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調査・報告 畜産の情報 2020年4月号  

海外輸出に向けた安全な鶏卵生産〜有限会社丸一養鶏場の取り組み〜

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調査情報部 熊谷 啓

【要約】

 日本から海外に向けた鶏卵輸出量は、近年大幅に増加している。日本産鶏卵は、生産から販売・流通までの品質・衛生管理について定評があることが一因と考えられる。
 本稿では、農場HACCP、JGAPおよびGPセンターHACCPなどの認証を取得し、トレーサビリティによる安全・安心に加え、アニマルウェルフェアにも配慮した生産体制の構築、また自社製品の海外輸出までを実施する埼玉県の有限会社丸一養鶏場の取り組みを紹介する。

1 はじめに

 日本の食卓に欠かせない食材の一つとして、卵を挙げる人は少なくないだろう。卵焼きや卵かけご飯などは、日本食を代表するメニューではないだろうか。
 卵は、良質なたんぱく源でありながら、安価で料理法もさまざまあり、とても使い勝手の良い食材である。このことから、日本人1人当たりの年間鶏卵消費量は約330個とメキシコに次いで世界で2番目に多い。
 私たちの食卓に並ぶ卵のほとんどは国内産である。平成30年度の鶏卵自給率は96%(重量ベース。概算値)と、他の畜産物に比べ圧倒的に高い。これは、生食といった日本人の食文化に対応した安全性を担保している部分が大きいと考えられる。
 日本産鶏卵は、近年、海外への輸出量が大幅に増加している。主な輸出先であるアジア諸国において、現地産の鶏卵は衛生的な面から生食への警戒感が強い。このため、在留邦人や日本食を好む現地の消費者からの日本産鶏卵へのニーズは高いという。
 このため、衛生管理を一層向上させ、生食可能という高いレベルの安全性を保ち、国内外の消費者に対し供給していくことが求められている。
 本稿では、安全で消費者の信頼を得やすい鶏卵生産のため、衛生・工程管理を徹底することで、農場HACCP、JGAPおよびGPセンターHACCPなどの認証を取得し、トレーサビリティに加え、アニマルウェルフェア(以下「AW」という)にも配慮した生産体系を構築し、海外輸出にも挑戦している有限会社丸一まるいち養鶏場(以下「丸一養鶏場」という)の取り組みを紹介する。

2 鶏卵生産と海外輸出の現状

 わが国の採卵鶏飼養戸数は、小規模層を中心に年々減少しており、平成31年は2120戸(前年比3.6%減)となっている(表1)。卵を産む成鶏めす飼養羽数は、26年以降、鶏卵価格が堅調であったことなどから増加しており、31年は1億4179万羽(同2.0%増)となっている。
 
 
 この結果、1戸当たり成鶏めす飼養羽数は増加しており、31年は6万6883羽(同5.8%増)となっている。また、成鶏めす飼養羽数10万羽以上の層を見ると、飼養戸数は全体の15.5%となっているが、飼養羽数では全体の76.0%を占めていることからも経営の大規模化が進んでいることが分かる。
 わが国の鶏卵消費量は、おおむね安定的に推移しており、平成30年度は273万5000トン(前年度比0.4%増)となった(表2)。生産量は、飼養羽数の増加に伴い、262万8000トン(同0.5%増)となった。輸入量は、国内消費量の5%程度で推移しており、30年度は前年度同の11万4000トンとなった。なお、輸入量の約9割を、保存性に優れ、輸送コストを抑えられる加工業務用の粉卵※1が占めており、主にオランダ、イタリアおよび米国から輸入している。
 

 
※1 このうち、大半を卵白粉が占めており、ハム・ソーセージのつなぎ原料や即席乾燥麺などに使われている。
 輸出については、近年大幅に増加している。日本産鶏卵の生食に適した品質を強調した海外へのプロモーションなどにより、令和元年の輸出量は8651トン(前年比47.5%増)、輸出金額は22億1132万円(同44.7%増)といずれも過去最高となった(図1)。令和元年の輸出実績を見ると、9割以上が香港向けとなっており、次いで台湾、シンガポール向けとなっている(表3)。平成30年10月16日には、米国に向けた鶏卵輸出が解禁されたことなどからも、今後さらなる輸出拡大が期待される。
 
