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海外情報 米国 畜産の情報 2023年11月号

米国における家畜排せつ物の管理および利用の現状

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調査情報部

【要約】

 近年、米国では家畜の飼養頭数が増加するとともに大規模化と専業化も進んでいる。乳用牛、豚、採卵鶏の1戸当たり飼養頭羽数・出荷頭羽数の中央値は大幅に増加し、作物を生産していない畜産農場の割合も上昇している。米国農務省によると、1年間で13億8273万トンもの家畜排せつ物が発生していると推計されているが、トウモロコシ、大豆、小麦などの主要作物への堆肥利用は作付面積のわずか7.9%にすぎず、発生した家畜排せつ物は慣例的に自身の農場や牧場で散布しているのが現状である。これまで米政府は、家畜排せつ物の管理に対して、環境保全の観点から関連施設の整備などへ支援を行ってきたが、肥料価格の高騰を受け、家畜排せつ物の利用を含めた国産肥料の増産に向けた支援を開始した。その他、一部の州では家畜排せつ物の堆肥利用を受け入れる事業者に対して輸送費を支援するなど、堆肥の利用を促進する動きが見られる。
 また、温室効果ガス排出量削減の観点からは、家畜排せつ物のエネルギー利用のための嫌気性堆肥消化装置の導入が進んでいる。2023年には整備中の86施設を含めて429施設が畜産現場に導入され、そのうち大規模酪農地帯であるカリフォルニア州が140施設を占めるなど、酪農施設への導入が全体の85.5%と多い。それでも米国環境保護庁によると、嫌気性消化装置の導入可能数は酪農施設と養豚施設を合わせて8115施設に上るとのことで、まだ導入を進める余地があるという。中小規模の畜産生産者にとっては1頭当たりの運用コストが高くなるため導入は容易ではないが、カーボン・クレジットの導入など新たな収益を確保することが今後のエネルギー利用への転換につながる可能性もある。
 堆肥利用やエネルギー利用への技術の進歩や畜産をめぐる情勢の変化が見られる中で、家畜排せつ物の資源としての価値を見いだす動きは着実に進んでいる。

1 はじめに

 畜産物生産が盛んな米国では、畜産農場の大規模化が続く中で、家畜排せつ物の処理が課題となっている。環境保全の観点から家畜排せつ物の適切な保管および土壌還元が求められているが、畜産生産者は慣例的に自己所有の農地や牧草地に散布することが多く、中には粗雑に散布してしまう畜産生産者もいるという。また、近年持続可能な農畜産業を目指す中で、肥料価格の高騰などの投入コストの上昇や、家畜排せつ物由来の温室効果ガス(GHG)の発生が問題視されている。このような中、家畜排せつ物の堆肥利用やエネルギー利用に注目が集まり、技術の開発や導入が進められるなど、家畜排せつ物に資源としての価値を見いだす動きが見られる。
 本稿では、米国における家畜の飼養動向および家畜排せつ物の発生状況に触れつつ、堆肥およびエネルギーへの利用の現状とその拡大に向けた取り組みについて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=150.58円(注1)を使用した。
 
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2023年9月末TTS相場。

2 家畜・家きんの飼養動向と家畜排せつ物の発生・利用状況

(1)家畜・家きんの飼養動向

 まず、近年の米国における主要な家畜・家きんの飼養動向を見ると、肉用牛は減少傾向にあるが、豚、肉用鶏および採卵鶏は増加傾向にあり、乳用牛は減少傾向から増加傾向に転じている(図1〜5)。
 












 
  家畜排せつ物の管理と利用の観点から重要な点は、畜産農場の大規模化および専業化が進んだことと、その分布に地域的な偏りが見られることである。
 肉用肥育牛、乳用牛、豚、肉用鶏、採卵鶏の1戸当たり飼養頭羽数・出荷頭羽数規模の中央値の過去30年間の変化を見ると、いずれも増加しており、大規模化が進んでいることが分かる(表1)。特に、乳用牛、豚、採卵鶏においては1987〜2017年の間にそれぞれ1525%増(16.3倍)、4175%増(42.8倍)、918%増(10.2倍)と、より大きな割合で増加している。
 飼養規模別の飼養頭羽数の割合を見ると、1000頭以上の農場で飼養されている乳用牛は1997年の17.4%から2017年の55.2%まで増加、5000頭以上の農場で飼養されている豚も同じく40.2%から72.8%まで増加、10万羽以上の農場で飼養されている採卵鶏も同じく68.7%から76.4%まで増加しており、いずれも大規模な農場で飼養されている家畜・家きんの割合が半数を超えている(図6〜8)。











