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海外情報 畜産の情報 2020年6月号

米国における乳用牛の輪番交配の取り組み

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 米国の一部には、ホルスタイン種、モンベリアード種およびバイキングレッド種といった異なる品種の輪番交配による雑種強勢の発現を通じて、乳用牛の繁殖性、乳質、生存性、健康性の向上を図ろうと試みる酪農家が存在する。
 こうして生産された交雑種は、生乳生産量等の産乳成績に関してはホルスタイン種と比べて劣るものの、死産率や受胎効率に関する繁殖成績の向上や供用期間の延長により、1頭当たりの利益率が向上する可能性が示唆されている。
 

1 はじめに

 乳用種の中でもホルスタイン種は飼養面において非常に扱いやすく、他の品種と比べて1頭当たりの生乳生産量が多いことから、日本のみならず多くの酪農国における乳用牛の主要品種となっており、同一品種を継続的に交配して改良しながら、生産された雌牛を搾  乳牛として供用することが多い。わが国で交雑種といえば、ホルスタイン種の雌牛と黒毛和種の雄牛の交雑によって生産される肉用牛のことを指す場合が多いが、南半球の酪農国では、ホルスタイン種とジャージー種の交雑牛を搾乳牛として供用し、乳成分の向上を図るとともに肉用牛としての価値も向上させる取り組みが知られている。
 米国の乳用牛も、日本と同様にホルスタイン種が大きなシェアを占めているものの、一部ではあるがホルスタイン種とアンガス種、ホルスタイン種とジャージー種等の掛け合わせや、3品種以上の交配で生産した搾乳牛を飼養して、生乳を生産している酪農家も存在する。
 繁殖障害、分娩時の難産や死産、乳房炎といったさまざまな問題は、飼養管理方法をはじめとした環境要因が大きく影響することから、その改善が重要な課題とされている。一方、遺伝的要因を改善しようとする取り組みも模索されており、その一つとして、経営の状を把握し、専門的な知識を持った者による支援体制により複数の乳用種の輪番交配(注1)を行い、雑種強勢(注2)による生産性向上を図る取り組みがみられ、今回、これを行う酪農家を訪問する機会を得た。本稿では、こうした米国酪農家の取り組みについて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=108円(2020年4月末日TTS相場107.8円)を使用した。

(注1) 2品種以上を順に交配する方法。家畜では、雌は交雑種を利用して母畜としての能力に雑種強勢を利用しながら、優れた能力を持つ純粋種の雄を交配して生産能力を発揮させようとするのが一般的である。
(注2) 異なる品種の親を掛け合わせることにより、その子に限り、親の平均よりも優れた形質が得られること。

 

2 米国の酪農をめぐる情勢

 2019年の生乳生産量は9903万トンであり、これは10年前と比べて約13%増加し、増加傾向は今も続いている(図1)。直近の10年間は乳用経産牛飼養頭数が930万頭前後で推移しており(図2)、最近数年間では減少傾向にある一方、1頭当たりの生乳生産量は2019年には1万612キログラムとなり(図3)、毎年1%前後の増加率を記録している。従って、生乳生産量の増加は、飼養管理技術の向上や搾乳牛の遺伝的能力の向上による、1頭当たりの生乳生産量の増加が大きく寄与していることが考えられる。
 

 




 
 このように、生乳生産量は増加しているものの、酪農家戸数は減少し、1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は増加傾向にある(図4)。米国の酪農業界においても高齢化による離農は大きな問題となっており、酪農家戸数は減少しているが、1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数が増加しているため、米国全体の飼養頭数には大きな増減がみられていない。
 

 
 米国では2015年から2018年にかけての4年間は乳価が大きく低迷し(図5)、酪農家の収益が厳しい時期が続いた。最近になってようやく乳価は回復傾向にあった一方で、2019年11月12日に米国最大手の乳業メーカー「ディーン・フーズ社」が、2020年1月5日には、創業163年の老舗企業である大手乳業メーカー「ボーデン・デイリー社」が米国連邦破産法第11条の適用への申請を行い、乳業メーカーも厳しい状況にある(注3)。両社がそのような状況に至った背景として、消費者の健康志向や環境負荷の緩和に対する意識が高まり、アーモンドミルクやソイミルクといった植物由来たんぱく質飲料の売り上げ増加にみられるような、酪農業界が直面する市場変化に対応できなかったことが言われているが、ここにきて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による混乱や消費量の減少もあり、酪農業界を取り巻く情勢はさらに厳しい状況となっている。

