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海外情報 畜産の情報 2022年2月号

ブラジルの牛肉需給動向および今後の展望

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 ブラジルは、世界有数の牛肉生産国であり、主要な牛肉供給国として大きな役割を担っている。特に近年は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴う生産・流通・消費への影響や、中国におけるアフリカ豚熱の発生に伴う代替需要などにより、同国を取り巻く牛肉需給が大きく変化している。ブラジル牛肉産業ではこうした国内外のさまざまな状況の変化に対し短〜長期的な観点から的確に対応していくことが求められている。

1 はじめに

 ブラジルは、米国に次ぐ世界第2位の牛肉生産国であり、また、世界最大の輸出国である(表1)。生産された牛肉の7割強は国内消費され、残りは約120カ国に輸出されている。しかし、近年では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う国内経済の停滞により牛肉需要が減少する中、地球温暖化対策への対応、口蹄疫ステータスの見直しなど、牛肉生産を取り巻く環境に変化が生じている。一方、中国による牛肉の輸入需要の拡大など、ブラジル産牛肉をめぐる海外の動きも変化が見られる。本稿では、これらの状況を踏まえ、ブラジルの牛肉需給動向を整理するとともに、今後の展望について報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2021年12月末TTS相場である1レアル=21円、1米ドル=116円を使用した。

2 ブラジルの経済および農業の概況

(1)経済

 ブラジルは、国土面積が日本の22.5倍で世界第5位、人口は世界第6位の2億1300万人、国内総生産(GDP、米ドル建て)は世界第12位(いずれも2020年)とアルゼンチンの3.7倍となる南米最大の経済大国である。ブラジル地理統計院(IBGE)によると、近年の経済状況は、2000年代後半の景気拡大期を境に下り坂となり、11年から20年の平均実質GDP成長率は0.3%となった。15、16年には、1996年に現行の方法による統計を開始してから初めて2年連続でGDPがマイナス成長となったが、2017年以降はプラス成長を維持していた(図1)。20年はCOVID-19拡大の影響によりGDPはマイナス4.1%と最も減少幅が大きかった。21年は経済の回復が見込まれており、第1四半期(1.0%)、第2四半期(12.4%)とプラスで推移している。また、1人当たりのGDPは、11年の1万3296米ドル(154万2336円)をピークに低下しており、19年は8936米ドル(103万6576円)となった。
 

(2)農業概況

GDPに占める農畜産業の割合は、2011〜19年の平均が5.2%であった。20年は、農畜産業以外の産業がマイナス成長となる中、農畜産業は大豆やコーヒーの生産量が増加し2.0%成長を維持したことからその割合は6.8%に拡大した(図2)。21年のGDPはプラス成長が見込まれる中、農畜産業は1.9%の成長が見込まれている。



3 近年の牛肉需給動向

(1)牛肉生産の動向

ア 飼養頭数
 IBGEによると、2020年のブラジルの牛飼養頭数は、前年比1.5%増の2億1815万頭である(図3)。11年の飼養頭数との比較では2.5%増とわずかに増加しているが、この10年間は2億1100万〜2億1800万頭の間で変動している。
 地域別では、中西部が最大の肉用牛飼養地域であり、飼養頭数全体の34.6%を占めている。北部の24.0%と合わせると、両地域で総飼養頭数の6割程度を占めている。中西部、北部地域が増加傾向で推移する一方、南部の肉用牛飼養頭数は減少傾向にある。
 州別では、中西部のマットグロッソ州が最大で、ゴイアス州(中西部)、パラー州(北部)、ミナスジェライス州(南東部)と続く(図4、5)。






 直近10年間の飼養頭数の増減を見ると、パラー州、ロンドニア州、トカンチンス州(いずれも北部)およびマットグロッソ州(中西部)などで増加する一方、伝統的な農牧地域である南部のリオグランデドスル州のほかマットグロッソドスル州(中西部)などで減少している(図6)。中西部および北部にあるマットグロッソ州、マットグロッソドスル州、パラー州での肉用牛生産はアマゾンバイオーム(生物群系)の外側に位置する地域で行われ、安価な土地の利用や木材業者などによる森林伐採などにより牧草地を拡大してきた。

