(1)生産の概要
ブラジルでは、地域によりトウモロコシの栽培時期が異なっており、第1期作(主に南部・南東部)、第2期作(主に中西部)、第3期作(主に北東部)に分けられる(図1)。また、不耕起栽培の普及や品種改良、栽培技術の進歩により、大豆収穫後にトウモロコシ(第2期作)を
播種する二毛作体系が確立され、生産を支える重要な柱となっている。
なお、生産量の大宗を占めるのは中西部で、中でもマットグロッソ州の生産量が最も多く、大豆はブラジル全体の3割、トウモロコシは同4割を占める(図2)
(注1)。
(注1)詳細については、『畜産の情報』2020年8月号「ブラジルの大豆・トウモロコシをめぐる最近の情勢(前編)〜生産はマットグロッソ州を中心に今後も拡大の見込み〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001275.html)をご参照ください。
(2)品種および製品基準
米国農務省(USDA)によると、ブラジルでは大豆作付面積の99%、トウモロコシ作付面積の96%で遺伝子組み換え品種(GMO)が導入されている。これについて、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)への聞き取りによると、GMOの種類は多岐にわたるものの、両作物に用いられている遺伝子技術の多くは、世界の種子および農薬市場で圧倒的なシェアを持つドイツのバイエル社(Bayer)が保有するとしている。
販売時の製品基準は、ブラジル農牧供給省(MAPA)の規範指令によって定められており、大豆は、1)用途によるグループ分け、2)穀粒の色によるクラス分け、3)品質によるタイプ分け−がされる。
用途グループは、食用かそれ以外かにより、品質タイプの基準が異なる。食用以外の大豆については、品質タイプで「スタンダード」の許容限度割合を超える穀粒がある場合でも、外観や保存性に著しい影響を及ぼさない軽微な欠陥に限り、その旨を明示することで販売が認められている(表2)。また、水分含有率については14.0%以下が推奨されている。
同様にトウモロコシについても、1)穀粒の硬さや形状によるグループ分け、2)穀粒の色によるクラス分け、3)品質によるタイプ分け−がされる。
硬さ・形状グループには、「フリント種」、「セミフリント種」、「デント種」および「これらの混合」の4種類がある。米国ではデント系統が主流であるが、ブラジルでは耐虫性を重視する傾向からフリント系統が主流となっている。このため、ブラジルでは、セミフリント種が54%、フリント種が25%を占める一方、デント種は6%程度にとどまる
(注2)。品質タイプは4種類に分かれており、「規格外」と分類された場合でも、その許容限度割合の範囲内であれば、規格外である旨を明示することで販売が認められている(表3)。ただし、広範なカビの発生や有毒種子の混入など、品質上の重大な異常が認められる場合は販売することができない。また、水分含有率については14.0%以下が推奨されているが、これを上回る場合であっても販売は可能とされている。
なお、大豆およびトウモロコシの輸出に際しても、これらの基準が準用される。
(注2)デント種は、穀粒の側面が固いでん粉層からなり、冠部は柔らかいでん粉層からなる。粒の成熟が進むにつれて柔らかい部分が収縮して冠部にくぼみ(デント)が形成されることで、馬の歯のような形状になる。一方、フリント種は、硬いでん粉層が穀粒の全体に広がり、粒の冠部にくぼみがない。また、害虫抵抗性があり、低温でも受粉が可能である。
(3)今後の生産量の見込み
近年、ブラジルの大豆およびトウモロコシの生産量は、増加傾向で推移しており、ブラジル国家食糧供給公社(CONAB)は、2025/26年度(9月〜翌8月に播種されるもの)の大豆生産量は1億8056万8000トン、同じくトウモロコシ生産量は1億4172万9000トンと見込んでいる(図3)。
また、MAPAは、今後も大豆・トウモロコシの飼料およびバイオエタノール向けの国内外の需要が拡大していくものとして、33/34年度には大豆生産量は1億9945万トン、トウモロコシ生産量は1億5314万トンに達すると予測している。
そこで、同国における今後の生産拡大の可能性について、次の三つの項目に分けて説明する。
ア 作付面積
ブラジルでは、荒廃牧草地
(注3)の農地転用が、今後の大豆およびトウモロコシの生産拡大を支える重要な要素とみられている。EMBRAPAによれば、同国の牧草地は約1億7700万ヘクタール(ha)あり、そのうち農業適性
