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タイのキャッサバをめぐる事情

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最終更新日:2010年3月6日

タイのキャッサバをめぐる事情
〜担保融資制度から価格保証制度へ〜

[2009年12月]

【国内外の需給動向[海外]】

調査情報部 調査課


 2008年(暦年)に、わが国が輸入した天然でん粉は約17万トンであったが、このうち、タピオカでん粉が約15万トンを占めている。さらに、そのほとんどはタイからとなっており、輸入量は約14万6500トンに上る。

 このように、タイは、わが国にとって最大の輸入先であり、その生産動向は注視すべきものである。特にタピオカでん粉の原料となるキャッサバについては、政府による市場介入制度が本年10月から変更になるなど、取り巻く状況に大きな変化が生じている。そこで、今回は、タイのキャッサバをめぐる最新の状況について、現地の調査会社であるR&A社からの報告を基にとりまとめたので紹介する。


1.世界のキャッサバ生産の状況  〜タイは世界第2位の生産国〜

 世界のキャッサバ生産量は、2000年の1億7847万トンから2007年には2億2814万トンと、27.8%の伸びを示している。キャッサバは、飼料やでん粉のほか、エタノールの原料としても利用されており、今後も増加傾向は続くとみられている。

単位:百万トン
資料:FAO
図1 世界のキャッサバ生産量

 2007年の国別の生産量を見ると、タイ(2692万トン)は、ナイジェリア(3441万トン)に次いで世界第2位の生産国となっている。第3位のブラジル(2654万トン)もタイと同程度の生産量であるが、ナイジェリアおよびブラジルでは、キャッサバは食用にも用いられており、国内消費量が多いため、輸出余力は比較的小さい。タイでは、キャッサバは生いもの状態で消費されることはなく、全量がでん粉またはチップやペレットなどに加工される。

 このほか、主要生産国の中で最も生産量が増加している国としては、ベトナムが挙げられる。同国の生産量は、2000年の199万トンから2007年には799万トンと、約4倍にまで増加した。タイの関係者によると、ベトナムのキャッサバの大部分はタピオカチップに加工され、中国に輸出されているとのことである。


2.タイのキャッサバ生産の状況

(1) 生産量の動向

 〜2009年は前年増の見込み〜

 タイのキャッサバ作付面積は、前年の農家販売価格の高低に大きく影響される。これは、キャッサバの生産が行われている地域では、作付け可能なとうもろこし、さとうきびといった競合作物の価格と比較し、農家が最も利益の高い作物を選択するためである。

 キャッサバが生産されるのは、主にかんがい用水設備が整っておらず、水の供給を雨水に依存する地域である。地域別の生産量を見ると、東北部が最も多く、次いで中央部、北部となっている。キャッサバおよびその競合作物であるとうもろこし、さとうきびは、かんがい用水設備を必要とする作物が作付け出来ない地域において残された数少ない選択肢なのである。こうした事情から、米、天然ゴム、パイナップル、油ヤシなどと、キャッサバは競合することはない。

 2008年のキャッサバの作付面積は、2007年の農家販売価格がほかの競合作物と比べて高い水準にあったことから、775万ライ(約124万ヘクタール、1ライ=0.16ヘクタール)と前年から1.7%の増加となったが、生産量は天候に恵まれなかったため2515万6000トンと前年比6.5%の減少となった。2009年の見通しについて、主要キャッサバ関連機関(農業経済局、タピオカ関連主要3協会(タイ国タピオカでん粉協会、タイ国タピオカ貿易協会、東北部タピオカ貿易協会)、タイ国キャッサバ開発基金)が2009年8月、東北部、北部、中央部の生産42県を対象に実施した作柄調査によると、収穫面積は778万ライ(約124万4800ヘクタール)、ライ当たり単収は3,567キログラム、生産量は2775万9000トンになるとみられる。当初は、約800万ライが作付けられ、生産量は3000万トンに達する可能性もあるとの予測もあったが、害虫のコナカイガラムシによる食害が数十万ライに上っていることから、見込みは大幅に下方修正された。なお、コナカイガラムシによる被害は、2009年10月現在、まだ解決されておらず、農業協同組合省は農家に注意を促している。


