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米国甘味料消費の新たな動き

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最終更新日:2010年9月1日

米国甘味料消費の新たな動き 〜砂糖回帰の兆し〜

2010年9月

Nakagawa Marketing 代表 中川 圭子

過去7年間に15%減

 近年米国で、異性化糖使用量が下降線をたどっている。
 
 米国における異性化糖総使用量は1990年代に増大基調を示し、2002年には砂糖と同等レベルの820万トンに達したものの、その後減退に転じ、2009年の使用見込数量は前年比5%減の698万トン、対2002年比では15%減と予測されている(表1)。対2002年比で7%増となった砂糖とは、対照的である。
 
 
 米国市場における異性化糖使用量変容の状況は、米国住民一人当たり甘味料使用量の種類別推移をみると、さらに明瞭となる(図1)。まず、図1の米国住民一人当たり甘味料使用量全体の動きを見てみよう。一人当たり総使用量は1990年代を通じて増大し、1992〜99年の間に62キログラムから70キログラムへと拡大したが、1999年をピークとして減退に転じ、2009年は過去17年間で最低の61キログラムにまで低落した。
 
 次に図1の推移を種類別に比較すると、砂糖の一人当たり使用量は過去17年間、30キログラム前後で安定しており、その他の甘味料の使用量も漸減傾向がみとめられるものの、大きな変化はなかったと言える。
 
 その一方、住民一人当たりの異性化糖使用量は1990年代に増大し、1990年代末〜2000年代初頭には砂糖とほぼ同等の28〜29キログラムに達したが、その後下降を始め、2009年は1992年値と同レベルの23キログラムにまで縮小した。即ち、1990年代〜2000年代に認められた米国住民一人当たり甘味料使用量の変容は、主に、住民一人当たり異性化糖使用量の増減によって引き起こされた現象であったと結論づけることができる。
 
 
 
 

日本で確立された生成技術

 農畜産業振興機構ウェブサイトに掲載された「お砂糖豆知識」によれば、トウモロコシなどのでん粉から異性化糖を生成する前段階の技術は、1950年代に米国で開発されたという。この基礎技術をもとに日本政府管轄下の研究所で異性化糖生産技術が実用化され、1970年代にまた海を渡って米国市場へ逆導入された結果、日本に多大な特許収入をもたらしたという経緯は、誠に興味深い。
 
 1970年代は、キューバ革命によって同国からの砂糖輸入が途絶え、米国内の砂糖市場がひっ迫した時期である。この通商禁令とその後の米国の貿易政策によって米国内砂糖価格が高水準に維持される一方、米国の国内農業政策のもとで安価なトウモロコシの多量供給体制が確立されるという環境が形成される中、米国の主要な食品製造業者が甘味原料を砂糖からより安価な異性化糖に切り替えるという現象が、著しいスピードで進行することとなった。
 
 今日異性化糖は、米国内で製造される95%の炭酸飲料の甘味料として使用されるほか、ヨーグルト、パン、菓子類、サラダドレッシング、ケチャップ等々、さまざまな食品の甘味材としても、幅広く利用されている。
 

消費者の砂糖回帰

 こうして米国民の食生活に深々と浸透した異性化糖の使用量が、何故、減退し始めたのであろうか。
 
 ルイジアナ州立大学およびノースカロライナ大学研究陣によって実施された米国内における異性化糖消費増大と肥満拡大との相関関係を暗示する疫学的研究(*1)が、消費者の異性化糖消費にブレーキをかける主要な契機となったとするのが、関係者一般の見解だ。2004年に本研究が公表されて以来、確かにこれに類似した研究論文・記事が、インターネットなどのメディアで数多く見受けられる。
 
 近年米国消費者の健康意識が高まり、有機食品や自然食品への需要が増大しつつあるという社会風潮を追い風に、砂糖業界が「ナチュラル」をキーワードに展開した消費拡大活動も、異性化糖需要落ち込みに拍車をかけたとみられる。砂糖=ナチュラル=健康的とのイメージが多くの消費者の脳裏に植え付けられ、異性化糖あるいは合成甘味料を避け、砂糖を原料として製造された食品を好んで選択する消費者層が拡大していると思われる。
 
 米国消費者の多くは、食後のデザートが欠かせない「甘党」である。彼らは添加甘味の過剰摂取が不健康であることは承知していても、それを完全あるいは大幅カットすることは忍びがたい。
 
 そこで、多少なりとも「罪悪感」を軽くするために、摂取する甘味を健康的イメージを持つ砂糖に切り替えようという意識がはたらく訳だ。どうやらこうした消費者意識こそが、毎年使用量が急減している異性化糖を尻目に、砂糖が人口増に伴って安定成長していることの主要な背景であるようだ。
 
 

大手食品製造業者による対応続々と

 異性化糖から砂糖への回帰を求める米国消費者意識は、近年着々と食品製造業者の販売戦略に組み込まれ、Hunts(ケチャップ)、Snapple(飲料)、OceanSpray(飲料)、Orowheat(パン)、Del Monte(果実調整品)などの全国ブランドが続々と、一部の商品の甘味原料を異性化糖から砂糖に切り替えている。
 
 全国コーヒーショップチェーンのスターバックスもこうした消費者意識を素早く捕らえた企業の一つで、昨年6月に、全国のチェーンで販売される菓子パン類の甘味原料をすべて、砂糖に切り替えた。異性化糖から砂糖への転換を求める顧客の要望への対応が切り替えの背景とされ、この決断に対する消費者の反応は「予想以上に好評」とのコメントが、本年6月4日付けの業界紙Capital Press紙に紹介されている。
 
 砂糖回帰の波は、異性化糖の最主要業務用顧客である炭酸飲料業界にも押し寄せている。昨年はPepsiCo社が砂糖ベースのPepsi Cola ThrowbackとMountain Dew Throwbackのテスト販売を開始して話題を集めたが、本年はDr. Pepper Snapple GroupがDr. Pepperの発売開始125周年を記念し、つい先だって、砂糖ベースのDr. Pepperの特別限定販売を開始した。Coca Cola社もメキシコで製造された砂糖ベースのCoca Colaを米国市場でプレミア付きで販売しており、さらに昨年のテスト販売結果に満足したPepsiCo社は、同社の今ひとつの人気ブランドであるSierra Mistの砂糖ベース版を近々市場導入する計画、との噂も流れている。
 
 近年米国市場で認められる異性化糖離れの動きが今後とも継続する明瞭な動向として位置づけられ、1970年代以降に経験された砂糖から異性化糖へという潮流が逆流し始めるのか。あるいは、単なる一過性の流行に終わるのか。審判が下るのは、今しばらく先となりそうだ。
 
 
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
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