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USMCA紛争解決パネル、カナダの乳製品輸入に係る関税割当の運用を協定違反と裁定(米国、カナダ)

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 米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)紛争解決パネル(以下「パネル」という)は2021年12月20日、カナダの乳製品輸入に係る関税割当に関する調査結果をまとめた報告書を公表した。本紛争では、米国通商代表部(USTR)が21年5月25日、カナダ政府が乳製品輸入に係る関税割当の一定割合をカナダ国内加工業者向けに確保していることはUSMCAの条項に違反しているとし、パネルの設置による関税割当の配分措置の是正を求めていた(注1)

1 パネルによる調査結果

 パネルは、条約で使用されている用語、条約の文脈、条約の目的・効果などから、乳製品輸入に係る関税割当のうち85〜100%を加工業者(追加・最終加工業者を含む)に限定するカナダ政府による配分方法は、「締約国が別段の合意をしない限り、割当量へのアクセスを加工業者に制限しない」ことを担保できず、条約第3.A.2.11.(b)条(注2)に整合しないと判断した。
 一方で、条約で定められた範囲で関税割当をどのように管理するかという割当制度の設計は輸入国側の裁量に委ねられていることにも言及した。具体的には、カナダ政府による生乳供給管理制度自体を否定するものではなく、現行の関税割当の配分が条約に整合していないことが問題であり、例え加工業者に多くの配分があったとしても、それが条約に整合する適正な配分の結果であれば、受け入れられるものであるとした。
 なお、カナダ政府は本報告書の公表から45日以内(22年2月3日まで)に是正措置を講じなければならない。

2 米国政府とカナダ政府の反応

(1)米国政府

 USTRのタイ代表は22年1月4日、「貿易協定を適切に履行し、米国の生産者や農業従事者に利益をもたらすことは、バイデン政権の最優先事項である。この歴史的な勝利は、米国乳製品に対する不当な貿易制限を撤廃し、USMCAの恩恵を十分に受けられるようにするものである」と述べた。  また、米国農務省(USDA)のヴィルサック長官も同日、「本判決は、米国乳業界がUSMCAの利点を最大限に発揮し、高品質な米国産乳製品のカナダ市場への本格的なアクセスを実現するための大きな一歩である。また、米国が不当な貿易制限に断固として立ち向かい、国外市場への完全かつ公正なアクセスを確保していくという意思を貿易相手国に伝えることにもなる」と述べた。

(2)カナダ政府

 エング国際貿易・輸出振興・中小企業・経済開発大臣およびビボー農務・農産食料大臣は同年1月4日、「パネルの調査結果はカナダを圧倒的に支持するものである。特に重要な点は、カナダの生乳供給管理制度(注3)の正当性を明確に認めたことであり、関税割当の配分を同制度に沿った形で管理する裁量を有しているとされた。カナダ政府は、国際協定による約束と義務を真摯に受け止めており、次のステップに向けて、乳業界と緊密に連携していきたい」との声明を発表した。

3 業界団体の反応

 国際乳食品協会(IDFA)、全米生乳生産者連盟(NMPF)、米国乳製品輸出協会 (USDEC)、カナダ国際チーズ協議会(ICCC)、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)、ニュージーランド乳業協会(DCANZ)は22年1月4日、パネルの調査結果を称賛した。
 IDFAのダイクスCEOは、「世界の乳業界のパートナーとともにパネルの調査結果を歓迎する。カナダの乳製品政策の説明責任を追求することは喜ばしいことである」と述べた。また、NMPFのマルハーンCEOは、「パネルの調査結果は、数百万人の米国酪農・乳業関係者にとって重要な勝利である。バイデン政権と連邦議会議員に感謝したい」と述べた。
 さらに、ICCCのペリシオーネ会長も、「パネルの調査結果を歓迎する。協議会の会員であるカナダの中小企業は、最終的に消費者に係るコストの削減、既存システムに不足していた安定性と公平性の実現により、カナダの輸入業者が手頃な価格でチーズを消費者に提供できるようなカナダ政府の政策を期待したい」と述べた。
 一方で、カナダ酪農生産者協会(DFC)は、関税割当に関して裁量を持つカナダ政府の立場を支持することを表明した。

注1:詳細は、「米通商代表部、カナダの乳製品に対しUSMCA下で初のパネル設置を要請(米国)|農畜産業振興機構 (alic.go.jp) (令和3年6月2日発)」を参照されたい。

注2:条約第3.A.2.11.(b)条
 関税割当を管理する締約国は、次のことを保証しなければならない。
 締約国が別段の合意をしない限り、割当量の一部を生産者グループに割り当てたり、国内生産物の購入を条件に割当量へのアクセスを制限したり、割当量へのアクセスを加工業者に制限したりしない。
 締約国は、条約第3.A.2.11.(b)条が以下の4つの条項に分けられることに同意する。
 (1)締約国が別段の合意をしない限り(合意条項)、(2)締約国は「割当量のいかなる部分も生産者グループに割り当てない(生産者条項)」、(3)締約国は「国内生産物の購入を割当量へのアクセスの条件としない(国内生産条項)」、(4)締約国は「割当量へのアクセスを加工業者に制限しない(加工業者条項)」ことを確保しなければならない。

注3:生乳供給管理制度
 カナダでは、(1)計画生産、(2)価格支持、(3)輸入規制の3つの柱に基づき、国内の生乳・乳製品の供給が管理されている。
(1)計画生産
 生乳生産量が市場需要量の範囲内に収めるよう、カナダ酪農委員会(CDC)が需要量と供給量を毎月算出・設定。
(2)価格支持
 生産・販売される生乳はすべて、生産者から各州の生乳市場委員会に販売することと規定。同委員会は生産者から買い取った生乳を加工業者に販売。 加工業者が支払う価格と生産者が受け取る価格は、生乳の最終用途によって異なり、「調和乳分類システム」として整理。
(3)輸入規制
 カナダは、供給管理された製品について関税割当を設定し、一定量を無税または低関税で輸入することにより、貿易相手国に市場アクセスを与えている。その際には、輸入乳製品の数量を記録し、供給量(国内生産量+輸入量)が国内需要量と一致するよう輸入管理を行い、総生産割当量の算出にデータを使用。
【調査情報部 令和4年1月12日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9805