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即席めんとでん粉

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最終更新日:2011年8月8日

即席めんとでん粉

2011年8月

一般社団法人日本即席食品認定協会 理事長 任田 耕一
 

要 約

 世界の年間消費量が間もなく1千億食に達する即席めん。文字どおり日本発の世界食。当初の「お湯を注ぐだけ」から鍋で茹でたり、湯こぼしして焼きそばになったり、スープの工夫によって味も、醤油、塩、味噌、とんこつ、チリトマト、キムチ風味等々多様化しています。即席めんのもどり時間、食感の調節にでん粉は大きな役割を果たしています。

1.世界に広がる即席めん

(1)即席めんの誕生と進化

 今から53年前の1958年、日清食品(株)の創業者故安藤百福氏が天ぷらをヒントに茹でためんの乾燥法を発明し、さらにめん自体に味を付けるなどさまざまな工夫をこらした結果、お湯を注ぐだけで簡単に食べられる味付け油揚げめん「チキンラーメン」が誕生しました。この画期的な商品は「魔法のラーメン」と呼ばれ、爆発的に売れましたが、それだけに模倣商品が相次ぎ、「チキンラーメン」という商標が確立する1961年までにこうした模倣商品を売り出した企業は100社に及んだそうです。

 1962年にはそれまでの味付けタイプと異なり、小袋に入れたスープが付いている「スープ別添」タイプの商品が登場します。これがきっかけとなって、さまざまな味の商品が続々と市場に出回ることになり、翌年には焼きそば、ワンタン、たぬきそばなど、翌々年にはスパゲティーや長崎タンメンなどが登場します。

 ピーク時には360社に達したと言われる熾烈な競争の中で、行き過ぎたコスト削減による粗悪品も出回るようになりました。見るに見かねた当時の食糧庁からの指導もあり、1964年には、それまでいくつも結成されていたメーカー団体が統合され、(社)日本ラーメン協会が発足しました。現在の(社)日本即席食品工業協会の前身です。翌年にはJAS法に基づく「即席めん類の日本農林規格」が成立し、これによって粗悪品が淘汰される一方、サンヨー食品の「サッポロ一番」、明星食品の「チャルメラ」、日清食品の「出前一丁」といった現在の定番ブランドが誕生したのです。

 1971年には「カップヌードル」が誕生し、即席めんのみならず「カップ食品」というジャンルへと発展していきました。1970年代後半にはカップのバリエーションが現れ、四角い容器の「ペヤング焼きそば」、マルチャンの「赤いきつね」と「緑のたぬき」、円盤型容器の「日清焼きそばUFO」といった大型のロングセラーブランドが登場しています。

 即席めんはその後も進化を続け、さまざまなタイプ、さまざまな味の商品が登場していることは実感されていると思います。2010年におけるJAS格付け製品は、袋めん253銘柄、カップめん1,030銘柄。合計で実に1,283銘柄が一年のうちに日本のどこかで売られたことになります。JAS格付け製品以外のものを含めると優に1,500銘柄を超えるものと思われ、メーカー間の熾烈な開発競争が垣間見えます。

(2)国内即席めん産業の概要

 最近における日本の即席めん生産量は表−1のとおりです。カップめんが約2/3を占めています。近年の少子高齢化により、ヘビーユーザーである若年層の消費が減少傾向にあり、このところ国内マーケットは停滞しています。

 食品産業としては寡占化が進んだ分野であり、大手6社のマーケットシェアは90%を超えます(表−2)。一方で、個性的な商品を持つ地方の中小メーカーも健闘しており、二重構造と言えるでしょう。なお、(社)日本即席食品工業協会の即席めん製造業会員は39社です(平成23年6月)。
 
 
 
 

(3)世界に広がる即席めん

 世界ラーメン協会(World Instant Noodles Association)によれば、世界の即席めん消費量は、ここ数年のうちに年間1千億食を超える勢いです(表−3)。

 およそ半分が中国というのは「なるほど」と理解し易いところでしょうが、もともとめん文化圏であるアジアのみならず南北アメリカやロシア、インドなどで需要が拡大していることに注目して頂きたいところです。
 
 

2.即席めんの製造工程と原材料

(1)製造工程

 即席めんは、誕生以来の技術開発に伴って、油で揚げない乾燥方法も登場し、食生活の変化につれて高級感のある製品、一層手軽なカップめんなど、多様性のある食品となりました。従って、即席めんの製造工程も種類によってさまざまになりますが、ここでは基本的な工程をご紹介しましょう。

1 こね水調整
 水に食塩、かんすいなどを溶かして小麦粉をこねる水溶液をつくる作業です。小麦粉1kgに対して水300〜400cc前後(湿度・室温により変動)、食塩10〜30g、「かん水(鹹水)(注)」1〜2g(非油揚げ麺の場合は3〜6g)を使用します。
 (注)かん水(鹹水)とは、元々は塩湖の水を意味しましたが、今では工業的に製造されています。即席めんだけではなく一般の中華めんや中華饅頭、餃子の皮などに特有の「麺質」と「風味」をつけるために欠かせない材料です。

2 混合・練り込み
 ミキサーで小麦粉と1の「こね水」をこねる作業です。でん粉を用いる場合はこの工程で混合されます。小麦粉、でん粉とこね水が混合されて網の目のような構造が形成され、めんのコシが作られます。温度は20〜30℃、こねる時間は15〜20分程度がよいとされています。出来上がった生地をドウ(dough)といいます。パン生地やビスケット生地と同じです。

3 めん帯形成
 生地は、回転している2個のローラーの間を通されめんの帯になります。そのめん帯を上下2枚作り、次のローラーで貼り合わせます。これによりめん帯が強く、しかも均一となります。なお、2枚を合体させる前に生地を一定時間寝かす場合もあります。