 
イ 牧草地
 IBGEによると、2016〜18年のブラジルの牧草地面積は、1億1252万ヘクタールと2010〜12年以降、ほぼ横ばいとなっている(図7)。一方、同年の農用地面積は6648万ヘクタールと増加傾向にある。このため、同年の農地全体に占める牧草地面積の割合は、2010〜12年から3.0ポイント低下し、62.9%となっている。大豆やトウモロコシの生産が伸びる中で、牧草地から農用地への転換が図られている。 

ウ 牛肉生産
 国家食糧供給公社(CONAB)によると、2020年の牛肉生産量は前年比4.3%減の848万3000トンとなった(図8)。これは、18〜19年にかけて輸出需要が増加したことに伴い、雌牛と畜頭数が増加したことから20年の肥育もと牛の供給がひっ迫したことや、COVID-19による国内需要の減少によるものとみられる。
 同国の牛肉生産は、6〜7年周期とされるキャトルサイクルによる増減を繰り返している。2015年は、11〜13年の雌牛と畜頭数の増加から牛肉生産量は減少したが、16年以降は増加に転じている。




 

  (2)肉用牛取引価格

 サンパウロ大学応用経済研究所(CEPEA)によると、2020年のと畜向けの肉用牛取引価格は、1アローバ(15キログラム)当たり226.2レアル(4750円、前年比39.0%高)と大幅に上昇した(図9)。18〜19年の成牛取引価格は比較的安定して推移していたが、19年11月に価格が急上昇し、その後も上昇傾向が継続した。これは、中国でのアフリカ豚熱の発生に伴う代替需要から牛肉需給がひっ迫し、同国への輸出量が増加し、牛肉の国際価格が上昇した影響によるものである。 


 

 (3)牛肉輸出の動向

 2020年の牛肉輸出量は、172万4200トン(前年比9.9%増)と16年から5年連続で増加した。これは、中国における中間富裕層の増加、米ドルに対するレアル安や中国のアフリカ豚熱発生に伴う代替需要などによるものである(図10、11)。
 同年の輸出量を国別に見ると、15年にブラジルからの牛肉輸入を再開した中国向けが、香港向けと合わせて輸出量全体の62.4%を占め、急速に拡大している。一方、かつて最大の輸出先であったロシア向けは、18年11月の牛肉輸入停止措置解除後も以前ほど輸出は回復していない。




 

(4)牛肉の国内価格、消費の動向

 CONABによると、2020年の年間1人当たりの牛肉消費量は、前年比9.7%減の27.6キログラムとなった。一方、鶏肉については、同7.3%増の49.9キログラムとなった。近年の牛肉消費量は減少傾向で推移してきたが、19〜20年は消費量の減少が加速した。また、豚肉についても、19〜20年は消費量がやや減少した。一方、鶏肉は、ほぼ横ばいで推移してきたが、19〜20年は牛肉や豚肉と対照的に増加している。(図12)。
 この要因として、20年の食肉小売価格の変化を見ると、牛肉が前年比20.3%高、豚肉が同24.9%高に対し、鶏肉は同7.8%高と緩やかな上昇にとどまっている。鶏肉は牛肉や豚肉より安価であることや、価格上昇率が緩やかであったことが、牛肉や豚肉から鶏肉への消費の移行につながったとみられる(図13)。



コラム1 アンガス種を中心としたフィードロット生産の事例

 ブラジル南部は温帯気候に属し、他の地域と異なりヨーロッパ系の品種も飼育されている。  同国の肉用牛生産は牧草肥育が主体であるが、フィードロットの他、放牧肥育に一部穀物など飼料を給与するセミフィードロット(注)もあり、これらの生産形態は徐々に拡大傾向にある(コラム1―写真1)。
 

(注)『畜産の情報』2014年12月号「ブラジルの牛肉生産の実態 〜豊富な資源を活用した集約的な飼養形態の進展〜」(https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2014/dec/wrepo02.htm)を参照されたい。
 


 