 
  また、大規模化に伴い畜産の専業化も進んでいる。米国農務省(USDA)の農業資源管理調査(ARMS:Agricultural Resource Management Survey)によると、畜産物生産量全体に対して、作物を生産していない畜産農場が生産する畜産物の割合が1996年の22%から2015年の37%まで増加した(図9)。依然として作物も生産しながら家畜を飼養する畜産経営体が多いものの、作物を生産していない畜産経営体が増加していることが分かる。
 さらに、主要家畜の地域分布を見ると、肉用牛(肥育牛)、乳用経産牛、豚、肉用鶏、採卵鶏の飼養頭羽数の上位5州でそれぞれ全米の飼養頭羽数の72.5%、52.5%、68.9%、41.3%、43.8%を占めるなど地域的な偏りも見られる(図10)。




 

 (2)家畜排せつ物の発生状況と堆肥としての利用状況

 当然、家畜を飼養すると、その副産物として発生する家畜排せつ物を処理しなければならない。発生する家畜排せつ物の量は畜種によって異なるため、異なる畜種から発生する家畜排せつ物を比較する際には生体重量を基準にしたアニマル・ユニット(AU)を単位として用いることが多い(注2)。1AU当たりの家畜排せつ物の発生量は乳用牛と肉用鶏が最も多く、いずれも1日当たり80ポンド(36.3キログラム)と推計されている(表2)。なお、1AU当たりの肉用牛、豚、採卵鶏の家畜排せつ物の発生量はそれぞれ同59.1ポンド(26.8キログラム)、63.1ポンド(28.6キログラム)、60.5ポンド(27.4キログラム)と推計されている。農作物の生育に必要な窒素(N)およびリン(P)の含有量は採卵鶏や肉用鶏が他の畜種よりも多いことが分かっている。
 
(注2)米国では家畜の生体重量1000ポンド(453キログラム)を1AUと定義づけている。

 
 また、米国全体での発生状況を見ると、2017年にUSDAが公表した報告書では1年間で98億2246万頭・羽の家畜・家きんから13億8273万トンの家畜排せつ物が発生したと推計されている(表3)。特に、肉用牛から生じる排せつ物は12億トンと全体の86.8%を占めている。

 
 NおよびPの含有量は817万5469トンと263万9932トンと推計され、堆肥あるいは液肥として利用すれば作物への貴重な栄養供給源となる。しかし、トウモロコシ、大豆、小麦などの主要作物7品種への堆肥利用状況を見ると、堆肥を利用しているのはすべての作付面積のわずか7.9%にすぎない(表4)。堆肥利用面積が1482万2000エーカー(599万8251ヘクタール)と最も大きいトウモロコシでも作付面積の16.3%にとどまっている。大豆および小麦の堆肥利用面積に至っては、それぞれ188万4000エーカー(76万2428ヘクタール)および90万8000エーカー(36万7455ヘクタール)とそれぞれ作付面積の2.3%および2.0%程度である。

 
 また、堆肥利用によって主要作物7品種に投入されたNおよびPはそれぞれ50万8000トンおよび20万2000トンと推計されており、家畜排せつ物によって排せつされたNおよびPのそれぞれ7.9%および10.4%にとどまっている(図11)。
 作物別にどの畜種に由来する家畜排せつ物を堆肥利用しているかを見ると、南東部での生産が多い綿花とピーナッツでは同じく南東部に多い家きんの排せつ物を利用し、中西部での生産が多いトウモロコシと大豆は、他の作物と比較して中西部に多い豚の排せつ物を利用していることが分かる(図12)。さらに、主要作物の堆肥の入手方法を見ると、77.8%が自身の農場で発生した家畜排せつ物を散布していることからも分かるように、米国では従来、発生した家畜排せつ物を自身の農地や牧草地に散布することが多い(図13)。これらのことは、家畜排せつ物の販売・流通には地域差が見られること、すなわち米国においても広域流通は容易ではないことを示している。また、主要作物の栽培において、購入した堆肥を利用している割合は14.3%と高くなく、家畜排せつ物を堆肥として販売して価値を高めることも容易ではないと言えるだろう。







