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海外情報 畜産の情報 2020年8月号

ブラジルの大豆・トウモロコシをめぐる最近の情勢(前編)〜生産はマットグロッソ州を中心に今後も拡大の見込み〜

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調査情報部 山口 真功(現畜産経営対策部)、石井 清栄(現札幌事務所)

【要約】

 ブラジルの大豆・トウモロコシ生産は拡大の一途をたどっており、2019/20年度はともに過去最高を更新する見込みとなっている。特に、最大生産州であるマットグロッソ州の作付面積の増加が生産拡大をけん引しており、穀物生産に転用できる牧草地がまだ十分に残されていることから、生産量は今後も増加していくことが見込まれる。また、急速に進む米ドル高レアル安や、トウモロコシを原料とするバイオエタノール生産の拡大、堅調な輸出や干ばつによる生産量減少に伴う低い在庫水準などを背景として、農家販売価格は上昇傾向にある。

1 はじめに

 ブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という)は日本の約25倍の面積を有し、水資源が豊富なことなどから、農畜産業が盛んな国である。穀物生産も盛んで、大豆およびトウモロコシの生産量は堅調に増加し、2019/20年度はともに過去最高を更新する見込みとなっている(図1)。
 

 
 米国農務省(USDA)によると、2019/20年度における大豆の生産量は世界第1位、トウモロコシは米国、中国に次ぐ同3位に位置しており、生産された大豆やトウモロコシは同国内の畜産農家などで消費されるだけでなく、多くの国に輸出されている。生産拡大に伴い輸出量も増加傾向にあり、大豆は同1位、トウモロコシは米国に次ぐ同2位となっている。特に2019/20年度は、米国で多雨によって生産量が減少したことから、大豆は米国との差がさらに広がり、トウモロコシは米国に迫る勢いである(図2)。このように、ブラジルの大豆およびトウモロコシの需給が世界市場に与える影響はさらに増大しており、日本の輸入量を見ると、大豆・トウモロコシともに米国産が依然として最も多いものの、ブラジル産はともに第2位となっている(図3、4)。
 

 


 
 その一方で、ブラジルは国土が広いこともあり、一部の地域において物流インフラの整備がまだ不十分なことから、高い輸送コストが大きな課題となっており、「ブラジルコスト」とも呼ばれている。大豆およびトウモロコシの輸送に関してもそれは同じであり、輸送コストが比較的安い水路や鉄道があまり発達していないため、多くの場合、生産地から輸出港までは陸路で輸送されている。こうしたことから、ブラジルは国を挙げて物流インフラの整備に力を入れており、特に、水路を利用した方法が最も輸送コストが安いことから、ブラジルが誇るアマゾン川水系を利用した北部地域からの輸出拡大に取り組んでいる。
 こうした背景を踏まえ、ブラジルにおける大豆およびトウモロコシ生産の現状や長期的な生産見通し(本稿で報告)、北部輸出ルートのインフラ整備状況など(後編で報告予定)を把握するべく、2020年3月に現地調査を実施した。その後、同国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大したことから、本稿では、直近の統計情報なども参照し、COVID-19の影響に留意しながら調査結果を報告する。なお、単位の換算には、1ブラジル・レアル=19.9円(2020年6月末日TTS相場)を使用した。また、特段の記載がない限り、年度は10月〜翌9月である。

2 ブラジルにおける大豆・トウモロコシ生産の現状

(1)生産概況

 ブラジルは、多くの生産地域において、同じ土地で1年に大豆とトウモロコシ、またはトウモロコシを2回収穫することが可能である。栽培時期は、国土が広いため地域によってばらつきがあるものの、大豆は10月ごろから播種はしゅされ、翌2〜3月ごろに収穫される(図5)。一方、トウモロコシは栽培時期に応じて3つの区分に分かれており、大豆と同時期に播種・収穫を行う第1作、大豆の収穫直後の2〜3月ごろに播種して6〜7月ごろに収穫を行う第2作、米国などの北半球と同時期の5月ごろに播種して10月ごろに収穫を行う第3作となっている。
 
