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でん粉含有排水等に有効な凝集分離剤

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最終更新日:2013年4月10日

でん粉含有排水等に有効な凝集分離剤

2013年4月

八紀産業株式会社 研究室 主任研究員 福井 千鶴子
 

【要約】

 食品系の排水処理においては、一般的に活性汚泥法などの生物処理が主に用いられている。しかし、処理に長時間を要し、高額な大型設備を必要とする。更に、でん粉を含有している排水の場合は、でん粉が難分解性であるために従来から処理が難しいとされている。年々排水規制が強化され、一部地域において小規模事業所も規制対象となる中で、でん粉含有の有機物排水を低コスト、コンパクトな設備で処理可能な排水処理技術の開発が急務となっていた。当社では研究を重ね、でん粉含有の有機物排水に対して、短時間の撹拌のみで処理が可能である凝集分離剤FROGを開発した。ここでは実際の活用事例を用いて報告する。

1.はじめに

 近年、環境汚染防止の観点から各種排水の規制は厳しくなっている。香川県では讃岐うどんが有名であるが、その背景では、うどんの製造工程から出る排水が深刻な水質汚濁の問題となっていた。うどんのゆで汁にはでん粉が高濃度に含まれており、そのまま放流すると河川の水質悪化や悪臭などの原因となる。当初、水質規制がかかっていたのは一部の大規模事業所だけであったが、新たな環境保全の対策として、今まで規制対象外であった小規模事業所も対象となる条例に改正された。

 一般的に食品系排水には、微生物により分解されやすい有機物成分が多く含まれているため、活性汚泥法などの生物処理が用いられている。しかし、微生物による分解処理は時間が掛かり、汚濁水を滞留させるための大型の処理槽が必要となる。更に、でん粉や油分等の難分解性物質が排水に含まれる場合は微生物の代謝阻害要因となるために、前処理で取除く必要があるなど複雑な処理工程及び高額な排水処理設備が不可欠となる。特に中小規模の多い飲食店や食品工場にとっては維持管理や費用の負担が大きく導入は困難とされていた。

 生物処理におけるこれらの問題を踏まえると、比較的短時間で汚濁物質を除去できる凝集処理技術が有望であると考えられるが、従来の凝集剤ではでん粉含有の有機物排水に対する処理能力は不十分であった。したがって、でん粉含有の有機物排水に有効であり、かつ、小規模事業所に安価で導入できる、コンパクトでメンテナンスが容易な排水処理技術の開発が早急に求められていた。

 これらの問題を背景に、当社では凝集処理だけででん粉含有の有機物排水を浄化できる凝集剤の研究を続け、その結果、天然由来成分配合の凝集分離剤(商品名:FROG、以下、「同凝集分離剤」と表記)を開発した。

2.当社の凝集分離剤の概要

 同凝集分離剤は、天然由来成分を主成分として配合していることを特徴とし、今まで特に処理が困難とされていたα化でん粉について良好な凝集性を示すだけでなく、油分含有排水に対しても短時間で凝集分離を可能とした。また、撹拌のみで凝集処理できるために処理装置も簡易化でき、初期投資、維持管理費などランニングコストも大幅に削減できる。

 凝集分離後のスラッジについては、従来は脱水して減容化を行った後に産業廃棄物として処分していたため多額な費用がかかっていたが、同凝集分離剤を用いた凝集後のスラッジは脱水性、形成能に優れており減容化によるコストの低減が可能となる。さらに脱水スラッジは産業廃棄物ではなく炭化物など補助燃料資材化への活用も期待される。

3.でん粉含有物に対する機能

 ここではまず、でん粉含有の有機物排水に対する凝集分離効果について報告する。

 試料としては、製麺事業所の製麺排水を用いた。試料500mLに対し 同凝集分離剤を添加し、5分間撹拌、凝集した。処理後の上澄水について各水質項目を測定した結果を表1に示す。でん粉由来のCOD(注1)は90%、TOC(注2)は96%と高い除去率が得られた。また、凝集前後の外観を図1に示す。短時間での凝集分離効果が確認できる。
図表1

