪われつつある。
 飲料での需要はほぼ横ばいの状態だが、米国の生産者はNAFTAによりメキシコの異性化糖市場が開放されることに期待を寄せている。しかし、メキシコが過去に実施したように様々な方法で異性化糖の米国からの輸入を引き伸ばす恐れもあるため、米国の製造業者が設備投資し、異性化糖の生産能力を大幅に増強することには政治的リスクがある。そのため、米国のウエットミル業者が短期的に生産能力を拡大させるとは思えず、徐々に拡大することになるだろう。メキシコの清涼飲料の消費量を踏まえると、糖化製品市場は200万トンにまでに成長する可能性があり、市場が安定した場合には、米国の主要なウエットミル業者が最終的に新しい工場を建設することも考えられる。実際、Tate & Lyle社はすでに、アイオワ州フォートドッジでの工場の新設を発表している。これは異性化糖を製造する工場ではなく、まだ着工もされていないが、工場が稼働すれば最終的に糖化製品の生産量が増える可能性はある。
 また、異性化糖のほかに、米国ではぶどう糖と結晶果糖の生産も多く、結晶果糖の生産量は世界最大である。また、ポリオールの主要な生産国でもあり、その中心製品はソルビトールであるが、さらに特殊なニッチ製品も製造している。
 糖化製品は液体製品が中心で流通コストが高いため、世界的にほとんど輸出入されない傾向にあるが、その中でも米国は主要な輸出国である。輸出はほぼNAFTA協定の枠組みの中で行われ、異性化糖のメキシコ向け輸出が大半を占める。しかし、Cargill社などが甘味料を運搬できるタンカーを開発し、現在では、中国から米国に貨物を運んだ後にアジアに戻る船賃の安いコンテナを利用したアジアへの輸出も増えている。しかし、この輸出量は、まだ生産量全体から見るとほんのわずかであり、固体製品である結晶果糖を除くと国内市場向けの生産が大半であることに変わりはない。
 異性化糖では21万トンが輸入されているが、うち20万トンが北米で、カナダからの輸入が大半を占めている。その理由としては、米国のユーザーの中には米国国内のウエットミル工場よりもカナダの工場の方が近い場合があることが挙げられる。



(4) グルタミン酸など発酵製品

 酵素糖化ぶどう糖は低コストの発酵用原料であり、米国ではウエットミル産業で多く生産している。ここ10年をみると、乳酸やリジンなどのメーカーをはじめとする発酵製品の業者が、大手の国内ウエットミル業者と垣根を越えて提携する事例が目立つ。実際に、ウエットミル工場から工場周辺にある多数の発酵製品工場へパイプが直結しており、原料となるぶどう糖がパイプで運ばれている。これにより、大規模な生産能力によるスケールメリットを活かすとともに、ぶどう糖の乾燥と出荷に伴うコストを省くことで、かなりのコスト削減を図ることができる。また、発酵製品は高付加価値の製品である場合が多く、出荷コストなどを価格で吸収しやすい。
 一方、米国産の発酵製品のなかには中国産の製品との競争の激化に耐えることができないものもあり、とりわけビタミンCの生産では苦戦を強いられている。また、中国からはクエン酸やグルタミン酸も多く輸入されている。大規模なウエットミル工場間でクエン酸の生産を統合する動きや、独立系の小規模な工場が閉鎖に追い込まれるケースも見られている。
 生産量は、クエン酸とリジンが多く、いずれの生産も比較的安定しており、ごく一部の工場に生産が集中している。また、リジンのみが米国の輸出量が輸入量を上回っている。他の製品はすべて輸入量が輸出量を上回っており、主な輸入先は中国である。米国でのリジンの主な用途先は巨大な飼料産業であり、そのために大規模で経済的な生産体制が求められる。
 中国ではとうもろこし価格の上昇に伴い原料費が高騰しており、長年にわたって主要な純輸出国であったが、純輸入国に転落する危機を迎えている。しかも、副産物の価格がこのコスト上昇に見合う水準にまで上がっていないため、中国の米国に対する競争力が弱まる可能性がある。この場合には、米国にとっては追い風となって、国内市場向けの発酵製品の生産が一段と拡大することも期待できる。特にリジンは、最近、中国での生産能力の拡大に伴って国際市場価格が低迷し、利益率が低下していたが、需給が逼迫し始めていることから、これを契機に米国での工場稼働率が一段とアップするとみられる。



