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レジスタントスターチを豊富に含むハイアミロースコーンスターチ分解物の機能と食品への利用

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最終更新日:2013年7月10日

レジスタントスターチを豊富に含むハイアミロースコーンスターチ分解物の機能と食品への利用

2013年7月

株式会社J-オイルミルズ

【要約】

 レジスタントスターチ(難消化性でん粉)は、通常のでん粉に比べ消化されにくく、腸内に達して腸内細菌の増殖を助けるでん粉である。豆類や芋類など日本の伝統的な食品に含まれるレジスタントスターチは血糖上昇抑制、腸内環境の改善、脂質代謝の改善など、現代人の抱える疾病に対して多くの改善効果が報告されている。当社では、このレジスタントスターチを豊富に含むハイアミロースコーンスターチ分解物(商品名:「アミロファイバー」)を開発したので、その機能と食品への利用について紹介する。

1.レジスタントスターチとは

 ヒトが摂取したでん粉は、体内の消化酵素によって、糖質に分解された後、小腸で吸収され、エネルギーとなる。しかし、Englystらは、でん粉の一部分が消化を免れ、大腸内に到達することを報告し、これをレジスタントスターチと命名した1)。消化を免れたレジスタントスターチは、大腸内でビフィズス菌や乳酸菌などの腸内細菌によって発酵をうけて、その結果生成する酢酸やプロピオン酸、酪酸などの有機酸や短鎖脂肪酸によって、腸内環境の改善や脂質代謝改善効果が期待できることが報告されている2)。加えて、近年では、炎症性腸疾患の予防効果があることも報告されており、健康素材として注目が集まっている3)。

2.レジスタントスターチが豊富な食材

 レジスタントスターチは、豆類やばれいしょ、ソバ、米飯などに含まれている4、5)。また、育種改良によってアミロース含量を高めた特殊なコーンスターチであるハイアミロースコーンスターチには、レジスタントスターチが豊富(約40パーセント)に含まれている。当社はこのハイアミロースコーンスターチを低分子化することにより、レジスタントスターチ含量を大きく高めることに成功した。

3.ハイアミロースコーンスターチ分解物の諸性状

 ハイアミロースコーンスターチ分解物は、乾燥重量当たり約70パーセントのレジスタントスターチを有している。さらに加熱安定性も高く、パンや菓子を焼成する条件(200℃15分)においても、レジスタントスターチは維持されるので、製菓、製パンに幅広く使用できる。外観は原料のハイアミロースコーンスターチと大きく変わらないが、低分子化により分子量は10分の1以下になっているため、食品へ配合したときの食感のパサつきやざらつきが抑えられ、食品本来の美味しさを損なうことがない。ハイアミロースコーンスターチ分解物のX線結晶解析や示差走査熱量(DSC)測定結果によると、原材料のハイアミロースコーンスターチに比べ、酵素消化耐性のある結晶構造が増加し、さらにその結晶構造は高い耐熱性を有していることが証明された6)。

4.レジスタントスターチの生理機能

(1)血糖上昇抑制効果

 レジスタントスターチは、通常のでん粉にくらべ、食べた後に体内に消化吸収されにくいため、血糖の上昇やインスリンの分泌が抑えられる。図1は、ラットに体重1キログラム当たり0.5グラムのハイアミロースコーンスターチ分解物を摂取させた時の血糖値の変化を示している。ハイアミロースコーンスターチ分解物を摂取した群の血糖値は、コーンスターチを摂取した群に比べ優位に低い値を示した。経時的な血糖値増加量の面積で、食品の血糖値上昇を比較する指標として用いられるAUC(血糖上昇面積比)では、グルコースの1/3、コーンスターチの1/2以下であることが分かった。ハイアミロースコーンスターチ分解物は、自然な風味を有し、小麦粉や米粉に置き換えやすいため、食後に血糖値を上げる指数であるグリセミックインデックスが低い食品向けの素材として有用である。また、血糖値が上がりにくいレジスタントスターチを摂取することで、次の食事時に血糖が上がりにくく、空腹感を感じにくいセカンドミール効果も期待できる7)。
 
(2)腸内環境の改善〜プレバイオティクス効果

 図2は、ハイアミロースコーンスターチ分解物を5パーセントおよび10パーセント含む、高しょ糖高脂肪食飼料を5週間自由摂取させたラットの腸内細菌の増加程度を調べたものである。ハイアミロースコーンスターチ分解物を摂取することにより、クロストリジウムの顕著な増殖を抑え、ビフィズス菌が投与量依存的に大きく増加していることが分かった。また、盲腸内のpHの低下、短鎖脂肪酸量の増加も確認された8)。これらの結果から、ハイアミロースコーンスターチ分解物は、ビフィズス菌や乳酸菌などのヒトに有用な細菌の増殖を促すプレバイオティクス素材として、腸内環境の改善効果が期待できる。
 