3 家畜排せつ物の堆肥利用の促進に向けた取り組み

(1)政府による主な規制概要

 家畜排せつ物に関しては、環境保全の観点からまず適切な管理が必要である。畜産施設からの家畜排せつ物の流出、農地や牧草地などへの過剰な施肥は過剰な栄養分や有機物などの水域への排出につながり、藻類の過剰な増殖が生じることで水中酸素が枯渇し、水生生物の生息に影響を及ぼしかねない。また、病原体などによる水質汚染につながる恐れもある。連邦政府や州政府は一部の家畜飼養施設からの家畜排せつ物の排出を規制しており、適切な保管設備の整備と管理、適切な施肥の方法や時期を義務付けている。
 環境保護庁(EPA)は水質浄化法に基づく全国汚染物質排出防止システム(NPDES:National Pollution Discharge Elimination System)を運用している。NPDESは、1000AU以上の家畜を飼養する集中家畜飼養施設(CAFO)および家畜排せつ物の流出履歴のある家畜飼養施設などを対象として、家畜排せつ物を地表水に排出する際には許可証の取得を義務付けている。通常、州は委任された権限の下で、EPAの規制範囲内でより厳格化することも可能であり、13の州ではすべてのCAFOにおいて地表水への排出の有無を問わずに許可証の取得が必要である。許可証の発行は一部の州・地域を除き、州政府が行うことになっているが、2022年の報告によると、2万1539施設のCAFOのうち、許可証を取得しているのは6406施設にとどまっている。また、許可証を取得する際には堆肥の施用量、施用時期、施用場所などを指定する栄養分管理計画(NMP)の策定が義務付けられているほか、一部の州においては堆肥を受け入れる作物生産者に対してもCAFOと同様の規制の対象としている。家畜排せつ物の堆肥利用を促進するとしても、これらの規制に従う必要がある。
 

(2)政府による支援

 一方で、米国農務省自然資源保全局(USDA/NRCS)は水質や大気の保全、土壌の健全性維持・改善など生産者による保全活動の導入を支援しており、その主な支援プログラムの一つが環境品質インセンティブ・プログラム(EQIP)である。EQIPでは、家畜排せつ物の保管施設、堆肥化施設、嫌気性消化装置の整備などに補助金を交付しているが、これは環境保全やGHG排出量削減などを主な目的としている。つまり、連邦政府や州政府による家畜排せつ物の保管・利用への直接的な支援は環境保全の観点からの支援がほとんどである。
 しかし、近年のロシアによるウクライナ侵攻などの影響を受けた肥料関係鉱物の供給不足、エネルギーコストの高騰、世界的な需要増加、米国肥料業界の競争力不足などを要因とした肥料価格の高騰を受け、USDAは2022年9月、米国産肥料の増産に向けた支援である肥料生産拡大プログラム(FPEP)を発表した(注3)(表5)。FPEPは、米国産肥料の製造を行う事業者による肥料製造施設の新設・機能向上・補改修や肥料開発などの費用を対象に、1件当たり100万米ドル(1億5058万円)から1億米ドル(150億5800万円)までの補助金を交付するものである。
 USDAは、原料として家畜排せつ物を用いた米国産肥料もFPEPの対象としたことで畜産業界からも一定の評価を得た。作物生産者の投入コストの増大を抑制するだけでなく、畜産生産者の収入を多角化すること、化学肥料と比較して持続可能で気候変動の影響を緩和する肥料を製造することも重要な目的であるとした。


 
 FPEPの採択を受けたミズーリ州に位置するパリンドローム社は、従来から家畜排せつ物や食肉加工廃棄物から嫌気性消化装置によって再生可能エネルギー生産を行ってきたが、490万米ドル(7億3784万円)の補助金交付を受け、副産物である消化液から乾燥肥料と土壌改良剤を製造するための施設を整備する。また、ワシントン州に位置するパーフェクト・ブレンド社は259万4122米ドル(3億9062万円)の補助金交付を受け、家畜排せつ物やその他の廃棄物を原料とした肥料製造施設を拡大する。
 その他にも州独自のプログラムの例として、メリーランド州は家畜排せつ物輸送プログラムを実施している。本プログラムでは、家畜排せつ物を堆肥利用のために受け入れる作物生産者あるいは輸送・仲介事業者が負担する輸送費を補助するものである。家きんの排せつ物の場合は1トン当たり28米ドル(4216円)以内、その他の家畜排せつ物の場合は輸送距離と家畜排せつ物の種類に応じて補助率87.5%以内とされている。
 