 
 第1作トウモロコシは南部が主な生産地域だが、大豆の方が比較的収益性が高いことからトウモロコシの作付面積は減少傾向にある(図6)。なお、南部では畜産物生産も盛んであることから、第1作トウモロコシは主に地域内で飼料用として消費されている。
 
 
 一方、第2作トウモロコシは最大生産州であるマットグロッソ州をはじめとする中西部が主要生産地域となっている。中西部は大豆生産の拡大とともにトウモロコシの作付面積が年々増加しており、ブラジル全体のトウモロコシ生産をけん引している。また、第2作トウモロコシは、米国などの主要生産国と収穫時期がずれており、端境期に輸出できることから海外からの需要が強く、主に輸出向けとなっている。 
 続いて、主に北部や北東部地域で生産される第3作トウモロコシは、統計上、ブラジル国家食糧供給公社(CONAB)が毎月公表している生産見込みにおいて2019年10月に第2作から分離されたものである。米国と同時期に収穫されるが、CONABの担当者によれば、輸出向けではなく北部・北東部地域での飼料用としての消費が多いとのことである。なお、第3作トウモロコシは2019/20年度の全生産量のうちわずか1%にすぎず、第1、2作トウモロコシと比べると非常に少ないことから、以下では省略する。
 ブラジルは26の州および連邦直轄区の27の行政区分に分かれており、そのうち大豆の主要生産州は中西部のマットグロッソ州、南部のパラナ州やリオグランデドスル州である(図7)。一方、トウモロコシの主要生産州はマットグロッソ州、パラナ州、ゴイアス州、マットグロッソドスル州となっている。
 
 
 大豆の主要生産州の生産量は、いずれの州も増加傾向にあるが、特に最大生産州であるマットグロッソ州の伸びが顕著である(図8)。マットグロッソ州の生産量は1980年代にはそれほど多くなかったものの、1999/2000年度に最大生産州となって以降は右肩上がりで増加しており、パラナ州やリオグランデドスル州との差は年々広がっている。
 
 
 また、トウモロコシについても、作付面積が増えている第2作トウモロコシをけん引しているのはマットグロッソ州であり、その他の主要生産州との生産量の差は年々広がっている(図9)。ブラジル全体の大豆・トウモロコシ生産量に占めるマットグロッソ州のシェアは、ともに3割を超えるほど上昇しており、同州を一つの国として捉えると、大豆はアルゼンチンに次ぐ世界第4位、トウモロコシはウクライナに次ぐ同7位に位置するほどの生産力となっている。なお、ブラジルでCOVID-19が本格的に拡大し始めた3月ごろは、一部の地域において大豆の収穫時期であったものの、CONABによる直近の主要穀物の生産状況などの調査結果において、COVID-19の影響についての特段の記述はなかったことに加え、現地の報道などによると、本稿の執筆時点では大きな混乱はないとされている(注1)

(注1) 海外情報「2019/20年度主要穀物の生産状況等の調査結果(第9回)を公表(ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002731.html)を参照されたい。
 
 

(2)生産拡大をけん引する作付面積の増加

 マットグロッソ州の生産量を左右する要素のうち作付面積は、他の主要州と比べて増加が顕著であり、著しい生産拡大の要因であることが分かる(図10、11)。
 



 

 そして、これは森林伐採によるものではなく、肉用牛生産も含めた生産体系の変化(牧草地からの転用)によるところが大きいと現地では認識されている。マットグロッソ州では肉用牛生産も盛んに行われており、以前は広大な土地を利用した牧草肥育が中心であった。ブラジルでは比較的肉質の劣る熱帯種のネローレ種が最も多く飼養されている。しかしながら、近年、国内外からの堅調な需要に対応するため、品種改良用として肉質の良いアンガス種の導入を増やすとともに、生産方式をセミフィードロットに一部移行させている。ブラジルのセミフィードロットは、基本的に放牧で管理しながら、乾季や肥育後期に、飼料槽において濃厚飼料を給与する方法であり、牧草が十分確保できる時期には、飼料としてミネラルやタンパク質などを補助的に与えればよく、労力をかけずに飼養することができる。農家が複合経営を展開して大豆やトウモロコシ、牧草などを栽培し、農地をローテーションさせながら牛をセミフィードロットで飼養する生産体系へ移行したことにより、肉用牛の生産効率は向上した(写真1、2)。今回訪問した農家の場合、従来の牧草肥育では飼養期間が3〜4年であったところ、セミフィードロットに移行した現在では約24カ月でと畜できるようになったとのことである。
 



