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海外情報 畜産の情報 2022年7月号

豪州におけるWagyuの位置付けと改良の実態

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 豪州Wagyuは、これまで豪州国内で独自の改良増殖が行われてきており、肉用牛全体に占める飼養頭数などの割合も徐々に増加すると見込まれている。業界団体は関係機関やWagyu生産者と連携しながら、Wagyuに特化した遺伝的能力評価システムの改良を重ね、枝肉重量やロース芯面積、脂肪交雑などの形質に関する改良を継続している。今後は豪州Wagyuのブランド価値のさらなる向上を目指し、脂肪酸組成に関する形質の改良にも取り組むことが検討されている。
 また、これまで海外市場でも外食産業向けが中心であった高級牛肉は、新型コロナウイルス感染症などにより消費チャネルが拡大したほか、世界的な潜在需要は高いとされており、日本からの和牛肉の輸出拡大も期待される。

1 はじめに

 豪州のWagyuは、1990年代に和牛の生体や遺伝資源が米国を経由して豪州国内に輸入されて以降、独自の改良増殖が行われてきたが、今日に至るまで、豪州Wagyu協会(AWA:Australian Wagyu Association)では、国内外の高級志向の消費者をターゲットにしたさまざまなWagyuの改良増殖の取り組みを行っている(注1)。AWAは毎年豪州国内で年次総会を開催し、豪州国内はもとより世界各国からWagyu関係の研究者、団体関係者、生産者、流通業者ら400人以上が参加する国際的な会議となっている。22年は「WagyuEdge2022」と題し、ビクトリア州メルボルンで4月26〜28日の3日間開催され、豪州Wagyuの最新情報に関する講演のほか、牛肉の品質を競うコンペティションなども行われた。
 本稿では、AWAの年次総会「WagyuEdge 2022」に参加して得られた近年の豪州Wagyuの位置付けや改良の実態など、豪州Wagyuの最新事情を中心に報告する。
 なお、本稿では、日本が原産地でないものを「Wagyu」と表記し、日本の和牛とは区別することとする(例:豪州Wagyu)。また、本稿中特に断りのない限り、豪州の年度は7月〜翌6月であり、為替レートは、1豪ドル=93.95円、1米ドル=129.21円(注2)を使用した。

(注1) 豪州Wagyuの基礎的な情報に関しては、『畜産の情報』2015年3月号「豪州のWagyu生産および流通の現状」(https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2015/mar/wrepo02.htm)を参照されたい。
(注2) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年5月末TTS相場。

2 豪州Wagyuの概要

(1)豪州Wagyuとは

 AWAは2022年4月現在、世界20カ国に900以上の会員を擁し、過去約30年間にわたり、Wagyuの遺伝子検査や解析、改良の取り組みを行っている。AWAでは、豪州でWagyuとして登録が可能な牛を和牛遺伝子の交配割合が50%以上のものと定義し、その交配割合によって五つに分類している(表1)。このうち、フルブラッドWagyuは、和牛に由来する祖先を持つフルブラッドWagyuが両親であり、血統で異品種との交配の形跡がないものを指す。また、ピュアブレッドWagyuは、和牛遺伝子の交配割合が93%以上のもので、両親の証明があるものを指す。


 

(2)生産動向

 豪州Wagyuに関しては、豪州政府が公表する正式な統計データがなく、AWAでも体系的に公表している統計データは少ない。このため本稿では、豪州Wagyuの生産動向に関し、AWAへの聞き取り情報を基に、豪州全体の肉用牛の動向と比較しつつ取りまとめた。
 
ア 飼養頭数
 AWAによると、2022年の豪州国内の加盟生産者全体のWagyu飼養頭数は49万2000頭であり、豪州の肉用牛全体の2.1%を占めている。なお、3年後の25年には、1.8倍となる88万6226頭まで増頭し、肉用牛全体に占める割合も3.8%まで増加するとしている(表2)。


 
 また、AWAによると、州別のWagyu飼養頭数割合はクイーンズランド州が全体の6割で最も多く、次いでニューサウスウェールズ(NSW)州が3割となっている(図1)。


