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海外情報 豪州とNZ 畜産の情報 2022年11月号

豪州およびニュージーランドにおける生体牛輸出の現状

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調査情報部

【要約】

 ニュージーランドでは、生体牛輸出先の中国および国内畜産関係者などから反対意見がありつつも、アニマルウェルフェアの観点から、2023年4月末の生体牛輸出の全面禁止に向け、関連法案が国会で可決された。一方、豪州では、アニマルウェルフェアに関する規則などの順守や業界のさまざまな取り組みが図られることにより、今後も生体牛輸出は継続されるとみられる。現在の豪州からの生体牛輸出頭数は、低い水準で推移しているが、本年(22年)にインドネシアで発生した口蹄疫による輸出への影響は一時的であるとみられ、牛群再構築の進展に伴い、輸出頭数は徐々に増加していくと予測されている。

1 はじめに

 豪州の生体牛輸出は、主要供給国としてその動向が注目される中で、近年は牛群再構築による供給減により減少傾向で推移している。また、最大の輸出先であるインドネシアで2022年5月に確認された口蹄疫が生体牛輸出に与える影響も懸念されている。一方、隣国のニュージーランド(NZ)では、特に20年8月にNZから出港した家畜輸送船が日本近海で沈没し、乗組員や牛が死亡した事故の発生を契機として生体家畜の輸出が世間の耳目を集め、動物福祉(アニマルウェルフェア)の観点から、23年4月30日までに海路での生体家畜輸出を全面的に禁止する方針が出されている。
 本稿では、今後の国際的な牛肉供給に影響を及ぼす両国の生体牛輸出の現状について、インドネシアでの口蹄疫発生への対応などと併せて報告する。
なお、本稿中特に断りのない限り、豪州の年度は7月〜翌6月、NZの年度は6月〜翌5月であり、為替レートは1豪ドル=96.17円(注1)を使用した。

(注1) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年9月末TTS相場。

2 豪州およびNZにおける生体牛輸出状況

(1) 豪州

 豪州家畜輸出業者協会(ALEC:Australian Livestock Exporters Council)によると、1880年代から始まった豪州の生体家畜輸出はすでに100年以上の歴史を有している。ライブコープ(Live Corp:生体家畜輸出業者による業界団体)と豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)が共同で実施した調査結果では、2020年度の生体牛輸出は、間接的なものも含め総額14億豪ドル(1346億円)の経済的貢献と6573人の雇用を生み出している。また、仮に豪州からの生体牛輸出が停止された場合、その一部が国内市場に環流することで豪州全土の平均牛肉価格が2〜4%下落し、肉牛産業は今後20年間で最大81億豪ドル(7790億円)の損失を被る可能性があるとしており、同国の重要産業の一つである肉牛産業に大きな影響を及ぼすとしている。
 直近の生体牛輸出額を見ると、20年度は肥育・と畜用牛が11億9700万豪ドル(1151億円)、繁殖用牛が3億1000万豪ドル(298億円)を輸出しているが、22年度は肥育・と畜用牛が7億8800万豪ドル(758億円)、繁殖用牛が2億7600万豪ドル(265億円)まで減少する(合計10億6400万豪ドル)と予測されている(図1)。特に肉牛が主体の肥育・と畜用牛の生体牛輸出頭数は、国内の気象状況に関連した牛群規模によって変動する。具体的には、輸出頭数は、干ばつの発生などで飼料供給が減少すると増加し、多雨により牧草の生育が良好となり、牛群再構築の段階になると減少する傾向があり、輸出額も輸出頭数に連動する傾向にある。

 
 輸出先別頭数の状況を見ると、肉牛を中心とした肥育・と畜用牛は過去10年間でも一貫してインドネシア向けが半数以上を占め、次いでベトナム向けが2〜3割となっている(図2)。両国では現在でも冷凍・冷蔵技術が未成熟とされ、夜半にと畜した牛の肉を翌朝にウェットマーケットと呼ばれる市場で常温販売するという供給形態が多く、自国内のフィードロットや食肉処理施設の雇用確保の観点からも、盛んに生体牛の輸入が行われている。


