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バイオマスを利用した耐熱性食器

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最終更新日:2011年9月9日

バイオマスを利用した耐熱性食器

2011年9月

愛知県産業技術研究所 基盤技術部 主任研究員 福田 徳生
 

【要 約】

 石油資源の枯渇、地球温暖化などの環境問題に対処するため、バイオマスを原料とするプラスチックの普及に期待が高まっています。今回、バイオプラスチックであるポリ乳酸を、産業廃棄物として問題となっているホタテ貝殻、天然に産出する粘土と複合化し、地元の窯業企業と耐衝撃性および耐熱性に優れたバイオマス食器を共同開発しました。

1.ポリ乳酸の物性・成形性について

 ポリ乳酸は、とうもろこしやさつまいもなどから取り出されるでん粉などのバイオマスより製造されるポリエステル系のプラスチックであり、地球温暖化の原因となる大気中のCO2濃度の増加につながらないカーボンニュートラルな材料として、その利用が広く望まれています。ポリ乳酸を燃焼した場合、通常のプラスチックを燃やした場合と同様、CO2を大気中に放出しますが、これはもともと大気中に存在したCO2を光合成によって植物中に取り込み固定化したものであり、大気中のCO2の濃度の増加にはつながりません。これがいわゆるカーボンニュートラルの概念です。

 ポリ乳酸の実用化を考える時に、解決しなければいけない課題がいくつか存在します。まず耐衝撃性、耐熱性が低いということです。耐衝撃性は外部から短時間のうちに衝撃的な力が加わった時の材料の抵抗の大きさを示すものです。耐衝撃性が低いということは、平易な言い方をすると「硬くてもろい」ということです。食器としての利用を考えた時、耐衝撃性・耐熱性はともに、食器を落とした場合や熱い料理を盛る場合などに問題となる重要な物性です。

 他の欠点としては、結晶化速度の遅さに由来する成形性の悪さが挙げられます。プラスチックの代表的な成形方法として射出成形がありますが、その射出成形において結晶化速度の遅さは致命的な弱点です。以下に射出成形法の概要を示します。

 図1は射出成形機の構造を示したものです。図中のA〜Dの赤い矢印は成形中の樹脂の流れを示しています。射出成形とは(1)プラスチック材料をホッパーから投入し(矢印A)、(2)バンドヒーターで加熱されたシリンダー中で溶融され流動状態にし、スクリューで前方に押出され(矢印B)、(3)ノズルの先から一気に射出装置によって金型の空洞部(キャビティー)に加圧注入され(矢印C)、(4)金型内で冷却されて固化することにより金型空洞部に相当する形を得る(矢印D)という方法です。

 この射出成形において、結晶化速度が遅いことは、金型内に注入された材料が固まる速度が遅いということを意味し、金型から速やかに上手く取り出すことが出来ないので射出成形に不向きな材料ということになります。このようにポリ乳酸は金型から取り出すときに固化するのが遅く、1つの製品を成形するのに時間がかかってしまいます。それゆえ、生産コストのアップにつながるので、結晶化速度を速めて成形時間の短縮をしていく必要があります。

 また射出成形が可能かどうかは、その材料を加熱して溶融したときの粘度に大きく左右され、溶融粘度が高過ぎると、材料が流動せず、金型に十分に材料を充填することが出来ません。この場合も射出成形には向かない材料となります。本開発では、ポリ乳酸に無機成分(ホタテ貝殻粉末、粘土)が比較的高い配合比(無機成分の配合比が高い時で(樹脂成分:無機成分)=1:1)で含まれており、溶融粘度が高く、射出成形が出来ない可能性がありました。

 これら欠点の改善のため、樹脂成分と無機成分の配合比や添加剤の種類、射出成形に適した条件(成形時間、溶融粘度)を検討しました。
 
 

2.開発の経緯

 愛知県で開催された2005「愛・地球博」において瀬戸製土株式会社(愛知県瀬戸市)が開発したバイオマス食器「アイコーン」(エステル化でん粉・粘土・ホタテ貝殻粉末素材)が採用されていましたが、耐衝撃性、耐熱性、成形性に対応する課題やエステル化でん粉の安定供給、コスト面での課題が積み残されていました。

 エステル化でん粉よりもポリ乳酸の方が、耐衝撃性、耐熱性、成形性に欠ける弱点を改善強化することにより安定供給、低価格が期待されるので、樹脂としてはポリ乳酸を用いることとしました。