 

3 丸一養鶏場の取り組み

(1)経営概要

 埼玉県大里郡寄居町に立地する丸一養鶏場は、昭和45年3月14日、現代表取締役である一柳憲隆氏の父が設立し、当時から採卵鶏経営を営んでいる(写真1)。役員4名、従業員35名の計39名で構成されている。
 

 
 同社の特徴の一つが、2種類の採卵鶏飼養方法を導入している点である。現在、日本では、多段式の鳥かごを設けたバタリーケージによる飼養方式(以下「ケージ飼養」という)が広く普及している(写真2)。同社ではこのケージ飼養に加え、エイビアリーによる飼養(以下「エイビアリー」という)を導入している。
 

 
 エイビアリー(Aviary:「鳥小屋」の意)とは、鶏舎内の飼養羽数を減らし、鶏の行動欲求が満たされるように止まり木を設置した休息エリア、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びのできる運動エリアなどを備えた多段式の鶏舎のことである。ケージ飼養の方がエイビアリーよりも、多くの採卵鶏を飼養でき衛生管理も容易であるものの、鶏の行動が制限されてしまう。AWは五つの自由という指標が一般的であり、そのうちの一つである「正常な行動を発現する自由」に関係する、鶏の行動がより多様になるという点で、エイビアリーはAWに配慮した飼養方式である(写真3〜4、図2)。
 








 

 飼養方法により鶏の品種を分けており、ケージ飼養では白卵を産むハイラインマリアを約15万羽、エイビアリーでは赤卵を産むボリスブラウンを約2万羽、合計で約17万羽を飼養している。
 飼料は、鶏の品種、日齢などに合わせ、アミノ酸含有量を考慮しながら、トウモロコシ、大豆かす、飼料用米などをブレンドした自家配合飼料を給与している。このうち、エイビアリーで給与されるトウモロコシ、大豆かすは非遺伝子組み換えのものが使用されている。
 主な出荷先は、食品スーパーと業務用メーカーとなっている。ハイラインマリアが産む白卵は、小〜中程度の大きさのものが多く、食品スーパー向けの包装販売に適していることから選択しているという。
 鶏舎は、育成用を4舎、成鶏用を6舎整備している(このうち育成用の1舎、成鶏用の2舎はエイビアリーとなっている)。また、堆肥舎を2舎整備しており、発酵処理により生産された堆肥は、地元農家へ販売されている。
 自社でGPセンター※2を整備しており、鶏卵の生産から梱包、配送までを一貫して実施している。
※2: GPはGrading & Packingの略で、生産農場で産まれた卵を洗浄殺菌し、重量ごとにサイズ格付け(Grading)し、包装(Packing)する施設のこと。

(2)衛生管理への取り組み

 一柳代表は、エイビアリーを導入した際、従来とは異なる飼養方法であっても衛生管理が徹底されていることを対外的に証明する必要性があると考えていた。平成14年のエイビアリーの導入当時は、HACCP方式を活用した、農場における飼養衛生管理基準の検討が始まったばかりであったが、これらの方針が定まり、認証手続きが開始された平成24年に、農場HACCP認証※3農場(中央畜産会認証第1号)として登録された。また、これら衛生管理のさらなる向上や、AW、労働安全などに配慮していることを第三者認証するため、29年にJGAP認証※4を取得した。この二つの認証取得に当たっては、エイビアリーだけを対象とせず、ケージ飼養を含めた丸一養鶏場の生産農場全体を申請し、認証されている。
 農場HACCPおよびJGAP認証の対象範囲とされていないGPセンターについては、同年、GPセンターHACCP認証※5を取得することで、同施設内の衛生管理を徹底していることを対外的に証明している。
 これらの認証を取得したことで、現場での作業内容を記録・確認し、作業の矛盾点や通常と異なる工程が発生した際の変更点などを明確にすることができ、円滑な業務運営および従業員の教育に役立っているという。
 丸一養鶏場のGPセンターは、1日5時間、従業員8名により稼働している。鶏舎で採卵された卵は、ベルトコンベアにより自動でGPセンター内に搬送され、洗浄、乾燥、選別および包装される。これらの卵は日単位でロット管理されており、そのロットごとに賞味期限は統一されている。
 包装容器には卵を選別・包装した丸一養鶏場の所在地と、その卵の賞味期限が明記されている。卵を購入した消費者から問い合わせがあった際は、賞味期限が確認できれば、製造日、GPセンターにおける当日の処理量、同一ロットの納入先などを追跡できる仕組み(トレーサビリティ)により、これらを情報提供できる体制が整えられている(写真5)。
 