単位:百万トン
資料:タイ農業協同組合省農業経済局
図2 タイの地域別のキャッサバ生産量

資料:タイ農業協同組合省農業経済局
図3 タイのキャッサバ作付面積および生産量


図4 キャッサバに付着したコナカイガラムシ


図5 コナカイガラムシによる被害の様子

(2) 農家販売価格の推移

 〜記録的な高騰から下落、現状は横ばい〜

 キャッサバの農家販売価格は、2004年後半まではキログラム当たり1バーツ前後で推移していたが、その後上昇傾向となり、2008年4月には世界的な穀物不足および原油価格高騰の影響から、同2.23バーツを記録した。しかし、2008年後半からは原油価格の下落に加えて、世界同時不況の影響から、タピオカ製品の需要が減少したために急落し、2009年7月時点では同1.21バーツとなっている。前月の同1.13バーツよりわずかに上昇が見られるが、これはコナカイガラムシの被害により、加工工場へのキャッサバ供給量が減少したためとみられる。


(3) 生産コストの推移

 〜コスト上昇対策としてたい肥を活用〜

 キャッサバの生産コストは、農業協同組合省農業経済局により取りまとめられており、その構成は変動費と固定費に大別される。変動費は、作付けの準備、作付け、施肥、収穫などの労働費および苗、肥料、農薬などの農業資材費など、固定費は、地代、 農業機械の減価償却費などとなっている。1ライ当たりの生産コストは、1997年に1,576バーツであったのに対し、2008年には3,720バーツと2.36倍に増加している。

 農業経済局によると、生産コストが上昇した主な要因は、原油価格と賃金の高騰である。特に、原油価格が高騰した2008年からは、生産コストも急激に上昇している。原油価格の影響を大きく受けるのは、燃料代(トラクターなどの農業機会および収穫したキャッサバの工場への運搬車両用)と化学肥料価格である。これらのコスト上昇を抑えるため、農家は、輸送距離の短い工場に出荷するなどして輸送コストを抑えている。また、肥料に関しては、たい肥を使用するなどの取り組みを行っている。たい肥は、主に近隣の畜産農家から購入している。

 原油価格のほかに、生産コスト上昇の大きな要因となっているのは、タイの経済発展に伴った賃金の上昇である。キャッサバの生産においては、作付け、施肥、収穫と人手に依存する作業が多いことから、賃金の値上がりは影響が大きい。

 キャッサバの主要生産地である東北部ナコンラーチャシーマー県の最低賃金は、2009年1月には、1日当たり154バーツと、1997年1月の138バーツから11.6%の上昇となっている。


単位:バーツ/キログラム
資料:タイ農業協同組合省農業経済局
図6 キャッサバ農家価格の推移

単位:バーツ/ライ
資料:タイ農業協同組合省農業経済局
注:2008年は暫定値、2009年は推測値
図7 農家のタピオカ生産コスト

単位:ドル/バレル
資料:Energy Information Administration,Official Energy Statistics from the U.S.Government
図8 原油の国際価格の推移

単位:バーツ/トン
資料:タイ農業協同組合省農業経済局
注1:生産地における成分構成別小売価格
注2:凡例で示した数値は、左からチッ素、リン酸、カリの含有率である。
図9 化学肥料価格の推移

(4) キャッサバの品種改良の現状

 〜単収増でコスト上昇への対応を図る〜

 前述したとおり、キャッサバの生産コストは上昇しているが、農業協同組合省では、品種の改良および育成管理技術の向上により、単収を増加させ、コストを低下させる努力を続けている。1ライ当たりの単収は、1997年は2,387キログラムとなっていたが、2008年には3,246キログラムと41.9%増加した。

 図12に、キャッサバの1ライ当たり単収の推移を示した。2005年には大きく単収が落ち込んでいるが、これは、干ばつの影響によるものである。また、2008年においても、前年より減少しているが、これは、前年のキャッサバ価格が高水準であったため、これまでキャッサバを生産したことのない農家が作付けを行い、これらの農家が適切な栽培方法をとらなかったことによるものとみられている。

