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海外情報 畜産の情報 2022年7月号

近年の韓国の養豚業および豚肉需給の概要 〜アフリカ豚熱や新型コロナウイルス感染症の影響について〜

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

 韓国では、豚肉が主要な食肉であり、近年、生産量、消費量ともに増加傾向にある。しかしながら、2011年以降、口蹄疫、アフリカ豚熱などの家畜伝染病、新型コロナウイルス感染症などにより、生産や消費に悪影響が生じている。韓国政府は主要な家畜伝染病から畜産業を守るために家畜伝染病予防法を整備し、特に近年では、散発しているアフリカ豚熱のまん延を防ぐ取り組みを実施している。今後10年間で豚肉の生産や消費はさらに拡大していくことが見込まれており、家畜伝染病や感染症に対する取り組みがより一層重要になるとみられている。

1 はじめに

 韓国では、豚肉が主要な食肉であり、特に家庭消費で好まれている。近年、韓国では食肉消費量が増加している中で、特に豚肉消費は増加傾向にあり、豚肉生産量も増加傾向で推移している。しかしながら、ここ数年はアフリカ豚熱や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの影響を受け、国内養豚業を支えるための各種対策が実施されている。本稿では韓国の食肉消費の中心を占める豚肉需給および養豚業の概要を近年の疾病対策を含めて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、100ウォン=10.54円(注1)を使用した。

(注1) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年5月末TTS相場。

2 養豚業および豚肉需給などの概要

 韓国の養豚業は、1970年代後半から濃厚飼料給与を基本とした生産の発展や専業型の畜産農家の出現など、それまでの小規模兼業養豚から大きく変化し、急成長を見せた。80年代に入ると養豚業はさらなる発展を見せ、増加する飼料需要にけん引されて、国内配合飼料の年間生産量は89年に1000万トン以上を記録した。しかし、豚飼養頭数の急激な増加によって国内の豚肉需要をある程度満たした一方で、養豚産業の企業化の進展から韓国の養豚業界は農場周辺の環境対策や多様化する流通への対処が求められるようになった。
 

(1)豚の飼養状況

 近年の豚飼養頭数および出荷頭数は増加傾向にあり、今後も持続するとみられている(図1)。飼養戸数は、大規模化が進んでいることから減少傾向にあるが、規模別に見ると、生産者の高齢化などの問題から特に1000頭未満の小規模生産者戸数の減少が大きい。(図2)。主な飼養品種はランドレース種、ヨークシャー種などで、種豚のほとんどを輸入に依存しており、韓国在来種も飼育されてはいるものの、施設面や資金面ともに韓国独自の育種体制が確立できていない点が課題となっている(写真、表1)。











 
 また、養豚業が急速に発展したことで、近年では飼養密度の上昇による家畜疾病の増加、水質および土壌汚染、悪臭の発生など環境や衛生に関する課題が複数生じている。このため、韓国では2000年代半ばから「環境にやさしい畜産」の概念を導入し、生態系と環境を維持、保全しながらも家畜本来の習性を考慮した健康な家畜の飼育を行い、安全な畜産物の生産、供給を目指すことを掲げている。なお、04年に悪臭防止に関する法律、05年に家畜排せつ物の管理および利用に関する法律などを制定し、「環境にやさしい畜産」の実現に取り組んでいる(注2)
 さらに、家畜の改良および増殖、畜産業の構造改善、需給調整および価格の安定などを通じ、畜産業を発展させ、畜産物の安定的供給に資することを目的に1963年に制定された畜産法が2018年に改正、20年に施行され、同法の目的の一つに畜産環境改善が加わり、新たに畜産環境に関連する条項が盛り込まれた。

(注2) 環境問題への取り組みの詳細については、『畜産の情報』2020年2月号「韓国の畜産業界における環境問題への取り組み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000970.html)を参照されたい。
 

(2)豚肉需給

 韓国国内の豚肉の需給状況に目を向けると、口蹄疫の発生により2011年の豚肉生産量は大きく減少しているものの、10年以降の生産量はおおむね増加傾向にあり、出荷頭数の増加に伴い、今後もわずかながら増加傾向が継続するとされ、31年には100万トンに達すると見込まれている(図3)。また、生産量の増加に伴い、1人当たりの年間消費量および消費量全体も増加傾向にある。20年にはCOVID-19およびアフリカ豚熱の影響により一時的に減少したものの、その後は増加傾向が継続し、31年には150万トンに達すると見込まれている。
 現在の豚肉消費に占める国産の割合は76%であり、韓国で生産される豚肉のほぼ全量が国内で消費されている。豚肉の輸出は、政府の支援不足や海外市場のニーズおよび現地の法規、食習慣などの把握が不十分であることが課題とされ、消費量全体からすると1%以下である。国内で流通する輸入豚肉は、消費量全体の24%に相当し、国産の豚肉に比べ5〜6割程度の価格で販売されており、価格差が大きい状況にあるが、味や安全性の観点で輸入品を嫌厭(けんえん)し、国産品を選択する消費者が多いとされている。