(注4)が高く、農地転用の可能性がある荒廃牧草地の面積は、牧草地全体の約16%に相当する約2800万haとしている。このような農地転用可能な荒廃牧草地は、主にマットグロッソ州(512万ha)、ゴイアス州(468万ha)、マットグロッソ・ド・スル州(434万ha)、ミナスジェライス州(401万ha)、パラー州
(注5)(209万ha)の5州に集中している。ただし、ブラジル大豆生産者協会(APROSOJA)によれば、荒廃牧草地を農地として利用するには、土壌改良などの初期投資が必要であり、黒字化するまでには2〜3年を要するという。従って、荒廃牧草地の農地転用は、ブラジルの穀物生産量拡大に向けた潜在的な余地を有する一方、実際の転換には投資負担や収益化までに一定の期間を要するといった制約が伴う点に留意が必要である。
(注3)過放牧、不十分な施肥、雑草・害虫管理の不足、不適切な管理などにより、牧草の生産力や家畜収容力が低下している牧草地。
(注4)土壌の深さ、肥沃度、透水性および地形(平坦性)を考慮した適性。
(注5)各州の位置は図2をご参照ください。
イ 単収
ブラジルの単収(1ha当たりの収穫量)は、大豆は米国とほぼ同水準であるが、トウモロコシは米国の半分程度にとどまっている(表4)。CONABによれば、このトウモロコシの単収差は、使用品種の品質差によるものではなく、主に土壌条件および栽培時期の違いによるものとされる。米国コーンベルトの中核地域では、モリソルと呼ばれる有機物に富む肥沃な土壌が広く分布している一方、ブラジルでは酸性かつ低肥沃な強風化土壌
(注6)が多い。また、米国では夏季に栽培されるため十分な日照時間を確保できるのに対し、ブラジルのトウモロコシ生産量の大半を占める第2期作は冬季に栽培されることから、日照時間が相対的に短い。さらに、米国では厳冬によって病害虫の発生が抑制される一方、温暖な気候のブラジルではその発生リスクが比較的高いことも、単収差の一因とされている。
(注6)長い時間をかけて風化が進み、養分を保持・供給する力が弱くなった土壌。
こうした条件の違いがある中、今後の単収増加に向けた取り組みとして、EMBRAPAが開発した早期播種システム「Sistema Antecipe」について紹介する(図4)。この技術は、大豆とトウモロコシの二毛作に際して、降雨が不安定かつ不足する時期に入る前に、大豆の収穫を待たずしてトウモロコシを播種するものである。これにより、作柄不振のリスクを低減させ、さらに生育期間を最大20日間長く確保できる。しかし、この技術には、収穫前の大豆を傷つけることなくトウモロコシを播種する専用の機械が必要であり、これが導入の障壁となっている。現在、EMBRAPAがメーカーと連携しつつ提供している機械は、中小規模生産者向けに限定されるが、大規模生産者からも問い合わせがあり、今後の普及拡大が期待されている。
ウ 生産コスト
ブラジルでは、セラード
(注7)のような地域については土壌改良が必要となり、施肥需要も大きい。また、熱帯・亜熱帯気候下では、病害虫や雑草の発生・繁殖が活発であるため、防除に必要な農薬投入量が多くなる。このため、同国の大豆およびトウモロコシ生産コストは、肥料費および農薬費が占める割合が高い。一方で、大豆とトウモロコシの二毛作体系により、土地や機械設備などに関する固定費(減価償却費や機会費用など)が分散されるという特徴がある。この点について、マットグロッソ州農業観測所(IMEA)とUSDAの資料を基に、ブラジルのマットグロッソ州と、米国のコーンベルト地域を形成する中西部の生産コストの構成割合を比較することで、両国の主産地における違いを確認することができる(図5)。
(注7)ブラジル中央部に広がる熱帯サバンナであり、土壌は酸性が強く、肥沃度が低い。
なお、ブラジルは肥料の8〜9割を輸入に依存しているため、国際肥料価格や為替相場、物流コストの変動は、生産者のコスト負担に大きく影響する。こうした背景から、ブラジル政府は、2023年11月に国家肥料計画(Plano Nacional de Fertilizantes:PNF)を改定し、50年までに肥料需要の45〜50%を国内で賄うことを目標に掲げた。また、EMBRAPAでは、肥料および農薬の使用量削減による生産コストの安定化などを目的に、バイオインプット
(注8)の研究開発と普及拡大に取り組んでいる。
しかしながら、CONABによると、25年の肥料輸入量は4551万トン(主な内訳は窒素系肥料1712万トン、リン酸系肥料565万トン、カリウム系肥料1380万トン)と過去最高を記録しており、現時点ではブラジル農業における肥料の輸入需要が高水準にあることがうかがえる。
(注8)植物、微生物、天敵生物などを活用した生物由来の農業資材。