 
 他方で繁殖用牛については、中国向けが大半を占めている(図3)。中国向けは15年10月に両国政府が肥育・と畜用牛の肉用牛の家畜衛生条件に合意して当該肉用牛の輸出が可能となったが、採算が合わなかったため持続せず、現在では繁殖用のアンガス種などを中心に輸出されている(注2)
 21年度は、豪州での肉用牛の牛群再構築の進展などを受け、肥育・と畜用牛が22万6039頭、繁殖用牛が3万4061頭といずれも前年度の4分の1まで減少した。

(注2) 『畜産の情報』2022年2月号「中国の生体牛輸入の現状と課題」3 生体牛の輸入状況(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001955.html#title4)を参照されたい。
 

 MLAの22年6月時点の見通しによると、豪州国内の肉用牛の牛群再構築の進展に伴い、生体牛輸出頭数は22年の50万頭から、24年には64万頭まで回復すると予測されている(注3)

(注3) 『畜産の情報』2022年8月号「牛群再構築は継続も、肉牛取引価格は大幅下落」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002313.html)を参照されたい。
 
 生体牛輸出で利用される主な港は、地理的にアジア寄りである北部準州のダーウィン港が最も多く、全体の約4割を占めている(図4、5)。その他は年度によって多少順位の変動はあるが、21年度ではビクトリア州のポートランド港が16.3%、西オーストラリア州のブルーム港が15.9%、同州のフリーマントル港が10.4%、クイーンズランド州のタウンズビル港が9.8%と続いている。豪州北部のダーウィン港やブルーム港、タウンズビル港などからは、主に耐暑性が高いブラーマンやサンタガトルーダスなどのボスインディカス種が、南部のポートランド港やフリーマントル港などからは、主に温帯種であるボストーラス種が輸出されている。



 

(2) NZ

 NZの生体家畜輸出業者の業界団体であるNZ家畜輸出協会(LENZ:Livestock Export NZ)によると、NZからの生体牛輸出は1970年代から行われるようになったとされている。2008年度以降は肥育・と畜用牛の輸出は行われず、すべて繁殖用牛として輸出され、19年度以降の輸出先は中国のみとなった(図6)。また、20年度は豪州産と拮抗する程度の頭数に拡大し、21年度は豪州産を追い抜き、13万7967頭と過去最大の頭数が輸出されている。


 生体牛輸出で利用される主な港は、北島のネーピア港が最も多く、全体の約6割を占め、次いで南島のティマル港が3割、北島のニュープリマス港が1割強となっている(図7、8)。



3 インドネシアにおける口蹄疫発生による生体牛輸出への影響

(1) インドネシアの口蹄疫発生状況

 インドネシアでは、1986年以降は口蹄疫の発生がなく、国際獣疫事務局(OIE)からも90年に清浄国として認められていた。しかし2022年4月、同国東ジャワ州などで感染の疑いが報告され、翌5月にOIEにより口蹄疫の発生が確認された(注4)
 インドネシア農業省によると、22年9月28日現在、感染確認頭数は最も多い肉用牛で44万2700頭、乳用牛で7万2842頭となっているが、口蹄疫ワクチン接種も徐々に進展しており、同日現在でワクチン接種済みの肉用牛は274万1647頭(飼養頭数の18.4%)、乳用牛は22万2270頭(同72.7%)となっている。

(注4) 海外情報「口蹄疫対策として300万回分のワクチン接種などを実施(インドネシア)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003361.html)を参照されたい。

 

