英国が米国と貿易協定合意、EUは追加対米報復措置を発表(英国、EU)
英国政府は2025年5月9日、米国との新たな貿易協定の締結に合意したと発表した。関税政策をめぐり米国と各国との交渉が続く中、英国が初めて合意を発表した国となった。
一方、EUの欧州委員会は5月8日、米国との交渉が不調に終わり追加関税が撤廃されない場合、報復措置として新たに農産物や工業製品などへの報復関税を適用すると発表した。
米英は牛肉に新たな関税割当を設定
米英両政府の発表によると、今回の合意により、英国から米国に輸出される鉄鋼・アルミニウム製品や自動車への追加関税が撤廃もしくは引き下げられる一方、米国から英国に輸出されるエタノールに14億リットルの無関税枠が設定される。また、農産物の非関税障壁の撤廃に関する協議を進めていくとされた。
加えて、今回の合意には、両国が設定している牛肉の関税割当について、英国が設定する米国産牛肉1000トンの関税割当(関税率20%)を無税とし、新たに1万3000トンの関税割当(無税)追加が盛り込まれた。また、米国が設定する英国を含む複数国が利用できる関税割当6万5005トン(注1)のうち、1万3000トンを英国に配分するとされた(図)。
(注1)複数国枠には、日本、ブラジル、英国、アイルランド、オランダ、フランスなどが含まれ、枠内税率は4.4セント/キログラムとなり、枠外税率は26.4%となる。2024年の使用状況はブラジル96.8%(6万2458トン)を占め、日本は0.6%(403トン)、英国は0.2%(161トン)を占めた。
両政府は、米国産の農産物などの関税の引き下げについて可能な限り早急に交渉を進めるとしている。英国政府によると、米国産農産物の輸入に対して英国の食品安全基準が損なわれることはないとしており、特定の成長ホルモン類を投与した牛由来の米国産牛肉は除外されているとみられる。
なお、米国がすべての国に課した10%の関税は維持される。
全英農業者組合(NFU)は声明の中で、牛肉の米国市場へのアクセスが強化されたことなどを評価する一方、無税でのエタノールの輸入により、国内のバイオ燃料需給が緩和し、バイオ燃料の原料生産者の収益性悪化を懸念するとした。
英国食肉加工協会(BMPA)は、米国産牛肉の無税枠の設定・拡大について、米国から主にロイン系などの高級部位の輸入が増える可能性を指摘した。同協会によると、追加の無税枠1万3000トンは英国が生産する高級部位の約30%に相当することから、同枠の全量が使用された場合、英国の生産者にとって厳しい競争を強いられるとして、政府に対して関税割当数量などを慎重に設定するよう求めた。
EUは交渉次第で更なる報復措置を実施
EUは4月14日、米国が3月から開始した鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税強化の対抗措置として、米国からの輸入製品に対する報復関税を課すと発表しており
(注2)、5月8日の発表では今後の交渉次第で950億ユーロ(15兆5487億円:1ユーロ=163.67円
(注3))にのぼる追加の報復関税措置を取ると表明した。
新たに公表された追加報復関税の対象候補となる製品の中には、豚肉やハムなどの食肉加工品、大豆かすなどが含まれる(表)。一方、乳製品については前回に引き続き対象外とされた。
(注2)4月9日に米国が相互関税の適用を90日間延期すると発表したことをうけ、7月14日まで適用が一時停止された。詳細は海外情報「欧州委員会、米国の鉄鋼・アルミニウム関税に対し、農畜産物を含む対抗措置内容を公表(EU)」をご参照ください。
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2025年4月末TTS相場。
欧州委員会によると、6月10日までのパブリックコメントに基づき最終的な追加の報復関税の対象を決定するとされている。
また、欧州委員会は米国の一連の関税強化についてWTOへの提訴に向けて調整を進めていることも明らかにした。
【藤岡 洋太 令和7年5月14日発】
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