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EUと英国、衛生植物検疫に関する新たな協定の締結で合意(EU、英国)

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 欧州委員会と英国政府は2025年5月19日、EU・英国間の農産品・食品貿易の促進のため、新たな衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)を締結し、共通のSPS圏設置を目指すことに合意したと発表した。同日、2020年の英国のEU離脱(ブレグジット)後初となるEU・英国首脳会談が実施され、エネルギー、防衛・安全保障・開発や漁業など多分野で関係を強化することで合意しており、今回のSPS協定の締結もその一環である。

SPS協定の方向性

 ブレグジット後、両者間の貿易ではそれぞれが設定したSPSの要件(注)を満たすことが求められ、事務手続きによるコスト増や検査による物流の所要時間の増加などが課題となっていた。
 
(注)英国が実施しているSPS要件については、海外情報「EUとの国境措置を4月30日から強化(英国)」をご参照ください。
 
 今回の合意では、新たなSPS協定により食品・衛生・植物検疫安全の基準などの関連するEUと英国の規制の整合性を保証し、英国は必要に応じてEUの関連規制をただちに適用する措置を講じるとされている。
 英国政府によると、共通のSPS圏設置により、
(1) 輸出衛生証明書、植物衛生証明書、有機産品に関する検査証明書の廃止および販売基準証明要件の廃止
(2) 農産品・食品に対する定期的な国境検査の廃止(現状、英国産のEU向け食肉や乳製品は書類検査が必須であり、抽出率最大30%の現品検査も実施されている)
(3) 英国産の生ソーセージ、ハンバーガー用パテ、たねいもや一部の貝類のEU向け禁輸措置の解除
(4) 英国本島と北アイルランド間の移送の簡素化
 などが図られ、輸出コストの削減になるとされている。

両者間の食肉・乳製品貿易の状況

 英国にとって畜産物の輸出に占めるEU向けの割合は特に大きく、牛肉86%、豚肉49%、チーズ78%(いずれも2024年)であった。しかし、EU向けの輸出量は、ブレグジット前の2019年比で減少している(表1)。英国農業・園芸開発委員会(AHDB)によると、ブレグジット後のEU向け畜産物輸出コストは国境措置対応のため5〜8%増加しており、これは英国畜産業の課題の一つとなっている。
表1
 EUの英国向け畜産物輸出の割合は英国の場合と比較して大きくはないものの(表2)、24年の輸出量を見ると英国向けは、牛肉およびチーズが第1位、バターが第2位、豚肉が第3位となるなど、EUにとっても英国は重要な輸出先となっている。
表2

業界の反応

 EU、英国の農業関係団体は、本合意についていずれも歓迎の意を示している。
 EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa−Cogeca)は、貿易業者団体や食品飲料メーカー団体と共同で首脳会談前に声明を発表し、SPS協定の交渉に取り組むことを求めていた。今回のSPS協定の締結により、国境を越えたサプライチェーンの効率性、確実性が向上するとしている。また、欧州乳製品輸出入・販売業者連合(Eucolait)は、SPS協定の締結により、双方の乳製品部門の競争力が強化され、また企業は煩雑な手続きから解放され、高品質の製品製造に専念できるとしている。
 AHDBは、今後もEUは英国にとって重要な市場であり、今回の合意は、両者間の貿易の円滑化と英国畜産業の安定的発展に寄与すると評価している。
【調査情報部 令和7年5月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397