 
イ と畜頭数および牛肉生産量
 豪州Wagyuのと畜頭数は、2022年の20万5000頭(肉用牛全体の2.9%)から、25年には28万4000頭(同3.7%)に増加するとしている(表3)。また、牛肉生産量についても、22年の5万5636トン(同2.7%)から、25年には7万7400トン(同3.4%)に増加するとしている。


 
ウ Wagyu血統の登録頭数
 AWAでは、表1の区分とは別に、Wagyu生産に関与する牛を三つに分類して登録している。親の血統が証明できるフルブラッドWagyuおよびピュアブレッドWagyuは「HERDBOOK」(血統書)に分類され、2021年度の登録頭数は前年度比12%増の1万8868頭となっている(図2)。また、枝肉データ記録のために繁殖に供しないWagyuである「SLAUGHTER」の分類は、同98%増の1万1206頭となっている。一方で、これら2分類以外のWagyuが対象となる「CONTENT」の分類は、同40%減の667頭となっており、21年度の血統登録のあるWagyu頭数は、合計で3万741頭となっている。

コラム1 豪州Wagyu生産農家の事例

 NSW州バサースト(シドニーから西に約200キロメートル)にある豪州Wagyu生産農家である鈴木牧場の鈴木崇雄氏を訪ね、飼養実態などについて取材した(コラム1−写真1)。鈴木氏はNSW州レンジャーズバレー(シドニーから北に約610キロメートル)にある、日本の丸紅株式会社が所有するフィードロットで豪州Wagyuの飼養管理に従事した後、独立してブルーマウンテン(シドニーから西に約100キロメートル)近郊で16年間、豪州Wagyu生産を行ってきた。その後、2018年に現在のバサーストに拠点を移して生産を継続している。フルブラッドWagyuの繁殖牛360頭、肥育牛180頭を飼養しており、現在建設中の新たな牛舎が完成次第、徐々に肥育牛を360頭規模まで増やす計画としている。同牧場の牛は、生後4カ月で離乳、30カ月齢まで肥育し出荷している。年間約100頭の豪州Wagyuを出荷し、カシノ(シドニーから北に約700キロメートル)にある食肉処理施設でと畜後、豪州国内の日本式焼肉店などを中心とするレストランへの販売やオンライン販売のほか、米国や中東向けに輸出している。18〜19年に発生した干ばつ時には、牛群の規模を維持するため西オーストラリア州まで飼料の確保に奔走するなど苦慮したとのことで、その教訓として自給飼料の生産にも力を入れている(コラム1−写真2)。また、解体時の脂肪交雑基準(注)が9以上のもののみ鈴木牧場の豪州Wagyu肉として販売するなど、ブランド価値の維持を図っている。

(注) 豪州赤身肉の格付けなどを行う機関であるオズ・ミート(AUS-MEAT)およびミート・スタンダーズ・オーストラリア(Meat Standards Australia:MSA)による脂肪交雑基準は、0から9までの等級となっており(コラム1−写真3)、9よりも高い脂肪交雑が認められるものは9+(プラス)として流通している。






 
 さらに、豪州Wagyuの種雄牛の造成にも取り組んでおり、同牧場で最も成績の良い肉質を産出する種雄牛のMAINOKUNI(コラム1−写真4)由来の牛を、今後主に増やしていくとしている。


 鈴木氏は、日本の和牛、鈴木牧場の豪州Wagyu、その他の豪州Wagyuなど、高品質な牛肉にはそれぞれで特徴を有することから、業界内での競合というよりも、各々でのブランドの確立を軸とした販売戦略が重要であり、相互の発展により十分すみ分けが可能だと述べている。また、豪州の消費者に対し、生産者の顔が見える販売が効果的であるとし、和牛についても、生産者自らが訪豪し、自身の牛肉生産のストーリーをアピールすることで、より多くの消費者に認知されていくのではないかとの意見があった。



