畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > COVID-19影響下のEU酪農の現状

海外情報 畜産の情報 2021年8月号

COVID-19影響下のEU酪農の現状

印刷ページ
調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 EUでは新型コロナウイルス感染症によるロックダウンが実施された2020年においても、小売需要がけん引する形で全体の乳製品需要はむしろ増加した。業界関係者によれば、21年の見通しでも小売需要は引き続き堅調なまま、フードサービス需要が回復するとみられ、EU域内の乳製品市場は拡大すると考えられている。21年の懸念材料としては飼料価格の高騰が挙げられていた。
 また、EUで重要視されている持続可能な酪農について、消費者の高い意識を背景に、CAPによる規則のほか、投資側からの環境対策への実施の圧力などが今後も高まる見通しである。乳製品代替食品については、今後の市場が拡大するにつれ需要が高まるが、品質の向上などが課題である。
 さらにEUを離脱した英国との間では衛生証明書関係の手続きに課題を残している。

1 はじめに

 2021年6月9日、10日にかけて欧州乳製品輸出入・販売業者連合(EUCOLAIT)の年次総会が初めてオンラインで開催された。本総会では、EU(27カ国)主要生乳生産国の会員が参集し、同時に乳製品の需給や関連トピックに関するセミナーも開催された。同セミナーによる報告を踏まえ、欧州委員会の資料を基に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の中での2020年の需給および21年の需給見通し、また、今後の乳製品に大きな影響を与える持続可能性に関するトピックを報告する。なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=112円(2021年6月末日TTS相場:111.58円)を使用した。

2 EUCOLAITセミナーを踏まえたEUの需給報告

(1)生乳生産量の見通し

 欧州委員会によると、2020年の生乳生産量は1億5490万トン(前年比1.6%増)であり、乳牛飼養頭数は減少したものの、1頭当たりの乳量が増加したことから2010年以降、10年連続の増加となった(表1)。なお、欧州委員会は21年の乳脂肪含有率について前年と同程度と見通しているものの、業界関係者は21年1〜4月の乳脂肪含有率は冬季から春にかけて寒冷な気候で推移したこともあり、過去2年と比較して高い水準で推移している点を指摘していた。
 


 

(2)乳製品の見通し

(@)飲用乳など
 近年、飲用乳などの生産量は減少傾向で推移していたが、COVID-19拡大に伴う巣ごもり需要の影響から2020年には増加に転じている(表2)。21年の見通しとして、消費量は減少するものの19年より多くなると予想されている。また、飲用乳やヨーグルトなどの1人当たりの消費量も同様の傾向とされている。飲用乳消費の増加は、ロックダウンやスーパーの入店制限が行われたことで、頻繁に買い物を行える状況ではなくなったため、1回当たりの購入量が増え、かつ買いだめする消費者が増えたことなどが要因とされている。また、流通量は少ないものの、普段、冷蔵牛乳を購入する客層においてもESL技術(製造管理により製品の品質保持期限を延長する技術)を用いて製造された牛乳を購入する機会が増えたとされている。
 一方、輸入量はフードサービス需要の減少に加え、英国のEU離脱(Brexit)を背景とする通関の混乱が予想されるものの、前年並みと見込まれている。輸出量については、中国からの飲用乳およびクリームの引き合いが強いことから、増加が見込まれている。
 


 

(A)チーズ
 2020年はCOVID-19によるロックダウンなどがあったにもかかわらず、生産量、消費量および輸出量はいずれも増加した(表3)。米国との航空機を巡る補助金による報復関税の問題(注1)があったものの、米国などが主な輸出先となった。21年は、小売需要は前年と同程度で維持されるとみられる一方、フードサービス業界が徐々に回復することから、引き続き増加傾向で推移すると見込まれている。
 なお、フランス、英国、ドイツといった乳製品の大消費国では、チーズ、バター、クリームの需要のうち、おおむね3分の1程度がフードサービス向けと推定されている。
 

(注1)海外情報「EUと米国、航空機補助金を巡る追加関税措置の停止を合意(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002968.html)を参照されたい。
 


 

(B)バター
 2020年は輸出先の堅調な需要に加え、EU産バターの価格が相対的に安かったことから、輸出量は増加した(表4)。生産量および輸出量は増加した一方、COVID-19拡大に伴う需要減少により消費量はわずかに減少し、輸入量の減少につながった。21年は引き続き堅調な需要により輸出量が増加し、フードサービスの回復とともに、消費量も増加するとみられている。主な輸出先は、米国やサウジアラビアである。
 


(C)脱脂粉乳
 2020年の生産量は増加したものの、消費量はCOVID-19拡大に伴う需要減少により減少した(表5)。21年の消費量はほぼ前年と同程度であるが、生産量および輸出量は増加が見込まれている。主な輸出先は、中国やアルジェリアなどである。
 