〇コーペルアリアンサ組合  
 パラナ州グアラプアバにあるコーペルアリアンサ組合は、アンガス種を主体にフィードロット肥育を行う生産者が中心となって2007年12月に設立され、翌08年9月から活動を開始した。20年現在の組合員数は170戸で、アンガス種の飼育の他、羊の飼育も行っている。同組合の肉用牛取引頭数のうち20年のアンガス種取引頭数の割合は85.2%(2万6873頭)となり、12年の30.4%から2倍以上に高まっている。また、12年にはブラジルアンガス協会に加盟し、認証を受けている。  
 20年には、アンガス種を中心とした高品質牛肉の生産から加工、販売に至る一貫体制を整備するため、組合として新たに食肉処理施設(1日当たりのと畜処理能力:345頭)を建設し、同年12月から稼働している(コラム1―写真2)。それまで肉用牛のと畜、加工処理は外部に委託していたが、新たな食肉処理施設の稼働を機に、生産された牛肉の販売エリアの許可が州内限定(SIE)から全国および海外(SIF)に拡大された。
 


 

〇生産方式  
 肉用牛生産者は、パラナ州の基準により経営規模に応じて小規模生産者(150〜300頭)、中規模(300〜800頭)、大規模(800頭以上)に分類されている。経営形態は、繁殖(Cria)、育成(Recria)、肥育(Engorda)に分けられ、生産者はいずれか単一の経営形態または組み合わせた経営を行っている(コラム1―写真3)。子牛の導入は生産者により状況が異なるが、自家繁殖、市場、その他相対取引を組み合わせて行っている。  
 セミフィードロット方式の飼育では、夏期には牧草地(えん麦など)で、冬期は穀物などの飼料を給与する。同組合はもともと穀物を中心とした総合組合の肉用牛部門が独立したものであり、現在でも同総合組合の法人会員であり、配合飼料の供給を受けている。供給される飼料は農家ごとに肉用牛の成長や健康状態などに合わせて配合されている。また、サイレージの大部分は、自家生産した作物を利用し調製しており、これら作物の収穫、サイロへの運搬などは、生産者の経済的負担を考慮し、組合がとりまとめ、外部業者に委託している。
 


 

〇独自の枝肉評価  
 生産された枝肉については、月齢(早熟性)、脂肪付着、認証の有無の項目ごとに独自の評価基準を定め割増金の対象としている(コラム1―表、写真4)。最も高く評価される枝肉は、若齢(+4%)、脂肪付着が十分(+6%)、アンガス種として認証がある場合(+4%)、計14%の割増金が付与される。なお、枝肉については、大き過ぎると作業効率が低下するため、評価されない。組合では生産者がもうかる牛を作ってもらうことを最優先にしており、そのために8人の技術者、獣医が生産者を回って手厚く指導している。 
 




 

 アンガス種の特長は、肉質の良さに加えて、繁殖力の高さ、早熟なことから生産者にとって利益が大きい。ブラジルアンガス協会では、年間40万頭ほどをアンガス牛として認証している。同協会ではコーペルアリアンサ組合に2名の検査官を常駐させ、それぞれ牧場での審査と食肉処理場での個体検査を行い認証の可否を決定している。検査に合格した枝肉には「a」のスタンプが押される。コラム1―写真5の上のスタンプはSIFの認証である。また、製品のパッケージには協会の認証マークが表示される。
 

コラム2 牛肉料理いろいろ

 ブラジルの年間1人当たりの牛肉の消費量は2008年に鶏肉に追い抜かれたが、それでもなお国民の食生活の中心である。同国の主な牛肉料理を紹介する。 

1 シュラスコ
 国民的料理で南部のガウショ(牧童)の調理法が発祥といわれている。さまざまな部位の塊肉を串に刺して炭火で焼き上げるもので、味付けは基本的に岩塩だけである。それをそぎ切りにして食べるが、玉ねぎをオリーブ油と酢で和えたものを添える場合もある。牛肉が中心だが鶏肉、豚肉も用いられる。シュラスコを提供するレストランをシュラスカリアと呼び、定額で食べ放題のシステムになっている。シュラスコにはさまざまな部位が使われ、もっとも人気なのがピッカーニャ(Picanha、イチボ)である。需要を満たすため、牛肉輸出大国にもかかわらず、この希少部位だけが輸入されているとも聞く。串に刺さずステーキ状のものを炭火で焼くアルゼンチンスタイルの店もある。


2 ビーフステーキ(ビッフェ)
 フライパンまたは鉄板で焼いたもので、種々の香辛料で味付けされている場合と塩だけのものがある。これにフライドポテト、フェイジョン豆を煮たものを添えて提供される形は、ブラジルの定食の基本パターンである。牛肉に目玉焼きをのせたものは、なぜかカバーロ(馬)と呼ばれる。

