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打ち粉の基礎知識

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最終更新日:2012年3月9日

打ち粉の基礎知識

2012年3月

上越スターチ株式会社

はじめに

 打ち粉は食品生地の取り扱いのために広く用いられ、この中でも麺用の打ち粉はもっとも消費量が多いと考えられます。弊社は主にサゴでん粉を酸化加工した製品を製造し、日本全国の多くのユーザー様に提供しております。 

 今回は食品の打ち粉について、一般的な知識といくつかのノウハウについて説明したいと思います。

1.打ち粉とは

 「打ち粉」は食品を扱う際に、生地同士の付着を抑え作業性の向上を図るために使う粉のことを言います。なお、麺を作る場合は「打ち粉」、餅の場合は「とり粉」と呼ぶのが一般的かもしれません。この記事では「打ち粉」と統一します。

 麺の生地や餅の生地は、ねばねば・べたべたしているので、そのままでは非常に扱いづらいものです。ここで生地表面を打ち粉でコーティングすることで生地の付着性を抑え、成形を容易にできます。もう少し詳しく説明します。例えばうどんは、小麦粉を水や副原料と捏ね混ぜ、大きな団子状の生地の玉にします。これを伸ばしてシート状に広げ、包丁などで細長くカットするのです。このシート状に伸ばす工程と、カットする工程、また切った麺線を保管する際に生地同士の付着が問題になります。実際の製造では要所要所で打ち粉を散布し、付着しやすい生地表面を粉で覆うことで付着を防ぎます。

 打ち粉が使われる食品は多岐にわたり、最も一般的なものは麺類や餅類です。そのほかにはチューインガム、マシュマロ、パンなどが挙げられましょう。

 日本人はご承知のとおり「食」の細かい部分にこだわる傾向が強く、消費者はさまざまな食感の製品を求めています。従って食品メーカーで扱う生地の物性も多岐にわたり、それに応じた打ち粉を選択することが必要です。
 
 

2.歴史

 麺や餅等の製造では、古くはその原料になる粉を打ち粉にすることが多かったようです。製粉は手作業で行うととても手間のかかる作業ですから当然です。

 しかし食品が産業化すると打ち粉にもさまざまな機能が求められるようになります。ひとつは打ち粉の特性の安定化です。もうひとつは製品の流通時の品質の安定です。

 小麦粉や米粉は原料穀物の蛋白や脂質などを含んでいます。パンのように製品の香りが強くまた焼成してから流通に乗るものは問題ないのですが、例えば生麺では水分が多く腐敗の進行しやすい状況が続くため、できるだけ純度が高く腐敗しにくい材料を打ち粉にする必要があります。このような背景から、現在では打ち粉といえばほぼ間違いなくでん粉やその加工品が主体です。

 昭和40年代後半にある画期的なアイディアが生まれ商品化されました。でん粉を酸化処理した加工でん粉を打ち粉に用いることです。日本では麺を茹でて食べることが多く、後述する理由から、酸化して低粘度化したでん粉はとても都合が良かったのです。このアイディアは大ヒットし、今では打ち粉の大半が酸化でん粉になっています。

3.求められる性質

 打ち粉は食品の本体ではありません。従って食べる際には存在感のないもの、つまり味やにおいのないものが求められています。その意味から、価格の高い製品はユーザー側から受け入れられにくい状況です。現在市場に出回るでん粉種は多岐に及びますが、においや味がないこと、また価格上の制約を受け、一般的な打ち粉はばれいしょでん粉、コーンスターチ、及びこれらやサゴでん粉、タピオカでん粉の加工品が主に使われています。

 しかし打ち粉は食品の一部でもありますから、食品としての安全性は最も重要です。例えば生菌数が少ないことが挙げられます。酸化でん粉はその製造の段階で原料でん粉に比較して生菌数が低減化されますので、打ち粉にきわめて適しています。

 なお、打ち粉の性質改良のため無機資材等を添加混合する場合がありますが、食品衛生法で添加物の使用基準が定められている場合がありますので注意が必要です。

 以下、個別の分野について述べます。

(1)麺類

 日本での打ち粉の使用量は圧倒的に麺用が多いと思われます。ラーメン、うどん、日本蕎麦と、日本人は本当に麺好きです。また日本の麺類は比較的に加水が多く、生地がやわらかくべたつくため打ち粉の使用が不可欠です。

