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海外情報 米国 畜産の情報 2022年8月号

米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの対応について

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調査情報部 国際調査グループ

【要約】

  米国では、20代から30代の消費者層を中心に畜産のアニマルウェルフェア(AW)への関心が高まっている。連邦政府による法規定は限定的であるものの、一部の州では、子牛用ストール、母豚用ストール、家きん用バタリーケージの使用や飼養牛の断尾に関する法整備の動きが見られる。しかし、米国畜産業界による強い反発の声と訴訟もあり、カリフォルニア州やマサチューセッツ州では法律施行の直前・直後に施行の延期、カリフォルニア州では連邦最高裁判所において州内販売の規制に係る審理が始まるなど、大きな混乱が生じている。
 一方で、畜産の持続可能性の観点からも米国消費者や投資家のAWへの関心が高まっている。この動きを受け、業界団体は、持続可能な畜産に向けた取り組みにAWへの配慮を位置付け、既存のAWに関するプログラムやガイドラインへの生産者の参加を促すとともに、業界の取り組みを広く発信することで消費者の理解醸成を推進する意向である。

1 はじめに

 米国では、ミレニアル世代、Z世代と呼ばれる1980年半ばから2000年代初頭に生まれた世代を中心とした消費者の畜産のアニマルウェルフェア(AW)への関心の高まりや、国際的なAWへの動向を背景に、一部の州では畜産のAWに関する規制強化の動きが見られる。最近では、畜産の持続可能性への注目も相まって、消費者の関心もより高まってきている印象を受ける。米国畜産業界では、州による規制強化に反対の声も上がる一方で、持続可能な畜産に向けて、AWへの取り組みを継続する必要があるとしており、各畜種を代表する団体の多くが持続可能性を推進するための重点事項としてAWを掲げている。
 本稿では、州による規制強化の動向、畜産の持続可能性におけるAWの位置付け、畜産業界によるAWへの取り組みを中心に、米国のAWの情勢を報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1ドル=137.68円(注1)を使用した。

(注1) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2022年6月末TTS相場。

2 政府によるアニマルウェルフェアに関する規制およびプログラム

(1)連邦政府による法規制
 連邦政府による家畜を対象としたAWに関する法規制は、家畜の輸送時の規制の「28時間法」およびと畜時の規制の「家畜の人道的と畜法」に限られ、家畜の飼養時におけるAWに関する法規制はない。

ア 28時間法
 家畜の輸送時に、家畜を連続28時間以上輸送車両に閉じ込めることを禁止し、連続28時間以上輸送する場合、飼料および水の給与、休息のために少なくとも連続5時間は家畜を輸送車両から降ろすことを家畜の所有者、保管者、運送業者などに義務付けた法律である。

イ 家畜の人道的と畜法
 と畜場で、家畜に無用なけがを負わせることおよび苦痛を与えることのない家畜の取り扱いと、と畜の方法をと畜事業者に義務付けた法律であり、人道的な取り扱い基準が定められている。なお、本法律では家きんは対象に含まない。

(2)州政府による規制
 各州には動物への残酷な扱いを禁止する法律が整備されており、動物を放置すること、傷付けること、その他の虐待行為に及ぶことを禁止している。しかし、50州のうち37州では、「家畜」あるいは「慣行的に家畜に対して行われている行為」を規制の対象外にすることで、家畜への法適用を除外している(図1)。
 
 このような中で、消費者のAWへの関心を背景に、特に2000年以降、家畜の飼養慣行の改善に向けた議論が州レベルで活発化した。その結果、現在では複数の州で州法による家畜へのAWの規制が設けられている。これらの規制は、主に子牛用ストール、母豚用ストール、家きん用バタリーケージの禁止または制限や飼養牛の断尾の禁止または制限の4点に関するものである。

ア 子牛用ストールの禁止または制限
 子牛のストールや飼養面積について法規制を行っているのは9州である(図2)。いずれも四肢の伸展や身体の向きの変更を可能とする飼養面積の確保、ストールによる飼養の禁止などを規定しており、違反者には拘留、罰金、事業停止といった罰則が定められている(表1)。