(注3)海外情報「米農務省、国産肥料の増産に向けた支援を開始(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003378.html)を参照されたい。

コラム1 堆肥利用に向けた教育・普及活動

 家畜排せつ物の堆肥利用を促進するためには、畜産生産者に加え、作物生産者への教育活動が重要である。米国では、各大学がエクステンション・プログラムとして、農業従事者などに対して教育活動の役割を担っている。家畜排せつ物の堆肥利用についても、多くの大学が開発・改良された技術や機材を普及すべく、情報発信に取り組むとともに現地研修を開催している。
 その中でも、ウィスコンシン大学とウィスコンシン専門栄養分施肥事業者協会は2001年から施肥事業者などを出展者として、施肥機械などの堆肥利用に要する最新の機械・機材を紹介する展示会を毎年開催していた。13年からは同大学および同協会によって、非営利法人である北米家畜排せつ物エキスポ(NAME)が設立され、展示会の開催もNAMEに引き継がれる形となった。NAMEはウィスコンシン州以外にもミシガン州、ミネソタ州、ネブラスカ州、ペンシルべニア州などのほか、カナダのオンタリオ州でも同様の展示会を開催しており、需要の高さがうかがえる。
 23年8月にはウィスコンシン州アーリントンで展示会が開催され、畜産生産者のほか、作物生産者、施肥事業者、家畜排せつ物関連事業者、農業経営コンサルタント、大学・研究機関、連邦政府・州政府職員が参加した。
 教育セッションでは家畜排せつ物の堆肥利用に向けた技術などについて講演が行われた(コラム1−写真1)。鶏ふんへのミョウバン添加によるリンの損失抑制や酸性化剤添加によるアンモニアの揮発抑制などの添加剤を使用した栄養分調整技術、流通コストを削減するためのペレット化技術などについて説明が行われた。特に、流通・販売に比較的成功していると言える鶏ふんの流通・販売モデルとして、ペレット化の導入が進んでいること、運送事業者が肉用鶏・採卵鶏農場と作物農場を仲介し、鶏ふんの栄養分を検査・分析した上で、化学肥料と組み合わせた作物農場への販売が一般的であることを紹介し、その他の家畜排せつ物への適用を促した。
 その他、施肥のデモンストレーションも行われた。施肥では、全面に散布するだけの最も容易な表面散布、耕起とともに散布する取り込み式散布、土壌にスリットを作り肥料を注入する地下散布が紹介された(コラム1−写真2〜7)。施肥方法は用いる堆肥の水分含有量や土壌栄養状態などを踏まえて選択する必要がある。施肥事業者、ウィスコンシン大学関係者、畜産関係者からは、農業の投入コストが高止まりする中で、家畜排せつ物を資源として使用できる環境が整いつつあり、畜産生産者が家畜排せつ物の価値を高めていくことが肝要であるとの声もあった。













 

4 家畜排せつ物のエネルギーとしての利用

(1)嫌気性消化装置を用いたエネルギー利用状況

 家畜排せつ物の管理はGHGの発生の観点からも注視されている。農業分野におけるメタンの排出量のうち23.8%が家畜排せつ物に由来しており、家畜排せつ物に由来するメタンのうち乳用牛が53.2%、豚が37.6%を占める(注4)
 
(注4)『畜産の情報』2023年3月号「米国における持続可能な酪農・肉用牛生産に向けた取り組みについて」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002627.html)を参照されたい。

