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州政府が相次ぎバーチャルフェンス技術を合法化、家畜管理の効率化へ(豪州)

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 豪州ビクトリア(VIC)州は2025年12月10日、ニューサウスウェールズ(NSW)州は同年12月11日、相次いで州法である動物虐待防止法を改正し、バーチャルフェンス技術(以下「VF技術」という)の商業利用を合法化したことを発表した。VF技術とは、GPS付きの首輪から発生する振動・音・電流により牛を誘導する技術を指し、実際の柵の設置が不要になることから、「バーチャルフェンス」と呼ばれている。隣国ニュージーランド(NZ)では、VF技術が全国的に利用可能となっており、VF技術デバイスの販売などを行うハルター社によると、約1000戸の酪農及び肉用牛生産者が利用しているとされている。豪州でもタスマニア(TAS)州、クイーンズランド州、西オーストラリア(WA)州などでは以前から商業利用が可能だったが、酪農・肉用牛生産が盛んなVIC州、NSW州でも利用解禁を求める声が高まっていた(注1)。業界団体からは今回の決定を歓迎する声が上がっており、ビクトリア州農民連盟のホスキング会長は「この決定はVIC州全域の酪農・肉用牛生産者にとって農場生産性とアニマルウェルフェアの面で真の利益をもたらす大きな前進だ」と述べている。
 
(注1)詳細は海外情報「豪州の農畜産物需給見通し 〜2025年豪州農業需給観測会議と温室効果ガス排出削減の取り組み〜」をご参照ください。

アニマルウェルフェアに対する懸念と各州の対応

 VF技術は以前から放牧家畜管理の効率化、生産性の向上に有望な技術と業界から期待されていたが、電気刺激によるアニマルウェルフェアへの懸念などから、VIC州およびNSW州ともに慎重な検討を進めてきた。VIC州では、州政府が所有・運営する研究実証農場エリンバンク・スマートファーム(Ellinbank SmartFarm)で約1年かけてVF技術の実証試験を行い、得られた結果を踏まえ、許可制度の導入などを含む動物虐待防止規則改正案を策定した。また、NSW州でも、州議会の投資・産業・地域開発委員会が2024年10月に公聴会などを通じて得られた知見を基に州政府へ勧告を行い、同勧告から約1年をかけ、動物虐待防止規則の改正および「NSW州牛用VF技術アニマルウェルフェアガイドライン」の発表に至っている(表)。
表

主要な製造業者

 現在、豪州にはVF技術デバイスを提供する企業として、上述のハルター社に加え、同じくNZ企業であるギャラガー社の2社が存在する。TAS州ではハルター社の製品が普及しており、WA州ではギャラガー社の製品のみ商業利用が認められている。どちらの企業もVIC州にVF技術デバイスの承認申請を提出する予定としており、既にVIC州とNSW州の酪農・肉用牛生産者約100戸が、ハルター社のウェブサイトを通じて導入を希望する登録を行っているとされている。一方、価格設定に対する懸念やメンテナンスの必要性などから導入に慎重な声も聞かれており、特に牛群規模が大きい肉用牛農場では普及が遅れるという見方もある。
 世界的に見れば、米国・欧州展開を目指すノルウェー企業のノフェンス社や、動物用医薬品大手MSDアニマルヘルスが買収した米国企業のヴェンス社などもVF技術デバイスを展開しており、今後、豪州市場にも本格的に参入する可能性がある。なお、ヴェンス社の製品は既に豪州の一部で販売されている。
 
【調査情報部 令和7年12月22日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 国際調査グループ (担当:調査情報部)
Tel:03-3583-9532