 
イ 母豚用ストールの禁止または制限
 母豚のストールや飼養面積について法規制を行っているのは10州である(図3)。四肢の伸展や身体の向きの変更を可能とする飼養面積の確保を規定する州が多いが、オハイオ州では母豚用ストールの段階的禁止を規定するものとなっており、違反者には拘留、罰金、事業停止といった罰則が規定されている(表2)。




ウ 採卵鶏など採卵用家きんのバタリーケージの禁止または制限
 採卵鶏など採卵用家きんの飼養面積やバタリーケージについて法規制を行っているのは施行前の州を含めて11州である(図4)。そのうち8州が生産のみならず販売も禁止する規定となっている。違反者には拘留、罰金、事業停止といった罰則が規定されている(表3)。全米鶏卵生産者組合(UEP)のガイドラインを基準とする州が多い。


 
 
エ 飼養牛の断尾の禁止または制限
 飼養牛の断尾について法規制を行っているのは4州である(図5)。オハイオ州は乳用牛のみを対象としているが、その他の3州ではすべての牛の断尾に制限を設けており、違反者には拘留や罰金といった罰則が規定されている(表4)。




  さらに近年、この他の州でも、法律の成立には至っていないもののAW法規制の議論が行われている(表5)。

 
(3)州の規制に対する業界の反発
 一部の州の法規制に対し、米国畜産業界から強い反発の声が上がっている。
 アリゾナ州の法案提出時には業界から、「すでに畜産団体や獣医師が推奨するガイドラインに沿って、AWに配慮した飼養に取り組んでいる」「子牛や母豚のストールは非人道的なものではなく、家畜を疾病から守るものである」との声が上がった。カリフォルニア州やマサチューセッツ州の法律制定時にも同じく、「高価なケージフリー卵のみの販売や、母豚用ストールの禁止に伴う豚肉価格の上昇により消費者に負担がかかる」「現行の鶏舎システムは家きんを鳥インフルエンザなどの疾病から守るものである」との声が上がった。
 さらに、両州では訴訟問題にまで発展した。北米食肉協会(NAMI)は2019年10月、カリフォルニア州の法律は憲法の州際通商(州間商取引)条項に違反するとして、その施行の停止を求めて地方裁判所に提訴した。しかし、同年11月、憲法違反に当たらないとして棄却され、その後の控訴裁判所への控訴も連邦最高裁判所への上告も棄却された。全米豚肉生産者協議会(NPPC)およびアメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)も地方裁判所および控訴裁判所への提訴と棄却を経て、21年9月に連邦最高裁判所に上告した。その結果、連邦最高裁判所は22年3月、審理を行うことを決定した。同年6月時点では法廷闘争が続いている状況にある。マサチューセッツ州の法規制についても同様の理由で13の州が17年12月に連邦最高裁判所に提訴を行ったが、19年1月に棄却された。
 一方で、カリフォルニア州では、母豚用ストールの禁止について20年までに公布するとされていた施行規則がいまだに公布されていないことを理由として、22年1月1日に施行された法律が同月24日に施行停止となった(注2)。生産者の準備に必要な期間を確保するため、施行規則の公布から180日後に同法が再施行されることとなった。マサチューセッツ州でも、22年1月に法律を施行すると豚肉や鶏卵の流通に大きな影響が生じ得ることを懸念し、同年8月15日まで施行の延期を施行直前に決定した。両州での法律の施行直前・直後の対応は、生産者をはじめとする豚肉・鶏卵サプライチェーンに大きな混乱を招く結果となった。

(注2) 海外情報「母豚の飼育環境規制強化に関するカリフォルニア州法の施行が停止(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003178.html)を参照されたい。

3 持続可能性とアニマルウェルフェア

(1)消費者動向
 AWについて州政府による規制の動きが活発化する中で、持続可能性の観点からも米国消費者の関心が高まっている。
 米国の食肉業界の調査・コンサルティング会社であるミダン・マーケティング社は2021年7月、米国の食肉消費者1200人を対象に持続可能性に関するアンケート調査を実施した。同社によると、一般的な持続可能性の認知度は約86%、自身が持続可能性について考えていると回答した者は約68%であった(図6、7)。
 