(D)全粉乳
 全粉乳はチョコレート原料を初めとする需要に支えられ、近年生産量は増加傾向にあった(表6)。2020年の生産量は増加し、21年も堅調な輸出需要に支えられ増加が見込まれている。消費量はロックダウンによるチョコレートなどの加工製品の域内需要の減少により、2020年には減少し、21年も同程度の水準になると見込まれている。なお、輸出先はオマーン、アルジェリアやナイジェリアなどの産油国が多いことから、輸出需要は原油価格の影響を受けやすい。


 

(3)2021年の需給に影響を与える要因

 欧州委員会の資料や現地関係者からの聞き取りによると、昨年増加した小売需要は本年も同じ水準が維持される一方、フードサービス需要が徐々に回復傾向にあることから、乳製品需要は堅調に推移するとみられている。また、2020年末のEUの乳製品在庫量が低い水準にあり、オセアニアの生乳生産量の増加があまり期待できないことは、EUの乳製品の販売にとってプラス要因となる。
 一方、今後の懸念材料としては夏の熱波と飼料価格の高騰が挙げられる。6月時点で欧州では熱波の到来は予想されていないものの、飼料価格の高騰による生産への悪影響が懸念されている。またBrexitにより、後述する衛生関連の証明書の発行をめぐり英国からEUへの乳製品輸出に混乱が生じている状況では、今後、Brexit前と同様の条件で認められているEUから英国への輸出についても、同様の混乱が発生した時には、EUの生産量および輸出量に影響が生じる可能性がある。
 

(4)持続可能性に関連する情勢

 EUCOLAITのセミナーでは、次期共通農業政策(CAP)(注2)で大きなテーマとなる持続可能性に関連する情報提供が行われた。以下はその概要である。
 

(注2)海外情報「次期共通農業政策(CAP)改革案について暫定合意(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002984.html)を参照されたい。


(@)消費者にとっての持続可能性のイメージ
 持続可能性に配慮した製品の購入を志向する消費者の数は増加しており、世界60カ国の3万人の消費者を対象にしたアンケート調査結果では、55%の消費者が持続可能性に配慮した商品やサービスにお金を上乗せして支払うと回答した。また、欧州ではインターネットサービスのYuka(注3)などによる評価付けも広がりつつある。
 持続可能な製品としてイメージされやすいのは有機農畜産品であるが、消費者が持続可能な製品として思い浮かべるものは、(1)原産地表示された商品(2)近隣地域で生産された商品(3)健康に気を使った商品(4)簡素化されリサイクル可能な包装資材(5)牧草飼育された牛から生産された生乳を使った商品―などの幅広い分野が含まれている。
 

(注3)スマートフォンアプリで、栄養成分の他、添加物の有無、環境への配慮などによって製品をスコア化し、消費者に提供するサービス。

(A)持続可能性の考えが企業や酪農・乳業などに与える影響
 世界中の多くの乳業メーカーが温室効果ガス削減に言及している。畜産物生産においては、飼育時の家畜からの炭素を含む温暖化ガスの排出を減らすため、飼料添加物、家畜の品種改良、ワクチン接種を含む消化器内のメタン生成菌のコントロールなどの研究を進めることが重要であるとともに、排出量のうち、相当の割合を占める飼料生産段階での排出量削減が必要である。
 乳業メーカーのみならず、企業は投資家から持続可能性について大きな圧力を受けている。例えばマイクロソフト社は投資家からの要望を受け、2030年までに炭素排出量をマイナスにするとの目標を掲げている。このため同社は21年2月、米国の生産者が所有する会社から1トン当たり20米ドル(2240円)の価格で、年間10万トンの炭素排出権の購入を発表している。
 一方で、持続可能性の対策を講じることにより、生産コストが上昇するだけでなく、生産量が減少する可能性について留意しないといけないとの指摘がなされた。セミナーでは、ニュージーランドの生乳生産量の増加率を例に挙げ、直接の因果関係は不明としつつ、持続可能性の対策を本格化させた14年以降の集乳量の増加率は、それ以前よりも小さく、21年以降はほぼ増加が止まるとの見通しが示され、持続可能な生産方式への転換を一因として挙げる意見も聞かれた。
 