 大半の麺は茹でて消費されます。そこで麺用の打ち粉には以下の性質が求められます。

(ア)打ち粉が粘らないこと−未加工のでん粉はとろみ付けに使うように、お湯で粘りが出ます。麺の茹で湯は打ち粉が溶けて糊になるのですが、酸化でん粉を打ち粉に使うと茹で湯へ粘りが出にくく調理の際の熱効率が良くなります。また麺の表面がシャキッとしておいしくなります。

(イ)粉体としての流動性が良いこと−現在の製麺はごく一部を除き機械化されています。打ち粉も専用の散布機で散布される場合がほとんどです。でん粉は凝集と噴流を起こしやすい素材ですが、このような性質は実は機械で扱うにはやや難しいものです。でん粉はその起源植物によって粉体の流動性が異なっており、でん粉種の選定がこの解決の鍵になります。

(ウ)付着防止性があること−生麺生地はやわらかく、打ち粉は長い時間をかけて麺の生地になじんでしまう場合があります。従ってこの分野ではスペーサー(互いの間隔を保つための素材)としての効果が高い、比較的大きな粒子径のでん粉が使用されます。これは生地の性質との兼ね合いになりますが、状況に応じて打ち粉を厚くかけることも必要です。

 以上のことから、茹で麺用の打ち粉には流動性がよく低粘度であるサゴでん粉の酸化でん粉が、一方餃子の皮では粘性よりも付着防止性が重要視されてばれいしょでん粉の比較的弱い処理のものが多用されています。

 しかし、いずれの場合でも粉体としての流動性が使用する上でのキーポイントであり、使用者側の生地物性、工場の湿度、設備機械との相性などによりでん粉種の選択と粉体の特性のコントロールを行うことが必要です。

(2)大福

 代表的な和菓子の大福にも打ち粉が使われます。余談ですが、うるちの米粉から作られる「だんご」では打ち粉が使われることは、一部の例外を除いてまずありません。うるちのだんご生地はさめるとすぐに弾力が出て付着性が減るためだと考えられます。

 もちの米粉あるいは餅を搗いて作った生地は粘りが強く、また生地が冷めても付着性が持続するため打ち粉の使用が不可欠です。同様にもち由来の求肥でも打ち粉は多用されています。

 これらのような和生菓子に打ち粉を用いる場合、以下の性質が求められます。

 口あたり−一般的に粒子サイズの小さい粉は凝集性が強く、充分な付着防止効果を得るためにむらなく塗布するには多量に使用する必要があります。食品に対して打ち粉の量が多くなると粉っぽさを強く感じるようになるため、使用量に注意が必要です。逆にばれいしょでん粉のように粒子の大きいものは、単品では口腔内で異物感を与えることがありますが、大福に使用した場合は大福そのものの食感があるため通常は問題にならないようです。

 従いまして、この分野ではばれいしょでん粉をそのまま、あるいはばれいしょでん粉やサゴでん粉を酸化処理して生菌数を減らしたものが多用されています。この場合の酸化処理は低粘度化よりも生菌数の低減化やでん粉に由来する色やにおいの除去の意味合いが主です。

(3)餅

 かつては切り餅にも打ち粉が多用されていました。しかし現在では無菌包装餅が一般化し、打ち粉を使う機会は激減しています。参考のためにご紹介すると、昔ながらの餅の製造では、熱い餅生地を打ち粉の上に広げるため、餅の蒸気で打ち粉が糊化することが問題になります。

 この分野では伝統的にばれいしょでん粉が用いられ、また耐熱性の面からコーンスターチが用いられることが多いようです。麺の場合とは逆に、耐熱性が弱い酸化でん粉はあまり使用されていません。

(4)その他の菓子

 マシュマロや板ガムの場合、生地は成形後に硬化し付着性がなくなります。これらでは、でん粉粒子が生地になじむことはほとんどなく、スペーサーとしての機能はあまり要求されません。さらに水分活性は低いものが多く、流通時の菌の繁殖は問題になりません。表面に薄く均一に付着していれば良いわけで、コーンスターチが多く使用されています。

4.市場と展望

 残念ながら打ち粉の流通量についての公式なデータはありません。しかし、日本に輸入されるサゴでん粉の大半が打ち粉に用いられておりますので、輸入量による推察が可能です。2000年の輸入量は1万3000トン、以降徐々に増加し2010年では1万8000トンを超えています。

 この消費量増加の原因として食生活の外食化やラーメン・うどんブームが考えられます。

 一方で、日本は少子高齢化の時代を迎えており、食料消費の今後の増大は見込まれません。打ち粉分野でのでん粉消費拡大には新たな応用例や食品製造技術の開発が必要であると思われます。
 
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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