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中国農業農村部、優良な新品種の普及に向けて取り組みを振り返り(中国)

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 中国は五カ年計画制度を採用しており、2025年は今期第14期5カ年の最後の年に当たる。26年から30年までの次期第15期5カ年に向け、各種政策分野に関する計画(中国ではこれらを略して「十五五」と称する)の策定が進められる中、政府系メディアの人民網は11月14日、「農業農村部が全国種苗業振興行動現場会を開催し、十五五計画に向けて種苗業振興行動(注1)の進捗と成果を振り返った」と報じた(中国語の「種苗」には植物の苗のほか、家畜・家きんの種豚、種牛なども含まれる)。
 報道によれば、会議において同部責任者は、「わが国の種苗供給源の安全性レベル(注2)はこの5年で着実に向上し、農作物について自主育成品種が占める割合は95%以上に、家畜・家きんおよび水産資源の自国産種苗が市場に占める割合はそれぞれ80%と85%を超えるまでになった」と発言した。また、これらの成果は、21年に策定された「種苗業振興行動方策」の「1年目は良い出だしを、3年で基礎を打ち立て、5年で成果を出し、10年で重大な突破を実現する」との実現に向けて「遺伝資源の保護・利用、技術の刷新、企業の育成、国家級種苗基地の質的向上、種苗市場のクリーン化という五大行動」を全面的に実施してきたことで得られたものであるとした。あわせて、次期5カ年期間においては、種苗業に関する科学技術の自立自強と種苗供給源の自主コントロール(注3)を実現すべきであることが強調された。

(注1)種苗業振興行動方策の概要については海外情報『中国農業農村部、畜種や野菜など種苗振興に関する政策の中間総括を実施(中国)』(令和6年7月9日発)を、種苗業振興行動方策の進捗状況と遺伝資源に関する取り組みについては海外情報『中国農業農村部、農畜産物の種苗産業の進展状況について説明(中国)』(令和7年7月16日発)をそれぞれご参照ください。
(注2)近年中国は食糧の安全保障を重視しており、遺伝資源を含めた種苗の国産比率の向上やその安定的な供給の確保などをまとめて「種苗供給源の安全」と表現することがある。
(注3)中国語では「科技自立自強、種源自主可控」であり、「種苗供給源の自主コントロール」とは、他国に頼らない優良な研究開発を進めていくことと同じく、中国由来の遺伝資源を捕捉し、保存し、優良な自国育成品種を開発し、普及することなどによって、輸入に頼らずに優れた種苗の育成や供給を行うことを指す。

参考:「2025年国家農作物優良・普及対象品種目録」および「農畜産業を主導する品種・技術」について

 「種苗供給源の自主コントロール」に関連して、農業農村部は2025年7月、「2025年国家農作物優良・普及対象品種目録」および「農畜産業を主導する品種・技術」(以下合わせて「目録等」という)を公表している。その公表時に同部が中国メディアに説明した主な内容を以下に紹介する。

(1)目録等の作成目的

 2025年の一号文件(注4)は、「食糧等重要農産物の安定供給を保障する力の継続的な強化」として「食糧・油糧作物の大規模面積における単収引き上げ行動を深化する」こと、また、「種苗業振興行動方策」を深化させ、(極めて優れているが故に栽培面積占有率が急速に拡大するなどの)突破力ある品種群の育成の加速などに言及した。
 近年の育種目標は、収量の多さだけを求めるものから、収量が多いだけではなく品質も良く、環境配慮型でもあることを求めるものへと転換しており、それによって多様な新品種が生み出され、生産現場が求める多様な品質に対応できるようになってきた。しかしながら、品種が多過ぎることによって農家が科学的により適した品種を選ぶことが困難になっているなどの問題が一部で生じている。
 このため、今回、食糧や油糧作物などを重点的に取り上げた目録等を作成することによって、かねて進めてきた「四良」(優れた農地、優れた種苗、優れた農業機械および優れた農法)を融合的により一層推進し、食糧など重要農畜産物の供給保障能力を継続的に引き上げていくこととした。
 
(注4)中国政府が毎年公表する文書のことであり、旧暦の元旦(春節。2025年は1月29日)が過ぎてから公表される。その年に最も重視する政治課題が取り上げられるとされ、04年からは毎年「三農」(農業、農村、農民)が主題とされてきた。