(2) 豪州およびNZ両国の対応

 豪州およびNZ両国は、インドネシアからの口蹄疫ウイルスの国内侵入を防ぐため、空港など水際での探知犬や靴底消毒マットの設置をはじめとした検疫強化などを進めている。また、畜産物などのリスク物品の国内の持ち込みについては、申告漏れや虚偽申告をした場合に、罰金や禁固刑が科せられることになっている。インドネシアはバリ島をはじめ、特に豪州人にとって人気の旅行先の一つであり、人の往来が多いが、最近の事例では、2022年7月末に同国から帰国した豪州人が、手荷物に入れていた食べかけのソーセージマフィンなどに関する申告を怠ったとして、2664豪ドル(25万6197円)の罰金が科せられるなど、徹底した措置が取られている。
 豪州農業資源経済科学局(ABARES)によると、口蹄疫が豪州に侵入した場合、生体牛輸出産業も含め、最大で800億豪ドル(7兆6936億円)の経済的損失をもたらすとして、同国政府は隣国インドネシアでの早期収束に向け、100万本の口蹄疫ワクチンの提供や技術支援を行っている。
 なお、22年8月26日付け豪州連邦政府のマレー・ワット農相のメディアリリースでは、口蹄疫ワクチンがインドネシアに到着したことが報告されている(写真1)。


 

(3) 豪州の生体牛輸出への影響

 このような状況の中で、2022年8月末、ライブコープに対してインドネシアの口蹄疫発生による豪州生体牛輸出への影響を確認した。先方からは、輸出頭数の減少など一時的な影響が出るものと考えられるとしつつも、インドネシア国内で口蹄疫ワクチンが確保され、接種が進展することで平時の状態に戻ると想定されるため、長期的な影響は生じないとのことであった。
 関連のデータとしては、MLAが22年4月から、北部準州家畜生体輸出協会(NTLEA)と共同で、生体牛輸出価格指標(LEPI)(注5)のデータ公表を開始している(図9)。これによると、インドネシアで口蹄疫が拡大した22年6月は、同国での需要減から輸出頭数が一時的に減少し、価格も下落したが、9月には頭数が4400頭まで戻り、価格も回復基調となっている。
 また、22年10月の現地報道でも、インドネシアでの口蹄疫ワクチン接種の進展により、同国からの生体牛発注数が増加してきているとしている。

(注5) 主な流通経路であるダーウィン港からインドネシア向けに輸出される肥育用雄牛の価格指標であり、通常2週間ごとに更新されている。

4 NZにおける生体牛輸出禁止措置の経緯と現状

(1)と畜用家畜の輸出禁止

 2016年、輸出先でと畜される家畜(牛、羊、山羊、鹿)の生体輸出がアニマルウェルフェア規則2016によって、第一次産業省(MPI)の承認がない限り禁止された。本承認は、輸出業者がアニマルウェルフェア法1999に基づくアニマルウェルフェア輸出証明書(AWEC)を取得するなどした上で、MPIが輸出上のリスクを適切に回避していると判断した場合にのみ行うことができるとされている(図10)。

 

(2) 家畜輸送船事故と生体家畜輸出見直しの議論

 2019年、輸出先のスリランカで牛の死亡や健康状態の悪化が懸念される事案が生じたことから、輸出先での家畜の健康管理に関するNZの関与に限界があることを背景に、同国のダミアン・オコナー農相が生体牛輸出の見直しに関する閣議報告を行い、政府内での議論が開始された。その後の20年8月、NZのネーピア港から出港した家畜輸送船「ガルフ・ライブストック1号」が約6000頭の牛を積んで輸出先の中国に向かう途中、鹿児島県奄美大島沖で台風に見舞われて転覆し、乗組員41名および牛全頭が行方不明・死亡する事故が発生した。これを受けMPIは、家畜輸送船の乗組員および家畜輸送の安全を確保するためとし、生体家畜輸出について、単独での見直しに着手した。

 