 キャッサバの品種改良は、農業協同組合省畑作作物研究所および農業大学で行われている。これらの研究機関においては、単収、でん粉含有量の増加および病害虫への耐性の向上などを主な課題にキャッサバ品種改良が行われている。

 2007年12月19日に、農業大学にて開発された品種、フイボン80が発表された。この特徴は、従来品種に比べて高い単収(5.7トン/ライ)、でん粉率(23.6%)を有することで、タピオカでん粉やエタノールの生産に適するとされている。同品種は2008年から農家への販売が開始され、現在普及活動が行われている。

 農業協同組合省農業経済局の報告によると、2008年時点で最も多く作付けられている品種は、カセサート50であり、全作付面積の53%を占めている。次いでラヨーン5が21%、ラヨーン90が11%と続いている(表1)。カセサート50がほかの品種と比較して単収が低いにもかかわらず多く作付けられている理由は、多様な気候および土壌への順応性が高いためとのことである。

単位:キログラム/ライ
資料:タイ農業協同組合省農業経済局
注:キャッサバ農家の肥料使用量タイ全国の平均
図10 農家の肥料使用量の動向

単位:バーツ/日
資料:タイ労働省
図11 最低労働賃金の推移

単位:キログラム/ライ
資料:タイ農業協同組合省農業経済局
図12 キャッサバの単収の推移

表1 キャッサバ主要品種
資料:タイ農業協同組合省農業経済局

3.キャッサバ農家保護政策について 〜従来の担保融資制度から、価格保証制度に変更〜

(1) 担保融資制度の概要

 〜多くの問題が続出〜

 タイでは、農産物の組織的な生産管理が行われていないため、農家販売価格が高かった農産物は翌年大量に生産され、供給過剰となるケースが多く見られる。そうした場合、業者は当該農産物を安価で買いたたくため、政府は生産者保護のため市場介入を行っている。この市場介入は、ほぼ全ての主要農産物で採られており、キャッサバもこの対象となっている。

 従来、キャッサバの市場介入は、担保融資制度により行われていた。この制度は、農家が政府へキャッサバを預ける形をとって、その引き換えに政府が設定した「担保融資価格」で農家に対して融資を行うというものであった。これにより、出荷が集中する収穫期に、市場の出回りが調整され、農家販売価格の低下が回避されることを目的としていた。

 しかしながら、価格が回復してからキャッサバを買い戻す農家はごくわずかであり、実質的には政府による買い上げ制度として機能していた。その結果、大量のキャッサバ在庫を政府が保管する上、担保融資価格よりも安価で市場に放出することになっていたことから、政府の財政負担が大きすぎるとの指摘がされていた。加えて、制度の不正な利用が行われ、補助が農家の手に届いていないといった声もあった。

 図11は、キャッサバの農家販売価格と、政府が設定する担保融資価格を比較したものである。担保融資制度価格は、需給情勢を勘案して設定されてきた。2008年前半には穀物価格の高騰により供給がひっ迫したため、農家販売価格が担保融資価格を大きく上回り、担保融資制度はほぼ利用されなかった。一方、2008年から2009年前半にかけては、農家販売価格と担保融資価格が大きくかい離したため、担保融資制度が不正に利用されたとの現地報道が多く見受けられた。


(2) 価格保証制度の概要

 〜農家の登録を行い、保証価格との差額を補てん〜

 こうした状況を踏まえ、2009年10月、担保融資制度は廃止され、価格保証制度が発足することとなった。なお、新制度は、キャッサバのほか米およびとうもろこしが対象となっている。

 価格保証制度の実施手順は、次のようになっている。

①農家は、作付け年度(10月〜9月)ごとに、制度への登録を行う。(当初、登録の期限は9月30日までとされていたが、農家への新制度に関する普及活動が遅れたため、10月末にまで延長された。)登録業務は、農業協同組合省農業普及局の出先機関である各県の農業事務所が担当。