(注3) 詳細は、海外情報「米国の大手乳業、相次いで破綻(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002593.html)を参照されたい。
 

3 交雑種生産の概要

 米国農務省(USDA)の調査によれば、米国の搾乳牛の品種別割合はホルスタイン種が圧倒的なシェアを誇り86%となっている。次いで、ジャージー種が7.8%、ブラウンスイス種0.8%、エアシャー種0.2%、ガンジー種0.2%となり、その他が5%である。その他には、上記に挙げた品種以外の純血種やホルスタイン種×ジャージー種のような交雑種が含まれている。裏を返せば、毎年増加傾向にある生乳生産量を支えているのは、搾乳牛の90%弱を占めるホルスタイン種といえる。
 米国でも飼養規模が拡大する中で、難産や死産等の分娩事故、蹄病、子牛の損耗率、繁殖障害、乳房炎等の問題を抱える酪農家が存在する。こうした問題には環境要因が大きく影響することから、日常の飼養衛生管理等の改善が重要とされているが、遺伝的要因を改善しようとする取り組みとして、品種別の遺伝的能力評価に基づく改良も試みられている。また飼養コスト等も踏まえ、抜本的に酪農経営を見直すに当たり新たな取り組みを行おうとする酪農家の中には、複数の品種の交雑によって、雑種強勢を利用するより複雑な仕組みを取り入れようとする農家もいる。 


 
 雑種強勢の発現量は、雄由来の遺伝子と雌由来の遺伝子が違う品種由来となる割合で測られる。三つの純粋種の雄を順に交配する輪番交配においては、第2世代までは雄と雌から同一品種の遺伝子が伝わることはないが、第3世代以降はこうした現象が起こる(表の下線部分)。例えば第3世代では、雄から伝わる50%の遺伝子はすべて品種Aのものだが、同一品種の遺伝子は雌からも12.5%伝わることから、
12.5/50×100=25(%)
 
は同一品種由来となり雑種強勢が発現しない。この割合を100%から引いたものが雑種強勢の発現量となる。
 すなわち、純粋種の雄を品種を変えながら交配する仕組みでは、同一品種の遺伝子となる割合は各世代で交配した雄の品種において、である。この値を100%から引く計算を各世代で行えば、10世代目には雑種強勢の発現量は85.7%となり、これ以降安定的に推移する。
 
(雌由来の遺伝子割合)/(雄由来の遺伝子割合)×100(%)

 四つの純粋種の雄を順位交配する輪番交配の場合は、同様の計算により12世代目には93.3%で安定する。しかしいずれの場合も、交配の順番を間違えると雑種強勢が発現しないだけでなく、雑種生産によって失った優良遺伝子の分、生産に影響が出ることとなる。
 こうした複雑な仕組みは酪農家だけで維持するのは難しく、専門的な知識を持った者による支援が欠かせない。欧州ではいくつかの遺伝子資源供給企業が乳用牛の交雑プログラムを提供しているとの情報があるが、米国では種雄牛を飼養し凍結精液等を生産する人工授精事業体であるSelect Siresと人工授精サービスと凍結精液等の販売を行うCreative Genetics of Californiaの2社が積極的に、乳用種の交雑を勧めている。
 

(1) Select Sires:SelectCROSS

 オハイオ州に本社を置く、セレクトサイアズ(Select Sires)社は世界有数の人工授精協同組合であり、乳用牛および肉用牛の凍結精液、受精卵等の遺伝子資源の販売や繁殖管理、牛群管理のコンサルタントなどを行っている。同社ではさまざまな乳用種の遺伝子資源の他、ホルスタイン種とジャージー種とモンベリアード種を掛け合わせたSelectCROSSという交配を推奨している。これは、遺伝的に得られる雑種強勢の効果を利用して、飼養コストを削減し、繁殖性、分娩難易、長命性を改善しようとする試みである。
 