2.米国のでん粉政策

 米国では、でん粉製品を対象とした支援政策・制度がなく、でん粉製品は市場原理で価格が決められる。EUのように果糖の生産割当も設定されておらず、また、輸出に際しても補助金などは支払われない。しかし、間接的には、穀物(特にとうもろこし)および砂糖、さらに近年ではエタノール関連の政策・制度の影響を受ける。
 でん粉原料であるとうもろこしに関する主な政策には、現在、(1)過去の作付品目および面積に基づいた農家への直接支払、(2)作物を担保にした短期融資制度である価格支持融資制度、(3)市場価格が目標価格を下回った場合に差額を補てんする価格変動対応型支払(CCP:counter-cyclical payment)があり、とうもろこしの価格および農家の所得を支持している。(2)価格支持融資制度(ローン制度)では、市場価格が融資価格を上回っている場合には、農家は融資額と利子を返済して農産物を市場価格で売却するが、市場価格が融資価格を下回っている場合には、担保の作物の質流しを行い融資の返済免除を受けるか、市場価格での融資返済を行いローンレートとの差額分を得るとともに穀物を引き取る。このように、市場価格が融資価格を下回っている場合には、その差額は政府が負担することになる。
 甘味料として競合関係にある砂糖に関する主な政策には、(1)関税割当(TRQ)による需給調整、(2)製糖事業者への販売割当による流通規制、(2)価格支持融資制度(ローン制度)による価格支持などがある。これらの制度により、砂糖価格は高い水準に維持されてきたことから、でん粉製品の一つである異性化糖は価格的に魅力があった。
 また、メキシコとのNAFTAにより、砂糖および異性化糖を含む甘味料市場が、2008年1月より米国、メキシコ両国間で自由化されたことによる影響も、今後、見られるだろう。米国の異性化糖にメキシコ市場が開放されることで、米国の生産者にとっては有利になることが期待でき、メキシコの飲料消費量の予測から最高で年間200万トンの異性化糖が輸出される可能性があるが、輸出増加のペースは遅いとみている。
 バイオエタノールの需要拡大により、近年、でん粉原料でもあるとうもろこしの価格が記録的に高騰している。エタノール関連の政策には、主に、(1)再生可能燃料の使用量を2012年までに75億ガロンにまで増加させることの義務付け、(2)ガソリンに混合されたエタノールへの税額の控除(1ガロン当たり51セント)、(3)エタノールへの輸入関税(1ガロン当たり54セント)があり、これらの支援策がエタノールの需要を生み出している。



3.最近の市場の動向

 エタノール需要の拡大に伴い原料とうもろこしの価格が高騰している。一方で、EUのバイオディーゼル需要の影響を受けて、植物油の価格とともにコーン油の価格が上昇し、また、飼料用穀物の国際価格の急騰の影響を受けて、コーングルテンフィードやコーングルテンミールの価格も上昇するなど、でん粉製造における副産物の価格も上昇している。このように、でん粉製造者にとってはプラスとマイナスの両面での影響となっている。
 このような状況下で、どうもろこしのでん粉製品への仕向量は、USDAのSugar and Sweetners Outlook (January 29, 2008)によると、2006/07年度および2007/08年度ともに前年度に比べわずかな減少に留まっている。
 2007年まではメキシコ向けの異性化糖には割当量が設定されていたが、2007年の異性化糖の輸出は好調で前年を上回り、2006/07年度の割当量23万トン(固形換算)を満たすことになるとみられる。その他の糖化製品の輸出も堅調で、異性化糖と同程度が輸出されている。これまでは割当量によりメキシコへの輸出は阻まれていたが、2008年からNAFTAにより自由化されれば輸出量が伸びることも予想される。異性化糖をはじめとする糖化製品は原料の高騰と生産の逼迫により、例えば異性化糖(42%もの)ではトン当たり2007年には364ドルと前年の302ドルから20%以上、ここ一年で高騰している。
 米国の製紙産業では生産の合理化が進められており、最近、閉鎖に追い込まれた工場もある。この動きは、化工でん粉など製紙に使われているでん粉の需要に影響を及ぼしているが、でん粉製品産業では他の製品の製造に切り替えるなどの対応をとっている。また、リジン生産において、韓国の工場が閉鎖したことや、世界的な生産の合理化が行われるとみられることから、将来的に需給格差が生じると予想される。この動きに対して、米国のメーカーは、近いうちに徐々にリジンの生産を拡大させると思われる。