(3) 生体家畜の海上輸送の全面禁止

 この見直し結果や第三者機関である国家動物福祉諮問委員会(NAWAC:National Animal Welfare Advisory Committee)からの助言を踏まえ、2021年4月、ダミアン・オコナー農相はアニマルウェルフェアに対するNZの国際的評価を維持するため、2年間の猶予期間中の生体家畜輸出要件を厳格化するとともに、猶予期間経過後に生体家畜の海上輸出を全面禁止する方針を発表した(注6)。NZ政府によると、生体家畜輸出は15年以来、第一次産業の輸出収入の0.6%程度で限定的であるとし、関係者への理解を求めた。
 本方針を盛り込んだアニマルウェルフェア改正法案は、国会の第一次生産特別委員会で議論されたが、野党の国民党およびACT党からは、生体家畜輸出禁止により予測されている経済的損失が著しく過小評価されているとともに、農村地域での雇用と収入の面での不利益を考慮し、アニマルウェルフェアを確保しつつ、NZ経済を発展させる生体家畜輸出手法を発展させるべきとする反対意見が出されていた(注7)。しかし22年9月28日、本法案に賛成していた与党労働党が多数を占める国会で法案が可決され、23年4月30日に生体家畜の海上輸出が禁止される見通しとなっている。

(注6) 海外情報「2023年までに生体牛の海上輸送輸出を禁止(NZ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002929.html)を参照されたい。なお、空路による家畜輸送は今後も継続されるとしている。
(注7) 海外情報「生体牛の海上輸出禁止、特別委員会からの全面的支持得られず(NZ)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003242.html)を参照されたい。

 

(4) 禁止措置に対する中国の反応

 NZの禁止措置に対し、最大の輸出先である中国側では、同国の生体家畜輸入取扱最大手の中国畜産集団(CAHG:China Animal Husbandry Group)や酪農関連企業がNZ政府に対し、中国国内のアニマルウェルフェアへの投資実態などをアピールして、禁止措置の撤回を求めていた。中国のこれらの企業は、NZが中国への繁殖牛の海上輸送を停止した場合、中国の酪農関係者は良質な牛の輸入先(供給源)を失うことになるため、輸入牛確保のコスト上昇や良質な生乳供給の不安定化につながるなどとして懸念を示している。
 一方で、中国の一部酪農関連企業では、豪州からの生体牛輸入で十分に代替可能であり、NZの繁殖牛の海上輸送停止の影響は、比較的小さいとする意見も存在する。

5 豪州の生体牛輸出に対するアニマルウェルフェアへの配慮

 併せて、ライブコープに対し、NZにおける生体家畜輸出禁止措置による豪州の生体家畜輸出産業への影響を確認したところ、豪州の業界は従来、アニマルウェルフェアを最優先事項としており、生体家畜輸出では然るべきアニマルウェルフェアを確保しているため、影響はないとのことであった。また、同業界における各種研究は、農家や家畜輸出業者から支払われる賦課金によって賄われているが、予算の約7割をアニマルウェルフェア関連の研究に費やしているとしている。
 他方で、2022年5月に行われた連邦総選挙で政権を奪取した労働党は、選挙公約に羊の生体輸出の段階的禁止を掲げていたが、同年6月、マレー・ワット農相は、空路および海路での羊の輸出禁止の実現を今期の政権ではなく、時間をかけて目指していくと述べている。この動きが牛の生体輸出にも波及するのではないかとの懸念が業界内にあったが、アルバニージー首相およびワット農相は、生体牛の輸出を禁止したり、段階的に縮小したりする計画は全くないとしている。またMLAからも、従来、羊の生体輸出は禁止されている(注8)ところであるが、牛については、暑熱ストレスへの耐性が羊より優れており、これを将来的に禁止しようという議論が拡大するとは考えられないとのことであった。

(注8) 羊は牛と比較し体が小さく、暑熱ストレスに弱いため、主に中東や東南アジアに輸出される海路でこれまで大量死が度々確認されてきたことを受け、暑熱ストレスが過酷となる北半球の夏期(6月1日〜9月14日)において、羊の生体輸出が禁止されている。

 