4.実際の活用例

(1)バッチ式処理装置(1槽型及び2槽型)
 小規模の精米事業所や食品工場などは、1日当たりの排水量は少ないが、でん粉が含まれているため原水の汚染度が高く、河川の水質悪化や地域住民に対する配慮から早急な対策が必要である。従来技術では少量の排水処理に対しても高額な処理設備が必要であったが、以下(図2、3)のバッチ式処理装置を用いることにより、初期費用や管理費を大幅に削減できる。図3は2槽型であり、片方の槽で撹拌処理を行っている間、もう一方には施設内からの排水が流入し、貯留できる構造となっている。同凝集分離剤を用いることにより、すばやく凝集分離しフロックの沈降も早いために効率的に処理が行え、大幅な作業時間の短縮と装置の小型化が可能となる。
図2
表2、3
図3
表4、5
(2)連続式処理装置
 大規模工場に対応するため、連続式の排水処理装置を開発した。次の蒲鉾製造会社は既存設備の老朽化に伴い、当社の同凝集分離剤を活用した連続式処理装置を導入した。従来と比べて大幅な処理時間と経費削減につながり、処理水に関してもそのまま河川に放流することが可能となった。また、従来処理ではスラッジの含水率が高く、取扱いが困難であったが、簡易的な脱水機で短時間に大幅な減容が達成できた。
図4
表6、7
(3)グリストラップにおける活用例
 飲食店内の厨房排水にも、でん粉、タンパク質、動植物油等の多くの汚濁物質が含まれている。通常、油分が下水道に流出する事を防ぐためにグリストラップ(油脂分離槽)の設置が義務付けられているが、これは主に比重差により浮上した油分を阻集するための一時的な貯水槽であり、底部や排水中には食品残渣やエマルジョン化(注5)した油分などが多く残留している。適切な清掃がされていないと悪臭の原因となり、蓄積した油分が排水管を閉塞させる恐れもある。しかし、専門業者によるバキューム車を使った産廃処理は、定期的に依頼するにはコストが高いため負担が大きい。

 そこで、同凝集分離剤を用いることにより、投入・撹拌処理のみでグリストラップ内の排水を凝集分離する。でん粉、タンパク質のみならず動植物油等の悪臭の原因となる汚濁物質も一度に凝集分離できるため、悪臭除去にも効果的である。分離したスラッジは網で回収し、処理後は図5の状態となる。短時間の撹拌処理であるため作業員の負担を軽減し、環境衛生の向上に貢献する。
図5
表8

5.おわりに

 食品分野に限らず、製紙産業や段ボール産業など工業分野においてもでん粉は多用途に活用され、且つ新たな加工製品も次々に開発されている。そういった中で、でん粉含有の排水処理技術の開発は喫緊の課題である。当社では同凝集分離剤を用いた排水処理において、今後も更なる性能向上に向けて研究開発に取り組み、一層の排水処理システムの効率化を図っていく予定である。また、処理後のスラッジの有効活用についても実用化に向けての実証及び検証を継続することとしている。最後に、本報告の取りまとめにあたり、ご協力を頂いた関係者各位に深く感謝の意を表する。

(注1) COD(化学的酸素要求量):水中の有機物を酸化剤で酸化するときに必要とする酸素量。一般的に海域、湖沼の水質汚濁を表す指標として用いられる。
(注2) TOC(全有機炭素):水中に存在する有機物中の炭素量。
(注3) BOD(生物化学的酸素要求量):水中の有機物を微生物が分解するときに必要とする酸素量。一般的に河川の水質汚濁を表す指標として用いられる。
(注4) SS(浮遊物質量):水中に浮遊する粒径2mm以下の物質量。
(注5) エマルジョン化:水中に油が分散した状態。
(注6) n-Hex(ノルマルヘキサン抽出物質量):有機溶媒(ノルマルヘキサン)により抽出される不揮発性物質の総称。水中の油分の量を表す指標として用いられる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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