 このような中、米国では嫌気性消化装置の導入が進んでいる。家畜排せつ物の嫌気性消化によってメタンを60〜70%程度含むバイオガスが生成されることからGHG排出量の削減につながる。また、農場内の電気や冷暖房に要するエネルギーへの充当、車両燃料としての利用・販売、電力会社への販売など畜産経営体の収益性向上にも資するものとして導入が進められている。バイオガスは天然ガス向けに設計された設備にも適用可能であるため、畜産分野への嫌気性消化装置の導入はクリーンで効率的なエネルギー産出につながる。原料となる家畜排せつ物としては液状あるいはスラリー状(泥状)のものがなじみやすいため、特に乳用牛および豚の排せつ物の親和性が高い。EPAによると、2013年以降、嫌気性消化装置の導入は伸び悩んでいたが、20年ごろから再度増え始め、23年1月時点で畜産分野では343施設が稼働している(図14)。さらに建設中の86施設を加えると429施設で導入されることになる。気候、酪農施設や養豚施設の数、州政府による支援の有無などにより、導入には地域差が見られ、カリフォルニア州が140施設と最も多く、ウィスコンシン州、ニューヨーク州がそれぞれ43施設、38施設と続く(表6)。特に、直近2、3年の増加はカリフォルニア州による再生可能エネルギー政策によるものとされている。畜種では酪農施設が367施設(全体の85.5%)、養豚施設が41施設(9.6%)を占める(図15)。






 
 最も多く導入されているシステムは、既存のラグーンにバイオガス回収設備を追加することで整備することができ、メンテナンスも比較的容易であるとされるカバード・ラグーン式である(表7)。そして、家畜排せつ物を消化槽に流しながらバイオガスを生成するプラグ・フロー式、家畜排せつ物を攪拌かくはんしながら加熱することで効率的にバイオガスを生成する完全混合式が続き、これら三つのシステムで全体の94.4%を占める。メタン生成微生物を混合して効率を上げる誘導ブランケット・リアクター式や固定膜式、さらに垂直タンクによって高流量化したUASB式なども導入されているが、その割合はわずかである。嫌気性消化システムの導入が進んでいるとはいえ、メンテナンスが容易で運用コストが比較的低いシステムの導入が多い。
 バイオガスの用途として最も単純な方法は、バイオガスを生成・収集後に追加的な処理をほとんど行わずに燃焼させることで熱や電気を発生させ、農場内や地域で利用する方法である。これらのコージェネレーション(熱電供給)、発電、ボイラーとしての利用はそれぞれ23.3%、22.8%、3.5%で計49.6%と約半数に及ぶ(表8)。また、水分、硫化水素、その他のガスなどの不純物を除去した再生可能天然ガス(RNG)は天然ガスにも匹敵するエネルギー源として、発電所や電気自動車充電スタンドで利用される。RNGとしての利用は29.4%を占めるが、そのうちの86.5%がカリフォルニア州に位置する施設で製造されている。
 




 
  なお、残さである消化液は原料の家畜排せつ物と比較して、NとPの減少はわずかであり、肥料として利用されていることが多いが、作物が必要とする栄養分比率と異なることもあるため、栄養分の調整が必要である。
 USDAの報告書によると、2017年にバーモント州で実施された嫌気性消化システムの初期投資額の調査では、75〜500頭の農場では平均135万米ドル(2億328万3000円)、500頭以上の農場では244万米ドル(3億6741万5000円)、全体の平均額が203万米ドル(3億567万7000円)であったという。小規模な農場では1頭当たりの運用コストが高くなるため、嫌気性消化装置を使用することができる農場はやや限定的であると言えるだろう。EPAによると、これらの初期投資額や運用コストを加味すると、採算を得られやすい畜産経営体は、飼養規模500頭以上でフラッシュ式あるいはスクレーパー式の家畜排せつ物処理設備を備える酪農施設、飼養規模2000頭以上でフラッシュ式、ピット・チャージ式あるいはプルプラグ・ピット式の家畜排せつ物処理設備を備える養豚施設であるという。そして、EPAの推計では、酪農施設と養豚施設の計8115施設に嫌気性消化装置の導入が可能であるとしている(表9)。これらすべてに嫌気性消化装置を導入した場合、毎年1583万8000メガワット時の電力を産出することができる。これは、化石燃料の使用量の約540万MBtu削減、年間17億米ドル(2559億9000万円)の電力節約を可能にするという。さらに、現在、肉用牛や家きんの排せつ物から効率的にエネルギーを産出する技術の開発も進められており、将来的にはより多くの畜産施設での導入が期待されている。


 