 
 主要食肉のうち、豚肉は最も多く消費されており、近年の消費量の伸びも大きい(図4)。特に家庭消費では適当な価格でおいしい食肉として好まれており、約6割が家庭内消費、約4割が外食消費(デリバリー消費を含む)とされている。
 また、加工向け(18年)を見ると、豚肉の仕向量は32万2496トンとなり、全畜種の仕向量の約4割を占める最大の食肉となっている。豚肉の加工向け仕向量のうち、国産の割合は約75%を占めている。


 

(3)豚肉の輸入動向

 韓国では、前述の通り豚肉需要の増加に合わせて豚肉生産量は増加しているものの、不足分を輸入に依存する状況が続いている。2013〜18年の輸入量は増加傾向にあり、18年の豚肉輸入量は57万1190トン(前年比16.7%増)と近年で最大を記録した(図5)。主な輸入先は12年発効の米韓FTAにより輸入量が増加している米国のほか、EUではドイツ、スペインなどとなっている。


 
 近年の輸入動向を見ると、韓国での口蹄疫発生により国内生産が大きな損害を受けた11年および中国でのアフリカ豚熱発生の影響が懸念された18年は大きく増加したが、アフリカ豚熱の影響をある程度抑制することができたため、19年は前年を下回る輸入量に落ち着いた。20年はCOVID-19の影響を受け、輸入量は引き続き前年を下回る数量となった。なお、同年、主要輸入先であるドイツでのアフリカ豚熱発生を受け、同国からの輸入を一時停止している。しかしながら今後の輸入量は食肉消費量の増加などを背景に増加傾向で推移するとされ、31年には50万トンに達すると見込まれるなど自給率の低下が懸念されている。
 輸入される豚肉の部位は三枚肉(ばら)、前肢、肩ロースなどが多い。ばらは外食チェーンなどでの消費、前肢はハム、ソーセージなどの加工向け原料として、肩ロースは焼肉店などでの消費が多いとされ、一般消費者が輸入肉を購入する頻度は比較的低いとみられている。一般的な輸入豚肉は輸入後、卸売、小売の段階を通じて供給される(図6)。輸入の際は船舶上もしくは航空機内で貨物の検査を実施した後、検疫検査場での官能検査や疫学検査が実施される。輸入検疫を合格した豚肉は輸入業者、卸売業者、食肉包装処理業者、食肉販売業者を経由して国内に流通し、販売業者や加工業者、飲食店などに販売された後に消費者へと渡る。


 

(4)国内の豚肉流通状況

 韓国の豚肉流通に目を向けると、同国内で生産された肥育豚は全量、と畜場を経由し、95.2%が枝肉を部分肉などに加工する食肉包装業者へ、残りの4.8%が直接精肉店へ販売されている(図7)。食肉包装業者を経由した食肉は大型小売業者やスーパーマーケット、精肉店のほか飲食業者や2次加工業者へも販売されている。と畜過程が存在することにより、他の農産物に比べて流通体系が固定化されており、直接取引や地産地消が困難な側面があるが、最近のICTや物流の発展によりeコマースなどの流通経路の多様化が進められている。

3 家畜伝染病の発生状況と対策

 韓国では家畜伝染病の発生、まん延を防ぐため、家畜伝染病予防法が整備されている。また、家畜伝染病を3種に区分し、分類ごとに異なる防疫措置が設定されている(表2)。これらの家畜伝染病のうち、家畜に対して深刻な症状を引き起こすアフリカ豚熱や豚熱、口蹄疫は第1種家畜伝染病に分類される。近年は、口蹄疫やアフリカ豚熱の国内発生を受け、韓国政府による伝染病のまん延防止措置が実施されている(表3)。韓国の家畜伝染病予防法などに基づく家畜伝染病発生時の主な対応は、初期対応として家畜の隔離、同農場内家畜の移動制限、農場施設および周辺環境の消毒などが実施され、関係機関の勧告に基づく殺処分や淘汰(とうた)(と畜場(注3)、レンダリング工場などへの出荷)が行われるほか、必要に応じて一定範囲内の家畜、人、車両の出入管理・消毒が実施される(表4)。

(注3) と畜場へ出荷する場合は検査により陰性反応の確認が必要となる。






 