 

※3: 家畜の衛生管理を行うことは、家畜の伝染病の発生予防・まん延防止だけでなく、畜産物の安全確保の観点からも重要であることから、畜産農場における危害要因分析・重要管理点(HACCP)の考え方を取り入れた飼養衛生管理向上の取り組みを実施していることを第三者が審査・認証する仕組み。
※4: 農業生産活動の持続性を確保するため、食品安全、家畜衛生、環境保全、労働安全、AWに関する法令等を遵守するための点検項目を定め、これらの実施、記録、点検、評価を繰り返しつつ生産工程の管理や改善を行う取り組みを実施していることを第三者が審査・認証する仕組み。
※5: GPセンターがHACCPに則って鶏卵を洗浄、選別、包装していることを第三者が審査・認証する食品安全マネジメントシステムの規格。
 

(3)エイビアリーの導入

ア エイビアリー導入の背景
 平成10年、当時は専務であった一柳代表が、エイビアリーを導入しているスイスの採卵鶏農家を視察した。その際、ケージ飼養された鶏は、鶏舎に人が入るとざわつくことが多いが、エイビアリーでは鶏が人を恐れることなく近づいてきたことに衝撃を受けた。当時、欧州連合(EU)では、2012年にケージ飼養が禁止※6されることとなっており、将来的に日本もこのような諸外国における情勢の変化の影響を受ける可能性を想定し、自社へのエイビアリー導入を決めた。
※6: EUでは、2012年以降、従来型のバタリーケージは使用禁止となったが、1羽当たりのケージ面積などを改善したエンリッチドケージは使用されている。
イ エイビアリーの運用
 平成14年、自社農場内に育成用のエイビアリーを整備した。エイビアリーは、鶏の行動習慣が身に付く育成期での導入が最も重要で、育成期に、給餌飲水エリアや休息エリアを利用することを従業員が育成ひなに教育することも必要だという。成鶏用のエイビアリーについては、18年に整備され、26年には増設されている。ケージ飼養に比べ、面積当たりの飼養可能羽数は3分の1程度となるが、整備には倍近くの費用を要したとのことだ(図2)。

 一柳代表によると、アジアでは初めての導入事例であったため、トラブルが発生した際などは、海外の鶏舎の販売メーカーに問い合わせるしか方法がなく、運用に当たっては苦労したとのことだ。特に、鶏舎内の換気と光線管理、そして鶏が巣箱内で産卵せず巣外卵となり殻付き卵での出荷を控える必要のあることへの対応については、現在も試行錯誤を繰り返している。品種についても、エイビアリーでは現在、ボリスブラウンを飼養しているが、採卵する卵の大きさや喧噪けんそう性などを考慮し、今後変更する可能性もあるそうだ。
 エイビアリーにて採卵された鶏卵は、「放し飼いたまごecocco(エコッコ)」として、19年にインターネットでの通信販売や展示商談会で販売された(写真6)。販売開始当時は、国内のAWに対する認識がまだまだ浸透していなかったことなどから、販路拡大には苦労したとのことだが、積極的な展示商談会などでの営業活動により、有機農産物などを取り扱う食品スーパーなどで販売されるようになっていった。
 

 

(4)海外輸出に向けた取り組み

 丸一養鶏場では、平成31年3月から、香港の食品スーパーへ「放し飼いたまごecocco」を輸出している(写真7)。
 


 