  

 一方で、「持続可能に育てられた食肉」の認知度は約68%、自身が「持続可能に育てられた食肉について考えている」と回答した者は約54%であり、一般的な持続可能性と比べて、食肉に関する持続可能性の認知度や意識は低い結果となったものの、食肉消費者の半数以上は持続可能な畜産について意識していることがわかった(図8、9)。

  
 
 また、過去1年間で持続可能に育てられた食肉について関心が高くなったと回答した者が約34%おり、近年、持続可能な畜産への関心が高まっていることを裏付けた(図10)。特に、年齢が低いほど、所得が高い人ほど、都市部に住む人ほど、過去1年間で関心が高まった傾向が見られた(図11、12、13)。
 
    


  

 
 そして、注目すべき点としては、「持続可能な食肉に向けた課題とは何か」との質問に対して、「AW」と回答した者が約44%と抗生剤・ホルモン剤の使用との回答者約46%に次いで二番目に多い結果となったことである(図14)。「カーボンフットプリント」との回答者約32%よりも多い結果となった。さらに、「持続可能な畜産に向けた最も重要な取り組みとは何か」との質問に対して、「AWに係る取り組み」と回答した者が約29%と最も多い結果となった(図15)。
 ミダン・マーケティング社は、次世代にも安心して食肉を食べ続けてもらうためには、生産者が自身のAWに関する取り組みやストーリーを消費者に向けて強く発信することが重要であるとした。




(2)第5回国連環境総会再開セッションの決議
 「持続可能な開発目標の達成に向けた自然のための行動強化」をテーマとして、22年2月28日から3月2日までケニア・ナイロビで第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)が開催され、その中で「動物福祉に関する決議」が採択された。当該決議は、AWが持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献すること、AWとSDGsは人間の健康と福祉につながること、AWを裏付ける科学的根拠が存在することなどを踏まえ、国連環境計画(UNEP)の事務局長に対して、以下の3点を要請するものである。

@)国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(OIE)と連携の上、AW、環境、持続可能な開発の関連性を分析    
すること
A)24年開催予定のUNEA6(ケニア・ナイロビ)で取り組み状況を報告すること
B)AW、人間の健康、環境との関連性に関して、FAO、WHO、OIEとの連携を強化すること

 このように、国連でも持続可能性とAWとの関連性を取り上げられるなど、持続可能性の中にAWという一つのテーマが着実に確立しつつある。

コラム ケージフリー卵への移行を公表している食品関連企業

 消費者や投資家のAWへの関心の高まり、一部の州による法規制が始まる中で、食品関連企業にも動きが見られる。その中でもケージフリー卵への完全移行のコミットメントを公表する企業が増えている。畜産動物福祉団体であるCompassion In World Farming(CIWF)によると、米国内でケージフリー卵に移行することを公表した米国企業あるいはグローバル企業は、食品メーカー、外食企業、小売企業、フードサービス企業など121社に上る(コラム−図)。これらの企業のうち進捗(ちょく)状況を報告している企業は73社、さらにケージフリー卵への移行を達成したと報告している企業は31社ある(コラム−表1)。
 



 このような食品関連企業の動向もあり、米国ではケージフリー卵の需要は増加している。米国農務省農業マーケティング局(USDA/AMS)および同省全国農業統計局(USDA/NASS)によると、ケージフリー採卵鶏飼養羽数は年々増加しており、2022年4月時点では1億868万羽、同月の採卵鶏総飼養羽数3億6908万羽の約29.4%を占めている(コラム−表2)。


 公約を公表する企業の大多数は25年を目標に設定しているが、中には目標年を過ぎても達成に至っていない企業もあり、移行のスピードが遅れ始めているとの声もある。25年が近づく中で食品関連企業の動向や生産サイドの反応に注目が集まっている。



4 米国畜産業界による持続可能性とAWに係る動向

 連邦政府による法規制が限定的であることからも、米国では州ごとの立法判断や民意による法規制、また、業界の自主的な取り組みがAWの土台となっている。そして業界では、持続可能性に対する消費者の関心の高まりを受け、持続可能な畜産に向けた取り組みが本格化し始めた。その中でもAWは重視されており、各団体は生産者に対して、消費者に向けた業界の取り組みを発信することの必要性を訴えている。