 ホタテ貝殻は年間約21〜25万トンが東北・北海道で産業廃棄物として廃棄されています。循環型社会の形成を目指して、その有効利用が望まれており、さまざまな分野でその応用が検討されています。ホタテ貝殻の主成分は炭酸カルシウムであり、貝殻微粉末の形状はアスペクト比の大きい形状をしています。またホタテ貝殻の微粉末の表面は有機成分(タンパク質)で覆われているため、樹脂成分との親和性が良好で、ポリ乳酸に添加した場合に、樹脂中で良く分散し、そのアスペクト比の大きい形状から耐熱性の向上につながるのではないかと考え、フィラー(プラスチックの機能を高めるための充填剤)として添加しました。

 また粘土(カオリン)は、瀬戸の産物であり、窯業原料の製造販売を行っている瀬戸製土(株)の強みとなる材料でコストダウンにも寄与できますので、フィラーとして用いました。 そこで、ポリ乳酸・ホタテ貝殻粉末・粘土を素材とした食器の開発を目指すこととしました。

 瀬戸製土(株)は、この開発前までは、窯業的製法(図2左側)により成形を行っていましたが、成形コストおよびエネルギーコストがかかり、時間的にも量産が難しいので、プラスチックの汎用的成形方法であり短時間での成形が可能な射出成形による成形技術の検討を行いました。
 
 

3.製造法

 種々の成形条件の検討を行い、3成分以外に必要な添加剤があること、適正な添加割合が存在すること、および適正な成形条件(金型温度、シリンダー温度、熱処理など)が存在することが分かりました。以下に確立した製造法を示します。

 ポリ乳酸ペレットに平均粒径が2〜3μmのホタテ貝殻粉末(15〜30wt%)、平均粒径が5μmの粘土(15〜20wt%)、さらに耐衝撃性改善のための添加剤(グラフト共重合ゴム)および結晶核剤(フェニルホスホン酸金属塩)を少量加えて2軸押出機を用いて200℃で溶融混練し、ペレット状物とします。そのペレット状物を乾燥後、食器の金型を取付けた射出成形機により射出成形(シリンダー温度165〜200℃、金型温度60℃、金型保持時間60s)し、バイオマス食器を得ることができます。その後、得られた食器の耐衝撃性や耐熱性を安定させるために110℃、30〜60分の熱処理を適宜行いました。

4.でん粉などバイオマスの役割

 ポリ乳酸は、でん粉の発酵により得られるL-乳酸を原料として化学重合法により合成される生分解性バイオプラスチックです。とうもろこしやさつまいも由来のでん粉から酵素加水分解により生成したぶどう糖を原料として、乳酸発酵によりL-乳酸は生合成されます。ポリ乳酸は、L-乳酸の加熱重縮合により合成したラクチドを開環重合することによりできます。本食器は、ポリ乳酸の含有率が高く、フィラーとして添加しているホタテ貝殻もバイオマスであるので、土中に埋めることで100%土に還元でき、資源のリユース、廃棄物の削減といった観点から環境負荷低減に寄与できます。

5.製品の機能・特性

 通常のバイオプラスチックは耐熱性の低さが問題となっていますが、開発した食器の耐熱温度は120℃で電子レンジでも使用可能です。ホットコーヒーや熱いお茶を入れても問題なく、昨年のCOP10でもコーヒーカップとして使用されました。また今回の材料の特徴として、プラスチックであるポリ乳酸と陶器の原料である粘土が複合化されていることから、プラスチックで行われる成形方法(射出成形等)でも成形でき、また窯業的手法(ろくろ成形、鋳込み成形等)でも成形できるという利点が挙げられます(図2)。そのため、高級な質感が求められる高付加価値製品を製造する時は窯業的手法で成形し、安価で大量に用いられる業務用の食器などを製造する場合には射出成形などの生産性が優れた方法で成形し、目的に応じ成形方法が選択できます。

6.最近の市場動向と今後の可能性

 従来のポリ乳酸の用途は、押出成形で製造される1回使い切りのスーパーの袋やごみ袋といったフィルム、シートが主流でした。近年は、ポリ乳酸において、射出成形、真空・圧空成形(サーモフォーミング)、発泡成形、ブロー成形など種々の成形技術が確立されており、用途も表1に示すように拡大しています。これら新しい成形技術の確立により、既存の石油系プラスチックに匹敵する耐熱性や力学的特性を発現することも可能となり、用途の拡大に寄与しています。例えば、積水化成工業株式会社によりビーズ発泡法による高耐熱性ポリ乳酸型内発泡成形体の製造技術が世界ではじめて開発されています。これは、断熱材や自動車部材への応用が期待されています。

 本食器で用いられているブレンド材料も、環境負荷低減素材として、食器以外に文房具、玩具、インテリアなど射出成形品として幅広い応用が期待できます。
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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