 
 また、2012年に改正された、土地の利用や管理、保護などを定める森林法という法律によって、森林伐採による大豆・トウモロコシの作付面積拡大は規制されている。この森林法は、土地の購入者が保全しなければならない土地の割合をそれぞれの地域で定めており、例えば法定アマゾン(注2)における森林地域では80%、酸性土で農業に向かないとされているセラード地域(注3)では35%を保全しなければならないことになっている。そのため、 例えばアマゾン地域の土地を1000ヘクタール購入し、その2割に相当する200ヘクタールの土地を大豆・トウモロコシの生産農地として開拓するよりも、既存の牧草地を購入・転用した方がコストは安い。こうしたことから、規模拡大を図る農家としては牧草地の転用をまず考えるのが一般的であるということであった。
 マットグロッソ農業観測所(IMEA)によると、2008〜17年の10年間で同州の170万ヘクタールの牧草地が大豆・トウモロコシ農地に転換されたが、牛の飼養頭数は2008年の2570万頭から2017年には3010万頭に増加した。こうしたことから、マットグロッソ州では、生産体系の変化により、大豆やトウモロコシの生産量が増加するとともに、肉用牛生産も拡大している。

(注2) マットグロッソ州、アクレ州、アマゾナス州、アマパー州、ロライマ州、パラー州、ロンドニア州およびトカンチンス州とマラニョン州の一部。
(注3) マットグロッソ州、マットグロッソドスル州、ゴイアス州、トカンチンス州、マラニョン州などに広く分布している。

 

(3)土壌改良や品種改良などにより増加を続ける単収

 生産量を左右するもう一つの要素である単収を見ると、マットグロッソ州のみならず多くの州で、大豆・トウモロコシともに長期的に増加していることが分かる(図12、13)。これには大きく二つの取り組みが影響している。
 



 
 一つ目が土壌改良と栽培技術の向上への取り組みである。ブラジルは、酸性土で農業に向かないセラード地域に石灰を散布するなどの土壌改良に長年取り組んできた。また、同州の開拓当初は土を耕した上で大豆を栽培していたが、ひとたび雨が降ると土とともに種子や肥料も流れてしまうなど、土壌侵食も深刻な問題であった。大豆とトウモロコシの二毛作が可能になる以前は、大豆の収穫後に土壌侵食を防ぐための被覆用の植物を植えていた。この被覆用の植物は深さ約4メートルまで根を伸ばすため、雨が降っても土壌侵食が起こりにくくなった。翌年にはその植物をなぎ倒して、土を耕さずにトウモロコシなどを播種することで、その植物の残渣ざんさは有機物としても機能した。当時もトウモロコシは連作障害の起こりやすい大豆の後作として栽培されることが多かったが、品種改良が本格的に開始される前であったため、現在のような二毛作は不可能であった。
 しかしながら、栽培期間の短縮化など品種改良の進展により、その被覆用の植物の代わりとしてトウモロコシが土壌侵食を防ぐ役割を果たすようになった。また、トウモロコシの収穫後は、茎や葉を土壌の上に残しておくことで、有機物の蓄積による土壌改良も進んだ(写真3)。このような栽培方法が現在も行われており、単収の増加に大きく影響していると言われている。また、今回の調査で訪問した農家では、定期的な土壌分析により圃場ほじょうの土壌成分のマッピングを行い、収量との関係を毎年解析することにより、施肥量など今後の土壌改良の戦略を考えていた。こうした継続的な取り組みを行っていることに加え、植え付け機や収穫機の性能も向上していることから、栽培技術は向上し続けているものとみられる。
 