(1)肉用牛・牛肉業界
 全米肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)が事務局を務める「持続可能な牛肉のための米国円卓会議(USRSB)」は2022年4月、持続可能な牛肉に向けた目標として「家畜の健康と福祉」を含めた6項目を掲げ(図16)、サプライチェーンのセクター別(肉用牛生産者、子牛市場関係者、食肉処理・加工業者、小売・外食業者)に目標と指標を設定した(注3)。AWの目標・指標には、肉用牛生産者や子牛市場には牛肉品質保証(BQA)プログラム参加の拡充、食肉処理・加工業者には従業員教育と第三者機関による監査、小売・外食業者にはAWへの対応方針の策定と公表などが設定された(表6)。

(注3) 海外情報「持続可能な牛肉のための米国円卓会議、持続可能に向けた目標を設定(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003251.html)を参照されたい。



ア 牛肉品質保証(BQA)プログラム
 BQAプログラムは、AW、労働者の安全、環境に配慮した方法で健康かつ安全にすべての牛を飼養していることを消費者に保証するため、NCBAが1991年に策定したプログラムである。本プログラムには生産者向け研修制度と認証制度があり、研修を受講して試験に合格した生産者が3年間有効なBQA認証を受けることができる。本プログラムの財源を出している肉用牛生産者牛肉振興調査ボード(CBB)によると、現在、BQA認証を受けた生産者は20万人以上、これらの生産者が生産する牛肉は米国産牛肉の85%以上を占めているという。
 本プログラムには、牛の飼養管理・衛生管理、バイオセキュリティ、輸送、環境保護など、幅広く基準や目安が示されている(表7)。一部の州で規制・制限が設けられている断尾について、本プログラムでは断尾を推奨しないとし、尾部の損傷や壊死を防止するために飼養面積を確保することが有効であるとしている。


イ 仔牛肉品質保証(VQA)プログラム
 VQAプログラムは、人道的に子牛を飼養し、安全で高栄養価の仔牛肉を生産する業界の取り組みを示すためにNCBAが1990年に策定したプログラムである。本プログラムにも生産者向け研修制度と認証制度があり、研修を受講して試験に合格した者が3年間有効なVQA認証を受けることができる。
 本プログラムには、子牛の健康管理、飼料・水の給与と栄養管理、飼養施設、輸送など、幅広く基準や目安が示されている(表8)。一部の州で規制・制限が設けられている子牛用ストールについて、本プログラムでは、適切な飼養面積の確保、つなぐことの禁止、10週齢までの群飼養への移行などが示されている。また、米国仔牛肉協会(AVA)は18年1月、すべての会員生産者が子牛のつなぎ飼いを廃止し、群飼育に移行したことを発表した。
 

(2)酪農・乳業業界
 酪農チェックオフ団体であるデイリー・マネージメント・インク(DMI)が国際乳食品協会(IDFA)とともに2008年に設立し、持続可能な酪農・乳業に向けた業界の取りまとめを担っている米国酪農イノベーションセンター(Innovation Center for U.S. Dairy)は、「アニマルケア」を含めた5項目を重点項目に位置付けている(図17)。アニマルケアの分野では、人道的かつ倫理的な乳用牛の飼養管理のための手順書である生産者保証責任管理(FARM:Farmers Assuring Responsible Management)アニマルケア・プログラムに基づく飼養を継続することとしている。
 

ア 生産者保証責任管理(FARM)アニマルケア・プログラム
 FARMアニマルケア・プログラムは、科学的根拠に基づく最高水準の飼養管理の下、牛乳・乳製品が生産されていることを消費者に保証することを目的として、DMIが全米生乳生産者連盟(NMPF)とともに2009年に策定したガイドラインである。本プログラムでは、研修を受けた酪農協同組合、販売業者、加工業者が第三者評価機関となる。参加を希望する生産者は、基準を満たしていれば本プログラムの認証を受けることができる。第三者機関による評価は少なくとも3年に一度実施され、基準を満たしていない場合、生産者はその内容により、段階的な改善を求められる。DMIによると、現在、米国内生乳供給量の99%以上が本プログラムに参加している農場から供給されているという。
本プログラムには、継続的な教育、飼養施設、牛の管理、抗生剤の使用、離乳前子牛の管理など、幅広く基準や目安が示されている(表9)。一部の州において、規制・制限が設けられている断尾について、本プログラムでは怪我の治療などを除く「日常的に行われる断尾」を17年以降、段階的に禁止している。