 
3 煮込み
 ブラジルの煮込み料理ではフェイジョアーダが有名だが、大部分の材料は豚肉で、牛肉では、角切りにされた干し肉(カルネ・セッカ、後述)が用いられる。サンパウロ市のどこの食堂でも見られる牛肉の煮込み料理は、薄切り肉でニンジンやインゲン豆を巻き込んでトマト味で煮込んだビッフェ・ア・ホーレ(Bifé a Role)と角切りにした牛肉(スジや低級部位)をジャガイモ、ニンジンと煮込んだピカジーニョ(Picadinho)である。いずれもブラジル風ビーフシチューといえるかもしれない。またロシア料理のストロガノフもブラジルではよく普及している。さらにテールを濃厚なトマト味で煮込んだラーバーダ(Rabada)も人気が高い。これは、南東部ミナスジェライス州の伝統料理である。

4 生肉
 ブラジルのサンパウロ州と南部諸州にはイタリア移民が多いため、ブラジル人の食生活へのイタリア料理の影響は大きい。イタリア料理レストランで見られるのが、生の牛肉を薄切りにしたカルパッチョ(Carpaccio)である。シュラスカリアの前菜でもよく提供されている。さまざまな部位で作られるが、いずれも脂身のない赤身である。ひき肉を生で食べるタルタルステーキもあるが、カルパッチョの方が一般的である。さらにアラブ系の移民も多かったため、アラビア料理も普及しており、粗びき小麦と牛ひき肉を混ぜた団子状のキビ(Kibe)のフライや、キビ・クルー(Kibe Cru)といった生の形状も提供される。これは、玉ねぎやミントのみじん切りとオリーブ油を混ぜて食べる。 

5 干し肉(Carne Seca)
 これは塩をまぶした牛肉を干したものだが、冷蔵設備のないころの保存食として広く消費されてきた。パックされたものも売られているが、市場などでは常温で販売されている。水で塩抜きしてほぐしたり、角切りにして素揚げにして調理されたりする。玉ねぎといっしょに炒めたものや、キャッサバの揚げものを付け合わせにして食べる。 

6 内臓
 アルゼンチンのパリジャータのような内臓を炭で焼いて食べる習慣はブラジルにはない。内臓を使った料理では、レバーと玉ねぎを炒めたフィガド・アセボラーダ(Figado Acebokada)、白いんげん豆と内臓を煮込んだドブラジーニョ(Dobradinho)がレストランの定番になっている。

4 需給に影響を及ぼす諸々の事象

(1)COVID-19の発生

ア 発生状況  
 ブラジルのCOVID-19の感染者は、2020年2月末に初めて確認され、4月以降、感染者数が急速に拡大し、7月ごろに第1波のピークを迎えた。COVID-19の対策として、サンパウロ州では、レストランなどの店舗での対人営業が禁止された。また、21年に入ってからは、デルタ株の感染拡大により3〜6月ごろに第2波を迎えたため、3月には再び店舗での対人営業が禁止された。この間、高止まりする中で2度のピークがあり、6月下旬には1日当たり感染者数が10万5000人を超えた(図14)。しかし、その後はワクチン接種が進み、7月以降、新規感染者数は減少しており、12月中旬には1日当たり5000人を下回った。



 

イ 肉用牛生産者への影響  
 COVID-19への懸念が広まった2020年2〜4月のと畜向けの肉用牛取引価格の推移は、図15の通りである。外食産業への影響が懸念されたことなどから、3月半ばに一時的に価格は下落したが、その後は回復している。また、コーヒー生産農家などでは、一時的に労働者の確保難が話題となったが、肉用牛生産者ではこういった状況は見られず、COVID-19の影響は大きくなかったとみられる。



 