3 豪州Wagyuの改良実態

(1)Wagyuの遺伝的能力評価

 豪州Wagyuは、従来、豪州の肉牛の牛群改良に利用されるブリードプラン(BREEDPLAN)と呼ばれる遺伝的能力評価システムにより、増体や脂肪交雑、枝肉重量など14項目の形質を評価し、改良が行われてきた。2018年以降は、豪州Wagyuに特化した遺伝子解析モデルであるシングルステップ豪州Wagyuブリードプランが利用されてきた。これは、AWAが豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)の資金援助を受け、豪イングランド大学とNSW州第一次産業省との共同事業である動物育種遺伝ユニット(AGBU:Animal Genetics and Breeding Unit)および農業ビジネス研究協会(ABR:Agricultural Business Research Institute)と連携して開発したものである。脂肪交雑などWagyu固有の形質の推定育種価(EBV)計算に遺伝子情報を取り入れることにより、従来のブリードプランよりEBVの正確度が増したとされている。
 さらにAWAでは、22年3月からAGBUによって更新された新たな豪州Wagyuブリードプランを導入している。これは、交雑種のデータを組み込んだもので、豪州Wagyuと他の肉牛品種との交配による子牛生育および枝肉成績などへの効果を考慮することができるものとしている。この新たな豪州Wagyuブリードプランでは、600日齢時体重の遺伝率を除き、出生体重、枝肉重量、脂肪交雑、ロース芯面積で遺伝率が向上している(表4)。また、平均EBVの精度もそれぞれわずかに向上しているほか、EBVの範囲が広がっているため、AWAは、新たな豪州Wagyuブリードプランにより算出されるEBVが生産者の交配牛選定に寄与するとしている。


 
 このほかAWAでは、豪州Wagyuの繁殖を行う農家に向けて、以下に定義する優秀な種雄牛や繁殖雌牛などのEBVに関するデータを毎月更新し、「豪州Wagyu繁殖ガイド」として公開している(図3)。
  • 種雄牛:登録された子牛が10頭以上であり、過去3年以内に生まれた子牛が登録され、200/400/600日齢のそれぞれの体重EBVの精度が80%以上である種雄牛。
  • 繁殖雌牛:登録された子牛が3頭以上であり、過去3年以内に生まれた子牛が登録され、200/400/600日齢のそれぞれの体重EBVの精度が80%以上である繁殖雌牛。
  • 若齢の雄牛:5歳未満であり、200/400/600日齢のそれぞれの体重EBVの精度が50%以上である雄牛。


 

(2)Wagyuの改良増殖状況

 AWAによると、豪州Wagyuブリードプランで改良増殖に供する牛の頭数は、2021年度で20万頭以上が登録されている(図4)。これらの牛の遺伝子がフルブラッドWagyuとの交配に用いられ、豪州で30万頭以上のF1 Wagyuが増殖したとしている。


 
 また、AWAが遺伝子検査を導入した17年以降、枝肉重量、脂肪交雑、ロース芯面積のそれぞれの平均EBVは着実に上昇しており、21年までの5年間で枝肉重量は約6キログラム増、ロース芯面積は約0.7平方センチメートル増、脂肪交雑は約0.4増となったとしている(図5〜7)。






 
 さらにAWAでは、今後1年以内に豪州Wagyu肉に含まれるオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸の測定を開始し、将来的に改良に活用することを検討するとしている。当該形質は遺伝率が0.5以上と高く、一価不飽和脂肪酸の含有量を測定し、豪州Wagyuブリードプランにおける豪州Wagyu肉の脂肪酸組成に関するEBVを開発することが目標であるとしている。これにより、より柔らかく融点の低い脂肪を選択することが可能となり、豪州Wagyu肉のブランド力が高まると期待されている。

(3)後代検定プログラムの実施と活用

 Wagyuの改良増殖を行う上で必要となる遺伝的データのうち、特に枝肉形質のデータは、垂直統合型のサプライチェーンを持たない小規模なWagyu生産者にとって入手が難しいものとなっている。AWAでは、これまで測定していない形質を含めたWagyuの総合的な遺伝子情報をすべての会員に提供するため、会員の豪州Wagyuを対象とした後代検定プログラム(Progeny Test Program:PTP)を実施している。
 本プログラムでは、21年から31年までの10年間で250頭以上の豪州Wagyu種雄牛の遺伝的能力評価が行われる。具体的には、評価を行おうとするフルブラッドWagyu種雄牛約40頭とフルブラッドWagyu雌牛約2000頭を交配して子牛を生産する取り組みを7回行い、これにより生産された雄子牛から成長特性、飼料効率、枝肉特性などのデータを、雌子牛から成長データ、繁殖能力などのデータをそれぞれ収集することにより、合計で250頭以上(最大、40頭×7回=280頭。種雄牛が40頭に満たない組もあることから、AWAは「250頭以上」と公表している)のフルブラッドWagyu種雄牛の遺伝的能力評価を行うこととしている。本プログラム1年目となる21年には、豪州国内9カ所の生産農場のWagyu群40頭の種雄牛と1433頭の雌牛が本プログラムに参加し、同年10月から人工授精によるデータ取得のための子牛生産が進行中であるとしている。
 AWAは本プログラムにより、成長形質に対する遺伝的メリットを早い段階で推定することができるとし、まだデータのない肉牛の歩留まりの遺伝的情報や、Wagyuの脂肪酸組成の変化、体型や健全性も新たにデータとして収集し、豪州Wagyuブリードプランに反映するとしている。