           

(3)養豚・豚肉業界
 米国養豚・豚肉業界の持続可能性への取り組みは、全米豚肉委員会(NPB)、全米豚肉生産者協議会(NPPC)、各州の豚肉生産者協議会が運営する「ウィー・ケア(We Care)」というイニシアチブが主導している。ウィー・ケアは業界の責任を自らが追求し、継続的に評価・改善するために2008年から開始された。ウィー・ケアは倫理原則として、AWを含む6項目を掲げ、持続可能な豚肉の生産に必要なものと位置付けている(図18)。そして、22年2月にウィー・ケアが公表した持続可能性報告書の中で、6項目それぞれについて、消費者や豚肉を取り扱う食品業界が求めているものを重視した目標を設定した。AWの目標には、豚肉品質保証(PQA)プラスプログラムと輸送品質保証(TQA)プログラムによる生産者・従業員の認証、PQAプラス農場評価などによって、AWに配慮した最高水準の豚の管理を実践することとした。


ア 豚肉品質保証(PQA)プラスプログラム
 NPBは2007年、豚の飼養方法への消費者の関心の高まりを受け、HACCPプログラムをモデルとした生産者の教育・認証プログラム、豚の人道的な飼養管理に関するプログラム、抗生剤使用ガイドラインを一つにまとめてPQAプラスプログラムを策定した。生産者はPQAプラス認定アドバイザーが実施する教育プログラムを受講することで3年間有効なPQAプラス認証を受けられる。ウィー・ケアによると、現在、PQA認証を受けた生産者は7万1000人以上、これらの生産者が生産する豚肉は米国産豚肉の85%以上を占めているという。
 本プログラムは、豚肉の安全性とAWに焦点を当てた継続的改善プログラムとして設計されており、ウィー・ケアの倫理原則と同様に、食品安全、AW、従業員の安全と教育、公衆衛生、環境、地域社会の6項目について基準を示している(表10)。一部の州で規制・制限が設けられている母豚用ストールについて、本プログラムでは、非妊娠豚にはストール飼養か否かに関わらず適切な飼養面積の確保、妊娠豚には集団飼養を推奨しているが、個々の飼養施設の状況に応じた飼養管理が必要としている。


イ 輸送品質保証(TQA)プログラム
 TQAプログラムは、豚の移動・輸送時の豚の取り扱いに関する基準を定めている。生産者や輸送業者といった豚の移動・輸送に関わる者は、TQA認定アドバイザーが実施する教育プログラムを受講することでTQA認証を受けられる。豚の健康維持やAWの確保だけではなく、移動・輸送時のストレスの軽減が体重減少の抑制や肉質の維持にも寄与するものとして参加が推奨されている。ウィー・ケアによると、現在、3万1000者以上の家畜取り扱い業者や輸送業者が認証を受けているという。

ウ 豚肉品質保証(PQA)プラス農場評価
PQAプラス農場評価は、PQAプラス認定アドバイザーによるPQAプラス認証生産者を対象とした農場評価であり、豚の飼養管理の手順や飼養施設の確認などが行われる。生産者がPQAプラス認証を受け、かつ農場がPQAプラス農場評価によって適切であると判断された場合に、PQAプラス農場ステータスを取得することができる。