②タイ政府は、当該年度のキャッサバの保証価格をあらかじめ設定する。保証価格とは、農家が生産コストに加えて20〜25%の利益が得られるよう設定されている。2009/10年度のキャッサバ保証価格は、2009年5月、キログラム当たり1.7バーツに設定され、閣議により承認を受けたところである。

③商務省、農業協同組合省など関係機関から成る指標価格設定委員会は、収穫開始後15日ごとに、市場における平均的な売買価格に基づき指標価格を定める。10月1〜15日の指標価格は1.4バーツに、10月16日〜31日は1.45バーツに設定された。

④農家は、キャッサバを収穫し、チップまたはスターチ工場に販売する。その際には工場が設定した価格に従って売買が行われる。

⑤農家は、工場が発行したキャッサバの売買を証明する書類一式を農業銀行に提出し、保証価格と指標価格の差額の補てん金を受け取る。

 ここで注意すべき点は、農家が政府から受け取る補てん金は、保証価格と実際に売買された価格の差額ではなく、保証価格と政府が定めた指標価格の差額となっている点である。10月上旬のナコンラーチャシーマー県農家の一部を例に挙げると、工場にキログラム当たり1.7バーツで販売した上、当該期間の指標価格が1.4バーツであったため、さらに政府から補てん金として0.3バーツ(保証価格1.7バーツ―指標価格1.4バーツ)を受け取り、実際の収入として、キログラム当たり2.0バーツを得たとのことである。逆に、指標価格が保証価格を上回った場合は、指標価格よりも低い価格でしか売れない場合でも、補てんを受け取ることが出来ないというケースも発生し得る。


単位:バーツ/キログラム
資料:国内取引局及び農業経済事務局
図13 キャッサバ担保融資価格と農家販売価格の推移

表2 タイ政府によるキャッサバ市場介入政策に関する主な動向
資料:聞き取り調査および現地報道より作成

(3) 新制度についての関係者の意見

 〜概ね賛同、期待感はあるが懸念も〜

 新制度の導入について、タピオカでん粉工場、農家などの関係者によれば、ほとんどの者が好意的に受け止めていた。これは、これまでの担保融資制度により市場の需給バランスが大きく崩れるという問題が是正され、農家販売価格が市場原理に従ったものになること、そして、これまでの担保融資制度に比べてより効率的に農家を援助できると期待されているためである。

 キログラム当たり1.7バーツに設定された保証価格に関しては、妥当との意見が大多数であった。しかし一部の生産者からは、今回の保証価格は、キャッサバの作付面積が4ライの農家をモデルとして算出されているため、4ライ以下の農家は保証価格では利益が得られず転作を余儀なくされるのではといった指摘もあった。

 また、関係者の多くは、従来の担保融資制度により不正に利益を得ていた者について、新制度導入により不利益を被ることとなるため、不満分子として潜在しているのではと懸念を表していた。

 このほか、新制度の課題として挙げられたのが、キャッサバ農家の登録業務を、正確かつ適切に実施できるかということであった。今回は初回の実施であり、キャッサバ生産農家のデータベースを新たに構築しなければならないため、登録作業を担当する各県の農業事務所の作業量は膨大なものとなっている。併せて、登録された面積が、事実に沿ったものであるかどうかの確認も必要になるが、農業指導員のみで行うことは、現実として不可能である。現在は、村長などへも依頼して対応しているところである。ここで懸念されているのは、登録を行っていない農家が、収穫期に入ってから、補助金の対象とならないことに気付き、政府の周知が十分ではなかったことを理由にして、デモなどを行う可能性である。このことについて、農業経済局長などによると、現時点では、新制度下において登録を行わなかった農家は価格保証の対象としない方針であるとのことであった。この方針は、新制度の定着に必要なことで、初年度が成功裏に終われば、次年度年以降は農家の収入は安定し、農産物の価格競争力も向上するだろうと述べていた。

 しかしながら、キャッサバ農家は、農家人口において稲作農家に次いで大きな割合を占めており、政権に与える影響は小さくない。キャッサバ農家が登録の不備や指標価格と実際の販売価格のかい離などを発端として新制度に不満を持つような事態が生じた場合、政府が毅然とした態度を保てるかどうか注目される。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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