ウ 食肉処理場への影響  
 ブラジル農牧食糧供給省(MAPA)、経済省(ME)ならびに保健省(MS)は2020年6月19日、共同で食肉処理場や乳製品工場などにおけるCOVID-19の感染を防止・管理・抑制するためのガイドラインを定めた省令を発令した(注1)。この結果、食肉処理場では、これらの対策に伴う掛かり増し経費や生産性の低下により生産コストの増加につながった。  
 また、ブラジル農牧食糧供給省農牧防疫局動物製品検査部(DIOPA/SDA/MAPA)の月次報告書によると、COVID-19に関連して、労働公安局(MPT)が、食肉処理場に対し従業員の安全のための対策が不十分であるとして地方裁判所に告訴し、その決定により操業停止命令が出されたことで、いくつかの施設では一時的な操業停止の措置が取られた。このほか、別の食肉処理場では、と畜対象となる牛の減少に伴う稼働率の低下により一時的な操業停止を余儀なくされた。  
 ただし、米国で見られたように処理施設内での大規模感染による工場閉鎖など、生産への大きな影響は見られなかった。これは、ブラジルでは、食肉処理場が全国に分散していることや処理場の規模が比較的小さいことなどが要因として指摘されている。

(注1)海外情報「食肉処理場などにおける新型コロナウイルス感染症に対するガイドラインを定めた省令を公布(ブラジル)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002735.html)を参照されたい。

エ 国内価格、消費の動向  
 2020年3月には、ブラジルの各州、市でCOVID-19対策としてレストランでの店内飲食の禁止、宅配と持ち帰りのみでの営業といった制限措置が講じられた。牛肉の高級部位の主要な仕向け先であるシュラスカリア、ステーキ店が閉鎖されたため、それらの牛肉は小売店に仕向けられたが、すべての商品をさばききれず値引き販売が行われた。例えば高級肉のフィレミニョン(ひれ肉)は、消費者物価指数(IPCA)で見るとレストランが再開された5月までの間、制限措置実施前に比べて価格は約20%低下した。一方、スーパーマーケットは外食店の営業規制や在宅勤務の増加により売り上げが増加した。  
 肉用牛取引価格を見ると、レストランの営業停止が始まった20年3月半ばに一時的に大きく落ち込んだ。また、この時期には、食肉メーカーが需要減を見込んで原料の買い控えを行ったり、一部操業を停止したりしている。
 

(2)非定型BSEの確認  

 2021年9月4日、中西部マットグロッソ州および南東部ミナスジェライス州で、それぞれ1頭の非定型BSEの個体が確認された。このためブラジル政府は、中国との家畜衛生に関する協定に基づき同国向け牛肉輸出を停止した。直近では、19年5月にマットグロッソ州で非定型BSEの個体が確認されたが、牛肉の輸出停止は2週間程度で解除された。当初、今回のケースでも短期間で輸出停止措置が解除されるとみられていたが、牛肉の輸出停止期間は3カ月以上に及び、この間、肉用牛取引価格の下落など国内外の牛肉需給に大きな影響が生じた(図16)。  
 なお、ブラジルは、BSE発生リスクの低い国として、国際獣疫事務局(OIE)から「無視できるリスク」のステータスを認定されている。



 

(3)口蹄疫ステータスの見直し

 OIEは2021年5月、ブラジルの6地域を口蹄疫ワクチン非接種清浄地域として認定することを決定した(注2)。今回認定されたのは、南部のパラナ州、リオグランデドスル州、北部のアクレ州、ロンドニア州の全域および北部アマゾナス州と中西部のマットグロッソ州の一部である。07年に認定を受けている南部のサンタカタリーナ州と合わせて5州全域および2州の一部となった(図17)。この地域で飼養される家畜は、牛の21%(4700万頭)および豚の51%(2100万頭)に相当する(注3)(表2)。MAPAでは、このOIEの認定は、同国の牛肉・豚肉の新たな市場開拓に向けた取り組みや、すでに参入している市場への輸出拡大などいくつかの可能性を開くものであるとしている。 
 豚肉業界では、この決定により22年の豚肉輸出が大幅に増加すると試算している。また、牛肉については、将来的に取引価格の上昇などが期待される一方、牛肉は豚肉と異なり生産サイクルが長いことから、輸出量の拡大には時間がかかるとの見方がなされている。
 

(注2)海外情報「口蹄疫ワクチン非接種清浄地域として6地域を追加(ブラジル)」  (https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002959.html)を参照されたい。

 (注3)アマゾナス州およびマットグロッソ州については、今回認定された一部地域の飼養頭数。



 

  
 

