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暮らしの中の砂糖の効用

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最終更新日:2010年11月4日

暮らしの中の砂糖の効用

2010年11月

浜松医科大学名誉教授 高田 明和

はじめに

 8月に小学2年、3年、5年の孫を連れて中国の北京に旅行した。二日目に2年生の孫がバスの中で言うことを聞かなくなった。何か食べるかと言っても食べない。天安門広場では動くのもいやだと言い出した。普通のわがままとは違う。丁度、アイスクリームを売っていたので、チョコレートアイスを与えると、すぐに機嫌がよくなり、元気に動き出したのである。
 
 砂糖など脳と栄養のことを研究し、脳はブドウ糖以外にエネルギー源を使えないといつも主張しているのに、自分の孫の血糖値が下がって、具合が悪くなったということに気がつかなかったのはうかつであった。中国では甘い物が食事に出てこないので、子供はブドウ糖の補給がうまくゆかなくなることがある。
 

1) 甘い物は喜びを与える

 味覚と脳の研究で先駆的な仕事をしたのは米国ミシガン大学のケント・ベリッジである。彼は生まれたばかりのラットなどにいろいろな味の液体を与え、行動を調べた。すると甘いものを与えると、もっと飲みたがる、さらに飲んだ後でゆったりした感じで眠る、しかし、キニーネなど苦いものを与えると、嫌がるうなり声を出し、飲んだものを吐き出そうとし、口の周りを足の指で擦るなどという行為を示すことを見つけた。
 
 これはヒトの赤ちゃんでも見られる行動である。赤ちゃんは砂糖を与えると吸い込もうとし、顔の筋肉をゆるめ、さらに摂取後眠りに入るのである。ラットと同様、苦いものを与えると口から吐き出し、拒否の声を上げる。
 
 彼は舌からの味を伝える神経、顔面神経や舌咽神経が脳内の快感を感ずる側坐核などを刺激、ドーパミンを出させ、動物を元気にし、喜びを感じさせることを見つけた。さらに脳幹の中脳水道周囲核という部分からいわゆる“脳内麻薬”のβエンドルフィンを出させ、これも快感をもたらすことを見つけたのだ。つまり、甘い物、砂糖などは吸収される前に舌の味蕾の神経を刺激し、摂取した者に喜びを与えるのである(図1)。
 
 
 
 
 一方、苦いもの、しょっぱいものは、不快感など基本的な感情に関係する島(insula)や扁桃などの側頭葉の奧にある部位を刺激し、不快を示す行動を取らせることが示された。
 
 砂糖がβエンドルフィンを出し、痛みを軽減することは、赤ちゃんの静脈に注射針を入れる静脈穿刺の実験からも分かる。トルコのイスタンブール大学のビルゲン博士らは静脈穿刺の際に砂糖水を与えると赤ちゃんが泣く時間が短いことを示している。
 

2) 脳はブドウ糖しかエネルギー源として使えない

 ヒトの脳は全身のカロリーの20%以上を使っている。70キログラムのヒトの場合に毎日約370グラムのブドウ糖を必要とし、90グラムが脳で使用されているのだ。もしブドウ糖の補給が数分妨げられると、脳は機能を低下させ、さらに続けば脳細胞は機能を失い死滅する。脳は脳内にブドウ糖を貯めることができず、常にブドウ糖が補給されなくてはならないのである。
 
 バージニア大学のゴールド博士は砂糖の摂取が記憶を高めることを示した。大学生に砂糖かサッカリンを与え、15分後に聞かせた文章をどの程度覚えているか、また桁数の多い数をどの程度覚えているかを調べた。するとサッカリンに比べ、ブドウ糖を与えられた学生は文章の記憶が著しく良くなっていた。これはアルツハイマー病の人にも見られる現象である。アルツハイマー病の患者に砂糖またはブドウ糖を与えると記憶力は明らかに向上していることが示された(図2)。
 
 
 
