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タピオカでん粉の無洗米製造装置への利用

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最終更新日:2013年1月10日

タピオカでん粉の無洗米製造装置への利用〜熱付着材として〜

2013年1月

株式会社サタケ 技術本部 水野 英則
 


【要約】

 お米を炊飯する際には、米を洗う(研ぐ)作業(洗米)が必要です。これは白米表面に糠が残ったまま炊飯すると、食味値の劣るご飯ができるためです。

 こうしたお米を研ぐ作業が必要ない無洗米が、家庭用、または業務用として多くの一般家庭や社員食堂、大手外食産業で積極的に扱われるようになりました。その無洗米の製造方法には、大別して乾式研米仕上方式、加水精米仕上方式、特殊加工仕上方式があります。今回はタピオカでん粉を熱付着材として利用する特殊加工仕上方式の無洗米製造装置(NTWP)についてご紹介します。

1.タピオカでん粉とは

 タピオカでん粉の原料はキャッサバという中南米原産の芋です。キャッサバは世界中の熱帯で栽培されており、世界生産量は約2億3000万トン(FAO、2012)です。主な生産地は、ナイジェリア、ブラジル、インドネシア、タイであり、日本は年間10万トン以上を輸入しています。用途としては、冷凍うどん、食パン、インスタントラーメン、焼き肉のタレ等の副原料として利用されているほか、ブドウ糖など糖化製品原料などにも利用されています。

2.NTWPについて

 当社では、「ヘルシー」「テイスティー」「アースフレンドリー」の3つのコンセプトを柱に、「お米の食味を向上させ、環境と人にやさしい商品」をテーマに製品開発に取り組んでいます。NTWPはこのコンセプトに基づいて開発された装置です。 NTWPとは「NeoTasty White Process」の略で、安全・安心でおいしい無洗米を製造する装置です。このNTWPによって加工された無洗米をTWR「Tasty White Rice」といいます。

 この装置は、1975年に開発された、白米に微量の水を添加し白米表面の残留糠部分(糊粉層)のみを軟化させる加湿精米機「クリーンライト」の技術を発展させ、軟化後の除糠・除水を「吸着」という方式に進化させたものです。これによりうまみ層(サビオ層、亜糊粉層)を残しながら糠分を除去した、新しい方式の無洗米へとつながりました。これがタピオカでん粉を吸着材として使用し、排水処理を必要としないNTWPの無洗米製造装置です。

 この吸着材の選定にあたり、数多くの材料を集め、試験をしました。吸着材の条件として、(1)米の加工に使用するので安全であること(2)少量であるが加水をするので耐水性にすぐれていること(3)吸着材のリサイクル(再利用)を考慮し、吸収した水を蒸発させる必要があるため、耐熱性があること(4)リサイクルに耐える強度(硬さ)があること(5)油分などで変質や化学反応を起こさないこと(6)安定的に入手でき、価格が安価なこと−などが考慮されました。そして数々の試験を経て最終的に選ばれたのが、「タピオカでん粉」でした。タピオカでん粉は人体に無害で食用として多く使われており、上記の条件に適合していたので、吸着材(熱付着材)として採用しました。

3.NTWPの加工原理

 図1はNTWPの加工原理(イメージ)を表したものです。まず、湿式加圧精米部では、白米表面に5%の水を添加し、糠層を軟化させます。次に、熱付着式低圧攪拌部では、80℃〜100℃に加熱した熱付着材を投入し低圧で攪拌することにより、胚乳を傷つけることなく、軟化した糠層を熱付着材に吸着させます。最後に分離乾燥部では、白米と熱付着材を分離しながら乾燥を行い、TWRの無洗米加工が完了します。

 この第一工程から第三工程までの加工通過時間は約30秒で、NTWPの装置としては、1時間あたりの処理能力が0.5トン、2トン、5トン、10トンの4種類の機種を揃えています。
 

4.NTWPシステム概要

 図2は糠を吸着した熱付着材がNTWP本機の分離乾燥部でTWRと分離された後のリサイクルの工程を表したものです。白米表面の糠を吸着した熱付着材は表面に糠が付着した状態となり、熱付着材精選装置中のシフター(ふるい分け選別機)で加工に適する粒度にふるい分けられます。糠が付着して大きく成長した熱付着材は挽砕機にかけられ、表面に付着した糠をはぎ取った後再び吸着材として使用されます。そのはがされた糠はもう一度シフターでふるい分けられ、食品用または良質の飼料糠として利用されます。

 精選装置にて粒度を整えられた熱付着材は、熱付着材乾燥機にて乾燥・加熱され、再びNTWP本機へ搬送されTWR加工を行います。
 

5.普通白米とTWRの表面状態

 図3は普通白米とTWRの表面組織の状態を示したものです。
 
 この図で示すように普通白米には、糊粉層の細胞壁にタンパク質と脂質を多く含んだ糠分が残っています。TWRの糊粉層の細胞壁には糠分がわずかしか残っておりません。また、お米の旨み成分であるアミノ酸や糖質はこの糊粉層の細胞壁の下側に多く存在しております。

 普通白米は、米表面に残っている糠分を取り除くために、炊飯をする前に4〜5回洗米をする必要があります。その際、力の加わり方によって洗米では、白米表面の細胞壁が壊れて旨み成分が流失してしまいます。

 TWRの場合は、洗わなくても炊飯ができるので、この旨み成分の流失がありません。その結果、利便性が向上するだけでなく、食味値も向上します。 図4は普通白米からTWRへの表面を電子顕微鏡で500倍に拡大した写真です。普通白米の表面には、まだ糠が付着していることが分かります。TWRでは、細胞壁が鮮明に見えており、糠層が完全に除去されていることを示しております。

 また、この写真から、TWRは、背部と腹部が均一に加工され、糊粉層の薄い腹部の胚乳に損傷がないことがわかります。
 

6.熱付着材について

 熱付着材となっているタピオカでん粉は、海外においてサタケ独自の製法で加工したもので、安全性・耐熱性・耐久性を備えた製品です。

 図5に熱付着材製造フローを示します。原料のキャサバ芋は、(1)洗浄・剥皮・破砕、(2)洗浄・殺菌・濃縮、(3)脱水・乾燥の工程を経てタピオカ粉の製品となり、次にタピオカの造粒加工工程に入ります。(4)仮造粒・加熱、(5)選別・整球、(6)乾燥・選別の工程を経て、耐熱性、耐久性が備わったタピオカパールが整形されます。そして、最終の精選工程にて(7)金属・色彩選別、(8)粒度・異物選別、(9)包装・製品輸出前検査をへて熱付着材の製品ができあがります。
 

7.今後の可能性

 タピオカでん粉は、耐水性、耐熱性など吸着材としての特性を利用し、また、最終的にふるい分けをする工程が組めれば、他の穀類でも吸着材としての利用できる可能性があります。一例として、収穫された豆類(大豆、小豆等)の表面に付着している汚れを除去し、光沢を与える豆類汚粒クリーナの研磨剤として利用されています。今後はさらに幅広い用途への応用が期待されます。
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