畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2019年 > 全米生乳生産者連盟(NMPF)年次会合の概要(米国)

全米生乳生産者連盟(NMPF)年次会合の概要(米国)

印刷ページ
  2019年11月4日から6日にかけて、ルイジアナ州ニューオーリンズにおいて、全米生乳生産者連盟(National Milk Producers Federation:NMPF)、全米デーリーボード(National Dairy Promotion and Research Board:NDB)、全米乳業協会(United Dairy Industry Association:UDIA)の合同年次会合が開催された。このうち、NMPFの年次会合で行われた一般講演について報告する。
 翌週には大手乳業企業であるDean Foods社の倒産という報道が米国酪農乳業会を騒がせることとなるのだが、本会合そのものは全体的に明るい話題に終始した。例えば、米国内での乳製品消費量は増加傾向にあり、乳価も改善がみられていることから、今後の需給見通しは明るいとの見解が示された。本会合の登壇者はいずれも米国酪農乳業界を代表する面々であり、それぞれの講演の要旨は以下の通りである。

(1)Randy Mooney会頭(NMPF)

 報復関税の影響で米国産乳製品は15億ドルの損失が生じており、市場活性プログラム(MFP)などの米国政府から損失補償が行われているが、埋め合わせには全く足りていないため、これらの問題が少しでも改善するよう、酪農家のために米国政府に働きかけ続けていきたい。最近のNMPFの成果の一つとしては、従来のセーフティネットである酪農マージン保護プログラム(MPP)からDairy Margin Coverage(DMC)というプログラムへの刷新が挙げられる(注1)。この刷新によって、(ア)掛け金が優遇される生産履歴の拡大、(イ)保証水準の拡大、(ウ)飼料コストの算出に高品質のアルファルファを追加、(エ)5年間の長期割引−という改善が行われた。補填が発動しやすくなり、柔軟性が高まったことは、小規模酪農家にとってもメリットが大きいと考える。

 (注1)DMCの詳細については下記リンク先を参照されたい。

(2)Alan Bjergaコミュニケーション担当副会長(NMPF)

 消費者の誤解を招く、アーモンドミルクやソイミルクに代表される“Fake milk”への対応は最優先事項である。“Fake milk”を利用した商品や、細胞培養技術によって製造される乳製品が新たに登場することが想定されることから、乳製品の定義づけも含め、厳正に対処していきたい。また、“Fake milk”の真実を明らかにし、本物の乳製品の利点を消費者に伝えていきたい。

(3)Jim Mulhern会長兼CEO(NMPF)

 直近5年間は米国の酪農業界は経済的に厳しい状況であった。しかし、最近は乳価が上昇してきたことや、DMCという新たな酪農セーフティネットが整備され、酪農家にとっての明るい見通しが増えてきた。
 世界的な貿易状況に関しては、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA:United States–Mexico-Canada Agreement)(注2)によりメキシコ向けの乳製品のアクセスを確保すること、中国との貿易紛争を終わらせることが重要である。EUが米国乳製品の大事な市場であるメキシコや日本と貿易協定を締結したことは懸念材料である。

 (注2)USMCAの政府合意と米国等の酪農乳業界の反応については下記リンク先を参照されたい。

(4) Frank Mitloehner教授(カリフォルニア大学デービス校)

 気候変動対策に関して、畜産業が温室効果ガスの排出量増加に大きな影響を与えているという誤解が広まっているが、決してそんなことはない。米国の温室効果ガスの排出量をみれば、農業からの排出は9%であり、二酸化炭素だけに限れば畜産分野からの排出量は0.5%程である。ビーガン(絶対菜食主義者。食肉に限らず、卵や乳製品等の畜産物も口にしない)による「畜産分野は環境への影響が大きい」という主張は、運輸業界や電力業界による影響の大きさを考慮しておらず、的を射ていない。それよりも、米国で消費されるカロリーの3分の1は食品ロスによって失われているという現実に目を向けるべきである。苦労して生産したものを、食することなく廃棄している割合の大きさを考慮すれば、食品ロスの方がはるかに環境への影響は大きいと考えられる。また、途上国では畜産業による排泄物の処理が未熟である等の技術的な問題により、より温室効果ガスの排出量が多いため、畜産技術の普及を図る必要がある。気候変動対策は必ず取り組まなければならない課題であることは間違いないが、実行可能な範囲で行うべきである。
1
講演の一幕:植物由来食肉代替食品とドッグフードの成分表の比較(注3)
講演の一幕:植物由来食肉代替食品とドッグフードの成分表の比較(注3)

(注3)環境と健康に優しいと話題の植物由来食肉代替食品に関して、「ドッグフードと同じ様な原材料を用いた食品が、本当に人間の健康と環境に優しいものなのか」を問いかけていた。

※ 写真(下)のA、Cが米国で販売されている植物由来バーガーのパティ、Bがドッグフードの成分。

【調査情報部 令和元年12月18日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9533