ア  交配順序
第1世代 ジャージー種(雄)×ホルスタイン種(雌)
第2世代 モンベリアード種(雄)×第1世代の子(雌)
第3世代  ホルスタイン種(雄)×第2世代の子(雌)
第4世代  ジャージー種(雄)×第3世代の子(雌)
この交配を繰り返す(輪番交配)。

イ  各品種からの導入を期待する主な形質(同社パンフレットから)
ホルスタイン種:
 生乳生産量、均整な乳房、飼いやすさ
ジャージー種:
 分娩能力、繁殖性、高い乳成分率、供用期間の延長(長命性)
モンベリアード種:
 繁殖性、供用期間の延長(長命性)、良好なボディコンディション強靭きょうじんな四肢
 同社はSelectCROSSによって、従来のホルスタイン種と比べて、疾病に罹患りかん)しにくく健康で、育成期事故率が低く、繁殖成績の良い牛が生産されるとしている。また、体格が小さくなり、分娩時の事故率が低減し、乳房炎の発生も改善するという。一方、1頭当たりの乳量は従来のホルスタイン種と比べると減少するが、供用年数の延長によって1頭の搾乳期間が長くなり、群単位では生産量の増加が期待できるとしている。
 

(2) Creative Genetics of California:PROCROSS

 カリフォルニア州に本社を置く、クリエイティブジェネティクス(Creative Genetics of California)社は農家が飼養する牛への人工授精や凍結精液等の遺伝子資源の販売を行っている。同社は、酪農家が難産、体細胞数、繁殖能力、長命性といったさまざまな問題を抱え、諸々のコストが発生し、利益が減少していることを知り、解決策を探す中で、フランスに本社を置くCoopex Montbeliarde社とデンマークに本社を置くViking Genetics社という、種雄牛を飼養し凍結精液等の遺伝子資源を販売する2社が開発した、ホルスタイン種とモンベリアード種(注4)(写真1)とバイキングレッド種(注5)(写真2)を掛け合わせたPROCROSSという交配を知り、これを推奨している。現在クリエイティブジェネティクス社は、米国でのCoopex社とViking Genetics社の遺伝子資源について独占販売権を保有している。

(注4) フランス原産の乳用種。白と茶色のまだらな外貌が特徴で、欧州の厳しい環境に適応するため、丈夫で長命性が高いとされる。欧州では乳用種としてしばしば飼育されている。
(注5) フィンランド原産のフィニッシュレッド、スウェーデン原産のスウェディッシュレッド、デンマーク原産のデニッシュレッドの3種の総称。赤毛の外貌が特徴で、長命性が高く、繁殖性に優れている。
 

 
 
 
ア  交配順序
第1世代  モンベリアード種(雄)×ホルスタイン種(雌)
第2世代  バイキングレッド種(雄)×第1世代の子(雌)
第3世代  ホルスタイン種(雄)×第2世代の子(雌)
第4世代  モンベリアード種(雄)×第3世代の子(雌)
この交配を繰り返す(輪番交配)。

イ  各品種からの導入を期待する主な形質(同社パンフレットから)
ホルスタイン種:
 生乳生産量、均整な乳房、飼いやすさ
モンベリアード種:
 繁殖性、供用期間の延長(長命性)、丈夫な乳房、強靭な四肢、理想的な腰部、高い飼料利用効率から生まれる環境適応能力と経済性
バイキングレッド種:
 分娩難易の改善、供用期間の延長(長命性)、乳房の健康(乳房炎耐性)
 同社が推奨するPROCROSSは、SelectCROSSと同じような利点を挙げているが、この研究を進めた現地専門家は分娩難易の改善や繁殖成績の向上、供用年数の向上に期待できると話していた。
 酪農家が抱える悩みに焦点を当てているためか、上記二つの交配方法で語られている利点に共通点が多いように感じられる。PROCROSSに詳しい関係者からは、個体ごとに交配する順番を管理しなければならない複雑さによって、現状の飼養管理に忙殺されている酪農家が敬遠することもある、という話も聞かれた。
 
 

