EUとウクライナ、新たな貿易措置で合意(EU)
欧州委員会は2025年6月30日、ウクライナとの新たな貿易措置について合意したと発表した。EUはウクライナに対して、ロシア侵攻後の22年6月から25年6月5日まで輸入関税と輸入割当を停止する自主貿易措置(ATMs)を実施してきた。しかし、域内農家への配慮などからATMsは延長されず、6月6日以降は、16年に発効した「深化した包括的自由貿易協定(DCFTA)」に基づく関税割当が適用されている
(注1)。
(注1)海外情報「EU、ウクライナ産農畜産物の輸入関税停止措置が失効(EU)」をご参照ください。
新たな貿易措置の概要
(1)貿易自由化の促進
一部の品目について、EU、ウクライナ双方がDCFTAで設定されている輸入割当数量を撤廃(自由化)または拡大する。具体的な割当数量は、合意発表後の7月4日に公表された。
ウクライナからEUへ輸出される畜産物製品のうち、全粉乳やはっ酵乳など乳製品の一部は完全自由化され、ミルクやクリーム、脱脂粉乳、バターなどの割当数量が拡大される。一方、EU域内需給への影響が大きいと見込まれるトウモロコシ、家きん肉、卵などは、割当数量がDCFTAの水準から拡大されるものの、ATMs適用下であった2024年のセーフガード発動基準数量(注2)を下回る数量が設定された。砂糖類も同様に、DCFTAの割当数量2万70トンから13万7500トンまで大幅に割当数量が拡大されるものの、24年のセーフガード基準数量26万2653トンには及ばない。また、牛肉および豚肉の割当数量はDCFTAの水準が据え置かれる(表1)。
(注2)2024年のセーフガード発動基準数量は、21年下半期から23年までの輸入実績に基づき設定された。
また、EUからウクライナへ輸出される豚肉、家きん肉および砂糖の輸入割当数量が拡大される(表2)。
ただし、今回の貿易措置によりEU域内または加盟国国内の需給に影響が生じた場合、新たなセーフガード発動を検討することも合意されている。セーフガード発動に当たっては、加盟国レベルでの評価が可能となっている。これは、ATMs導入後、特にウクライナ近隣のEU諸国から、ウクライナ産品の輸入量増加による自国内需給への影響を懸念する声が大きかったことに配慮したものとみられる。
(2)EUの生産基準への準拠
農畜産物の貿易自由化・関税割当拡大は、ウクライナが2028年までにEUのアニマルウェルフェア、農薬・動物用医薬品の使用に関する生産基準などに段階的に準拠することが条件となり、ウクライナは、取り組みの進捗状況をEUに毎年報告する。
(3)ウクライナの従来市場へのアクセス確保への支援
EUは、ウクライナがロシア侵攻前の従来市場を含めた国際市場への輸出機会を確保するための支援を行う。
関係団体の反応と今後の流れ
EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は、欧州砂糖製造者協会(CEFS)、家きん加工・取引事業者協会(AVEC)など8団体の共同声明で、ウクライナ産農畜産物に対するEU基準の適用やセーフガード措置の設定について前向きに評価するとした。
一方、ウクライナの農業業界団体であるウクライナ農業ビジネスクラブ(UABC)は、今回の措置はATMs実施時より輸出を制限するものであり、輸出収入の減少は国家を弱体化させるリスクになり得るとした。また、EU基準の適用の要求やセーフガード措置発動基準があいまいなことに懸念を示すとともに、従来市場へのアクセス確保の支援が具体的に示されていないことも指摘している。
本合意内容は、EU、ウクライナそれぞれで必要な承認手続きを経て、EU・ウクライナの連合協定に基づき設立された委員会で採択された後に適用される。
【調査情報部 令和7年7月10日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397