(1) 豪州政府の取り組み

 豪州では、家畜輸出規制の枠組みとして、豪州農林水産省(DAFF)が所管する輸出管理法2020(Export Control Act 2020)および関連する規則と基準に基づいて、家畜の輸出を規制している(図11)。
 このうち、農場での管理から輸出先の食肉処理施設までの家畜輸出サプライチェーンにおけるアニマルウェルフェアに関しては、輸出業者が家畜を輸出する際に満たさなければならない最低限のアニマルウェルフェア要件として、豪州家畜輸出基準(ASEL)ならびに輸出業者サプライチェーン保証システム(ESCAS)の主要な二つのシステムにより管理されている(注9)

(注9) 豪州生体牛輸出におけるアニマルウェルフェア要件の経緯などに関しては、『畜産の情報』2018年2月号「豪州の生体牛輸出動向〜アニマルウェルフェアと家畜疾病管理における変化を中心に〜」(https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2018/feb/wrepo01.htm)を参照されたい。
 

ア ASEL
 ASELは、家畜の輸送計画、農場から検疫施設、港までの家畜の輸送、船舶の準備など、輸出業者が順守しなければならない輸出までの一連の流れにおける家畜管理の規定である。
 ASELは2004年に最初に導入されたが、最新のものとしては、ASEL3.2が2020年輸出管理法(Export Control Act 2020)に基づいて施行されている。
ASELの内容は多岐にわたるが、一例として、生体牛輸出時の暑熱ストレス基準に関する以下の規定などがある。

(ア)豪州の南緯26度(図5)以南の地域から輸出されるボストーラス種の牛は、5月1日〜10月31日の間に豪州を出発し、赤道を超える航海で輸出する場合、非妊娠牛であり、中東向け、または中東を経由する輸出牛は、熱ストレスリスク評価(HSRA:Heat Stress Risk Assessment)(注10)が管理可能となる基準以下でなければならない。

(注10) 航海ルートの気象観測データから、湿球温度分布の確率・評価に相違があることや、牛の代謝熱を抑えるために、時期によって飼養密度を変えるという原則などに基づいて設計されており、5%の死亡率が発生する確率が2%未満でなければならないなどとされている。なお、豪州から海上輸出される牛の死亡率や死亡原因の調査結果などは、定期的に政府に報告され、DAFFのウェブサイト上(https://www.agriculture.gov.au/biosecurity-trade/export/controlled-goods/live-animals/live-animal-export-statistics/reports-to-parliament)で公表されている。

(イ)肉用牛の場合、ボディコンディションスコア(注11)が平均的な肉付きを示す2から4であることを要する(ただし、南緯26度以北の豪州地域から輸出されたボストーラス種の牛は、10月1日〜12月31日の間に2以上3以下であること)。また乳用牛の場合、同3.5以上5.5未満であることを要する(ただし、10月1日〜12月31日の間に南緯26度以北の豪州地域から輸出されたボストーラス種の牛は3.5以上5未満であること)。

(注11) 肉用牛は0〜5の6段階評価、乳用牛は1〜8の8段階評価。

イ ESCAS
 ESCASは、2012年以降、すべての輸出市場に対して課せられた規制であり、輸出業者は、輸出先港への到着からと畜までの家畜のアニマルウェルフェアを提供するために、サプライチェーン関係者との商業的な取り決めを行う保証システムである。
 ESCASは2021年輸出管理(動物)規則に基づき、四つの保証システムにより運用されている(図12)。
 
 

(2)業界団体の取り組み

 生体家畜輸出におけるアニマルウェルフェアの理解醸成のため、ライブコープおよびMLAが共同で創設したThe Livestock Collectiveのウェブサイト上(https://www.thelivestockcollective.com.au/vrshiptour)では、3D写真や動画(写真2)により、農場から輸送船舶内までの家畜の移動や船舶内の家畜の状況のほか、輸出先の港に到着してからのサプライチェーンでの様子や、輸入業者や獣医師による管理や診療の状況に関する情報発信を行っている。
 なお、生体家畜輸出業界と豪州政府は2016年、第三者機関による評価制度として、ESCASと連携し、比較的安価に輸出される肥育・と畜用家畜のアニマルウェルフェアを確保することを目的とした任意制度として「家畜グローバル保証プログラム(LGAP:Livestock Global Assurance Program)」を考案し、18年から試験的導入を開始している。しかしその後、新型コロナウイルス感染症により、同プログラムの運用が現場を混乱させるとの理由から、管理運営を担っている業界団体のALECは21年9月、LGAPの一時停止を決定した。22年9月現在、再開のめどは立っておらず、ESCASの下で慣行を改善する方向で進めることで対応している。
 他方で、生体家畜輸出における規制コストが過去5年で約3倍になったとし、輸出業界輸送業者らはDAFFに対し、これらの規制の見直しを求めている。