 
 単収を増加させてきたもう一つの取り組みは品種改良である。ブラジルでは遺伝子組み換え品種の栽培が認められており、大豆・トウモロコシでは約9割が遺伝子組み換え品種であると言われている。遺伝子組み換え品種の開発に関しては、2005年3月24日付け法第11105号の成立により、遺伝子組み換え品種の栽培、輸出入、販売などが正式に認められることになり、モンサント社やシンジェンタ社などの民間企業が本格的に進出できるようになった。ブラジル大豆種子協会(ABRASS)の担当者によれば、ブラジルは国土が広く、地域によって気候や土壌も異なるため、各地域に適した品種が開発されており、品種改良により今後も単収は増加していくとのことであった。
 上述のような土壌改良や栽培技術の向上、品種改良などの取り組みにより、マットグロッソ州だけでなくブラジル全体で今後も単収は増加していくものと考えられる。なお、単収が増加すると搾油率やタンパク質含有率が減少することから、ブラジルでも近年、品質の低下が指摘されるようになっているものの、より単収が多い米国産ほどの低下ではないとの声が多かった。
 

(4)マットグロッソ州の生産余力

 上述の通り、マットグロッソ州では、作付面積の著しい増加に加え、単収の長期的な増加によって生産拡大を成し遂げてきた。
 マットグロッソ州ではこれまで多くの牧草地が大豆・トウモロコシ生産のために転用されてきたが、IMEAの担当者によると、同州は日本の2.4倍もの広大な面積を有しており、2350万ヘクタールの牧草地のうち転用可能な牧草地がまだ1400万ヘクタールも残されているということであった。なお、牧草地の中で転用に適している地域の条件としては、(1)土壌が大豆・トウモロコシの栽培に適していること(砂状質の土地では生産できない。これを解決するために大豆・トウモロコシ生産、牧畜の混合農業を推奨しているが、生産性が低いままの土壌もある。)(2)播種や収穫の作業を機械化しているため平坦へいたんであること(3)一定の降雨量があること―などが挙げられる。転用可能な牧草地は同州の東部および北部に多く残されており、今後はこれらの地域で転用される見込みである。
 牧草地の転用見込みや国内需要の増加見込みなどを考慮したIMEAによる2028/29年度の予測では、マットグロッソ州の大豆の作付面積は1300万ヘクタール、トウモロコシは717万ヘクタールまで増加し、生産量は大豆・トウモロコシともに5000万トンを超えるとのことである(図14)。また、トウモロコシの生産量の増加が大きく、2028/29年度には大豆を上回る見込みとなっている。
 

 
 なお、ブラジル農牧食糧供給省(MAPA)によると、ブラジル全体における2028/29年度の大豆生産量は1億5187万トン(2018/19年度と比較して3756万トン増)、トウモロコシは1億1452万トン(同1927万トン増)の予測となっている。
 

(5)大豆・トウモロコシの需給構造

 ブラジルで生産された大豆は、それぞれの生産地域の近くにある集荷用のサイロに集められ、そのうち約60%が輸出向けとして港へ輸送される(表1)。また、約35%は搾油工場まで運ばれ、大豆油や大豆かす、さらにはバイオディーゼルが生産され、それぞれ輸出や国内消費に向けられる。なお、生産された大豆かすの約半分は飼料として国内で利用され、残りの約半分は輸出されている。
 
 
 また、ブラジルで生産されたトウモロコシは、大豆と同様に生産地域の近くにある集荷用のサイロに集められ、そのうち約30%が輸出向けとして港へ輸送される。また、約60%は国内で利用され、最も多いのはブロイラー・養鶏向け飼料であり、養豚向け飼料やバイオエタノール生産などの産業用としての利用も多いとされている(表2)。
 
 
 ブラジルでは、食肉消費が堅調であることに加え、中国をはじめとする海外からの需要も強いことから、畜産物生産が拡大しており、国内の飼料の需要も増えているとされている。
 