(2)カリフォルニア州政府による嫌気性消化装置の導入の推進

 近年、嫌気性消化装置の導入数が増加している背景にはカリフォルニア州による気候変動対策の存在が大きい。同州はGHGの排出量削減のために、いわゆる再生可能エネルギー・クレジットの適用といった畜産生産者による家畜排せつ物のエネルギー利用への切り換えを促す政策を打ち出しているが、嫌気性消化装置の導入への直接的な支援も講じている。酪農向け消化装置研究開発プログラム(DDRDP)がその一つである。本プログラムでは、嫌気性消化装置を導入する酪農家に対して、導入費用の最大50%の補助金が交付される。2015年から実施され、22年からは補助金に1件当たり160万米ドル(2億4093万円)の上限が設定されている。15年には採択件数が6件であったが、18年および19年にはそれぞれ40件および41件の採択件数となり、近年、導入が急速に進んだことが分かる(表10)。それ以降はやや収まりを示しているものの、22年には採択件数が14件とまだ本プログラムの利用者は後を絶たず、これまでにカリフォルニア州は総事業費6億3738万米ドル(959億7668万円)に対し、2億1101万米ドル(317億7389万円)の補助金を交付している。カリフォルニア州では、このような大規模な支援やエネルギー政策を講じたことから、他の州と比較し畜産生産者による嫌気性消化装置の導入が進んだのである。

コラム2 ウィスコンシン州における再生可能天然ガス製造施設

 主要酪農地帯であるウィスコンシン州ミドルトンに位置するエンテック・ソリューション社は嫌気性消化装置によって、再生可能天然ガス(RNG)を製造している(コラム2−図1、2、写真1)。






 
 その原料として、地域の4カ所の酪農家から乳用牛4000頭分の排せつ物や有機廃棄物を受け入れており、保管庫が家畜排せつ物の導入スピードと消化スピードの調整弁の役割を担う。嫌気性消化装置は完全混合式を導入し、稼働を開始した2021年には2700万ガロン(1億221万リットル)以上の排せつ物を処理している(コラム2−写真2)。当該装置には加熱器を搭載しており、季節によって加熱温度も調整する必要があるが、温度と加熱時間によって効率的にバイオガスを発生させることが可能であるという。ソーラーパネルも設置し、施設の稼働に太陽光エネルギーやRNGといった再生可能エネルギーを使用することで、施設全体として2.8メガワット時以上のクリーンエネルギー生産を実現した(コラム2−写真3)。





 
 製造されたRNGはトラックで輸送され、州間送電パイプラインに注入され、車両燃料に使用される(コラム2−写真4、5)。販売スキームとしては、代替燃料の開発と流通を担うU.S.ゲイン社がRNGを買い取り、カリフォルニア州の輸送事業者に販売しているという。



 
 GHG排出量としては、施設全体で年間1万3500トン(二酸化炭素換算)を削減しているという。これは乗用車が3400万マイル(5472万キロメートル)を走行した場合の排出量に相当する。
 また、汚泥状の副産物は固液分離施設にて固形分と水分に分けられ、固形分は肥料および敷料として飼料穀物農家と酪農家に還元している(コラム2−写真6、7)。逆浸透膜を利用して排水処理を行うだけでなく、栄養濃縮システムといった先端技術を導入することで、リンなどの流出を回避している。



5 おわりに

 主要作物への利用状況を踏まえると、米国における家畜排せつ物の堆肥利用は進んでいるとは言えず、コストをかけずに自己所有の農地や牧草地に散布しているのが現状である。堆肥利用が進まない背景には、米国においても堆肥の栄養分調整の煩雑さや流通コストの高さなど技術的および経済的課題が多いことが挙げられる。しかし、持続可能な農畜産業に向け業界が取り組んでいる中で、家畜排せつ物による環境への影響が問題視されていることに加え、肥料価格の高騰を受け、家畜排せつ物の堆肥利用の推進に追い風が吹いている。堆肥の栄養分の検査・分析の迅速化、栄養分調整技術の開発、生産者への教育・普及活動などが進むにつれ、堆肥利用の選択肢が増えるとみられる。
 また、RNG製造技術の普及により、主に大規模な畜産生産者によるエネルギー利用は着実に増加している。現時点では、中小規模の畜産生産者にとっては採算が取れず、嫌気性消化装置の共同利用にも課題が残されているが、カーボン・クレジットの導入など新たな収益を確保することが今後のエネルギー利用への転換につながるだろう。
 畜産をめぐる情勢が大きく変化する中で、家畜排せつ物の資源としての価値を見いだすことは畜産経営の収益の多角化につながることであり、畜産大国である米国の動向を見守りたい。
 
(岡田 卓也(JETROニューヨーク))