(4)温室効果ガス削減対策  
 ブラジル政府は、温室効果ガス削減対策として、2010年にABC計画(注4)を策定し、20年までの10年間実施してきた。また、21年4月には、これに続く30年までのABC+計画を公表し、同年10月から開始することとした。この計画では、牧草地の回復、作物・家畜・森林の統合(ILPF)とアグロフォレストリー・システム(森林農業、SAF)、不耕起栽培システム、窒素固定、植林、家畜の排せつ物処理といった対策を柱としており、20/21年度には前年度の2倍以上となる50億5000万レアル(1061億円)が予算措置されている。  
 なお、MAPAでは、世界の人口増加により食料増産が世界的な課題とされていることを踏まえ、将来の肉用牛生産を次の通り試算し、その方向性を示している。
 ・穀物生産量は20/21年度の2億6213万トンから30/31年度には3億3317万トン(27.1%増)に増加
 ・森林保護の観点から新たな農地開発は現実的でないため、牧場から農地への転換によらざるを得ない状況
 ・一方、牛肉生産量は、20/21年度の831万3000トンから30/31年度には972万8000トン(17.0%増)に増加
 ・肉用牛生産については、単位面積当たり飼養頭数の増加、効率的なフィードロット生産の拡大により対応
 

(注4)海外情報「2011/12年度農業プランがスタート(ブラジル)―持続可能型農業の推進がポイント―」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000431.html)を参照されたい。
 

(5)自由貿易協定(FTA)  

 ブラジルは、国として単独で自由貿易協定(FTA)を締結しておらず、南米6カ国で構成する南米南部共同市場(メルコスール)によるものとしている。独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)によると、メルコスールは、ボリビア(署名済:1997年)、アンデス共同体(CAN、同2005年)、ペルー(同2005年)、イスラエル(同2009年)、パレスチナ(同2011年)とFTA協定を締結している。  
 また、EUとは2016年6月27日、FTAの締結に政治合意した。しかしながら、EU域内では、ブラジルの環境破壊、特にアマゾンの森林の不法伐採が問題視されており、批准に必要な加盟国議会の承認を得られていない。このほか、メルコスールは、韓国、カナダ、シンガポールなどと交渉を行っている。
 

(6)主な輸出相手先の動向

ア 中国向け  
 近年のブラジルの牛肉輸出は、中国向けの依存度を急速に高めてきた。最近の同国向け牛肉輸出量を見ると、2019年後半から急増している(図18)。これは既述の通り、中国における中間富裕層の増加、米ドルに対するレアル安や中国でのアフリカ豚熱発生に伴う代替需要などによるものであり、この状況は21年に入ってからもおおむね継続している。  
 このような中、中国では20年に入り、COVID-19の拡大により、年初には中国の港湾で貨物が滞留し、一時的に貿易への影響が生じた。また、外出制限などから牛肉需要の中心であった外食向け需要も減少した。加えて、輸入されたブラジル産食肉の包装からウイルスが検出されたとして、ブラジルのいくつかの食肉処理場から中国向け輸出が停止された。  
 さらに、既述の通り、ブラジルでの非定型BSEの発生で中国向け牛肉輸出が停止された。21年10月以降の中国向け輸出量は前年同月と比べて激減している。この牛肉の輸出停止措置は12月15日、両国間の合意により解除された。



 

イ 米国向け  
 米国向け牛肉輸出は、2016年8月に長年に及ぶ輸出停止措置が解除されたが、17年6月に衛生上の問題から再び輸出停止措置が講じられ、その後20年2月に解除され、21年1〜11月の輸出量は6万71トン(前年同期比3.2倍)と急増しており、中国、香港、チリに次ぐ第4位の輸出先となっている(図19)。  
 ブラジル産牛肉は、米国市場では主にハンバーガーパティなどの加工用として利用され、豪州、ニュージーランドやウルグアイ産牛肉が米国市場での競合相手となる。  
 なお、米国向け牛肉輸出については、アルゼンチンや、ウルグアイのように個別の低関税枠を有しておらず、「その他の国」に与えられている6万5005トンの低関税枠を利用することとなる。適用される税率は、割当内で1キログラム当たり4.4米セント(5.1円)、割当外で26.4%となる。
 


 