(6)トウモロコシ由来のバイオエタノール生産の拡大

 サトウキビの生産が盛んなブラジルにおいて、サトウキビ由来のバイオエタノール生産は長い歴史を持っている。一方、トウモロコシ由来のバイオエタノールは主に米国で生産されていることがよく知られているが、トウモロコシを原料にするとでん粉をブドウ糖に変える糖化という工程が加わることから、ブラジルではトウモロコシ由来のバイオエタノールはこれまであまり生産されてこなかった。しかしながら、最近はブラジルでもトウモロコシ由来のバイオエタノール生産が増加している。
 こうした動きは、サトウキビ由来のバイオエタノールの生産動向とは関係なく、トウモロコシ由来のバイオエタノール生産でも十分な収益を出すことができると企業が考え始めたために出てきている。バイオエタノール生産には、主に第2作で生産されたトウモロコシが仕向けられている。第2作はマットグロッソ州を中心に約10年前から本格化した作型であり、2009/10年度に2194万トンであった生産量は、約10年間で約3.5倍に増加した。前述の通り、トウモロコシは収入の確保よりも、土壌浸食を防ぐための被覆および大豆の連作障害の防止を目的として栽培されていたものであったが、二毛作が可能になってからは、生産量が増加し、主に輸出に仕向けられるようになった。本来、トウモロコシは大豆に比べて収益性が低い上、農家販売価格が海外の需給状況やシカゴ相場、為替相場などの影響を大きく受けるため、農家は経営をコントロールすることが難しい。しかしながら、今回の調査では、バイオエタノール向けの販売価格は輸出向けよりも高い価格で販売できるという声が多く聞かれ、第2作トウモロコシは、バイオエタノール生産に利用されることで農家の収入の増加につながっているものとみられる。
 このため、バイオエタノールの生産プラントも建設ラッシュが続いている。1種類の作物からバイオエタノールを生産するプラントはフルタイププラント、サトウキビとトウモロコシの両方からバイオエタノールを生産することができるプラントはフレックスプラントと呼ばれている。サトウキビは、糖度の低下を避けるため、収穫直後に生産工程に入る必要があることから、サトウキビしか原料にできないフルタイププラントは年間200日程度しか稼働できないが、トウモロコシは比較的長期間保管可能な作物であるため、トウモロコシを原料にできるフルタイププラントは一年中稼働することができる。また、フレックスプラントも、サトウキビの収穫時期にはサトウキビを、残りの期間はトウモロコシを原料にしてバイオエタノールを一年中生産することができる。
 さらに、トウモロコシを原料にしてバイオエタノールを生産すると、副産物としてタンパク質を多く含むトウモロコシ蒸留かす(DDGS)ができる。DDGSは家畜用の飼料として利用されるため、国内外に販売することができ、バイオエタノールプラントとしては大きな収入源となる。調査時点における、国内のトウモロコシを原料とするバイオエタノールプラントは、稼働中が15カ所、建設中は2カ所、計画中は13カ所となっており、そのほとんどがマットグロッソ州にある(図15)(注3)。USDAなどによると、トウモロコシ由来のバイオエタノールの国内生産量は、2018/19年には8億4000万トンであったものが、2028/29年度には80億トンにまで増加する見通しとなっており、トウモロコシ由来のバイオエタノール生産の動きが加速している(図16)。CONABの担当者によれば、こうした動きは、国内市場においてすでにトウモロコシ相場の上昇要因の一つになっているとのことであった。なお、COVID-19の拡大により、バイオエタノールの国内需要は一時的に低迷しており、今後の回復を現時点で見通すことは難しい。

(注3) ブラジルのトウモロコシ由来のバイオエタノール生産の状況については、海外情報「2020/21年度の砂糖・バイオエタノールの生産見通し(ブラジル) 〜新型コロナウイルス感染症の拡大により砂糖の増産に傾く」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002696.html)も参照されたい。
 