4 圧延
 厚さ1cmほどになっためん帯は、いくつもの圧延ローラーの間を通過するうちに次第に薄くなっていき、最終的にめんに適する1mm前後の薄さになります。この間にめんの網目組織が強化され、「あし・こし」の強いめんが出来上がります。

5 めん線切り出し
 圧延の終わっためんは、切り刃が回転する「切り出し機」に掛けられ、めん線になります。中華めんの場合は18番〜22番の切り刃が使われます。3cmの幅の中に18本の刃があるものが18番、22本のものが22番です。うどんは中華めんより番手が小さく(切り刃が少なくめん線が太い)、蕎麦は番手の大き目のものが使われます。切り出されためん線はコンベアによって次のプロセスに送られます。即席めんの多くはウェーブが掛かっていますが、めんを切り出す速度よりもコンベアで次に送られる速度が遅いため、1cmほどの溝の中でめん線が渋滞を起こすことによりこのウェーブが形成されるのです。

6 蒸熱
 切り出されためん線はコンベアに載ったまま連続蒸し機を通して蒸されます。通常、100℃の蒸気で1〜5分かけて蒸されます。これによりめんのでん粉がアルファー化され、消化できる状態になります。

7 着味
 いわゆる味付けめんの場合は、この段階でスープの着味が行われます。めんをスープに2〜6秒浸漬するか、スープを霧状にしてめんに吹き付ける方法があります。いずれも蒸しためんの表面からスープが十分浸透するよう工夫が凝らされています。このほか調味料を生地(ドウ)の段階で練り込む方法もあります。スープ別添のめんではこの工程はありません。

 8 切断・型詰め
 これまではめんが長いまま連続して加工されてきますが、ここで1食分のおよそ65cmに切断され、丸形か角形の金網枠に1食ずつ入れて整形されます。

 9 乾燥処理
 次にめんから急速に水分を取り除いて乾燥させ、でん粉のアルファー化を固定します。乾燥方法は油揚げが主流ですが、熱風乾燥、フリーズドライもあります。油揚げ乾燥…チェーンで連結された金網枠ごと、めんを140〜150℃前後の揚げ油に漬け、1〜2分で油槽を通過させます。生地の段階で30〜40%だった水分は、ここで3〜6%まで減少し、乾燥状態となります。 熱風乾燥…金網枠ごと熱風乾燥機の中を通過させ、80℃前後の熱風により30分以上掛けて乾燥します。これによって乾燥させた麺を非油揚げめん(アルファー化乾燥めん)と呼んでいます。

10 冷却・検査
 乾燥直後の高温のめんに冷風を吹き付けて室温近くまで冷却します。この後、金網枠からはずされためんの重量・形・色・乾燥度・油揚げ状態・冷却程度などについて検査が行われ、基準に合わないものは取り除かれます。

11 包装・検査
 出来上がっためんは別添の調味料やかやくなどとともにフィルムで密封されるか、カップめんの場合は容器に入れられ、アルミなどのフタ材で密封された後シュリンクフィルムで包装されます。その過程で、基準に合わないもの、異物混入、密封不全などにつき厳格な検査が行われ、適合したものだけが出荷されます。
 
 

(2)原材料

 即席めんの原材料は商品によって異なります。特に、味の特色を出すスープ(醤油、塩、味噌、とんこつ…)やカップめんのかやく(チャーシュー、ナルト、ワカメ、ネギ、ノリ、油揚げ…)は多様で、組成の例示はあまり意味がありません。ここでは袋めんとカップめんに別けて、「めん」の原材料の組成例を示します。
 
 
 
 

3.でん粉の役割

 めん類に対するでん粉の役割としては主に「もどり」時間の調整と食感(つるみ・テクスチャー)改良、透明化の向上になりますが、これらについては、この「でん粉情報」に松谷化学工業株式会社の横山公一氏(2010年5月)、実践女子大学教授田島眞氏(2010年6月)が詳述されておられるのでこれらの記事を参照していただきたいと思います。

 ひとつ指摘しておきたいのは、同じ即席めんでも袋めんとカップめんとでは使うでん粉が異なるという点です。袋めんの場合、熱湯で茹で上げることを前提に、でん粉をそのまま使ううことが主流です。カップめんの場合、熱湯を注いで「3分間待つのだぞ」の世界なので、その間における湯の温度低下を見込んで最適な「もどり」を達成する必要があり、このために加工でん粉を使うことが多いのです。加工でん粉の中では酢酸でん粉が使われることが多いようですが、一部リン酸架橋でん粉を使う例もあります。いずれにしても、「もどり」時間はめん線の太さと大きく関係しますし、「食感」と言ってもなかなか言葉では表現できない世界ですから、メーカーの即席めん開発者としては微妙な配合に神経を尖らせることになります。

 そこで開発の当事者にでん粉について思うところを聞いてみました。

1) 「もどり」時間について…圧倒的にもどり時間が短縮されれば、素材単価が高くなっても需要はあると思われる。早くもどるが湯伸びはせず、非常にコシがある、といった特徴が安価で出せるでん粉であれば、さらに利用拡大の可能性がある。なお、エーテル化でん粉は糊化開始温度が低くなり、もどりもよくなるが、価格差ほどの効果が無いので、一般の即席めんには使われない。

2) テクスチャーについて…タピオカでん粉が代表例だが、粘り・もちもち感の付与に使うものの、小麦だけのめんに比べやや味が劣る。

3) その他…でん粉は物理的、化学的加工を加えることで、さまざまな性質のものが作られることから、今後も新しい食感や機能を持ったものが作られると思われるので、関係者の努力を期待している。

 以上、参考にして頂ければ幸いです。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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