コラム1 PROCROSSを飼養する酪農家 Double B Dairy

 カリフォルニア州マーセドでPROCROSSを飼養するWes &Gina Bylsma氏。酪農場を経営する一家に生まれ育ち、1996年から酪農経営に加わった。父親が牛の長命性と健康を求めてジャージー種とホルスタイン種の交雑種を飼養していたことを見て育ったため、乳用牛の交雑に関心を抱いていた。そして、2002年からPROCROSSの交雑プログラムを開始した。二つの農場を経営し、従業員は17名。米国の平均分娩回数は3回前後であるにも関わらず、当農場では平均3.5回の分娩回数となっている。産乳成績に関してはコラム1−表の通りであるが、自家更新を行っている影響もあり更新率は37%と高くなっている。PROCROSSを行ったことにより、ホルスタイン種を飼養していた頃と比べると牛群の健康は改善され、1頭当たり搾乳量が53ポンド/日(24キログラム/日)を下回ることはなく、安定しているという。2017年11月からサウスダコタ州にも農場を所有し、飼養規模を拡大した。カリフォルニア州では土地の高騰が著しく、酪農に適した土地でも2万米ドル/エーカー(約4.9米ドル(529円)/平方メートル)かかること、同州は動物福祉の規制や環境規制が年々厳しくなっていること、同州は温暖なイメージがあるが、寒冷対策のコストが意外とかかることから、サウスダコタ州で酪農地を広げたとのこと。現在の自身の酪農経営において、乳成分加算により飲用よりも販売価格が高くなるチーズ用の生乳生産を重視している。乳たんぱく質や乳脂肪分、体細胞数の成績も良いことから、平均乳価19米ドル/100ポンド(45円/キログラム)よりも3米ドル/100ポンド(7円/キログラム)ほど高く販売できているため、経営は順調である。
 

 日本の酪農家にPROCROSSを勧めるかと問うたところ、自身の経験談として100%お勧めするとのこと。その理由としてはホルスタイン種を飼養していた頃と比べ、分娩管理の負担が軽減され、長命性や健康状態も向上し、飼養管理が楽になった印象があるためであると説明してくれた。当農場での交配は担当者が耳標番号でコンピューターなどの記録を元に管理しており、そこまで煩雑な印象はない。一方で、当農場では乳成分加算により所得が向上しているチーズ用の生乳を生産している点がPROCROSSには合っていたが、酪農家が生乳に何を求めるかによって、品種や飼養方法が異なるため、それぞれの経営に合うか、十分に考慮すべきであるとのことであった。

 




4 雑種強勢の利点

 過去40年にわたりホルスタイン種の改良は大きな成功を収め、生乳生産において主要な地位を占めている。しかし、近交が進み、繁殖能力、健康、生命力に関する機能的な形質が低下している、という声も出ていた。
 米国では、平均近交係数が年々上昇し、2014年にはホルスタイン種の雌の平均近交係数が6.25%を突破し、その後も上昇を続け、直近4年間は平均で0.35%の上昇率を示し、2019年初期には8.02%に達しているとのデータもある。近交が進むことによって、繁殖性などの経済的な影響を心配する声も聞かれる。
 異品種交配による雑種強勢は、生産される動物が食肉になり次世代を残すことが少ない、肉用牛、豚、鶏、七面鳥等の他の畜産分野において広く利用されてきたが、搾乳牛から生まれた雌牛が次の世代の搾乳牛となる乳用牛では、ホルスタイン種という乳量等が抜きんでて優れた品種が存在したことと相まって、利用は進んでいなかった。
 こうした中で、ミネソタ州立大学の研究チームは乳用牛における雑種強勢の利点を検証するため、PROCROSSに関して七つの酪農家の協力で10年間にも及ぶ研究を行った(2019年7月公表)。この研究では、純粋種のホルスタイン種、バイキングレッド種、モンベリアード種について、その中でも特に繁殖や生産性に優れた個体を選別し、これらの品種を交雑した各群とホルスタイン種の群において、能力の比較や収益性の違いがどれほどかを検証した。その結果は以下の通りである。
 なお、以下では次の略称を用いる。
品種  ホルスタイン種:HO、バイキングレッド種:VR、モンベリアード種:MO
交雑  2元交雑種(VRxHO、MOxHO)、3元交雑種(VR×MO/HO MO×VR/HO)
 