4 豪州Wagyuの位置付け

(1)AWA2020­­­−2025戦略計画

 AWAは2019年11月、Wagyu生産の支援、促進、発展を目的として、20〜25年の戦略計画を公表し、計画に設定された五つの目標を基に、豪州Wagyu産業のプレゼンス向上のための取り組みが行われている(表5)。既述の豪州Wagyuの改良も、目標「2.重要な遺伝資源の保護と促進」において中心的に取り組まれている。


 

(2)豪州Wagyu肉の国際市場

 豪州Wagyuの輸出に関する統計データはないが、総会に参加していた豪州の垂直統合型Wagyu生産企業のスタンブローク社によると、近年、米国と豪州国内の一般的なスーパーマーケットやファストフード市場などへの供給が増えたとしている(図8)。特に豪州国内では、豪マクドナルド社が2021年に期間限定でWagyuバーガーを提供したほか、ピザの具材にも豪州Wagyu肉が用いられるなど、消費者への露出機会が増えている(図9)。このほか同社では、11年ごろからの不動の大口顧客となっている中国向けのほか、ドバイやシンガポール、香港といった富裕層向けの高級レストランを中心に豪州Wagyuのロース肉などを航空便で輸出している。




 
 MLAなどが行った調査によると、世界1919都市で3万3904件の和牛肉およびWagyu肉を使ったメニューが外食産業に取り入れられ、これらを扱う店舗は、東京(和牛肉のみ)のほか、シドニーやシンガポール、ロンドンなどでその数が多いとされている(図10)。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンなどの影響により、これまで高級な外食産業向けが中心とされてきたWagyu肉がより一般化してきており、特に中国では家庭でのWagyu肉消費が顕著に増えているとしている。


 
 また、今後の動向については、22年には世界の外食産業界がCOVID-19拡大前の水準に戻り、以後も成長すると予測している。さらにミリオネアと呼ばれる富裕層が世界で最も多い米国は、年間7万5000米ドル(969万円)以上の可処分所得がある者も約5900万人と多く、高たんぱく製品の大消費国でもあることから、米国のWagyu肉の潜在需要は大きいとしている。

(3)豪州と連携する海外のWagyu

 ニュージーランド(NZ)のWagyu生産は、1990年代に豪州から持ち込まれた豪州Wagyuの受精卵が起源であるとされている。同国でもWagyuの業界団体としてNZWagyu繁殖協会(The Original New Zealand Wagyu Breeders Association)があり、国内のWagyu関係者間の情報交換や血統登録などの業務を行っている。
 現在、同国のWagyu産業では、ファーストライト社、ブラックオリジン社、サザンステーションズWagyu社の三つの主要サプライチェーンがあり、特にファーストライト社は年間約1万8000頭のWagyuの生産・流通を行うNZ最大のWagyu企業となっている。NZの農業コンサル会社であるアバカスバイオ社によると、近年、NZの酪農業界で余剰となる未経産牛を、Wagyu生産に活用しようとする動きがあるとしている。また、同社によると、NZのWagyu改良では、生産者は脂肪交雑とと畜までの日数を主な選抜指標として重視しているとしている(図11)。