(B)植物ベースの乳製品代替品
 持続可能性に関する消費者の関心の高まりにより、植物原料由来たんぱく質商品の市場が拡大している。ビーガンやベジタリアン、ペスクタリアン(肉類は食べないが魚介類は食べる)のみに限るとEU域内の消費者に占める割合は1割に満たない程度とみられるが、フレキシタリアンと呼ばれる時々ビーガンやベジタリアンの食事を取る人々を含めると3割を超えるとみられている。特にこのフレキシタリアンと呼ばれる層は今後も拡大することが見込まれている(注4)
 植物原料由来たんぱく質の市場拡大を左右する要因は、リピーターに再度購入してもらえるような品質向上が可能かどうか、さまざまな販売場所と流通経路の確保、消費者に理解されやすい商品の差別化がカギとなる(写真1、2)。
 発表者からは、今後、乳製品が環境に及ぼす影響は大きくないとの主張が受け入れられる可能性もあるが、酪農・乳業サイドは、消費者のイメージ向上のため、何らかの行動を起こす必要がある。ただし、科学的に正しい事実であっても、消費者にその通り受け入れてもらえない可能性がある。また、民間投資を受けるためには、より環境に配慮した条件を整える必要が出てくるとの見方が示された。
 

(注4)『畜産の情報』2021年5月号「欧州における食肉および乳製品代替食品市場の現状」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001639.html)を参照されたい。
 



3 COVID-19発生後のEU域内の乳製品の販売・流通動向について

(1)EUCOLAITセミナーの発表内容など

 EUのGDP(国内総生産)成長率は2020年に6.1%低下したと推計されているものの、21年には4.2%、22年には4.4%の上昇が予想されている(表7)。
 こうした中で、乳製品については、COVID-19の影響はそれほど大きくなく、前述の通り全体の消費量はロックダウンが行われた20年にむしろ増加している。

 
 小売状況は好調であり、ドイツの小売データの分析によれば、2020年はほとんどの乳製品(飲用乳、クリーム、ヨーグルト、家計消費用チーズ、バター、デイリースプレッド)の売り上げは前年比増であった。21年1〜4月の期間では、生クリーム、家庭消費用チーズ、デイリースプレッドが引き続き増加しているものの、バターや飲用乳、フードサービスで切り分け提供されるチーズなどは減少している。一方、フードサービスは20年が厳しい状況であり、21年には徐々に回復しているもののコロナ禍以前の状況まで早急に戻るとは考えられていない。
 

(2)2021年の乳製品需要の見通し

 2021年の需要の見通しについてEUCOLAITの担当者は、個人的見解としつつ、以下のような意見を述べている。
 乳製品の需要は、COVID-19が沈静化しても元の低い水準にまでは戻らず、特に家庭向け需要は現在の高い水準が維持されるとみている。これは、毎日出勤せず、シフトで出勤する勤務体系が今後も続くことで、会社の食堂の再開は難しく、また、持ち帰り形態に適合できなかった店も廃業するなどフードサービスは完全に元に戻らないためである。
 一方、21年には前年に比べ、フードサービス需要は回復するとみられる。さらに当面の傾向として、COVID-19により流通・販売の混乱を経験した需要者は、これまでよりも多くの在庫を持とうとしており、また、南欧では夏のバカンスの時期を迎えることから、需要も旺盛となっている。
 今後、中期的に消費に影響を与える可能性のある要因としては乳製品の代替品である。市場規模はまだ小さいが、飛躍的に需要を伸ばしている。なお、植物性の代替乳製品については、品質(味覚や食感)や栄養面では見劣りし、食品添加物を多く使うものも多く、乳製品として同じ土俵に立つ製品とは言えない。
 一方、植物性原料を利用し、牛乳と同等の成分を有する代替牛乳を作り出す研究が行われているとの報道には危機感を抱いている。植物性原料を利用し、作り出された代替牛乳を原料として製品に利用された場合、原料の価格が安く、環境に優しいものができるならば、酪農・乳業にとって深刻な脅威になる可能性がある。
 