(1)韓国の家畜伝染病予防法に基づく支援制度の概要

 同法では家畜伝染病のまん延を防ぐための措置による損失に対し、大きく分けて飼育制限による廃業などに対する支援と殺処分などによる家畜の損失に対する支援が行われる。具体的には次の5項目について補償金の支払いが規定されている。
  • 疾病発生リスクの高い地域として指定された行政区の長は区域内の家畜飼育を制限できるとしており、これにより廃業などの損失を被った者に対し補償金を支払うもの。
  • 家畜伝染病の発生もしくはまん延防止措置のため、検査や投薬などを実施した際に家畜が死亡もしくは負傷した場合、当該家畜の所有者に対し補償金を支払うもの。
  • 殺処分や焼却、埋却、化学的処理を実施した場合、当該家畜の所有者に対し補償金を支払うもの。
  • 家畜の移動制限が実施された場合、当該家畜の所有者に対し補償金を支払うもの。
  • と畜場が操業停止もしくは操業制限の命令を受けた場合、当該と畜場の所有者に対し補償金を支払うもの。
 また、淘汰を目的としてと畜場などへ出荷された家畜の所有者に対し補償金を支払うことも可能とされている。さらに、廃業の支援として、飼育制限を受けていない場合も家畜伝染病による経営の悪化などにより廃業を申請した場合は、支援金の支給など必要とされる支援施策を実施することができるとされている。しかしながら、この場合は疾病発生リスクの高い地域として指定される前から、当該地域内で営農し、畜産法に基づく畜産業の経営許可および登録が必要であるなどの条件も付されている。なお、対象家畜の種類や支出基準、算出方法、支出手続き、施行期間などの詳細な条件については大統領令にて定めるとしている。
 このほか、殺処分命令や淘汰命令を履行した家畜の所有者に対し、国や地方自治体が予算の範囲内で生計安定のための費用支援を行うことも可能とされている。こちらも、詳細な支援範囲や基準、手続きなどは大統領令で定めるとされている。韓国政府は家畜伝染病の発生に備え、毎年一定額の予算を確保し、殺処分などの補償金に充て、予算超過の際は予備費を用いて不足分を補うこととなっている。

(2)アフリカ豚熱の発生状況

 韓国は2019年9月16日(確定日は翌17日)、北朝鮮との国境付近でアフリカ豚熱の発生が確認され、同年10月までに14件発生している。現地報道によると、この期間で95戸の生産者で15万4548頭の豚が殺処分され、261戸の生産者から44万6520頭の政府買い上げと淘汰が実施された。20年は9月までアフリカ豚熱の発生はなかったものの、10月8日、江原道のと畜場でアフリカ豚熱の発生が確認された。以下に当事例の詳細を紹介する。

(江原道の事例:2020年10月)
 20年10月8日、華川郡の養豚場から出荷され、江原道のと畜場で予察過程にあった肥育豚のうち、3頭が病死したことを確認したため、検査を実施したところ、アフリカ豚熱を発症していたことが確認された。当該養豚場は野生イノシシからのアフリカ豚熱ウイルス検出件数も多い地域にあり、最も近い野生イノシシ陽性反応検出地点から約250メートルに位置している。当該養豚場では豚、ふん尿、車両の移動制限を行い、出荷のたびに事前検査を実施するなどの防疫措置を実施してきたが、出荷した豚から陽性反応が検出された。なお、当該養豚場から約2キロメートルの距離に位置する予防的殺処分が実施された農場の豚からも陽性反応が検出された。
 この事態を受け、政府のアフリカ豚熱中央事故収拾本部は同月9〜12日まで京畿道および江原道地域に一時移動制限命令を発し、当該農場の半径10キロメートル以内の養豚場2カ所では予防的殺処分が実施された。また、養豚場進入路および近隣地域の道路、野生イノシシ陽性検出地点を重点的に消毒するとともに全国の養豚場6000戸余りの消毒も実施した。同時に京畿道、江原道の約1300戸の養豚場に対し電話でアフリカ豚熱発症の疑いのある家畜の有無を確認した。さらに飼料の運搬管理を実施し、華川郡の養豚場12戸に対し、専用の飼料運搬車両を指定運行するなどの防疫措置も実施した。
 野生イノシシに対する防疫措置も併せて強化し、感染範囲の把握に重点的に取り組むとともに、新規フェンスの設置ならびに既存フェンスの補強および修理、野生イノシシの捜索と捕獲強化を推進した。また、野生イノシシ陽性反応が検出された地域周辺に専門家を派遣して疫学調査を強化し、伝播経路の把握に努めるとともに、野生イノシシの病死体の捜索作業の増員強化を図った。さらには、野生イノシシ陽性反応検出地点周辺に2次フェンスを設置したほか、抱川市から加平郡南部、春川市を経由して襄陽郡までの広域フェンス(総距離445キロメートル)を設置し、野生イノシシの行動範囲制限を強化した(図8)。