(1) 乳量、乳脂肪および乳たんぱく質生産量

 初産から3産の各乳期で305日乳量、乳脂肪、乳たんぱく質の生産量を算出した。搾乳回数は97%が1日3回搾乳、残りの3%が1日2回搾乳であったが品種による搾乳回数の差はなかった。2元交雑種はHOよりも乳量が数%減少するが、乳脂肪および乳たんぱく質生産量は1%の増加がみられた。また、3元交雑種について、乳量はHOよりも5%〜10%ほど減少するが、乳脂肪および乳たんぱく質生産量は1%ほどの減少に収まった(乳成分率は向上)。
 

(2) 妊娠期間および死産率

 HOと比べて2元交雑種は妊娠期間が2日から4日長くなり、死産率は0〜5%の減少がみられた。特に、初産時の死産率の減少が顕著であった。
 HOと比べて3元交雑種は妊娠期間が0〜1日長くなり、死産率は0〜3%の減少がみられた。
 

(3) 受胎率

 初回の人工授精時の受胎率について、HOと比べ2元交雑種は1%〜11%成績が向上し、受胎までの平均人工授精回数について、0回から0.4回の減少がみられた。また、分娩から妊娠までの空胎期間は、12日間の短縮がみられた。
 HOと比べ3元交雑種は初回の人工授精時の受胎率について7〜13%成績が向上し、受胎までの平均人工授精回数について、0.2回から0.5回の減少がみられた。また、分娩から妊娠までの空胎期間は、17日間の短縮がみられた。
 

(4) 健康の維持に要した経費

 初産から3産までに発生した乳房炎、蹄病、子宮炎等の繁殖病、乳熱等の代謝病、呼吸器病や外傷等その他の治療費や各種検査費等は、HOと比べて2元交雑種は23%減少、3元交雑種は17%減少した。特に、乳房炎、代謝病、その他の治療費について有意な減少が認められた。
 

(5) 在群性

 各世代における分娩から14カ月以内の生存率について、HOと比べて2元交雑種は6〜18%向上し、各搾乳期における死亡率は0〜4%減少した。また、初産時から少なくとも45カ月以上搾乳牛群にとどまった割合は6.7〜15.3%向上した。
 HOと比べて3元交雑種の分娩から14カ月以内の生存率は6〜27%向上し、各搾乳期における死亡率は1〜4%減少したが、MO×VR/HOの第1搾乳期においては2%増加した。初産時から少なくとも45カ月以上搾乳牛群に留まった割合は8.9〜13.9%向上した。

 以上のように、雑種強勢により、HOよりも2元交雑種と3元交雑種の方が繁殖性や長命性に優れていることが判明した。一方で、生産量に関しては全体的にHOよりも2元交雑種と3元交雑種の方が成績は低下していた。しかし、健康の維持に要する経費の減少や受胎率向上による損失減少、長命性の向上に伴う供用期間および更新期間の延長により、1日当たりの利益は、HOと比べて2元交雑種は平均して13%増加、3元交雑種は平均して9%増加すると試算された。
 また、今回の研究結果から、PROCROSSが推奨する交配順序である、ホルスタイン種×モンベリアード種→バイキングレッド種×ホルスタイン種/モンベリアード種(VR×MO/HO)が最も生涯利益が大きいことが確認された。一部の結果では2元交雑種の方が3元交雑種よりも成績は良かった点もみられるが、3品種を交配することにより、収益性を高める重要な形質を効果的に発現させ、それぞれの形質を最もよく補い合い、最適な結果をもたらすことができるとしている。

コラム2 PROCROSSを飼養する酪農家 Hoekstra Dairy &CROSSVIEW Dairy

 父親のBill氏とその子供たちであるKurt氏とJack氏を中心に、Hoekstra一家で2農場を経営している。

・Hoekstra Dairy
 カリフォルニア州オークデールでPROCROSSを飼養する農場。1971年に両親が酪農を始め、当初は約300頭のホルスタイン種やジャージー種を飼養していた。当時の一番の悩みが不妊であり、この原因を近親交配によるものと考えていた。その他、難産等により手間がかかること、搾乳牛としての供用期間が短いこと、乳房炎にも悩まされるようになり、1999年からPROCROSSの交雑プログラムを開始した。交雑した搾乳牛が生乳を生産するまでは不安が非常に大きかったが、順調に生乳を生産し、販売も順調であった。現在は経営も安定している。近年はバター需要が弱いため、乳たんぱく質が豊富なチーズ用の生乳生産に注力している。PROCROSSを飼養して良かった点は、繁殖成績が改善されたことはもちろんであるが、PROCROSSはホルスタイン種よりも肉付きが良く、肉用として販売した場合の収益の増加も非常に魅力的である。PROCROSSを飼養する上での注意点として、ホルスタイン種よりも健康的で、供用期間も長くなるという実感はあるが、初妊牛や子牛の飼養管理をおろそかにしてよいということではない。どのような品種であっても、丁寧に飼養管理を行うことが各種の成績向上につながるとのことであった。
 