(3)英国からEUへの乳製品問題

 現地報道などによると、EUおよび英国間のSPS(衛生植物検疫措置)手続きの問題から、両国間の乳製品の貿易に悪影響が生じる可能性があると報じられている。EUCOLAITの推計によると2021年1〜3月の英国からEUへの乳製品の輸出額は前年同期比で37%減少している。
 現地関係者からの聞き取りによると、英国からEUへの乳製品輸出について、Brexitにより21年1月から通関関係の書類のほか、新たに動物衛生関係の書類が必要となった。このため、両国間の乳製品の貿易では、注文から納品までのリードタイムが短いにもかかわらず、注文を受けてから動物衛生関係の書類を揃えなければならなくなっている。しかし、英国では獣医師が不足しており、動物衛生関係の書類が発行されるまでに時間を要している。また、多様な供給元の製品を混載すると、それぞれの製品に書類が必要となるため大変な手間と時間がかかっている。
 こうした状況に加え、手続きが電子化されていないことから、署名の入った原本を提出しないと通関ができず、その書類を誰が持っているか、どこに置いたかわからなくなることもある。混乱の一例として、どこに書類があるかわからず書類を探し回った結果、コンテナの一番奥の箱の上に置いてあったとの笑い話もある。英国およびEUのシステム(TRACES (TRAde Control and Expert System))は共通化が検討されており、英国およびEUは早ければ22年1月からの運用と説明しているが、業界関係者は言葉通りには受け止めておらず、実際はもっと遅くなると予想している。
 なお、EUから英国向けの輸出については21年6月現在、Brexit前と同じ条件で可能となっているが、本年10月以降はEUから英国に輸出される乳製品についても動物検疫関係の書類が必要とされるため、さらなる混乱が懸念されている。英国側は同国へ乳製品が到着する24時間前までに書類の提出を求める方針であるが、現在の状況を見ると、条件を満たすのは極めて困難とみられている。これにより英国の需要者がEU以外の供給者へ仕入れ先を切り替える可能性が高いとしている。

コラム 現地小売店訪問

 ブリュッセル郊外にある大手スーパーマーケットの大規模店舗、市内の高級スーパーマーケットやオーガニック専門店をそれぞれ訪問し、乳製品および食肉の販売状況について話を聞いた。なお、この情報はその場にいる中で、なるべく事情に詳しい店員に質問を試みた結果であるものの、あくまで個人の意見であり、必ずしも一般化できるものではないことに注意されたい。

(1)大規模スーパーマーケット(ブリュッセル郊外)
 聞き取り対象の店員の個人的な印象ではあるが、乳製品および食肉ともにロックダウン直後と解除後とを比べると、購入する商品や数量に大きな影響を特に感じなかった。ただし、大規模なスーパーマーケットでは来店者数や買い物時間の厳しい制限を行っていたため、全体としては大きな影響を感じることができなかった可能性もある。
 同店では、コンテ、エメンタール、シェーブルタイプ(ヤギ乳チーズ)に人気があり、カマンベールは年間を通して人気があり、青カビタイプでは、スティルトン、ゴルゴンゾーラに人気があるということであった(コラム−写真1、2、表1)。








 

(2)高級食材スーパー(ブリュッセル市内)
 聞き取り対象の店員によれば、チーズおよび食肉とも、2020年春の最初のロックダウン時には大量の消費者が訪れるパニック買いがあったが、同年夏の飲食店の営業再開時には客足が減少し、2回目のロックダウンで再び増加したものの、現在は落ち着いたとしている。
 COVID-19の影響として感じることは、自宅での食事の機会が増えたことから、スペイン・ガリシア州産の高級牛肉やトリュフ入りブリーチーズなどの高級食材の販売が増加したことである。
 チーズの売れ筋商品としては、年間を通してコンテが人気であるが、夏はモッツァレラ・ディ・ブッファラ(水牛乳を原料としたモッツァレラ)や、ハーブやフルーツと合わせたシェーブルチーズなどのフレッシュなチーズ、冬はラクレットなど、季節によって異なっている(コラム−写真3、4、表2)。
 







 

(3)オーガニック専門スーパー(ブリュッセル市内)
 ベルギー国内の持続可能な高品質のオーガニック農畜産品生産者を支援するとのコンセプトで運営されている。聞き取り対象の店員によれば、ロックダウン前後で乳製品、食肉の売上に大きな変化はなかったとしている。ロックダウン時には、パルミジャーノ・レッジャーノ、コンテ、ゴーダなどの家庭で消費される典型的なチーズが好まれる傾向にあった。食肉売り場の冷蔵ケースには、そもそもオーガニックの食肉の商品が少ないため、食肉よりも植物性由来代替品が多く陳列されていた(コラム−写真5、6)。








4 おわりに

 EUにおいては、一部の乳製品を除いて、COVID-19の影響により2020年の全体の乳製品需要は増加し、21年についても引き続き堅調な需要が続くと予想されている。COVID-19が、今後どのようにEUの乳製品需要に影響を及ぼし続けるのかが注目されている。
 持続可能性については、欧州委員会は23年から開始する次期CAPについて、これまで生産者の所得を下支えしていた直接支払いの予算のうち、原則25%を環境保全対策に仕向けることや、農用地のうち3%を生物多様性の維持のための保全を義務付けると発表するなど、これまでにも増して重要なテーマとされている。
 持続可能性を向上させる農畜産業については、政策担当者、農業関係者、消費者の間で必ずしもイメージが共有されていないと思われる中で、今後EUで実施され、CAPが対象とする酪農および乳業の全体像がどのようなものになるのかを、注視していくことが重要であると思われる。

(平石 康久 (JETROブリュッセル))