(3)脂質代謝の改善
 
 レジスタントスターチは血液中のコレステロールや中性脂肪の低下など脂質代謝改善効果が報告されている9)。その作用機序の1つとしてレジスタントスターチが腸内で発酵することにより生成するプロピオン酸、酪酸などの有機酸が肝臓に運ばれ、コレステロールや中性脂肪の合成を阻害している可能性が示唆されている。ハイアミロースコーンスターチ分解物を5パーセントおよび10パーセント配合した高しょ糖高脂肪食飼料をラットに5週間投与した結果、血中中性脂肪濃度、血中総コレステロール濃度がコーンスターチ群に比べ優位な抑制効果がみられた(図3)。糞中のコレステロールや中性脂肪の排泄量もコーンスターチ群に比べ有意に多くなっていた10)。このように、レジスタントスターチは脂質の多い食事になりがちな現代の食生活において、メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病の予防やコレステロールおよび中性脂肪が気になる人のための機能性素材としての活用が期待される。

 

5.レジスタントスターチの食品への利用例

 ばれいしょや豆類など天然に存在するレジスタントスターチは、もともとレジスタントスターチ含有量が少ないばかりか、加熱調理によって大きく減少してしまうという問題があった。しかし、ハイアミロースコーンスターチ分解物に含まれるレジスタントスターチは比較的耐熱性があり、パンや菓子、麺類など幅広い食品に利用できる。表1は、小麦粉の20パーセントをハイアミロースコーンスターチ分解物に置き換えて配合したクッキーである。通常、でん粉を20パーセント配合すると、食感の糊っぽさが気になるが、ハイアミロースコーンスターチ分解物を使用したクッキーはサクサクしたショートな食感が強くなり、口どけも改善される。また、焼成後の形状も、生地だれや膨化による変形がなく、小麦粉のみと同様の仕上がりになる。焼成前後でのレジスタントスターチの残存率は90パーセントであった。パンにも20パーセント以上の配合が可能で、生地への加水を調整することで、製パンの作業性を損ねず、ボリューム、食感とも、通常の小麦粉のみのパンと遜色ない。その他には、フライの衣やスナックに配合することにより、“カリッ”とした軽くクリスピーな食感を付与したり、即席麺に配合することにより、湯伸びが抑えられ、ほぐれの改善も期待できる(表2)。
 
 

6.おわりに

 レジスタントスターチは、日本人の伝統的な食生活に必須の食材であるご飯や豆類に含まれている。一世代前の日本人は、このような伝統的な食生活の中で、無意識にレジスタントスターチを豊富に摂取してきたのであろう。しかし、食生活が時代の流れと共に変化し、ご飯や豆類の摂取量が減少することにより、レジスタントスターチの摂取量も減少したものと思われる。便秘や腸疾患、糖尿病などの患者数の増加はこのような食生活の変化と無関係でないであろう。今回紹介したような、レジスタントスターチを多く含む素材をパンや菓子などに配合することにより、このような“失われたレジスタントスターチ”を再び現代人の食生活に取り戻すことができるのではないかと期待している。

参考文献
1)Englyst, H. N., Wiggins H. S. and Cummings J. H., Determination of the non-starch polysaccharides in plant foods by gas-liquid chromatography of constituent sugars as alditol acetates.Analyst 107, 307-318(1982)
2)Nugent, A.P., Health properties of resistant starch. Nutrition Bulletin, 30, 27-54(2005)
3)Higgins, J.A. and Brown I. L. Resistant starch: a promising dietary agent for the prevention / treatment of inflammatory bowel disease and bowel cancer. Current opinion in gastroenterology 29,2,190-194(2013)
4)McCleary B. V. and Monaghan D. A. Measurement of resistant starch. Journal of AOAC International 85,3,665-675(2002)
5)清水史子、伊藤ひとみ、佐藤文香、小川睦美 異なる炊飯機を用いた米飯レジスタントスターチ含量の定量. 昭和女子大学・学苑・生活科学紀要No. 782 75-79(2005)
6)Nagahata Y.,Kobayashi I.,Goto M.,Nakaura Y. and Inouchi N. The formation of resistant starch during acid hydrolysis of high-amylose cornstarch. Journal of Applied Glycoscience 60, 123-130(2013)
7)Brighenti F., Benini L., Rio D. D., Casiraghi C., Pellegrini N., Scazzina F., Jenkins D. JA. and Vantini I. Colonic fermentation of indigestible carbohydrates contributes to the second-meal effect. The American Journal of Clinical Nutrition 83 817-822(2006)
8)長畑雄也、庄篠愛子、鈴木志保、北村進一、小林功、後藤勝 ハイアミロースコーンスターチ酸分解物のプレバイオティクス効果. 第66回日本栄養・食糧学会大会要旨集 99(2012)
9)奥村久美子、中川智行、早川享志 ラットの脂質代謝に及ぼす難消化性デンプンの摂取効果. 日本食物繊維学会誌 13, 1 11-19(2009)
10)長畑雄也、庄篠愛子、鈴木志保、北村進一、小林功、後藤勝 ハイアミロースコーンスターチ酸分解物の摂取が高脂肪食摂取ラットの脂質代謝に及ぼす影響. 日本応用糖質科学会平成24年度大会講演要旨集 29(2012)
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