ウ 中東など向け  
 中東など向け牛肉輸出を見ると、サウジアラビア(2020年輸出量:4万トン)、アラブ首長国連邦(同3万9000トン)、イスラエル(同2万4000トン)などが主な輸出先である(図20)。ブラジルは、ハラール認証された食肉処理施設からの輸出が可能なことから、これらの地域への主要な牛肉供給国となっている。ブラジル政府は輸出先の多様化を図る観点から、ハラール市場をはじめ関係各国との交渉を進めている。この結果、19年にはインドネシア、20年にはクウェート向けの牛肉輸出が開始された。また、食肉会社の現地進出も進んでおり、大手食肉会社の一つであるBRF社は、14年にアラブ首長国連邦に食肉処理施設を設立し、鶏肉製品のほか牛肉のハンバーグ製品などを製造している。
 


 

エ ロシア向け  
 ロシア向け牛肉輸出は、2014年に30万9000トンを記録するなど、長期間にわたりブラジル最大の輸出先であった。しかしながら、15年のロシア経済の悪化を契機に輸出量が減少し、また、17年12月に、ブラジル産牛肉からロシアで使用が禁止されているラクトパミンが検出されたとして、大部分の食肉処理場からの輸出が停止された。その結果、20年の同国向け輸出量は5万3000トンとなった(図21)。
 その後、21年10月には、18年10月に続き牛肉処理施設の輸出停止措置が一部解除された。さらに、ロシア政府は21年12月、国内でのインフレ抑制対策として、ブラジル産牛肉について22年に20万トンの無税による関税枠を付与すると公表しており、今後、ロシア向け輸出の回復が見込まれている。


5 課題および今後の見通し

(1)輸出先の多様化

 2020年のブラジル産牛肉の輸出先は約120カ国に及ぶが、近年の中国向け輸出の急増により、輸出量の約6割を中国と香港向けが占めている。このような状況の中、中国への一極集中リスクを回避するため、ブラジルでは輸出先の多様化への取り組みが進められている。最近では米国向け、ロシア向けや東南アジア向けの増加が見られる。また、口蹄疫ワクチン非接種清浄地域の拡大に伴い、将来的にはアジアなどの市場も注目されている。
 

(2)持続可能な生産体系の確立

 ブラジル政府は、温室効果ガス削減対策として新たにABC+を推進しているが、持続可能な肉用牛生産体系の確立と牛肉生産の維持・拡大をどのように両立していくのかが課題とされている。その実現に向けた対応が注目されている。
 

(3)肉用牛生産の維持・拡大

 牧草地から農用地への転換が進められているが、近年、特に飼料穀物価格が高水準で推移する中、どのように肉用牛生産を維持・拡大していくのか注目されている。
 

(4)防疫対策

 2021年5月に口蹄疫ワクチン非接種清浄地域が拡大した。今後は、非接種清浄地域のステータスの維持とブラジル政府が目標とする26年までの国全体でのワクチン非接種清浄国化の実現を目指している。
 

(5)FTAの締結

 メルコスールは2019年6月、EUとの自由貿易協定(FTA)の締結合意に至ったものの、いまだEU加盟国の承認が得られず締結には至っていない。一方、現在交渉が行われている韓国、カナダ、シンガポールなどとの進展が注目されている。

6 おわりに

 ブラジルで生産された牛肉の輸出仕向けは、同国における生産量全体の3割を下回る。しかし、近年の牛肉の需給動向を見ると、海外、特に中国をはじめとする貿易相手国の動向に大きく影響を受ける状況にある。中国への貿易依存という点では、大豆や豚肉といった農畜産物についても同様の状況となっている。当面は、アフリカ豚熱から急速な回復を遂げた中国の豚肉需給動向に加え、飼料となる大豆かすやトウモロコシの需給動向を注視する必要がある。さらに、牛肉輸出において中国市場で競合する米国、豪州、ニュージーランド、アルゼンチンおよびウルグアイといった牛肉輸出国と、中国と貿易関係の進展にも注目する必要があるとみられる。
 一方、生産面については、今後、さらに牧草地から穀物生産のための農業用地への転換が進み、肉用牛の生産基盤の拡大が困難となる中、牛肉生産の維持・拡大を図るため、どのように生産体系が変化していくのか注目される。具体的には、放牧方式からフィードロット方式への移行が一つの方策とされているが、肉用牛価格や牛肉輸出価格の動向、近年の飼料穀物価格高が焦点になるとみられる。
 世界最大の牛肉輸出国として今後もその地位を維持するため、ブラジル牛肉産業は、国内外のさまざまな状況の変化に対し、短〜長期的な視点から的確に対応していくことが求められる。