 
 ウエールズ大学のベントン教授も若い男女に朝、ブドウ糖を与え、Tから始まる言葉を出来るだけ多く思い出させるなどという実験をすると、ブドウ糖を摂取した人の方が摂取しない人よりも30%以上記憶がよくなっていることを示している。このことは脳がブドウ糖摂取により機能を向上させていることを示している。
 
 

3) ブドウ糖の利用で脳機能が調べられる

 現在脳機能を測定するさまざまな方法が見いだされている。たとえば陽電子放射断層撮影法(PET)の場合、陽電子を放射させるアイソトープ(放射性同位元素)がついたブドウ糖に似た物質、デオキシグルコース(デオキシグルコースはブドウ糖の酸素が一つ欠けているもので、ブドウ糖と同じように細胞に取り込まれるが、利用されないので分解されない)を注射し、血液内から放出される陽電子を測定する。
 
 活動が盛んな部位には血流が集中し、陽電子の放出が盛んになるため、脳の部分ごとの活動状況を調べることができる。たとえば言葉を話す時には前頭葉下部の言語中枢の部位に放射が見られる。思考をしている時には前頭前野に放射が見られるので、そこが刺激されていることが分かる。
 
 機能的MRI(磁気共鳴画像)では、ヘモグロビンに酸素がついた酸素化ヘモグロビンと酸素を失った還元ヘモグロビンの磁場への作用が異なることを利用して、磁場の変化を調べることにより、脳内の活動変化を知ることができる。活動が盛んな部位では、血流量が増加、つまり酸素化ヘモグロビンが多くなり、磁気上の信号が変化して画像上で明るく映ることになる。恐怖を感ずると扁桃という部位が活動したり、快感を感ずると側坐核という部位が活動したりといった脳内の変化が分かるのである。
 
 最近では近赤外線トポグラフィー(分析計)が開発された。これも、機能的MRIと同じく脳が活動すると酸素化ヘモグロビンが多くなるということを利用している。酸素化ヘモグロビンは還元ヘモグロビンに比べ、赤色を反射するので赤く見える。これを測定するのだ。
 
 ではこのようなブドウ糖の取り込みで脳機能が活発になっていることは示されるだろうか。英国のオックスフォード大学の薬理学のスーザン・グリーンフィールド教授は人間がただ文章を読んでいる場合と、考えながら話す場合の脳の活動をPETを使って調べた(図3)。PETは前に述べたようにデオキシグルコースの取り込みを調べたもので、これはブドウ糖の取り込みと同じと考えられている。すると、ただ話している時には前頭前野の言語中枢が活動しているだけであるが、考えながら話す時には脳の広い分野が活動していることが示される。広い分野でブドウ糖が使われているのだ。
 
 
 
 

4)砂糖は眠りに必要である

 必須アミノ酸の一種であるトリプトファンは肉、卵、ミルクなどに多く含まれる。トリプトファンが脳内に取り込まれるとセロトニンという物質になる。セロトニンは精神を安定させるが、夜はメラトニンという物質に変わり、眠りをもたらす。
 
 実はトリプトファンが脳内に入る時にはブドウ糖が必要なのである(図4)。
 
 
従って、食後、デザートとして甘い物を食べると肉などに含まれるトリプトファンが脳内に入り、夜の眠りをよくする。  眠れない時にミルクに砂糖を入れて飲むと、ミルクの中のトリプトファンがブドウ糖の助けを借りて脳内に入りセロトニンになるのである。欧米などでは眠れない子供のためにミルクに砂糖を入れて飲ませるが、その理由はセロトニン、さらにメラトニンの産生を促すためなのである。

最後に

 砂糖は肥満を引き起こす、生活習慣病を起こすなどと恐れられ、摂取が控えられている。しかし砂糖は、脳に必要なブドウ糖を簡便、迅速に脳に与える物質として、脳機能の維持、向上には欠かせない食べ物であることをぜひ理解いただきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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