 
 20年に発生したアフリカ豚熱は、江原道の事例を含め10月の2件のみ、21年には5月に1件、8月に3件、10月に1件となっている。国際獣疫事務局によると、韓国で20年の病死および殺処分を受けた豚の頭数は1741頭、21年は7468頭とされ、19年の13万6033頭から大きく減少している。なお、最近では22年5月に豚からの陽性反応が確認され、1175頭が病死および殺処分を受けたとされている。
 最も被害の大きかった19年の被害頭数は総飼養頭数の約1%に達したが、飼養頭数への深刻な影響は確認されず、今のところ豚肉生産量の大きな減少には結びついていないとみられる。しかしながら、アフリカ豚熱の発生に伴い、消費者の国内産豚肉に対する安全性の懸念から豚肉需要が落ち込み、豚肉価格は19年10月に下落した。価格低迷に苦難する生産者は政府に対し、公的な買い入れにより市場に流通する豚肉の流通量を削減するよう求めたものの、政府は価格低下とアフリカ豚熱による安全性の懸念は無関係とし、アフリカ豚熱発生前から増頭傾向にあったため、単純に供給過多が価格低下を引き起こしたとして、これに反対している。

4 COVID-19の影響

 世界のみならず韓国でも、新型コロナウイルスの感染者数が増加し始めた2020年初めは、豚肉卸売価格が下落しており、1キログラム当たり2000ウォン台(211円)に突入していた(図9)。その中で、COVID-19が猛威を振るい始めると、業務用需要が低下する一方で、豚肉に対する家庭内消費の増加、オンライン購入の拡大、輸入豚肉供給の減少を引き起こし、消費習慣に大きな変化が現れた。コロナ禍で家庭内での食肉消費が前年を上回る水準で推移し、これが豚肉価格をけん引したことに加え、豚肉のオンライン購入の拡大が著しく、同年2月の豚肉卸売価格は前月を上回る水準を記録した。5月には韓国政府による全国民緊急災害支援金が支給されたことで、これも豚肉需要を刺激し、1キログラム当たり5000ウォン台(527円)まで回復し、同年12月まで高値で推移した。この5月の全国民緊急災害支援金は家庭内消費のみならず外食需要も刺激したとされ、5月以降は豚肉の外食消費も徐々に回復を見せた。このため、アフリカ豚熱の影響で冷え切っていた豚肉需要に新たな流れを呼び込むこととなり、豚肉価格は短期間で回復することとなった。


 
 アフリカ豚熱により国産豚肉に対する懸念が広まっていた中で、コロナ禍により業務用を中心に需要が落ち込み、輸入量も大きく減少したことで20年の豚肉消費量は前年比1.6%減の132万5000トンとなり、1人当たりの年間消費量も同0.7%減の26.6キログラムとなった。なお、21年に入ってもCOVID-19の影響は継続し、引き続き業務用需要が低迷する一方で、家庭内消費は旺盛となっている。旺盛な家庭内消費にけん引されるとともに、輸入豚肉の価格高騰の影響も受けて、卸売価格は上昇傾向で推移した。20年後半に卸売価格がやや下落傾向で推移したことから、生産者は飼養規模を縮小したとされており、これも21年の卸売価格上昇の要因の一つとされている。

5 まとめ

 韓国では豚肉が広く消費され、近年は生産量、消費量ともに増加傾向で推移している。近年の急速な畜産業の発展に伴い、家畜疾病の増加や環境問題などの課題がある中で、アフリカ豚熱やCOVID-19などの疾病が流行し、養豚業の生産、消費両面に影響を与えている。アフリカ豚熱の発生はこれまでの経験と実績を経て、韓国ではある程度コントロールできる状況にあるともいえるが、野生イノシシでは引き続き散発しており、気が抜けない状況にある。コロナ禍では、22年の大統領選による政権交代後も引き続き規制緩和が進み、経済活動を喚起する方向で進んでいるが、完全に感染が収束するまでの見通しは依然として困難な状況にある。韓国農村経済研究院の見通しでは、今後10年間は豚肉生産量、輸入量、消費量ともに増加傾向で推移するとされており、養豚業のさらなる発展とともに、豚肉はより一層、消費者の食生活における重要性が増すと予測されている。今後も韓国では、野生動物による伝播リスクも踏まえ、各種疾病に対していかに対処し、養豚業を支援・発展させていくかが重要とされている。