(2)目録等の主な内容

ア 「2025年国家農作物優良・普及対象品種目録」
 目録は、合計21種、326品種の優良な農畜産物を収録している。食糧作物だけでなく糖料、雑穀、果樹なども含まれており、「食糧、綿、油糧、糖料」と「瓜、野菜、果物、茶」をすべて網羅している。このうち、水稲、小麦、トウモロコシ、大豆やアブラナ、らっかせいなどの食糧作物と油糧作物は191品種で、60%近くを占める。野菜として利用するかんしょ品種、ハミ瓜(中国で一般的に流通しているウリ科の一種でフルーツとして食されるもの)、フルーツきゅうり(中国のきゅうりは加熱調理されることが多いが、フルーツきゅうりはフルーツと同じように生で、デザートとして食べられる品種を指す)、醸造用こうりゃんなど、市民が好み、市場でも歓迎され、今後拡大が見込まれる特色ある品種も収録した。
 食糧・油糧作物については、単収が高く、倒伏抵抗性があり、総合的な病害虫への耐性も強く、機械化にも適しているものを選定した。また、適地栽培を意識し、アルカリ耐性が優れている、栽培期間が短いなどの特性を持つ品種や、近年の異常気候の増加に伴う病害虫被害の頻発や高温障害などに耐え得る水稲、節水型で乾燥に強い小麦品種、高温耐性があり根腐病にも強いトウモロコシ品種なども収録した。
 農業技術研究開発プロジェクトとの整合性も意識し、同プロジェクトで育種目標としている、たんぱく質と油分の含有量が高い大豆、産量も糖分も高いサトウキビなどは特に重点的に普及する対象品種とすることによって、突破力のある新品種が実際に栽培され、普及することを推進していく。
 
イ 「農畜産業を主導する品種・技術」
 目録に収録した農畜産物のうち133品種について、143の技術を選定した。品種の内訳は、67が食糧・油糧作物、37が経済・園芸作物、17が蚕を含む家畜・家きんと牧草、12が水産動物である。また、技術のうち68項目は農作物についての総合的な栽培技術と防除技術、31項目は家畜・家きん、水産動物の飼養繁殖と疾病関連技術、25項目は農業の機械化と加工・輸送・保存に関する技術、19項目は農業資源の循環利用と生態系の保護、環境保全に関する技術である。
 農業技術は、近年3カ年、生産の簡便化、機械化、デジタル化および高効率化、環境保護などの面において重要な役割を果たし、植物工場などの施設における育種の加速と高効率なデジタル技術を利用した栽培・飼養技術の一体化や応用利用の進展などの成果を上げた。今後も研究開発の成果が速やかに実用化され、農業従事者や農業関係企業が先進的な技術を利用、応用していくことを推進していく。

(3)目録等の公表とともに実施する主な措置

 一部で表面化している、品種が多過ぎる一方で突破力のある品種は少ない問題、あるいは、育種の成果は多いのにその応用は進まないなどの問題に対応すべく、優良農作物品種について産業チェーン全体での管理を一歩進めることとし、今後の3カ年で優良な品種の普及を進めることとした。特に登記品種(注5)の動態管理を強化し、市場に出回る偽物品種は元より、普及する価値のない品種も駆逐していく。具体的には主に次の措置を行う。

 ア 品種の追跡評価を深化する。対象品種について現場での産量向上活動や普及の成果がどうであったかを評価する。

 イ 偽物のクリーンアップを継続的に行う。近年種苗業界では「偽種子」(注6)が注目されている。「偽種子」(の利用)とは、ある登録品種またはその親品種について、市場で販売するときの商品外形に簡単な加工を行ったものや交配など簡易な育種手段により得られた品種、さらには登録品種であると偽って他の品種を売ったり、登録品種をそのまま盗用し、販売したりといったことを指し、種苗市場の秩序化を著しく阻害するものである。農業農村部は2021年以降、「偽種子」クリーンアップの仕組みを構築し、品種のDNA鑑定技術なども利用して、既にひまわり、きゅうり、すいかについてのクリーンアップを終えてきた。今後この取り組みを他の種にも拡大し、登記品種の真正性の監督を強化し、植物新品種権を侵害する行為を厳しく取り締まっていく。

 ウ 登記品種の駆逐を加速する。審定されてから数年が経っているにも関わらず栽培面積が増えていない品種など、生産を推進するのに適さなくなった品種を市場から退場させる。また、対象となった品種については遺伝資源バンク(じょう)などにおいて長期的に保存し、欠点がある、生産リスクがあるといったような品種や権利侵害の疑いがある品種などが登記されることのないようにし、あわせて登記品種の抹消を進めることによって、品種登記制度について「新規登録と登録の抹消」が常に行われる状態を目指す。  

(注5)中国には、主要農作物(水稲、小麦、トウモロコシ、綿花および大豆)については審定を受けたものしか市場に流通できないとする「審定登記制度」が、また、非主要農作物の中でも主要なもの(非主要農作物登記目録に収録されたばれいしょ、かんしょ、そらまめ、ひまわり、トマト、りんご、ぶどうなど29種)についてはその市場流通名称などを届け出させる「登記制度」がある。
(注6)「偽種子」対策の概要とひまわりの例については海外情報『中国農業農村部、不適切な農作物の種苗登記を抹消(中国)』(令和6年5月28日発)をご参照ください。
【調査情報部 令和7年12月9日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9532