(4)肉用鶏・鶏肉業界/採卵鶏・鶏卵業界
 米国養鶏業界では、近年まで各団体、各企業がそれぞれ独自に持続可能性に向けて取り組んできた。しかし、2017年に全米鶏肉協議会(NCC)、全米鶏卵生産者組合(UEP)、米国鶏肉・鶏卵協会(USPEA)などの業界主要団体が中心となって、持続可能な鶏肉・鶏卵のための米国円卓会議(US─RSPE)という養鶏業界の持続可能性を主導する組織を立ち上げた。US─RSPEは、生産者、インテグレーター、食鳥処理・加工業者、GPセンター(鶏卵選別包装施設)、小売・外食業者などの鶏肉・鶏卵サプライチェーンの他、学術機関やNGOから構成される。また、US─RSPEは持続可能性の3本柱「鶏」「地球」「人々」を掲げ、「鶏」の優先事項にAWを組み込んでいる(図19)。US─RSPEは22年中に、業界の持続可能性への取り組みの進捗状況を測定して発信する「持続可能性の枠組み」を開始することとしている。
 持続可能性という観点からは、他の畜種業界と比較すると遅れがちではあるものの、従来からAWに配慮した鶏の飼養管理のガイドラインは広く普及しており、今後、US─RSPEの取り組みと連携を取っていくこととされている。

 
 
ア 全米鶏肉協議会(NCC)アニマルウェルフェアガイドライン
 NCCは1999年、すべての鶏が適切に飼養管理され、人道的に扱われていることを確認するための基準として、NCC・AWガイドラインを策定した。NCC・AWガイドラインにはブロイラー生産者向けと肉用種鶏生産者向けがあり、企業コミットメント、人材育成、ふ化場運営、飼養施設、輸送など、幅広く基準や目安が示されている(表11)。


イ 全米鶏卵生産者組合(UEP)認証プログラム
 UEPは、消費者のAWへの関心が高まっていることを踏まえ、政府関係者、有識者、獣医師などから構成される諮問委員会に委託し、2002年にUEP認証プログラム、06年にUEPケージフリー認証プログラムを策定した。プログラムへの参加を希望する農場は第三者評価機関による評価の上、認証を受けることができ、認証された農場から生産される鶏卵には認証ラベルを付すことができる(図20、21)。その後、毎年同機関による監査を受ける。UEPによると、現在、米国産鶏卵の90%以上が本プログラムに参加している農場で生産されているという。

  

 UEP認証プログラムには、クチバシの切断と処置、誘導換羽、捕獲・輸送、安楽死、バイオセキュリティ、飼養施設など、幅広く基準や目安が示されている(表12)。一部の州で規制・制限が設けられているバタリーケージ飼養について、バタリーケージ飼養向けのUEP認証プログラム、ケージフリー飼養向けのUEPケージフリー認証プログラムがあることからもわかるように、本プログラムはバタリーケージの飼養を制限するものではない。ただし、いずれの場合でも適切な飼養面積の確保を求めている。

5 おわりに

  米国内でのAWへの関心の高まりから、民意を反映させる形で一部の州で整備された法律により生産サイドは対応に追われているという。さらに、基準を順守していない畜産物の州内販売を禁止する規定では、生産サイドの観点だけではなく、畜産物の流通や販売量の確保の観点からも懸念が示されており、法規定によるAWへの対応はサプライチェーン全体に対応を迫るものでもあり、完全移行は容易ではない。一方で、米国で関心が高まっている持続可能性の観点からも、国内の消費者からは畜産業界に対しAWへの配慮を求める声が強くなりつつある。これは、小売・外食業界やそれらに出資する投資家から生産サイドへの要求につながっており、サプライチェーンの川下から川上に向けた声が大きくなっている印象を受ける。
 米国畜産業界でも、この動向に対応するため、持続可能な畜産への取り組みの中にAWを組み込んでいる。しかし、これはAWへの新たな取り組みを始めるものではなく、既存のAWに関する枠組みについて、より具体的かつ定量的に進捗を把握し、より明瞭かつ詳細に発信するものである。
 業界が一体となって、生産者に過度な負担をかけないように留意しつつ、持続可能な畜産に向けた取り組みを進めているが、生産者が家畜・家きんを大切に扱うストーリーを発信することが必要との声もある中で、今後、業界団体がどのようにAWに向き合い、消費者や投資家に向けて発信するのか、業界内外から注目が集まる。
(岡田 卓也(JETRO ニューヨーク))



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