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技術開発の取り組み

種子島における肥料節減に向けた
技術開発の取り組み

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最終更新日:2010年5月20日

種子島における肥料節減に向けた
技術開発の取り組み

2010年4月

鹿児島県農業開発総合センター 作物研究室長 上野敬一郎

1 はじめに

 製糖用さとうきび栽培の北限に位置する種子島では、春植え・株出し栽培体系の推進により、さとうきびの増産と生産の安定化が図られている。また、さとうきび増産プロジェクトの推進により、平成20年の栽培面積は回復基調で2,500haを上回り、台風等の気象災害が少ないことも好影響をもたらし、生産量は19万tを越えた。これらは、保水性が高く腐植の多い黒ボク土を中心とした土壌と恵まれた降水量など、土壌環境に起因するところが大きい(図1)。しかし、北限地である種子島の畑地の約半分は降霜地帯に位置する(図1)。そのため、降霜地帯に限らず冬期の寒さをしのぎ、地温を上昇させるため春植えや株出し時にマルチ栽培が行われ、さとうきびの安定生産に寄与している。

 
 
 ところが、高齢化による労働力の減少や資材費の上昇から、マルチ利用率が低下しており、収量の低下につながることが懸念される。さらに、一昨年来の肥料高騰により生産コストが増大し、経営を圧迫している。これに対して、昨年度については肥料の2割削減を前提として、価格上昇分の7割を補てんするなどの緊急対策が行われているが、肥料節減の生産性に対する影響や持続的な生産に向けた実証・解析は行われていない。

2 現状と問題点

 一般的にさとうきび栽培において、新植時には堆肥やリン酸資材の投入が行われるものの、石灰資材の投入は一部でしか行われていない。これは、さとうきびが土壌の酸性化に比較的耐性のある作物であるため、個々のほ場レベルで耕作前の土壌診断などはほとんど実施されず、石灰資材投入の必要性に対する認識不足に起因しているものと考えられる。

 今回、九州沖縄農業研究センター種子島さとうきび試験地の協力を得て、種子島島内の200カ所(さとうきび耕作地:107カ所)の土壌診断を実施した結果、ばれいしょやさつまいも、飼料畑や水田まで含めた島内全体の3割で、pH5.0以下の酸性化が進行した土壌となっていた(表1)。そこで、さとうきびほ場の診断結果を抽出したところ、pH5.0以下が全体の4割を占め、さらに深刻な状況であった(表1)。そして、石灰飽和度(注)とpHの間に高い相関が認められ、低pH域の大部分は石灰飽和度が10%以下で(図2)、土壌の酸性化が石灰資材の未投入や収奪による石灰成分の低下から生じているものと考えられた。また、県の施肥基準に示されている土壌改良の目標値は石灰飽和度60〜65%で、その半分に満たない30%以下の割合が9割に達していることが確認できた(表1)。

 
 
 
 
 この結果を地区別にみたところ、酸性化ほ場の分布は特定地域の現象ではなく、島内全土でみられる傾向であることが確認でき(図3)、場内試験ほ場の土壌診断結果も、さとうきび連作ほ場では石灰飽和度の低下とともにpH5.1程度と、島内の土壌診断状況と一致する結果で、早急な対策の必要性が示唆された。

 
 
 土壌の酸度は石灰資材の投入により矯正するが、たい肥などの有機物投入によって土壌の緩衝力を上げることも重要である。高騰した肥料コストを単純に削減することは、土壌成分の収奪や枯渇につながり、持続的な生産には結びかない。肥料節減に向けた取り組みは、有機質や石灰の補充と、それに結びつく効率的な管理技術を含めて検討する必要性が考えられる。

3 取り組みと対応策

 現在、収穫残渣の土壌還元による地力維持効果について、土壌分析や植物体の吸収量から養分収支の解析を行っている。土壌の分析結果から、新植栽培後(1年作後)の土壌成分は耕作前とほとんど変わらないのに対して、株出し栽培後(2年作後)の土壌成分は各成分が減少し、収奪が進行していた(表2)。新植時には基肥・追肥に加え、植え付け前にたい肥を投入するが、たい肥中の主成分は1年で分解・吸収され、有機物の減少とともに各成分の収奪やリン酸の土壌への吸着・固定が進んでいることがうかがえ、これが2回株出し以降の収量低下要因と予想された。

 
 
 一方、吸収量と投入量を比較すると、カリウム、マグネシウム、カルシウムでは投入量以上の吸収が認められ、現状の施肥設計では毎年これらの成分の収奪が繰り返されることを示している。また、窒素の場合、投入量の7〜8割が吸収され、2〜3割は流亡したものと推測され、リンは投入量の3割程度しか植物体に吸収されず、ほとんどが土壌に吸着・固定化されたものと考えられる。さらに、残渣中の成分量は、吸収量の3〜5割に達することから(図4)、地力向上や施肥量の節減を考慮した場合、収穫残渣の効率的な利用は、さとうきびの持続的生産に不可欠な技術といえる。

 従来から、株出し栽培時のたい肥投入や残渣すき込みの有効性は示されているが、生産現場への普及を考えた際、株出し管理時のコスト上昇を招かないことが前提となる。また、ハーベスタ収穫後の残渣は,株出し管理作業に支障を来すことから、現状では持ち出しや焼却により処理されており、土壌への還元は少ない。

 現在、中耕・培土に利用する中耕ローターを用いた収穫残渣の土壌還元を検討している。これにより、地力維持のみならず収穫残渣処理に伴う株出し管理作業の省力化に結びつくが、この方法は奄美以南のマルチを必要としない地域の栽培体系とその応用であることから、マルチ栽培を前提とした種子島での適用を考慮した改善が必要となる。これについては、(株揃え機+根切り排土機)による株出し管理を行うことで、現状の(残葉処理+株出し管理機)による株出し管理より短時間に、残渣を土壌に還元し、マルチ被覆が可能な状態で株出し管理ができることを確認した(図5)。今後、病害虫の発生程度や生育・収量から、マルチ栽培での収穫残渣の土壌還元効果を確認し、肥料節減に向けた検討を行う。

 なお、本年度から肥料高騰対策として減肥試験を開始している。具体的には、慣行施肥と比較して、リン酸を2割、カリを2〜5割節減したものであるが、まだ試験を開始した段階であり、株出し栽培を含めて解析を行う必要がある。

4 おわりに

 以上のように、土壌の酸性化や肥料の節減、有機物の還元など、それぞれは独立した事象であっても相互に関連があり、それを踏まえた解析が必要となる。収穫残渣の土壌還元では、窒素飢餓対策として石灰窒素を施用しており、石灰成分の補充効果等と合わせた検討を行うとともに、有機物の土壌還元によるリン酸成分を含めた肥効の向上が期待できる。このような複合的な要素を解析・実証しつつ、肥料節減に向けた技術開発へ展開を図っている。
 
 ただし、前述のように9割の土壌で石灰成分の不足が明らかとなっていることから、新植時にはケイ酸石灰肥料などの石灰資材を投入するよう「栽培ごよみ」に記載し、生産者に周知して土壌酸性化の進行を遅らせる手だてを図っている。収穫残渣の還元、肥料節減とあわせ、さとうきびの持続的な生産向上に結びつくことを期待したい。
 
 なお、ここで示した結果の一部は、地域バイオマスプロジェクト1系試験および鹿児島県糖業振興協会委託試験から得られた結果を活用した。この場を借りて、感謝申し上げる。
 
(注)石灰飽和度:土壌の陽イオン交換容量(土壌が吸着できる塩基の最大量)のうち、カルシウムにより占められる割合を%で示したもの。
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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