 国内の人口減少に伴う販売先の減少が懸念されていたこと、また自社のブランド価値向上を目的に、国内と香港での展示商談会へ積極的に参加し、現在の取引を獲得している。商談は難航することもあったが、取引先では、有機や平飼いの鶏卵を取り扱っており、日本産鶏卵の生でも食べられる「鮮度」「安全」という点に加え、丸一養鶏場産の鶏卵は農場HACCPなどの認証を取得していることで、衛生管理やAWが対外的に証明されている点が評価されたと一柳代表は言う。
 また、一柳代表が、取引先の店舗で自社の卵をPRしたことも、販売促進になっていると考えられる(写真8)。
 

 
 輸出に当たっては、羽田空港まで輸送し、そこから輸出先の定期便として他の食料品などと混載され空輸される。
 香港では、これまで主にタイや中国、韓国産の卵が輸入されていたが、2017年に韓国で発生した鳥インフルエンザや鶏卵への殺虫剤混入事件※7などを機に、年々食品に対する衛生管理の意識が高まっている。そのような状況下で、日本産の鶏卵は、衛生管理が徹底され、生でも食べられる品質であることに加え、包装前の洗浄により見た目にもきれいであることが、他国産の卵よりも人気が高い理由だそうだ。
※7  詳細は、海外情報「殺虫剤「騒動」で鶏卵の安全管理を強化へ( 韓国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002021.html)を参照されたい。

(5)今後の展望

 一柳代表は、ケージ飼養とエイビアリーを両立した生産体制を維持しつつも、放し飼い卵に対するニーズが高まれば、エイビアリーによる生産量を増やしていきたいという。令和2年開催の東京オリンピック・パラリンピックにおける食料調達基準として、JGAP(AW対応)が注目されていることに加え、倫理的消費(エシカル消費)といったものが、価格以外の選択肢として認識され始めている。その状況下で、農場HACCPやJGAPなどの認証を取得し、衛生管理を徹底していることを対外的に証明できていることから、自社製品の付加価値が高まるだろうと考えているとのことである。

 

4 おわりに

 わが国の鶏卵生産においては、1戸当たり飼養羽数が増加しており、経営の大規模化が進んでいる。10万羽以上を飼養している丸一養鶏場であっても、飼養規模は大きくない部類になるそうだ。一柳代表は「大手に比べれば小さな会社だが、その分意思決定は早く、迅速な対応ができる」と自社の強みを話してくれた。海外の情勢を一早く把握し、国内で初のエイビアリーの導入に至ったこと、農場HACCPなどの認証を取得したこと、さらに粘り強く交渉を重ねたことで自社製品輸出のチャンスを掴んだことは、一柳代表が自社の経営維持に不可欠と判断したものであり、これらを整備できたことは経営努力の賜物と考えられる。
 特に、AWへの関心が高まる昨今において、日本国内でのエイビアリーによる飼養技術を蓄積できていることは大きな強みである。エイビアリーは設備設置のみで即座に対応できるものではなく、日頃の管理が重要であることから、今後、国内でエイビアリーが普及する際には、丸一養鶏場の知識や経験が貴重な情報となるだろう。また、鶏舎の全てをエイビアリーとするわけではなく、市場のニーズなどを把握し、バランスを見ながらケージ飼育とエイビアリーの飼養規模を調整している点についても、今後導入を検討している農家の参考になる点だと考えられる。
 生産農場の衛生管理に対応する農場HACCPとJGAP認証、GPセンター内の衛生管理に対応するGPセンターHACCP認証をそれぞれ取得することで、生産工程を追跡可能で、かつ安全な鶏卵であることが対外的に証明されている点についても、丸一養鶏場の強みであり、また消費者が卵を選ぶ際の選択肢の一つになる。
 今後、食に対する意識は一層高まることが予想される中、安心して食べられる卵が国内外に供給される体制作りとともに、それを対外的に示せることが、消費者からの信頼を得るために重要であると考えられる。
 徹底した衛生管理により、生食を可能とする日本産の卵が、国内だけでなく、今以上に海外からも広く選ばれる食材となることを期待する。

謝 辞
本稿の作成に当たり調査にご協力いただきました有限会社丸一養鶏場代表取締役一柳憲隆様に感謝申し上げます。
 



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