 

 


 

 
・CROSSVIEW Dairy
 上述のHoekstra Dairyの経営が順調であり、規模拡大のために2013年に二つ目の農場としてCROSSVIEW Dairyを開始した。この農場でもPROCROSSの交雑プログラムを実施している。
 PROCROSSは足腰が強く、分娩がホルスタイン種よりも安産であり、生産性も高くなった印象がある。また、健康性が向上し、飼養管理の悩みが減ったのがうれしい。ホルスタイン種は痩せているが、PROCROSSは肉付きが良く肉牛としての価格が高いのも利点である。
 日本の酪農家にPROCROSSを勧めるかと問うたところ“Just do it!”という言葉が返ってきた。これは、PROCROSSに関して、交配管理が複雑であるというイメージや、将来的な収益がどのようになるのかという不安に駆られて何もしないよりも、今の問題点を分析し、その改善方法があるのであれば、挑戦してみることが大事なのではないかという米国らしい回答であった。
 
 
 


 
 今回、乳用牛の交雑を行っている酪農家を訪問した際に、これから乳用牛の交雑を始めようと考えている人や、乳用牛の交雑に懐疑的な人など、さまざまな酪農家や関係者からも話を聞くことができた。肉用牛や豚では交雑が当たり前のように行われているのに、どうして酪農業界だけはホルスタイン種の中でしか改良が行われないのか不思議であったという声や、乳用牛の交雑に関して、交配方法が複雑で難しいという話を聞くが、単純に3種類の純粋種を順番に交雑するだけなので、自分にもできそうであるという声もあり、PROCROSSの交雑プログラムを実施している酪農家を訪問した関係者の感想はさまざまであった。
 また、カリフォルニア州の酪農事情について話してくれた関係者によれば、同州では酪農家戸数が減少し続けているが、離農する人の他にアーモンド農家に転向する人がみられることが懸念されるとのことであった。なぜならば、アーモンド農家は酪農経営よりもはるかに少ない労働力で高い収入が得られるとのことであり、労働面や金銭面からすれば、酪農家を続ける理由が見当たらないとのことであった。アーモンド畑は収穫までに時間がかかるが、それを差し引いても同州は世界的に見てもアーモンド栽培に適した土地であること、アーモンドは将来の見通しも明るいこと、同州は動物福祉や環境規制が他州よりも厳しいこと、労働時間の規制が他州と比べて厳しいため労働力の確保がより困難であることから、酪農家からアーモンド農家に転向するのも納得できるとのことであった。しかし、新しいことに挑戦し、まだまだ酪農業界も負けていられないと明るく話してくれた。
 

5 おわりに

 米国の酪農業界は、日本と同様に日常の飼養管理について悩みを抱えながら、生乳生産量の増加、繁殖成績の向上、分娩事故の低減、乳房炎の減少などの課題の解決に取り組んでいる。しかし、今般のCOVID-19による乳製品需要の減少や、2018年から2019年にかけて顕著であった貿易紛争での報復関税による影響など、酪農家自身が解決することは困難な状況にもあり、厳しい状況が続いている。そのような状況において独自の視点から、経営の現状や支援体制に応じて酪農経営を改善しようと輪番交配に取り組む酪農家の方々がおり、多様な取り組みを模索する姿がみられた。各酪農家において抱える悩みは飼養規模や環境などの違いからもさまざまであり、特定の技術がすべての酪農家に期待通りの結果をもたらさないかもしれない。また、日本の酪農では肉用牛の肥育もと牛を提供するという役割も大きく、米国とは異なる点についての考慮が必要であろう。このため、輪番交配という新たな品種内の枠を超えた手法にチャレンジする場合は、客観的にも正しい情報を得ながら、理解を深めていくことが先決であると考えられる。

(鈴木 浩幸(JETROニューヨーク))