 
 農業生産企業であるブラウンリッグ・アグリカルチャー社(北島、オークランドから南東に約450キロメートル)の子会社で、ファーストライト社の遺伝的改良パートナーとしてWagyuの改良増殖や生体輸出事業などを行っているWagyuブリーダーズ社では、F1WagyuとF2Wagyu(表1の定義と同じ)を約3000頭飼養しており、ホルスタイン種やアンガス種の雌牛への受精卵移植などで毎年約7000頭のWagyu子牛を生産している。同社は現在、Wagyuの遺伝的改善プログラムとして、アバカスバイオ社が開発した遺伝的評価システムの改善や、エリート種雄牛の採精、系統造成の遺伝的多様性を確保するための豪州Wagyu遺伝資源の輸入なども行っている。また、今後の展開として、豪州Wagyu遺伝資源へのより円滑なアクセスや遺伝的評価のため、AWAと連携していくとしている。
 既述の通り、AWAには多くの海外会員も含まれており、NZ以外でも欧米諸国などで、豪州Wagyu遺伝資源の輸入や情報交換などのコミュニケーションが行われている。

コラム2 新たな精肉店業態の事例

 シドニーの主要精肉店であるビクター・チャーチルが2021年11月にメルボルンでオープンした新店舗を訪問し、オーナーのアンソニー・プハリッチ氏(コラム2−写真1)に話を伺った。同店舗はメルボルン市街から車で10分程度のアーマデールと呼ばれる閑静な地域の歴史的建造物に指定された建物を利用しており、内装に大理石やダウンライトなどを用いるなど、高級志向の精肉店として開店当初から報道機関に取り上げられている。日本の宮崎牛のほか、AWAのWagyu肉品質コンペティションで20年から2年連続グランドチャンピオンを獲得したストーン・アックス社の豪州Wagyu肉、またそれらのドライエイジング肉などをショーケースで販売するほか、フリーレンジ(放し飼い)の豚肉(注)や鶏卵、カモ肉、有機牛乳、総菜やスイーツなどが陳列されており、利用客がさまざまな食材を一度に調達できる珍しい業態の精肉店となっている。同店舗一番の特徴は、店舗奥に12席のレストラン・バーが併設されている(コラム2−写真2〜4)。ここでは、同社が扱う精肉を同店舗内のキッチンで調理し、厳選されたワインなどとともに飲食することができ、平均客単価は約180〜190豪ドル(1万6911円〜1万7851円)であるという。プハリッチ氏によると、精肉などの取扱商品についていつでも利用客に説明できるよう社員教育に力を入れており、和牛に関して客から説明を求められた際には、豪州Wagyuよりも脂の香りが良く、融点が低いため、味わい深いと説明しているとのことであった。

(注) 豪州の養豚産業については、『畜産の情報』2021年12月号「豪州養豚産業の概要と近年の取り組み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001871.html)を参照されたい。


 






5 おわりに

 今回の調査では、豪州Wagyuの改良増殖の進展状況などが明らかとなったが、海外の高級牛肉需要は高いとの情報もあり、AWAが今後も海外会員を中心とした遺伝資源の提供や情報共有を行うことなどにより、海外のWagyu市場の拡大が想定されるところである。
 しかし同時に、和牛についても、海外の高級牛肉需要の高さは追い風となる。豪州では和牛遺伝子の交配割合が50%以上の交雑種もWagyuに含まれることから、豪州Wagyuの品質には大きな幅があり、ブランド価値も多様となっている。脂肪交雑基準も日本のNo.12までと異なり、豪州ではNo.9までとなっている。また、豪州の精肉店などで陳列される日本から輸入された和牛肉はNo.12などと表記されるのに対し、豪州Wagyu肉は最高でもNo.9+(プラス)と表記されていることから、客観的な指標でも消費者からは区別して認識される。さらに、豪州は日本のようにトウモロコシ主体の飼料ではなく、大麦と小麦が主体の飼料であるが故、和牛とは脂の風味も異なるとされている。
 日本では2020年10月から和牛遺伝資源の管理・保護のための新制度がスタートし和牛遺伝資源の適正な流通管理および知的財産としての価値の保護強化がなされた。現在、世界的にも唯一無二のブランドとして「和牛統一マーク」を付し、輸出目標として25年の1600億円、30年の3600億円の達成に向けて、官民挙げて取り組んでいるところである。今回の報告が、Wagyuとは一線を画した和牛の品質の高さとブランド価値を、世界の高級牛肉の潜在需要市場に発信するための一助となれば幸いである。

(赤松 大暢(JETROシドニー))