コラム 豪州の動物愛護団体による生体家畜輸出への反対意見

 豪州の王立動物虐待防止協会(RSPCA:The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)をはじめとする動物愛護団体は、と畜のために生体で牛や羊などを輸出することは、アニマルウェルフェア上の深刻な問題を引き起こし、輸送中に起こる広範な苦しみと高い死亡率、輸入国到着後における扱いなどが懸念されるとして、生体家畜輸出には反対の姿勢を示している。


 豪州国内で関心が高まったのは、2011年、豪州の国営放送番組で、インドネシアでの牛のと畜場面とされる衝撃的な映像が放映され、当時、同国への生体牛輸出の一時的な停止が大きく取り上げられたことに端を発している。
 RSPCAによると、生体家畜輸出における主なアニマルウェルフェア上の懸念事項として、以下のものを挙げている。

●輸送時の取り扱いや乗船前の家畜管理。
●家畜が快適に横たわり、食料や水を適切に摂取できる飼養密度の確保。
●海上輸送における、無食症、サルモネラ菌症、暑熱ストレス、肺炎などの発症や高い死亡リスク。
●原産国の農場から輸出先までの気候条件の極端な変化。
輸出先の港で家畜が検疫要件などにより入国拒否された場合の不十分な緊急時対応計画の設定。
●輸出先における不適切な取り扱いと非人道的なと畜行為。
 
 RSPCAはこれまで、輸送に伴うストレスや過去の海上輸送時の災害を踏まえ、家畜は生産拠点のできるだけ近くでと畜されるべきと主張してきた。また、ESCASによって、豪州の家畜を保護しているという豪州政府と業界による主張に反し、家畜が輸出先に到着すると、豪州の法律の適用外となり、人道的なと畜が保証されず、豪州国民の期待を反映していないと指摘している。このため同団体は、海外との取引では、生体家畜輸出を停止し、家畜が豪州の動物福祉基準に従って豪州国内でと畜されることを前提に、冷蔵および冷凍肉のみをその対象とすべきと提唱している。

6 おわりに

 インドネシアの口蹄疫発生状況と、豪州国内への侵入を阻止するためのバイオセキュリティ対策については、豪州国内ではたびたび報道で目にする機会があり、同国内では関心の高い事項となっているが、今回の調査により、インドネシアにおける口蹄疫ワクチン接種の進展によって、豪州の生体牛輸出への影響は一時的であることが分かった。インドネシアでは、同国の技術力と統率力の高さを誇示すべく、2022年11月にバリ島で開催予定のG20までの口蹄疫の封じ込めを目指して、急ピッチで口蹄疫ワクチン接種が進められている。
 この状況からも、今後の豪州の生体牛輸出の動向は、同国内の牛の供給余力次第と考えられるが、豪州気象局は昨年に引き続きラニーニャ現象の発生を発表していることから、牛群再構築が進む同国での肉牛生産や高騰が続く肉牛価格への影響、輸出などといった牛肉に係る需給動向が引き続き注目される。
 またNZでは、23年4月末の生体家畜の海上輸出禁止に関する改正法案が国会で可決されたことで、これまでNZから多くの生体牛を輸入していた中国からの需要が、同国との間に地政学的リスクを抱える豪州にシフトしていくのかについても、今後注目する必要がある。

(赤松 大暢(JETROシドニー))