 
 今回の調査で訪問したバイオエタノールプラントでは、トウモロコシの品種は指定していないとのことであった。でん粉を多く含む品種の方がバイオエタノールを多く生産できるため、バイオエタノール向けとしては好まれるものの、栽培品種は農家が選択しており、バイオエタノールプラントでは受け入れ時の品質検査で農家への支払い額を決めているとのことであった。
 ガソリンへのバイオエタノールの混合割合は、2015年以降、27%を維持することが義務付けられており、ブラジルのガソリンスタンドでは、バイオエタノール100%のものとガソリンにバイオエタノールを27%混合したものが販売されている。ブラジルで販売されている自動車のほとんどは、ガソリンでも、バイオエタノール100%でも、エタノールが混合されたガソリンでも走行することができる「フレックス車」という自動車であり、運転手は燃料価格と燃費を勘案し、使用する燃料を都度選択している。
 一方、主に大豆から生産されるバイオディーゼルについても国内需要は増加している。ディーゼル油へのバイオディーゼル混合義務は2008年に始まり、当時の混合割合は2%であった。その割合は年を追うごとに引き上げられており、2020年現在は12%であるが、年1%ずつ引き上げ、2023年には15%に引き上げることを目指している。
 

(7)価格構造

 大豆・トウモロコシの価格は基本的にシカゴ相場に連動する動きを見せる傾向にある。それはシカゴ相場を基準に輸出価格(FOB)が米ドル建てで算出されるためである。そして、FOB価格から国内輸送コストを差し引き、米ドルからレアルに換算されたものが農家販売価格の基本的な価格になる(実際に農家に支払われる金額は契約内容によって多少異なる)。つまり、農家販売価格に生産コストは考慮されない。従ってレアル高が進行し、かつシカゴ相場が低迷すれば、農家販売価格は再生産できないほどの水準になってしまうこともある。これを防ぐため、ブラジルでは最低価格保証政策(PGPM)(注4)に基づき農家の収入の変動を抑え、一定の収入を保証する政策を行っている。

(注4) ブラジルの農業政策は、農業融資と取引支援が主要政策になっており、それぞれの政策は最低価格保証政策に基づいて行われている。例えば、取引支援のうち連邦政府買い上げ制度(AGF)は、農家販売価格が毎年設定される最低価格を下回った場合に、農家の収入を保証するために、政府による買い上げが実施される仕組みとなっている。

 しかしながら、近年、シカゴ相場は比較的低位安定しているものの、為替相場は米ドルレアル安で推移しており、さらにCOVID-19がブラジルで本格的に拡大してからは、過去に例を見ないほどの水準となっている(図17)。一般的にレアル安が続いている時期は、輸入に頼りがちな肥料や農薬などの価格が高くなり、生産コストを押し上げるものの、レアル建てでの農家販売価格は高くなり、農家の収入は増えるため、現在は十分な収入があるとみられている。2020年5月時点でのマットグロッソ州における大豆およびトウモロコシの農家販売価格は、それぞれ60キログラム当たり95.24レアル(1トン当たり3万1588円)、同37.74レアル(1トン当たり1万2517円)と上昇傾向にある(図18)。米ドル建てに換算すると、ブラジルの大豆・トウモロコシの価格競争力が高いことを背景に、特に大豆の輸出量が5月に過去最高を記録するなど輸出が堅調であることから、農家販売価格がさらに上昇したと言われている。
 




 

 一方、トウモロコシは、国内の畜産物の生産が増加しており国内需要が高まっていることや、昨年の堅調な輸出により在庫が低水準であることに加え、リオグランデドスル州を中心とした干ばつによる第1作トウモロコシの生産量減少なども価格上昇の要因とみられる。
 なお、今後さらにレアル安が進行するという期待感はあるものの、現在でも十分な収入を確保できていることから、農家は当初計画を前倒して販売していると言われている。

コラム 大豆モラトリアム

 2019年7月にブラジル国立宇宙研究所(INPE)が、同年6月のアマゾン地域の森林減少面積が前年を大きく上回るという調査結果を公表して以降、これに関連する情報が数多く報道され、複数の国の代表や世界的な著名人らが懸念や批判を示すコメントを発表した。
 一方、ブラジル国内のボルソナーロ大統領支持者からは、環境保護よりも経済活動を優先する同大統領への政治的なネガティブキャンペーンであるとの声も多く、また、米国のトランプ大統領は、「アマゾン地域の森林減少を引き起こしているとされる森林火災に対してボルソナーロ大統領が懸命に対応している」とツイートした。しかしながら、事態はこれにとどまらず、同年8月にフランスで行われたG7サミットの議題にも取り上げられるなど、世界中を巻き込んだ論争になった。こうした中、ボルソナーロ大統領は、批判的な報道情報やコメントに対し、真っ向から反論するとともに、8月には一連の騒動の発端になったINPEのリカルド・ガルヴァン所長を解任した。
 このようにさまざまな意見のあるアマゾン地域の森林減少について、本稿で論評することは避けるが、大豆生産の拡大がその要因の一つであるという主張もたびたび聞かれるところであることから、その正否は別として、本コラムでは大豆生産とアマゾン地域の森林に大きく関わっている大豆モラトリアムという取り組みを紹介する。
 大豆モラトリアムは、ブラジル油種加工業協会(ABIOVE)およびブラジル穀物輸出協会(ANEC)が事務局となって2006年7月24日から実施しており、2008年7月22日以降(2012年に改正された森林法に基づいて基準日が変更された)にアマゾン地域の森林を切り開いた土地で生産された大豆の取引および貿易を行わないようにするというものである。
 この取り組みの目的は、アマゾン地域で生産される大豆が森林面積の減少に大きく影響していないことを証明するとともに、2008年以前に開拓された地域での植栽を奨励することにより、アマゾン地域での大豆の生産拡大を阻害することなく、農業と環境保全を両立させることである。この目的を達成するために、本取り組みでは、衛星画像やその他の国際機関のデータを使用したモニタリングを継続的に行っている。2020年4月28日に公表された最新の報告書によると、2008〜18年の間にアマゾン地域で森林伐採された面積のうち、大豆モラトリアム非順守地域の大豆生産面積は5%以下にすぎず、大豆生産がアマゾン地域の森林減少の主因ではないとしている(コラム−図)。
 
 
 
 この大豆モラトリアムの取り組みの成果が報告されている一方で、農家側からは不満の声が上がっている。現在の取り組みは森林法に基づいて開拓した土地で生産した大豆であっても取引を行わないようにするという厳しいものであることから、農家側は、法律を守っている土地で生産された大豆であれば、取引を認めるべきであると主張している。確かに森林法はブラジル政府が定めた法律であるものの、この主張に対してANECの担当者は、環境保護意識の高い需要国側からの強い要望もあり、こうした取り組みを見直すことは難しいだろうと語っていた。

3 おわりに

 ブラジルでは、広大な国土や豊富な水資源など穀物生産に適した条件が揃っている。このため、国内外からの穀物および食肉需要の増加などを受けて、飼料となる大豆・トウモロコシの生産量は、これまで順調に増加してきた。特に、最大の生産州であるマットグロッソ州を中心とした作付面積の増加が生産拡大をけん引してきたところであるが、穀物生産に転用可能な牧草地はまだ十分に残されている。また、多くの州で長期的に増加してきた単収は土壌改良や品種改良などにより、今後も増加していくとみられる。こうしたことから、ブラジルはすでに世界有数の大豆・トウモロコシ生産国となっているが、生産余力はまだ十分にあると言えよう。
 また、今後も増加が見込まれている国内外からの穀物および食肉需要に加え、トウモロコシ由来のバイオエタノール生産という新たな需要も生まれており、農家にとって新たな収入源となる可能性が高いことから、現地では大きな期待が寄せられている。
 こうした需要の増加に加え、米ドル高レアル安が追い風となっていることから、大豆およびトウモロコシの農家販売価格は上昇傾向にあり、農家の作付け意欲も高まっているとみられる。そのため、今後、特段の天候条件や経済情勢の変化などがない限り、同国の生産量は順調に増加していくものと考えられる。
 しかしながら、ブラジルは、国土の広さや、一部の地域における物流インフラの不十分な整備状況から、米国などの主要輸出国と比較すると輸送コストが高く、国際競争力の上で大きな課題となっている。
 後編(『畜産の情報』2020年9月号に掲載予定)では、近年、港湾や道路などの整備が進んでおり、マットグロッソ州など中西部地域からの輸出増加が見込まれているブラジル北部地域の物流インフラの現状と、これに伴い高まりつつある同国の国際競争力について報告する。



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